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スリランカ新大統領は異色な左派の一匹狼

ニューズウィーク日本版 2024年9月30日 12時6分

マイケル・クーゲルマン(米ウッドロー・ウィルソン国際研究センター南アジア研究所長)
<マルクス主義者の過去は捨て去ったが、行く手には3つの障害が立ちはだかる>

9月21日のスリランカ大統領選で左派のアヌラ・クマラ・ディサナヤカが勝利したことは、政治の刷新を願う国民に大きな希望をもたらした。

ディサナヤカは「王朝政治」的な腐敗からの脱却を公約し、有力な政治家一族のいずれとも関係がない。2022年、当時のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は深刻な経済危機から国民の激しい抗議デモに遭い、国外脱出後に辞任したが、ディサナヤカはこの反政府行動にも参加している。

腐敗一掃を目指す上で、新大統領は国民の支持を頼りにできる。だが、行く手には3つの勢力が立ちはだかる。野党勢力、経済界、少数民族だ。

ディサナヤカは実は複雑な人物だ。メディアではマルクス主義者と呼ばれ、彼が率いる人民解放戦線(JVP)は1970〜80年代に反政府暴動を起こしている。

だが、ディサナヤカは革命家ではない。既にその過去を捨て去り、かつてJVPが異を唱えた体制内に身を置いている。現在55歳の彼は20年以上にわたって国会議員であり、短期間だが閣僚も務めた。

国会での議席は3議席

それでも、ディサナヤカはこの国の政治家としては異色だ。大統領選の主な対立候補3人を見れば分かる。現職大統領のラニル・ウィクラマシンハ、野党指導者で元大統領の息子サジット・プレマダーサ、ラジャパクサ家の一員であるナマル・ラジャパクサだ。

この中で反汚職を掲げれば、ディサナヤカは必然的に一匹狼になる。しかもJVPは国会で3議席しか占めていない。

国会で過半数の議席を握るのはラジャパクサ一族が率いる政党で、225議席中145議席を占める。ほかにプレマダーサの野党が54議席を押さえている。

過去に超党派の妥協に応じたことがないディサナヤカは、法案審議で野党から支持されない恐れがある。9月24日、彼は議会を解散し、11月に総選挙を実施すると発表。選挙後に与党の影響力は強まるかもしれないが、それでも野党の妨害はなくならないだろう。

ディサナヤカは、マルクス主義者の過去に神経をとがらせる経済界との関係を築くのも難しいかもしれない。経済政策に関する現在の立場も近年の大統領とは違っていることを、経済界は懸念する。

経済界がもう1つ心配するのは、IMFの支援条件を再交渉するというディサナヤカの公約だ。目的は貧困層の負担を軽くすることだが、国にとって重要な国際機関との間で緊張が高まる恐れがある。

新大統領は少数民族、特に最大の集団であるタミル人の支持も必要としている。しかし長年の内戦の中で、JVPが政府による残虐なタミル人弾圧を無条件で支持したことを多くの人は忘れていない。

彼にとってベストの選択肢は最もシンプルなものでもある。否定的な見方をする相手と向き合うことだ。

就任演説では結束を呼びかけた。党派の垣根を越えれば、法案通過の可能性は高まる。経済界や外国人投資家の懸念に耳を傾けるのもいいだろう。少数民族の代表と頻繁に接触すれば、安心感はさらに増す。

対立する勢力との交渉は、ディサナヤカ自身の利益になるばかりではない。経済の足元が不安定ななか、結束への努力は国益にかなうだろう。

From Foreign Policy Magazine



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