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ヒズボラの無線機同時爆発の黒幕とみられるイスラエル・モサドの暗殺史

ニューズウィーク日本版 2024年9月19日 18時0分

マヤ・メフララ
<ヒズボラの通信機器に爆薬を仕掛けたのは、外国の領土で敵の司令官や科学者を次々に暗殺し、サイバー攻撃も手掛けてきたモサドなのか>

レバノンの首都ベイルートなどで9月18日、イスラム教シーア派の政治・武装組織ヒズボラの使用するトランシーバー型の通信機器が相次いで爆発、多数の死傷者が出た。

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前日には同国各地でヒズボラの戦闘員らが携行するポケットベル型の通信機器がほぼ同時に爆発し、多数の死傷者が出たばかりだ。いずれもイスラエルの情報機関モサドの犯行とみられている。



ヒズボラ指導部は、携帯電話はイスラエルに追跡される危険があるとして、戦闘員らにポケベルなどの通信機器を配布していた。

ヒズボラとレバノン政府は、イスラエルが通信機器に爆発物を仕掛け、遠隔操作で爆発させたと主張。イスラエル軍はこれらの攻撃についてコメントを避けている。

モサドはイスラエルの首相府直轄の秘密情報機関で、1949年の創設以降これまでに一般に知られているだけで少なくとも12の作戦と25件の暗殺を実施。外国の領土でも作戦を遂行するなど強引な手口で、泣く子も黙る世界最強クラスの諜報機関として恐れられてきた。

パレスチナゲリラを20年間追い続ける

1972年、西ドイツのミュンヘンで開催された夏季五輪の最中、パレスチナの武装組織「黒い9月」が選手村に侵入し、イスラエル選手団のメンバー2人を殺害し、9人を人質にする事件が発生。最終的に救出作戦が失敗し、人質全員が死亡する悲劇となった。

これを受けてモサドは「バヨネット作戦(神の怒り作戦)」を開始。これは、このミュンヘンのテロ攻撃に関与したとみられる人物を1人残らず暗殺する報復作戦で、欧州と中東全域で20年余りにわたって展開されたとみられている。

モサドはその後も数々の暗殺やサイバー攻撃を手掛けてきた。以下はその手段を選ばぬやり口を示す主な事件だ。

ジェラルド・ブルの暗殺

ジェラルド・ブルはカナダ人のエンジニア。イラクのサダム・フセイン元大統領が推進した宇宙銃開発計画「バビロン計画」の一環として「スーパーガン」の設計を指揮し、1990年にベルギーの首都ブリュッセルの自宅前で殺害された。

報道によれば、玄関のドアに向かう途中、背後から至近距離で5発の銃弾を浴びたという。犯人逮捕には至らず、公式には認められていないものの、モサドによる暗殺との見方が一般的だ。

マフムード・マブフーフの暗殺

パレスチナのイスラム組織ハマスの幹部が2010年にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイのホテルの一室で殺された事件。被害者のマフムード・マブフーフはハマスの軍事部門の共同創設者・司令官で、過去に何度も暗殺未遂を生き延びてきた。

犯行には少なくとも26人の工作員が関与したとみられ、ヨーロッパ各国の偽造パスポートを所持し、ウィッグやメガネを使い、さまざまに変装していた。死因についてははっきりした結論は出ていないが、筋弛緩剤を投与された後に窒息死させられたとみられている。



「スタックスネット」による核施設攻撃

マルウェア「スタックスネット」は2010年に初めて見つかったが、開発は2005年に始まったようだ。コードネーム「オリンピック・ゲームズ」作戦の一環として、イランの核開発を妨害するためにイスラエルとアメリカが共同で開発したと言われているが、両国とも関与を認めていない。

産業用の監視制御・データ取得システムを標的にしたマルウェアだが、核施設の制御システムは外部からの攻撃を防ぐためインターネットに接続されていない。そこでこのマルウェアはネット経由で施設内のコンピューターに感染した後、ユーザーに気づかれないよう潜伏を続け、USBメモリなどを介してスタンドアローンの制御システムに侵入する。

イランの核施設が集中的に攻撃を受け、ウラン濃縮用の遠心分離機が一時ダウンした。

バイクに乗った暗殺者たち

モサドは2010〜2012年、イランの首都テヘランでイラン人の核科学者5人の暗殺を試みたとされる(うち1人は殺害をまぬがれた)。イランは2012年1月、アメリカとイスラエルが相次ぐ暗殺を仕掛けたと主張、特にモサドの犯行が疑われると強く非難した。大半のケースに共通する手口は、核科学者が乗った車にバイクで近づき、磁石付きの爆弾を車体に貼り付けて、爆破する前に走り去るものだ。

イスマイル・ハニヤの暗殺

2017年からハマスの政治局長を務めていたイスマイル・ハニヤが2024年7月31日、イランの新大統領の就任式出席のために滞在していたテヘランで暗殺された。これも、モサドの仕業とみられている。モサドはハニヤの滞在先に爆弾を仕掛けたか、ミサイル攻撃を行った模様だ。

2023年10月7日にハマスが実施したイスラエル南部への奇襲攻撃を受け、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハマス幹部がどこにいようと殺せとモサドに命じたと、記者会見で語った。ハニヤ暗殺の前日には、イスラエル軍はベイルートを空爆し、ヒズボラの司令官を殺害したと発表していた。

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