周来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
<深圳で日本人学校の男子児童が中国人の男に刃物で襲われて亡くなった。その背景には、愛国・反日教育が生み出した「迷惑系ユーチューバー」たちの存在がある>
このコラムを執筆中にいたたまれないニュースが飛び込んできた。9月18日、中国南部の広東省深圳で日本人学校の男子児童が中国人の男に刃物で襲われ、19日未明に病院で亡くなったのだ。
現時点ではまだ容疑者の動機も事件の背景も分からない。だが、恐れていたことが起きてしまったような気がした。
今回書こうとしていたのは、動画配信者たちの暴走についてだった。外国人を目の敵にして突っかかり、そのやりとりを動画に収め、ネットで配信する。世の中にはそんなろくでもない輩(やから)がいる。
「愛国」の名の下に迷惑行為を働き、金儲けをする輩
9月7日、北京の円明園という観光地で日本人観光客が現地の動画配信者に暴言や罵声を浴びせられる事件が起きた。
中国メディアによれば、観光客が中国人通訳を介して「写真を撮りたいから場所を空けてほしい」と頼んだところ、「なぜ日本人のためにどかなくてはならないのか」と激高し、日本人を追いかけ回すなどしたという。おまけに、駆け付けた警備員までもが「日本人はこの場所には入れない」と動画配信者に味方したらしい。
■「愛国ビジネス系配信者」による円明園事件の動画(日本語字幕)を見る
一部始終を配信していたこの中国人は、いわゆる「愛国ビジネス系配信者」だ。過去には航空機内で白人男性を挑発し、「差別された!」と大騒ぎする動画を上げたこともある。
「愛国」の名の下に迷惑行為を働き、その映像でアクセス数を稼いで金儲けをする輩だ。日本で言うところの「迷惑系ユーチューバー」の一種で、5月末に靖国神社の石柱にスプレーで落書きし、SNSに投稿した中国人動画配信者も同類だ。
実は、そんな愛国ビジネス系配信者の同類が日本にもいることはご存じだろうか。
この夏、有名な迷惑系ユーチューバーの男性が奈良公園を連日のようにパトロールし、彼が言うところの「鹿に暴力を振るっている」中国人観光客を見つけては、強い口調で注意し、その様子を「さらして」いた。
しかし、私が見た1つの動画では(確かに行儀は悪いが)足で鹿の脚と握手するような行為をしていただけで鹿を蹴ってなどいなかった。写真の説明には「中国人が鹿さんをサッカーボールのように蹴り上げた」とあったが、本当にそうなのか。中国人のマナーが悪いのをいいことに差別意識をあおっているのではないかと思った。
■中国人が鹿を「サッカーボールのように」蹴っているとされる動画を見る
円明園、奈良公園の双方の配信には「やりすぎだ」「間違っている」といった冷静なコメントも書かれており、それがせめてもの救いだったが、彼らの行為が中国の反日感情、日本の反中感情をさらに悪化させることを私は恐れていた。
そんな時に起きたのが深圳の事件だった。
日本の配信者たちに行為を正当化する口実を与えるだろう
中国政府は円明園の事件後、「外国人差別は許さない」とのメッセージを出し、当然ながら深圳の事件後も「外国人の安全のため効果的な措置を取る」としたが、6月には江蘇省蘇州で日本人学校のスクールバスが襲われる事件があったばかり。
政府が暴走を望まなくても、もはやそう簡単に火消しはできないだろう。数十年間の愛国・反日教育のツケが回ってきたのだ。
愛国ビジネス系配信者の動画が深圳の容疑者に影響を与えたかどうかは分からない。
だが、この一件が日本の配信者たちに自分の行為を正当化する口実を与えるのは間違いない。普段は冷静な日本のネットユーザーが悲惨な事件をきっかけに考えを変える可能性もある。
さらなる悲劇を起こさないためにも、この輩たちを取り締まると同時に(もちろん、中国側は政府の責任も大きい)、私たち一人一人が偏った報道や配信動画に振り回されることなく、異文化の理解と尊重に努めることが重要だ。
偏見は偏見を、差別は差別を、憎しみは憎しみを呼ぶ。私たちは、そうした負の連鎖が悲惨な結果しか生まないことを肝に銘じなければならない。
周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。
■円明園で起きた「愛国ビジネス系配信者」による日本人に対する嫌がらせ事件の動画(日本のネットユーザーが日本語字幕を付けたもの)
【驚愕】中国北京の観光地で日本人2人が中国人インフルエンサーから嫌がらせを受けてしまうこの男は警備員がやってきて「俺は小鬼子(日本人に対する蔑称)を憎み恨んでいる」と発言。日本人イジメてインプ稼ぎとか惨めすぎる。#中国 #観光pic.twitter.com/WDQgqftafP https://t.co/66LWA8GwAU— 爆サイ.com【公式】ツイッター (@bakusai_com) September 10, 2024
■中国人が鹿を「サッカーボールのように」蹴っていると、日本の迷惑系ユーチューバーが配信した動画
【警察沙汰】中国人が鹿さんをサッカーボールのように蹴り上げたのですぐにカメラを回しました。こいつら言い訳ばかりだし女が被害者ヅラしてキレて来たので奈良公園から追い出しました。日本に何をしに来たんだ?動物を虐める奴はマジで許さんからな。フォロー拡散宜しくお願いします。 pic.twitter.com/pg0LIrr74e— へずまりゅう原田将大(山口県代表) (@hezuruy) August 30, 2024
<深圳で日本人学校の男子児童が中国人の男に刃物で襲われて亡くなった。その背景には、愛国・反日教育が生み出した「迷惑系ユーチューバー」たちの存在がある>
このコラムを執筆中にいたたまれないニュースが飛び込んできた。9月18日、中国南部の広東省深圳で日本人学校の男子児童が中国人の男に刃物で襲われ、19日未明に病院で亡くなったのだ。
現時点ではまだ容疑者の動機も事件の背景も分からない。だが、恐れていたことが起きてしまったような気がした。
今回書こうとしていたのは、動画配信者たちの暴走についてだった。外国人を目の敵にして突っかかり、そのやりとりを動画に収め、ネットで配信する。世の中にはそんなろくでもない輩(やから)がいる。
「愛国」の名の下に迷惑行為を働き、金儲けをする輩
9月7日、北京の円明園という観光地で日本人観光客が現地の動画配信者に暴言や罵声を浴びせられる事件が起きた。
中国メディアによれば、観光客が中国人通訳を介して「写真を撮りたいから場所を空けてほしい」と頼んだところ、「なぜ日本人のためにどかなくてはならないのか」と激高し、日本人を追いかけ回すなどしたという。おまけに、駆け付けた警備員までもが「日本人はこの場所には入れない」と動画配信者に味方したらしい。
■「愛国ビジネス系配信者」による円明園事件の動画(日本語字幕)を見る
一部始終を配信していたこの中国人は、いわゆる「愛国ビジネス系配信者」だ。過去には航空機内で白人男性を挑発し、「差別された!」と大騒ぎする動画を上げたこともある。
「愛国」の名の下に迷惑行為を働き、その映像でアクセス数を稼いで金儲けをする輩だ。日本で言うところの「迷惑系ユーチューバー」の一種で、5月末に靖国神社の石柱にスプレーで落書きし、SNSに投稿した中国人動画配信者も同類だ。
実は、そんな愛国ビジネス系配信者の同類が日本にもいることはご存じだろうか。
この夏、有名な迷惑系ユーチューバーの男性が奈良公園を連日のようにパトロールし、彼が言うところの「鹿に暴力を振るっている」中国人観光客を見つけては、強い口調で注意し、その様子を「さらして」いた。
しかし、私が見た1つの動画では(確かに行儀は悪いが)足で鹿の脚と握手するような行為をしていただけで鹿を蹴ってなどいなかった。写真の説明には「中国人が鹿さんをサッカーボールのように蹴り上げた」とあったが、本当にそうなのか。中国人のマナーが悪いのをいいことに差別意識をあおっているのではないかと思った。
■中国人が鹿を「サッカーボールのように」蹴っているとされる動画を見る
円明園、奈良公園の双方の配信には「やりすぎだ」「間違っている」といった冷静なコメントも書かれており、それがせめてもの救いだったが、彼らの行為が中国の反日感情、日本の反中感情をさらに悪化させることを私は恐れていた。
そんな時に起きたのが深圳の事件だった。
日本の配信者たちに行為を正当化する口実を与えるだろう
中国政府は円明園の事件後、「外国人差別は許さない」とのメッセージを出し、当然ながら深圳の事件後も「外国人の安全のため効果的な措置を取る」としたが、6月には江蘇省蘇州で日本人学校のスクールバスが襲われる事件があったばかり。
政府が暴走を望まなくても、もはやそう簡単に火消しはできないだろう。数十年間の愛国・反日教育のツケが回ってきたのだ。
愛国ビジネス系配信者の動画が深圳の容疑者に影響を与えたかどうかは分からない。
だが、この一件が日本の配信者たちに自分の行為を正当化する口実を与えるのは間違いない。普段は冷静な日本のネットユーザーが悲惨な事件をきっかけに考えを変える可能性もある。
さらなる悲劇を起こさないためにも、この輩たちを取り締まると同時に(もちろん、中国側は政府の責任も大きい)、私たち一人一人が偏った報道や配信動画に振り回されることなく、異文化の理解と尊重に努めることが重要だ。
偏見は偏見を、差別は差別を、憎しみは憎しみを呼ぶ。私たちは、そうした負の連鎖が悲惨な結果しか生まないことを肝に銘じなければならない。
周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。
■円明園で起きた「愛国ビジネス系配信者」による日本人に対する嫌がらせ事件の動画(日本のネットユーザーが日本語字幕を付けたもの)
【驚愕】中国北京の観光地で日本人2人が中国人インフルエンサーから嫌がらせを受けてしまうこの男は警備員がやってきて「俺は小鬼子(日本人に対する蔑称)を憎み恨んでいる」と発言。日本人イジメてインプ稼ぎとか惨めすぎる。#中国 #観光pic.twitter.com/WDQgqftafP https://t.co/66LWA8GwAU— 爆サイ.com【公式】ツイッター (@bakusai_com) September 10, 2024
■中国人が鹿を「サッカーボールのように」蹴っていると、日本の迷惑系ユーチューバーが配信した動画
【警察沙汰】中国人が鹿さんをサッカーボールのように蹴り上げたのですぐにカメラを回しました。こいつら言い訳ばかりだし女が被害者ヅラしてキレて来たので奈良公園から追い出しました。日本に何をしに来たんだ?動物を虐める奴はマジで許さんからな。フォロー拡散宜しくお願いします。 pic.twitter.com/pg0LIrr74e— へずまりゅう原田将大(山口県代表) (@hezuruy) August 30, 2024