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米大統領選を左右するかもしれない「ハリスの大笑い」

ニューズウィーク日本版 2024年9月18日 14時40分

冷泉彰彦
<トランプ陣営は笑顔を絶やさないハリスを「カリスマ性がない」と批判するが......>

カマラ・ハリス副大統領は、現職のバイデン大統領が今回の大統領選から撤退し、自分が大統領候補になった途端に、徹底した個人攻撃に遭遇しました。それは、ハリス氏は「何かにつけて大笑いをする」というトランプ陣営からのイメージ攻撃でした。

7月末にバイデン氏が撤退すると、民主党の側は比較的短期間にハリス氏による候補の一本化を進めたわけですが、この「大笑い」のイメージ攻撃は、これとほとんど同時に浴びせられ始めました。

副大統領として様々な形で公共の場に姿を見せていたハリス氏は、例えば自分のスピーチの中でも、あるいは何らかのイベントで誰かを称賛する局面でも、笑顔を絶やさない人物ではあります。確かに、思い切り笑うことも多く、そうした動画を切り取ろうと思えば無限にあるわけです。

そんな「笑うハリス」の動画を拾ってきて、日本風に言えば「馬鹿笑い」をしているような切り取り方をしようと思えば、簡単にできます。トランプ陣営は、これに「ハリスは共産主義者で危険」とか「ラジカル(急進派)」というナレーションをかぶせるのです。例えば、ちょうど8月に行われていたパリ五輪の中継番組では、特に激戦州のペンシルベニア州向けの地上波では、こうした中傷CMが延々と放映されていました。

若者たちは前向きなエネルギーを感じた

こうした中傷が続くようですと、例えば2008年や2016年の選挙で若者票がヒラリー・クリントンから離反したとされているように、ハリス氏のイメージ戦略にも影響が出ることが懸念されました。この頃は、保守派の多くは「何かにつけて笑うハリスにはカリスマのかけらもない」といった批判を展開していました。

ところが、この「笑うハリス」のイメージは、トランプ派の意図とは反対の効果を発揮するようになっていきました。それは若者たちの反応でした。若者たちは、ハリス氏の笑顔に「前向きなエネルギー」を感じたのです。そして、今度はポジティブな観点からインスタやTikTok、あるいはYouTubeのショート動画などで、同じように「思い切り笑うハリス」の切り取り動画が数多く投稿されました。ハリス氏自身がジャマイカ系ということから、ヤシの木のミームを伴って、ハリス氏の大笑い動画が「非常にポジティブな」ニュアンスで拡散されていったのでした。

例えばですが、8月19日から行われたシカゴにおける民主党大会は、若者にも理解できるダンスミュージックなどに彩られた「お祭り騒ぎ」となり、気付かぬうちに民主党内が団結していったわけです。そのムードの中では、ハリス氏の笑顔は非常に大きなプラスの効果を発揮していました。

ここに到るまでには、ハリス氏自身が一貫して胸を張ってきたことも効果があったと思います。「自分の笑顔は母親譲り」だとして、インドからアメリカに渡り、癌の研究者として研究に打ち込みながら自分と妹を育てた母への思いとともに、「笑顔は自分のトレードマーク」だと胸を張ってきた、その姿勢が若者たちの心を捉えたのだと思います。

ハリス氏の笑顔というのは、9月10日のトランプ氏とのテレビ討論でも効果を発揮しました。この日の討論では、二転三転した挙げ句「発言の番にある側しかマイクをオンにしない」という協定が結ばれていました。ハリス陣営はこれに対して、マイクがオフでも表情などのボディランゲージで対抗できると判断したのか、トランプ氏が非常識な暴言を繰り出す際には、「大笑い」の表情で対応し、成功していたと思います。

もちろん、この「笑顔作戦」には両刃の剣という面があります。ハリス陣営が何か失敗をするとか、あるいは株価の暴落や軍事外交におけるクライシスなどが発生して、現職副大統領として大きな批判にさらされる局面があれば、「大笑い」の動画は改めてマイナスイメージに振れる可能性はあります。そう考えると、彼女の「笑い顔」のイメージが「プラス」のままで投票日を迎えることができるかどうか、これは大きな勝敗のポイントになると思います。

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