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クリーンさが売りの英スターマー首相を、2つの「金銭スキャンダル」が直撃...官邸は早くも「分裂」危機

ニューズウィーク日本版 2024年9月20日 16時19分

木村正人
<首相夫人が受け取った100万円近い贈り物を申告しなかった問題と、首席補佐官に就任したスー・グレイ氏が官邸にもたらした不和>

[ロンドン発]7月の総選挙で大勝利を収め、反移民暴動に厳罰主義で臨んだキア・スターマー首相の足元を2つのスキャンダルが揺らしている。秋の予算編成ではキャピタルゲイン課税・相続税の増税、冬季燃料費の原則廃止が取り沙汰されるだけに有権者の厳しい目が向けられる。

1つ目は、2020年以降、労働党とスターマー首相個人にそれぞれ50万ポンド(約9500万円)、5万ポンド(約950万円)以上を寄付したインド系起業家からビクトリア首相夫人が高級衣服を提供されていたにもかかわらず、首相が申告していなかった問題だ。

スターマー氏が首相官邸入りする前後に、この起業家はビクトリア夫人のため高級衣服、最適なショッピングをサポートするパーソナルショッパー、仕立て代を肩代わりしていた。その総額は5000ポンド(約95万円)を超えると報道されている。

政府の公的役割がないのに官邸のセキュリティーパス

下院議員は行動規範で家族も含め本人の行動に影響を与える可能性がある300ポンド(約5万7000円)超の贈り物は28日以内の申告が義務付けられる。スターマー首相は議会に助言を求めた後、初めて申告した。28日以内の開示漏れに対し、最大野党・保守党は調査を求めている。

上院議員を務めるこの起業家は政府の公的な役割を担っていないのに官邸に出入りできるセキュリティーパスを与えられていた。このため官邸へのアクセスの対価として贈答が行われたとの見方もある。スターマー首相は最終的には行動規範はすべて順守されたと弁解している。

首相とファーストレディになると何かと物入りだ。見栄えを良くするため2人そろって高級衣服が必要だったとしても献金者の丸抱えで用意するのはいかがなものか。質素な服の方が労働党らしいではないか。これでは何のために労働党に政権交代したのか分からなくなる。

しかもスターマー氏は日本で言う検事総長を務めた後、政治家に転身している。地味だが、清廉潔白と堅実さが売りだっただけに、このスキャンダルは痛い。

首席補佐官の報酬は首相より高い

コロナの行動制限の最中に政府施設で飲み会が日常的に行われていた疑惑(パーティーゲート)を調査し、当時のボリス・ジョンソン首相(保守党)を追い詰めた当時の内閣府第二事務次官スー・グレイ氏がスターマー首相の首席補佐官に就任したのには心底、驚いた。

調査の徹底ぶりと公平さでグレイ氏には称賛と批判が寄せられた。支持者からは政権中枢の不正を暴いた筋金入りの官僚と評価された。しかし保守党からは職権を逸脱した党派的人物と見なされた。スターマー政権の要職に就いたことで官僚の政治的中立性を大きく損なった。

グレイ氏の報酬は年17万ポンド(約3200万円)。首相の報酬より3000ポンド(約57万円)も高い。グレイ氏本人が自身の報酬を決定する際に何らかの役割を果たしたのか。労働党からの追加報酬に関する透明性についても保守党は追及している。

「政府高官の間で険悪な関係が生まれている」

有能で、やる気満々のグレイ氏の仕事ぶりにも官邸内の不満が爆発。グレイ支持派から称賛されているが、反グレイ派からはすべての意思決定において彼女に権限が集中しすぎているとの批判が噴出する。他の意見が抑えられ、官邸に緊張が生じている。

英BBC放送のクリス・メイソン政治部長は「グレイ氏の報酬額について知ることがなぜ重要なのか」(19日付)と題したコラムで「同等の地位の公的部門や民間部門の人々に比べてかなり少ない。この話の本質は報酬そのものではない」と解説している。

グレイ氏は官邸で政治と実務をつなぐ、まさに要だ。「正当か否かは別として彼女の役割に対する怒りとフラストレーションのレベルが問題なのだ。労働党が選挙で勝利してから3カ月も経たないうちに政府高官の間で険悪な関係が生まれている」(メイソン政治部長)

2007年から英国の首相官邸をウォッチしているが、政権発足早々、官邸が分裂しているのを見るのは初めてだ。しかもスターマー首相自身、14年にわたった前保守党政権を批判するばかりで、何をしたいのかビジョンが何一つ伝わって来ない。

これは英国の終わりの始まりを意味しているのか。


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