マイカ・マッカートニー
<中国人民銀行が、不動産と株式市場をてこ入れするパンデミック以来最大の金融緩和策を打ち出したが、肝心の「外科手術」は手付かず>
世界2位の経済大国・中国が、現在の景気低迷から抜け出すために、新型コロナウイルスのパンデミック以来最大規模の景気刺激策を発表した。
中国人民銀行は9月24日、市中銀行の預金残高のうち中央銀行への預け入れる資金の比率を示す「預金準備率」を引き下げて、事実上、消費者や企業への融資にまわせる資金を増やす措置を発表。潘功勝総裁は、この措置により金融市場に1兆元(約1420億ドル)相当の長期流動性が供給されると述べた。
さらに中国人民銀行は、市中銀行に資金を供給するための中期貸出制度(MLF)の貸し出し金利を2.3%から2.0%に引き下げると発表した。引き下げは2024年7月以来、2カ月ぶりだ。
一連の刺激策は、8月に約9年ぶりの大幅な価格下落を記録した不動産不況への対策でもある。潘功勝は不動産支援の一環として既存の住宅ローンの金利引き下げを発表した。
これで中国の1億5000万人の住宅所有者の可処分所得が増えることになる。中国では家計資産の約70%が不動産だが、何年も前に支払いを済ませたものの住宅が完成していない「未完成物件」の問題などが消費の足を引っ張っている。
国際的な金融サービス企業は中国の成長率予測を引き下げている。ゴールドマン・サックスとシティグループは、2024年の中国の成長率予測をそれぞれ0.2%と0.1%引き下げ、4.7%に修正した。
「質の高い発展」はまだ遠い?
中国は2024年第1四半期の実質経済成長率を前年同期比5.3%と発表し、2年連続で通年の経済成長率の目標を「5%前後」に設定している。だが李克強元首相など中国経済に詳しい多くの人が、中国の公式なGDP統計の正確性に疑問を呈している。
ゴールドマン・サックスのアナリストは先週発表のレポートの中で「輸出が好調な一方で不動産市場が不振で消費も低迷しているため、(中国の)成長率は5%の目標に達しないのではないか。今年の成長率は4.7%と予想する」と述べていた。
不動産部門のバブル崩壊に新型コロナウイルスの流行と厳しいゼロコロナ政策によって景気が減速した中国は近年、成長目標を控えめな水準に抑えている。だが2022年末にロックダウンが解除された後も、消費者の信頼感が低迷し若者の高い失業率が足かせとなり、本格的な景気回復に苦慮している。
習近平国家主席は、無理に急速な成長を追求するよりもグリーンエネルギーのような国家主導の戦略的産業を優先する「質の高い発展」への転換を強調している。
英オックスフォード大学中国センターの研究員でエコノミストのジョージ・マグナスは、今回の大規模な金融緩和がいくらか救済となり、GDP成長率をわずかに押し上げる可能性はあると指摘。また中国人民銀行が株式市場に8000億元の流動性支援を実施すると決定したことは、「信頼感を高めるための本気の取り組み」だと分析した。
だがマグナスは、中国人民銀行の介入が景気低迷の根本的な原因には対処していないとも指摘する。
「中国経済にはケインズ主義的な財政介入が必要だ。消費刺激策、税制改革、住宅販売のテコ入れで損失を管理する政府介入などだ」と彼は言う。「全体として見ると、今回の措置は外科手術が必要な人に痛み止めを投与するようなもの。手術の代わりになる解決策はなく、痛み止めの効果はすぐに薄れるだろう」
本誌は今回の件について在米中国大使館に書簡でコメントを求めたが、これまでに返答はない。
<中国人民銀行が、不動産と株式市場をてこ入れするパンデミック以来最大の金融緩和策を打ち出したが、肝心の「外科手術」は手付かず>
世界2位の経済大国・中国が、現在の景気低迷から抜け出すために、新型コロナウイルスのパンデミック以来最大規模の景気刺激策を発表した。
中国人民銀行は9月24日、市中銀行の預金残高のうち中央銀行への預け入れる資金の比率を示す「預金準備率」を引き下げて、事実上、消費者や企業への融資にまわせる資金を増やす措置を発表。潘功勝総裁は、この措置により金融市場に1兆元(約1420億ドル)相当の長期流動性が供給されると述べた。
さらに中国人民銀行は、市中銀行に資金を供給するための中期貸出制度(MLF)の貸し出し金利を2.3%から2.0%に引き下げると発表した。引き下げは2024年7月以来、2カ月ぶりだ。
一連の刺激策は、8月に約9年ぶりの大幅な価格下落を記録した不動産不況への対策でもある。潘功勝は不動産支援の一環として既存の住宅ローンの金利引き下げを発表した。
これで中国の1億5000万人の住宅所有者の可処分所得が増えることになる。中国では家計資産の約70%が不動産だが、何年も前に支払いを済ませたものの住宅が完成していない「未完成物件」の問題などが消費の足を引っ張っている。
国際的な金融サービス企業は中国の成長率予測を引き下げている。ゴールドマン・サックスとシティグループは、2024年の中国の成長率予測をそれぞれ0.2%と0.1%引き下げ、4.7%に修正した。
「質の高い発展」はまだ遠い?
中国は2024年第1四半期の実質経済成長率を前年同期比5.3%と発表し、2年連続で通年の経済成長率の目標を「5%前後」に設定している。だが李克強元首相など中国経済に詳しい多くの人が、中国の公式なGDP統計の正確性に疑問を呈している。
ゴールドマン・サックスのアナリストは先週発表のレポートの中で「輸出が好調な一方で不動産市場が不振で消費も低迷しているため、(中国の)成長率は5%の目標に達しないのではないか。今年の成長率は4.7%と予想する」と述べていた。
不動産部門のバブル崩壊に新型コロナウイルスの流行と厳しいゼロコロナ政策によって景気が減速した中国は近年、成長目標を控えめな水準に抑えている。だが2022年末にロックダウンが解除された後も、消費者の信頼感が低迷し若者の高い失業率が足かせとなり、本格的な景気回復に苦慮している。
習近平国家主席は、無理に急速な成長を追求するよりもグリーンエネルギーのような国家主導の戦略的産業を優先する「質の高い発展」への転換を強調している。
英オックスフォード大学中国センターの研究員でエコノミストのジョージ・マグナスは、今回の大規模な金融緩和がいくらか救済となり、GDP成長率をわずかに押し上げる可能性はあると指摘。また中国人民銀行が株式市場に8000億元の流動性支援を実施すると決定したことは、「信頼感を高めるための本気の取り組み」だと分析した。
だがマグナスは、中国人民銀行の介入が景気低迷の根本的な原因には対処していないとも指摘する。
「中国経済にはケインズ主義的な財政介入が必要だ。消費刺激策、税制改革、住宅販売のテコ入れで損失を管理する政府介入などだ」と彼は言う。「全体として見ると、今回の措置は外科手術が必要な人に痛み止めを投与するようなもの。手術の代わりになる解決策はなく、痛み止めの効果はすぐに薄れるだろう」
本誌は今回の件について在米中国大使館に書簡でコメントを求めたが、これまでに返答はない。