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プーチンと並び立つ「悪」ネタニヤフは、「除け者国家」イスラエルを国連演説で救えるか

ニューズウィーク日本版 2024年9月26日 18時15分

マイケル・キャロル
<演説で国内外の世論を動かすのが得意なネタニヤフだが、ガザ侵攻とレバノン攻撃で容赦なく民間人の命を奪い、ICCが戦争犯罪の疑いで逮捕状を請求している今回、それでもスタンディングオベーションを期待できるのか>

国連総会での演説に意欲を燃やすイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエル国防軍(IDF)が北隣のレバノンに2006年の侵攻以来で最も激しい攻撃を始めたため、訪米スケジュールを繰り延べざるを得なかった。

それでもニューヨーク行きを断念する選択肢は眼中にないらしい。ネタニヤフとパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は予定どおり現地時間の9月26日に国連総会で一般討論演説を行うことになりそうだ。



ネタニヤフはちょうど1年前、国連総会の演説で「新しい中東」の幕開けは近いと語り、独自の和平構想を得意げに披露した。しかし、再びその檜舞台に立とうという今、1年前には想像もつかなかったほど中東情勢は悪化している。

イスラエル軍がガザ侵攻を開始してからもうすぐ1年の節目を迎えるが、停戦の見通しは全く立っていない。一方でイスラエルは、イランの後ろ盾を得たレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラにも猛攻を加え、広範な地域紛争が今にも火を噴きかねない状況になっている。

ネタニヤフは憎悪と分断を煽って政権を維持してきた。敵の「殲滅」を目指すその好戦的な姿勢は、国際社会でイスラエルの孤立を招き、国内外で激しい批判にさらされている。

国際刑事裁判所(ICC)の主任検察官は、戦争犯罪の疑いでネタニヤフの逮捕状を請求している。逮捕状が発布されれば、ネタニヤフはロシアのウラジーミル・プーチン大統領やスーダンのオマル・アル・バシル前大統領と同様、ICCに逮捕される身となり、国外への移動を制限されることになる。

アナログ式のプレゼン手法

「ネタニヤフは今回の国連総会では、ペルソナ・ノン・グラータ(「招かれざる客」を意味する外交用語)扱いされることになる」と、元イスラエル外務省高官で、ネタニヤフ批判派のアロン・リエルは言う。

ネタニヤフは演説巧者で鳴らす。国際舞台で拍手喝采を浴びたおかげで、国内でも見直され、支持率を上げたことがこれまでにも何度かあり、この手法に味を占めてきた。

今年7月には米連邦議会の上下両院合同会議で演説し、スタンディングオベーションを受けた。イスラエル国内では批判も聞かれたが、本人は得意満面だ。

「ネタニヤフは国連での演説などを強みとしている」と、ジョージタウン大学とテルアビブ大学の国際関係学の教授であるヨシ・シェインは言う。「国外で演説をするときはたいがい、国際社会だけでなく、国内世論受けも狙って、原稿を練りに練る」

過去の国連演説では、ネタニヤフは劇的な効果を狙って、「ここぞ」という時に図を見せ、聴衆を沸かせて、メディアに大きく取り上げられてきた。2012年にはイランの核開発の危険性を爆弾にたとえた分かりやすい図を見せ、2009年にはナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)計画を記した書類のコピーを提示し、「ホロコーストはなかった」と主張する反ユダヤ主義をやり込めた。

昨年の国連演説で披露したのは、「新しい中東の地図」だ。ネタニヤフはパレスチナ紛争が解決しなくても中東和平は実現できるとばかり、サウジアラビアと国交正常化交渉を進めていることを誇らしげに語り、演説の中で42回も「和平」という言葉を使った。だが、この地図では、パレスチナ自治区のガザとヨルダン川西岸は完全にイスラエルに統合された形になっていた。

そして今年、ネタニヤフは自身と自国が国際世論の逆風にさらされる中で、国連総会の演壇に立つことになる。いくら演説がうまくても、今回は外交的な得点は稼げそうにない。



「スピーチの演出は名人級だ」と断った上で、イスラエルの政治コメンテーター、タル・シュナイダーはこう付け加える。「英語のスピーチで自分の視点を世界に受け入れさせるには、今の彼の立ち位置は世界の趨勢からあまりにもかけ離れている」

今回の演説について、イスラエル首相府はコメントを控えているが、ネタニヤフと親しいイスラエルのミキ・ゾハル文化スポーツ相は、イスラエルが国際社会の支持を得るために、国連総会は「重要な舞台」となると述べている。

ネタニヤフは今回も国連で毎度おなじみの主張を繰り返すだろう。ガザやヒズボラに対する攻撃は「自衛権の行使」であり、中東の政情不安の原因はイランにある、というものだ。ヒズボラとの攻撃応酬が激化する中で、あえてニューヨークに向かうと決断したことが、国連での演説をことのほか重視していることを物語る。

しかし世界がイスラエルの軍事作戦にイラ立ちを募らせる今、ネタニヤフの主張がどれほど共感を呼ぶかは大いに疑問だ。

「ネタニヤフは国連演説で歴史をつくってきたと本気で自負しているが、それは勘違いだ」と、元ニューヨーク駐在イスラエル総領事のアロン・ピンカスは手厳しい。「イスラエルは今や国際社会から疎外されたパーリア(除け者)国家になりつつあり、ネタニヤフは血に飢えた好戦的指導者と見なされている」



訪米したネタニヤフは抗議デモに出迎えられたはずだ。特にガザの人道状況を見兼ねて立ち上がったニューヨークのコロンビア大学の学生たちなどは黙ってはいないだろう。

通算でイスラエル史上最も長期にわたり首相を務めるネタニヤフは、これまでもパレスチナ問題に対する強硬姿勢で多くの同盟国の信頼を失い、国際社会の批判を浴びてきた。ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに対する度を超えた報復攻撃で、その評判はさらに悪化している。

ガザ紛争の発端は、1200人余りのイスラエル人が殺され、推定250人が人質に取られた昨年10月7日のハマスによる奇襲攻撃だが、ガザ保健当局によると、これまでに亡くなったパレスチナ人は4万1000人を超える。

ガザの人道危機は深刻化の一途をたどり、ガザ地区の住民230万人余りの多くが避難を強いられている。これには世界中から抗議の声が上がっているが、一方で今もイスラエル人の人質が何十人もガザで拘束されているとみられ、イスラエル国内でも不満が噴出している。

世界は雄弁に惑わされず

当初、アメリカなどの同盟国は、イスラエルのハマスに対する報復攻撃を支持していた。だが民間人の犠牲者が増えるにつれ、バイデン政権がイスラエルへの爆弾の輸送を一時停止し、英政府も国際法に違反する攻撃に使われるリスクがあるとして、イスラエルへの武器輸出を一部停止するなど、同盟国の支持も揺らぎ始めている。

さらに事態を複雑にしているのは、ICCの逮捕状発布の可能性だ。ネタニヤフの政治家としての野望には、戦争犯罪の容疑が暗い影を落としている。国連総会の舞台裏で繰り広げられる外交で、ネタニヤフと接触する外国首脳はまずいないだろうと、元イスラエル外務省高官のリエルは言う。その意味でニューヨーク訪問は無駄足になりそうだ。

「ネタニヤフは弁が立つのは確かだ」と、リエルは認める。「だが世界は彼のレトリックにうんざりし始めていて、それを真に受ける人士はどんどん減っている」

この記事にはAP通信の報道が含まれています。



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