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世界トップレベルの女子の理数能力を無駄にする、日本社会のジェンダー偏見

ニューズウィーク日本版 2024年9月25日 14時0分

舞田敏彦(教育社会学者)
<ヒトしか資源のない日本で女性の能力が活かされないのはあまりにも「もったいない」>

18歳未満の女子が教育を受けないことによる経済損失は、2030年までに世界規模で10兆ドルにも達するという(国連女性機関)。日本円にすると約1400兆円。日本とフランスのGDP(国内総生産)を足し合わせた額よりも大きい。

初等・中等教育の学校に通い、読み・書き・計算や一般教養を得る機会がないと、労働市場への参入が難しくなる。人口の半分の女子がこうでは、経済の発展も阻まれる。こうした問題は、世界の人口の大多数を占め、今後も人口が増えていく開発途上国で特に深刻だ。国連が危機感を抱き、上記のような推計を行ったのも頷ける。

ただ先進国もこの問題と無縁ではなく、高等教育段階になると進学率に男女差がある国が多い。日本もそのうちの1つで、国連から「もったいない」と言われている。日本の女子生徒の学力は毎年、世界でトップレベルだからだ。15歳女子の理科(科学的リテラシー)の平均点をランキングにすると<図1>のようになる。

日本の平均点は546点で、OECD加盟国の中でトップ。数学的リテラシーもトップで、読解力は3位だ。OECDの学力調査は3年間隔で実施されるが、毎回同じような結果が出ていて、たまたま(偶然)というのではない。日本の女子生徒の学力水準は高い。

こうした潜在能力が、高等教育を受けることで開花されないのは確かに「もったいない」。天然資源に乏しく、ヒトしか資源のない日本ではなおのことだ。当然、国の経済損失にもつながる。

理系専攻に限ると、進学率の性差は大きい。大学等のSTEM(科学、技術、工学、数学)専攻の入学者の女子比率をみると、日本では17%しかない(2021年)。高校生女子の理科・数学の学力が、世界トップレベルであるにもかかわらずだ。

女子生徒の理科学力と、STEM専攻学生の女子比率のマトリクスに日本を位置付けてけてみると愕然とする。<図2>を見て欲しい。

日本は右下の位置にある。横軸の値は最も高いが、縦軸は最も低い。高校生女子の理科学力は最上位なのにもかかわらず、大学等のSTEM学生の女子比率は最下位。「もったいない」と言われるわけだ。この状況が改善されれば、日本の先進産業の生産性も伸びるだろう。

女子が理系分野に進まない要因として、「アンコンシャス・バイアス」の存在が言われるようになってきた。「理科や数学ができる女子は変わり者」というような、無意識の偏見(思い込み)だ。

こうした風当りは、年齢を上がるにつれて強くなる。理科の平均点を見ると、日本では小学校4年生だと女子が男子を上回るが、中学校2年生になると逆転する(IEA「TIMSS 2019」)。北欧の諸国では、中学生になると「男子<女子」の傾向が強まる。日本では、女子生徒の理系志向(嗜好)を摘む「ジェンダー的社会化」があるのではないか。それを促す言動をしていないか。親や教師は内省をめぐらすべきだ。

制度の上では、中高の理系教科の担当教員の女性割合を増やす必要がある。進路選択を控えた女性生徒にとって、いい役割モデルとなるだろう。大学のSTEM専攻で女子枠を作ったり、女子学生の学費を減免したりするのもいい。

「逆差別ではないか」という批判もあるかもしれないが、こういう強硬策を取ってでも、目に見える環境を変えていかないといけない。それほどまでに、日本の「ジェンダー・デバイド」の現状は酷いと言っていい。

<資料:OECD「PISA 2022」、
    OECD「Education at a Glance 2024」>

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