マーサ・マクハーディー
<ロシア大使館が「墜落」の写真をXに投稿した。ウクライナ人パイロットが死亡した事故もあった一方、戦況を一気に変えると期待されたF16の活躍がまだ見られない背景には、訓練の失敗という噂もある>
ロシア当局がウクライナ上空でF16戦闘機を撃墜したと発表したが、外部からの厳しいファクトチェックで否定された。
9月27日、駐南アフリカのロシア大使館はX(旧ツイッター)に、破壊されたF16の画像を投稿した。F16の尾翼にはウクライナ軍の紋章が付いており、キャプションには「ウクライナ軍のパイロットたちに、F16はどこにあるのかと尋ねてみたら......」というコメントが。つまり、ロシアがウクライナのF16を撃墜した、と言いたいわけだ。
だがこの主張は、あっという間に否定された。投稿に「この写真は2019年に墜落した米空軍のF16のものだ」という「コミュニティノート」が付いたからだ。
駐南アのロシア大使館がイラストまで付けて投稿した疑惑のX投稿を見る
コミュニティノートとは誤解を招く可能性がある投稿に対し、有用な背景情報を提供するために他のユーザーたちが投稿した文章のこと。同じ写真が使われているが全く別の事故を報じた記事へのリンクも複数示された。本誌はロシアとウクライナ両国の国防省に電子メールでコメントを求めたが回答は得られていない。
この写真は、2019年5月にカリフォルニア州で油圧系統のトラブルが原因でF16が墜落し、13人がけがをする事故が起きた際のものだった。元の画像にはウクライナ軍の紋章は付いていなかったから、ロシア大使館が加工した可能性がある。
怪しげな「報道」が交錯する中......
「(ウクライナの無人機攻撃により)ロシアの弾薬庫の爆発が続く中、士気を高めるため、F16の加工した画像まで公開しなければならないということか」と、軍事アナリストのオリバー・アレクサンダーはこの投稿への返信で述べた。
投稿の前日、ロシア軍はウクライナの西部フメリニツキー州への攻撃を開始した。その後、ロシア政府寄りのメディアはウクライナのF16が5機、破壊されたと伝えたが、これまでのところ公的な発表はない。
テレグラムのロシア政府寄りチャンネル「軍事オブザーバー」もまた、アメリカ人パイロットがフメリニツキー州への攻撃で死亡したと伝えた(投稿はすでに削除されている)。同チャンネルはパイロットの妻のものとされるフェイスブックへのこんな投稿を引用していた。「(夫の)スティーブンは外国人教官プログラムなどという下らないもののせいで亡くなりました。なぜ夫が(プログラムへの参加に)同意したのか分かりません。夫(の遺体)をどうやって移送するつもりなのかも分かりません」。もっとも独立系の調査報道サイト「ザ・インサイダー」が調べたところでは、この投稿は偽物だったという。
確かにウクライナに供与されていたアメリカ製F16のうち1機は、8月にロシアの空からの攻撃を迎撃した際に墜落している。ウクライナ軍によれば、搭乗していたウクライナ人パイロットが死亡したという。
このパイロットは生前、何度もメディアの取材を受け、F16の供与を求めるロビー活動のためにワシントンを訪れたこともあって有名人だった。ウクライナ側には、F16があれば戦況を変えられる、という期待があった。
死亡したパイロットは同僚たちとともにデンマークの基地でF16の操縦訓練を受けた。今年に入り彼は、訓練が「縮小」されたことや、操縦の技術的な難しさについて語っていた。
ロシアのアナトリー・アントノフ駐米大使はこのパイロットの死について、アメリカがウクライナ人のF16パイロットに対して行った不適切な訓練が原因だと非難した。
「アメリカの教官はF16戦闘機に乗るウクライナ人パイロットの訓練に失敗した」と、アントノフは駐米ロシア大使館のテレグラムチャンネルに、国営タス通信の報道を引用する形で投稿した。
「現地の教官はウクライナ人(パイロット)の訓練に失敗した」ともアントノフは述べた。「不運な戦闘機がロシア軍兵士によって撃ち落とされたとの報告を受けた教官たちが、(ショックで)叫んでいる様子が目に浮かぶようだ」
ウクライナの国会議員、マリアナ・ベズフラによれば、問題のF16はアメリカから供与された対空防衛システム「パトリオット」の誤射で撃ち落とされ、その原因は「部隊同士の連携の失敗」だったという。また同議員は、空軍の司令部には「嘘をつく習慣がある」と非難した。
事故を受けてウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は空軍司令官を解任した。司令官はベズフラから寄せられた懸念を一蹴するとともに、軍トップへの信頼を傷つけたと彼女を批判していた。
CNNが報じたところでは、ウクライナ軍は事故の原因はパイロットのミスではないと考えている。調査は今も続行中だ。
ウクライナに対しては全部で45機のF16が供与される予定で、このうち数機が7月末に到着している。
■駐南アのロシア大使館がイラストまで付けて投稿した疑惑のX投稿
When you ask Ukrainian pilots where their F-16s are. pic.twitter.com/HCgtzUM6Mq— Russian Embassy in South Africa (@EmbassyofRussia) September 27, 2024
<ロシア大使館が「墜落」の写真をXに投稿した。ウクライナ人パイロットが死亡した事故もあった一方、戦況を一気に変えると期待されたF16の活躍がまだ見られない背景には、訓練の失敗という噂もある>
ロシア当局がウクライナ上空でF16戦闘機を撃墜したと発表したが、外部からの厳しいファクトチェックで否定された。
9月27日、駐南アフリカのロシア大使館はX(旧ツイッター)に、破壊されたF16の画像を投稿した。F16の尾翼にはウクライナ軍の紋章が付いており、キャプションには「ウクライナ軍のパイロットたちに、F16はどこにあるのかと尋ねてみたら......」というコメントが。つまり、ロシアがウクライナのF16を撃墜した、と言いたいわけだ。
だがこの主張は、あっという間に否定された。投稿に「この写真は2019年に墜落した米空軍のF16のものだ」という「コミュニティノート」が付いたからだ。
駐南アのロシア大使館がイラストまで付けて投稿した疑惑のX投稿を見る
コミュニティノートとは誤解を招く可能性がある投稿に対し、有用な背景情報を提供するために他のユーザーたちが投稿した文章のこと。同じ写真が使われているが全く別の事故を報じた記事へのリンクも複数示された。本誌はロシアとウクライナ両国の国防省に電子メールでコメントを求めたが回答は得られていない。
この写真は、2019年5月にカリフォルニア州で油圧系統のトラブルが原因でF16が墜落し、13人がけがをする事故が起きた際のものだった。元の画像にはウクライナ軍の紋章は付いていなかったから、ロシア大使館が加工した可能性がある。
怪しげな「報道」が交錯する中......
「(ウクライナの無人機攻撃により)ロシアの弾薬庫の爆発が続く中、士気を高めるため、F16の加工した画像まで公開しなければならないということか」と、軍事アナリストのオリバー・アレクサンダーはこの投稿への返信で述べた。
投稿の前日、ロシア軍はウクライナの西部フメリニツキー州への攻撃を開始した。その後、ロシア政府寄りのメディアはウクライナのF16が5機、破壊されたと伝えたが、これまでのところ公的な発表はない。
テレグラムのロシア政府寄りチャンネル「軍事オブザーバー」もまた、アメリカ人パイロットがフメリニツキー州への攻撃で死亡したと伝えた(投稿はすでに削除されている)。同チャンネルはパイロットの妻のものとされるフェイスブックへのこんな投稿を引用していた。「(夫の)スティーブンは外国人教官プログラムなどという下らないもののせいで亡くなりました。なぜ夫が(プログラムへの参加に)同意したのか分かりません。夫(の遺体)をどうやって移送するつもりなのかも分かりません」。もっとも独立系の調査報道サイト「ザ・インサイダー」が調べたところでは、この投稿は偽物だったという。
確かにウクライナに供与されていたアメリカ製F16のうち1機は、8月にロシアの空からの攻撃を迎撃した際に墜落している。ウクライナ軍によれば、搭乗していたウクライナ人パイロットが死亡したという。
このパイロットは生前、何度もメディアの取材を受け、F16の供与を求めるロビー活動のためにワシントンを訪れたこともあって有名人だった。ウクライナ側には、F16があれば戦況を変えられる、という期待があった。
死亡したパイロットは同僚たちとともにデンマークの基地でF16の操縦訓練を受けた。今年に入り彼は、訓練が「縮小」されたことや、操縦の技術的な難しさについて語っていた。
ロシアのアナトリー・アントノフ駐米大使はこのパイロットの死について、アメリカがウクライナ人のF16パイロットに対して行った不適切な訓練が原因だと非難した。
「アメリカの教官はF16戦闘機に乗るウクライナ人パイロットの訓練に失敗した」と、アントノフは駐米ロシア大使館のテレグラムチャンネルに、国営タス通信の報道を引用する形で投稿した。
「現地の教官はウクライナ人(パイロット)の訓練に失敗した」ともアントノフは述べた。「不運な戦闘機がロシア軍兵士によって撃ち落とされたとの報告を受けた教官たちが、(ショックで)叫んでいる様子が目に浮かぶようだ」
ウクライナの国会議員、マリアナ・ベズフラによれば、問題のF16はアメリカから供与された対空防衛システム「パトリオット」の誤射で撃ち落とされ、その原因は「部隊同士の連携の失敗」だったという。また同議員は、空軍の司令部には「嘘をつく習慣がある」と非難した。
事故を受けてウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は空軍司令官を解任した。司令官はベズフラから寄せられた懸念を一蹴するとともに、軍トップへの信頼を傷つけたと彼女を批判していた。
CNNが報じたところでは、ウクライナ軍は事故の原因はパイロットのミスではないと考えている。調査は今も続行中だ。
ウクライナに対しては全部で45機のF16が供与される予定で、このうち数機が7月末に到着している。
■駐南アのロシア大使館がイラストまで付けて投稿した疑惑のX投稿
When you ask Ukrainian pilots where their F-16s are. pic.twitter.com/HCgtzUM6Mq— Russian Embassy in South Africa (@EmbassyofRussia) September 27, 2024