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極地の光環境が育む生物多様性の秘密...フィンランド研究チームの新説

ニューズウィーク日本版 2024年10月3日 9時50分

トム・ハワース
<フィンランドの研究チームが打ち出した新たな説によると、地球の極地で見られる白夜や極夜のような極端な光環境が、長期にわたり生物多様性を維持する重要な役割を果たしている可能性がある>

地球の極地で極端な光環境が育む独特の状況が、時を経て世界の生物多様性を維持する重要な役割を果たしてきた可能性がある――。フィンランドの研究チームが革新的な説を打ち出した。

この説によると、北極圏と南極圏が形成する「周極雑種地帯」では種の交雑が促進され、結果として長期的な生物多様性の維持を支えている。

極地の特徴として、夏は24時間太陽が見える「白夜」、冬は数カ月にわたって暗闇が続く「極夜」のような現象があり、昼間の長さの差が激しい。

気温と違って、日の長さという環境要因は緯度によって違いが予測できる一貫性がある。この安定性に強いられて、多くの種が狭い時間枠の中で繁殖サイクルを同期するようになり、交雑の可能性が高まると研究チームは論じている。

交雑は、異なる種や品種の個体が交配することで起きる。その結果生まれる交雑種は、多様な環境に順応できる新しい遺伝子の組み合わせを持つことがある。

「交雑はほぼ全ての有機体に共通しているが、生物多様性の維持に果たす役割についてはよく分かっていなかった」。One Earth誌に論文を発表した筆頭著者のカリ・サイコネンはそう解説する。

「(極地では)開花期間が短いために生殖隔離が崩れ、遺伝的に異なる個体群の間で繁殖のタイミングが重なって、交雑の可能性が生まれる」とサイコネンは本誌に語った。

微生物が果たす役割

このプロセスは、交雑種の個体がその親の種と交配する戻し交配を伴い、さらに新しい遺伝子が個体群に加わる。そうした力学は光条件が極端な極地の方が大きく、種が何千年にもわたって環境の変化を生き延びる助けになっている可能性がある。

研究チームはそうしたプロセスに微生物が果たす役割にもスポットを当てた。微生物、中でも光に敏感な微生物は、植物や動物の健康と発達に大きく関わる。サイコネンのチームは、微生物が極地の過酷な環境への順応を助け、回復力や生存能力を高めているという仮説を立てた。

だが、この自然の回復力が、急激な気候変動に試されている。極地は世界平均の4倍という恐ろしいペースで温暖化が進み、未曽有の変容が起きている。

気候変動の加速で増す生物多様性を支える仕組みへの理解

北極の氷は今世紀の終わりまでに消滅し、南極大陸の氷のない場所は現在の2%からほぼ25%へと拡大して生態系を一変させるというう予測もある。

「南極大陸西部の氷河が解けるだけでも海面が5メートル上昇して、今後数十年から数百年の間に世界人口の10%と世界の沿岸部の海洋生態系の多くを脅かす」とサイコネンは言う。

今回の研究では生物多様性に対する視野を広げるよう呼びかけ、かき乱された生態系の回復と再構築のために必要な、遺伝的多様性の維持と種の交配の重要性を強調している。気候変動が加速する中、生物多様性を支える仕組みを理解することが、かつてなく重要になる。

「生物多様性は、長い目で見れば、撹乱されて大量絶滅した後も回復できると我々は提唱している。ただし生態系は新しい種の集合体として再構築される」とサイコネンは話し、今回の研究を通じて「将来の多様化と生態系の機能や役割を支えるために、十分な遺伝的可能性、種の可能性、種の交配の可能性を保証することの重要性に注目してほしい」と言い添えた。

(翻訳:鈴木聖子)

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