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サルは選挙結果を予想できる? サルの判定と現実の勝敗が偶然以上の確率で一致...では、米大統領選2024の勝者は?

ニューズウィーク日本版 2024年9月27日 20時55分

茜 灯里
<ペンシルベニア大の研究チームは、アカゲザルが視覚的特徴のみに基づいて選挙の勝者を当てられるかを実験。同じ選挙の当選者と落選者の写真を同時に見せると、サルは「負けた候補者の方をじっと見つめた」という。一体なぜか? 人間の投票傾向のヒントにも?>

岸田文雄首相の後継を決める自民党総裁選は27日、投開票が行われました。石破茂・元幹事長(67)と高市早苗経済安全保障相(63)による決選投票の末、石破氏が新総裁に選出、第102代内閣総理大臣に就く見込みとなりました。

自民党総裁は任期が3年で、前回の総裁選は2021年でした。一方、4年ごとに行われるアメリカの大統領選も今年が選挙の年です。今回は、現副大統領で民主党のカマラ・ハリス氏と、前大統領で共和党のドナルド・トランプ氏が競っています。

公示が半月前だった自民党総裁選とは異なり、米大統領選は半年以上前に予備選が行われ、11月5日(現地時間)に本戦投開票日を迎えます。候補者選びを含めると1年以上もかかり、マラソンレースにも例えられる米大統領選中は、何かと選挙に絡めた話題がマスコミを賑わせます。それは科学研究も例外ではありません。

米ペンシルバニア大の研究チームは、「サルはアメリカの選挙を予測する(Monkeys Predict US Elections)」という挑戦的なタイトルで、アカゲザル(Macaca mulatta)を使った実験の成果をプレプリントサーバーの『bioRxiv』に公開(9月19日付)しました。

研究者たちは、「同じ選挙で勝った候補者と負けた候補者をペアにして、両者の写真をアカゲザルに同時に見せると、サルは負けた者の顔をより長く見つめた」と主張します。サルの行動はなぜ勝者と敗者に対して異なるのでしょうか。ヒトの投票傾向も、これらのサルの行動から説明できるのでしょうか。概観してみましょう。

「見た目が選挙に影響している」と信じられている理由

選挙において、政策よりも見た目(身体的特徴)が影響することはしばしば見られます。

たとえば、米大統領選には「身長が高いほうの候補者が当選しやすい」というジンクス(※)があるため、メディアには身長情報が掲載されます。今回の大統領選でも、高身長(約190センチ)のトランプ氏が、ハリス氏(約165センチ)に「大統領候補討論会では、箱や昇降台を使って背を高く見せないように」と牽制したことが話題となりました。

※20世紀は25回中19回、身長が高いほうの候補者が当選した。ただし、21世紀に行われた5回の大統領選では2勝2敗1分(勝者オバマ氏と敗者ロムニー氏は身長が同じだった)。

これまでの研究から、顔(容貌)も選挙に影響していることが示されています。第一印象研究の第一人者である米プリンストン大のアレクサンダー・トドロフ教授は07年、「候補者について何も知識のない大人に写真を見せると、70%の精度で当選した候補者を選んだ」と報告しました。09年には、スイスのローザンヌ大の研究グループが未就学児に対して同様の実験をして、64~77%という高精度で当選者を当てることができたと発表しました。

ヒトは外見を含む第一印象によって他人を評価するという考えを裏付ける研究結果は豊富にありますが、これらの先入観の根底にあるメカニズムは未だ不明です。また、なぜ、何のために現代社会で存続しているのかも解明されていません。

今回、ペンシルバニア大の研究チームは、①広い顎や目立たない頬骨などの男性的な顔の特徴が選挙結果に寄与する、②サルが社会的優位性の判断基準に用いているシステムは、人間にも保存されているという仮説を立てました。そこで、候補者の背景や政策について知るはずがないアカゲザルを使って、視覚的特徴のみに基づいて勝者を当てられるかを実験しました。

アカゲザルは数十匹の群れで生活することが多く、集団では順位付けがされます。自分よりも地位の高いサルに視線を送り続けてアイコンタクトが起きると喧嘩の原因になるため、視線をそらす傾向があります。サルに対して、ボスザルとその個体よりも地位が低いサルの顔写真を並べて見せると、高確率で地位が低いサルの顔写真を見続けるという先行研究もあります。

研究者たちはこれらの習性を応用して、サルが長く見つめた候補者を「負け」、あまり見なかった候補者を「勝ち」として、実際の選挙結果とどのくらい合っているかを調べました。

激戦区では精度上昇

実験にはアカゲザルのオス3匹を使いました。彼らに1995年から2008年の間に行われた273回の米国知事選、上院選に出馬した候補者の顔写真を、勝者と敗者のペアにしてサルに見せると、54.6%という偶然以上の確率で敗者のほうに多くの視線を向けました。しかも、サルたちが両者間で見る割合の偏りが高ければ高いほど、勝者側の得票率が高いことも示されました。

さらに、アカゲザルの判定は、激戦区(両者の勢力が拮抗している地区)では精度が58.1%に上がることが明らかになりました。この結果は、実際の選挙で、激戦区の有権者が投票行動を決める「最後の一押し」に「顔」が大きく影響しているかもしれないことを示唆しています。

論文の中で研究者たちは「サルは、どの候補者の身元、政党所属、政策も知らなかったと想定される。アクセスできる唯一の情報は候補者の写真なので、サルは視覚的特徴に基づいて選挙結果と投票率を予測したことが示唆される」と主張しています。では、サルは具体的に顔のどのような特徴を判別して、視線に影響させていたのでしょうか。

研究者たちは、写真の候補者ペアが男女だった場合、女性に偏って視線を送る、つまり「負け判定を下す」傾向があることを突き止めました。そこで「サルは男性的な顔の特徴に敏感である」と考え、サルと人間のどちらにもオス(男性)に顕著に現れる特徴、①頬骨が狭い、②顎が広い、③顔の幅対高さの比率が高い、④下顔面突出が高い、について、写真を計測して確かめることにしました。

その結果、顎の突出度(顎の幅と頬骨の幅の比)がもっとも得票率に影響しており、平均すると、勝者の顎は敗者の顎よりも平均して約2%突出していることが分かりました。また、写真のペアが女性候補者同士の場合、より顎が突き出している女性に対してサルは「勝ち判定」を下す傾向があることも示されました。

見た目における顎の重要性について、研究者たちは「選挙のチラシやポスターでは、候補者のほとんどが笑顔で写っている。これは顎のラインが強調されることも理由かもしれない」と推測しています。

サルと人間に共通する男性的な顔の特徴は、思春期に血中の男性ホルモン(テストステロン)の値が高くなることによって現れます。アカゲザルは顎の突き出た男性的な顔立ちの人間を、より地位の高い者と認識しました。つまり、男性的な顔を社会的地位の高さと結びつけて考えているということです。

サルの判定が現実の選挙結果と偶然以上の確率で一致しているということは、「顔に対する偏見が、人間とサルの間で共有されていることが示唆される」と研究者たちは述べています。

もっとも、選挙結果のすべてが「顔の男性度の強さ」で決まるとすれば、女性候補者は男性候補者に対してほぼ勝てなくなります。けれど、実験で使われた期間の選挙では、男女が競った選挙の約半数(48.8%)で女性候補者が勝ちました。

このことは、「選挙において、人間は顔以外の要因もちゃんと考慮している」とも考えられますし、実験で使ったアカゲザルはすべてオスだったので「リーダーを選ぶ時に、メス(女性)には別の判断基準がある」と言えるのかもしれません。

トランプvsハリスの予想は「接戦」──選挙アナリストの分析とも合致

アメリカで今秋最大の話題は大統領選です。研究チームは、もちろんトランプ氏とハリス氏の写真も並べて、アカゲザルに見せて「勝敗の予想」を試みました。

これまでの実験結果から、女性のハリス氏はサルの判定では不利になると予想されます。ところがサルたちは、トランプ氏に対してもハリス氏に対しても、同じ頻度と時間で視線を向けました。

視線の偏りが得票率の差を示すという実験結果も考慮すると、トランプ氏とハリス氏は接戦になるとサルは告げています。これは、人間の選挙アナリストの分析とも合致しています。

研究者たちは、トランプ氏が候補者となった過去の大統領選も写真判定を試みました。すると、前回(20年)の選挙では、トランプ氏の得票率は、顎の突出に基づく予測を大きく下回りました。

日本では初の女性総理の誕生は先送りになりました。果たして、アメリカでは初の女性大統領が誕生するでしょうか。1カ月後に注目しましょう。

トランプとハリス両氏の写真を見せた時のサルの反応...同じ頻度と時間で視線を向けるという結果に
It might seem like a ridiculous experiment, but "asking" monkeys to predict elections is serious science--and just might tell us a bit about ourselves. That story and more of the best in @ScienceMagazine and science in this edition of #ScienceAdviser: https://t.co/SQmCgTTiV1 pic.twitter.com/z2ZikMdwjm— Christie Wilcox (@NerdyChristie) September 25, 2024



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