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朝日新聞の自民党「裏金」報道は優れた「スクープ」なのか?

ニューズウィーク日本版 2024年9月30日 11時36分

プチ鹿島
<自民党総裁選でも注目された、派閥の政治資金をめぐる問題で「新聞協会賞」を受賞した朝日新聞。だが同紙の報道は果たして優れていたか? と時事芸人のプチ鹿島さんは疑問を投げかけます>

朝日新聞が誇らしげに報じていた。

「自民裏金報道で新聞協会賞」(朝日新聞デジタル9月4日)なのだという。今年度の同賞に朝日新聞社の「自民党派閥の裏金問題をめぐる一連のスクープと関連報道」が選ばれたのだ。「優れた報道に贈られる」と自分で書いていて鼻高々だ。

しかし裏金報道は朝日が最初ではない。当コラムで以前も書いたが、政治資金の過小申告疑惑は「しんぶん赤旗」日曜版の2022年11月のスクープだ。これを重大だと考えた神戸学院大の上脇博之教授は自民党5派閥の政治団体の収入明細を検証。さらに多くの不記載を見つけ、東京地検に告発したのである。

そのあと私が「おや?」と思ったのが昨年11月頭に出た情報誌「選択」の「岸田自民に『カネの大醜聞』」だ。当初、赤旗や上脇教授が指摘した案件についてタカをくくっていた自民党が、検察の事情聴取の内容で今回はマズいと感じた、党内部では解散総選挙に突入すれば検察の動きは止まるという意見が出ている、という内容だった。

はぁ、こんな動きがあるのかとひそかに注目していたら、2週間後にNHKが「自民5派閥の団体 約4000万収入不記載で告発 特捜部が任意聴取」(11月18日)と報じた。ついにこの問題が広く世に出たぁ、というのが私の認識であり時系列だ。

ついでに言うと、翌週のBSフジの番組で政治ジャーナリストの田崎史郎氏はこの問題はパーティー券を売るノルマをこなした議員にカネを戻すいわゆるキックバックがポイントで、戻した分が不記載になっていたのだろうと解説していた。私がこの件で「キックバック」という言葉を聞いたのはこの時が初めてだった(それにしても田崎さんはなぜもっと早くこの仕組みを教えてくれなかったの?)。

朝日新聞は今回の受賞について昨年12月1日に「安倍派 裏金1億円超か パー券不記載 立件視野 ノルマ超分 議員に還流 東京地検特捜部」と特報したと書いている。以前から各媒体を見比べていた私には衝撃のスクープには思えなかった。とはいえ赤旗は日本共産党の機関紙であり新聞協会とは関係ない。だから朝日が受賞なのだろうが、モヤモヤするのは記事の内容もそうだった。

ひとことで言ってしまえば「朝日のスクープって検察から聞いたものを流してただけだよね」というのが私の感想なのだ(失礼)。検察からどれだけ情報を得るかも記者の実力だ!という反論もあろう。しかし検察情報を盾にして政局を仕掛けていないか?とも思える。例えばこれ。

「松野・西村・萩生田氏 更迭へ 高木氏も 世耕氏交代を検討 裏金疑惑 安倍派5人衆を一掃」(12月10日)

「安倍派5人衆を一掃」に違和感を覚える。朝日の願いも込めてないか? 安倍政権時代からの因縁を晴らしたい行間を感じたのだ。ある意味、一連の報道は昨今話題の感情優先の「エモい記事」だったのかも。

ここまで書いたら日本ジャーナリスト会議(JCJ)の大賞に赤旗の自民党裏金問題スクープ、というニュースが飛び込んできた。朝日の新聞協会賞、ちょっと気まずくないですか。

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