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真逆な2人が競う米大統領選終盤戦を占う

ニューズウィーク日本版 2024年10月3日 11時24分

ジェームズ・ビッカートン(本誌記者)
<ここへきて疲れも見えるトランプとなかなか上げ潮に乗り切れないハリス、大混戦は最後までもつれる気配だが>

11月5日の米大統領選投票日まで、あと1カ月。民主党のカマラ・ハリスと共和党のドナルド・トランプの掲げる主張は大きく異なるが、選挙戦の進め方も優れて対照的だ。

即興専科のトランプが筋書きなしのインタビューに喜々として応じる一方、現職のジョー・バイデンに代わって急きょ大統領候補に担ぎ出されたハリスは慎重で、厳しい質問の飛んでくる取材や記者会見を嫌っていると批判されている。

世論調査会社アクティボートが9月25日に発表した調査では、トランプ支持48.6%に対し、ハリス支持は51.4%だった。ただし2.8ポイントの僅差は誤差の範囲内だ。しかもトランプは2016年の選挙で、一般投票では負けたが選挙人の獲得数で勝利を拾っている。

実際、8月半ばに正式に民主党大統領候補となって以来、ハリスは筋書きのない記者会見や一対一のメディア対応を避けてきた。ほぼ唯一の例外は8月29日放送のCNNのインタビューだが、この時は副大統領候補のティム・ウォルズ(ミネソタ州知事)も一緒だった。この間、共和党は繰り返し、ハリスがメディア対応を避けていると非難してきた。

選挙CMのようなインタビュー

対照的に、トランプは何度も筋書きのない取材に応じている。ただしたいていは保守系のメディアで、聞き手は彼に同調し、彼を盛り上げるタイプの人物だった。

英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのトーマス・ギフト(アメリカ政治センター長)に言わせれば、トランプは台本のないイベントにたくさん出ており、メディアからの厳しい質問を避けたがるハリスとの対比が際立つ。

「トランプが好きなのはスタジアム級の大集会だが、それだけでは岩盤支持層を奮い立たせることしかできない」と、ギフトは言う。「しかし著名人との対談や記者会見をやれば、聞き手の輪が広がる。無料でCMを流しているようなものだが、ハリスにはこれがない」

しかしニューヨーク州立大学バファロー校のジェームズ・バティスタ准教授(政治学)によると、トランプが出演した対談のいくつかはとても真のインタビューとは呼べない。「トランプが応じるインタビューでは事前に暗黙の了解ができている。自分の主張に反論の出る可能性は皆無に近いこと、自分が言葉に詰まったりすれば聞き手が助け舟を出してくれること、そのインタビュー番組に選挙CMと同等程度の効果があることだ」

トランプ陣営は今回、公開の大規模集会を過去の選挙戦より極端に減らしている。ワシントン・ポスト紙の分析によると、7月初めから8月10日までの間にトランプが開いた集会はわずか7回。16年の同時期には22回だった。

もちろん、そこには7月13日の暗殺未遂事件の影響がある。あの日、激戦州ペンシルベニアでの集会中にトランプは銃撃され、自らはかすり傷で済んだが、参加者1人が死亡している。「絶好のタイミングで首を動かすという幸運に恵まれなければ殺されていた。そう思えば、大規模集会を減らしたくなるのも当然だ」と、バティスタは言う。

正攻法で戦うハリス陣営

一方のハリスは頻繁に集会を開いている。本格的な選挙戦の始まったレイバーデーの祝日(9月2日)にペンシルベニア州ピッツバーグで開いた集会には、バイデン大統領も姿を見せた。

シカゴで民主党全国大会が始まっていた8月20日にはウィスコンシン州ミルウォーキーのアリーナで集会を開き、主催者発表で1万5000人を集めている。その勢いで彼女はシカゴに乗り込み、2日後、正式に大統領候補となった。

カリフォルニア大学バークレー校のテリー・バイムズ教授は、ハリスの集会に参加者が多いのはそれだけ同陣営が勢いづいている証拠だとし、トランプが集会を減らしているのは参加者が減ってきたからではないかと指摘する。

「集会参加者が以前ほど集まらなくなり、参加したとしても途中で退席してしまう。そういう状況が外部に伝わるのは都合が悪いだろう」

しかし、インタビューなら聴衆は関係ない。だから今のトランプは、集会よりも個別のインタビューを増やしているのではないかと、彼女は言う。

「逆の理由で、ハリスは個別のメディア対応よりも集会を選択している。彼女には勢いがあり、大勢の支持者が集まる。そうすれば黙っていてもメディアが報道してくれる」

公開の選挙集会をめぐっては、9月10日のテレビ討論会でも舌戦が繰り広げられた。まずはハリスが、トランプの集会参加者を話題にした。「彼の集会では、(『羊たちの沈黙』の)ハンニバル・レクターのような架空の人物の話を聞かされ、風力発電で癌になると聞かされる。それで疲れて、退屈した人はさっさと途中で帰ってしまう」

するとトランプは、ハリス陣営は参加者を水増しするために役者を雇っていると反撃した。「いいかね、そもそも彼女の集会には誰も行かない。行く理由がないからだ。集まっている人はみんな彼女がバスに乗せ、お金を払って参加させている。全ては演出、見せかけだ」

だがカナダのブリティッシュ・コロンビア大学のポール・クワーク教授(アメリカ政治学)に言わせると、ハリス陣営は今回の選挙戦を「透明性の高い正攻法」で戦っている。

「大統領候補が激戦州で集会を開き、大勢の熱心な聴衆を集め、主流の全国メディアで好意的に報道される。これほど有効な時間の使い方はない」と、彼は言う。「CNNやABCのように中立的な大手メディアの取材に応じれば、全国の視聴者にメッセージを送れるが、厳しい質問もぶつけられる。一方、党派的なメディアで質問者も友好的だと、そのメッセージは既存の支持者にしか届かない」

その点でトランプ陣営のやり方は「特異」で、激戦州で次々に大規模集会を開くという戦術は捨てたように見えるとクワークは言う。

クワークによれば、理由はいくつか考えられる。まず、トランプの集会参加者には明らかに疲れが見えること。ハリス寄りのメディアは、トランプの集会で空席が目立ち、演説の最中にも聴衆が少しずつ退席している様子を映し出してトランプを笑いものにしている。

金の問題もある。トランプの抱える訴訟の弁護費用に選挙資金や党の資金が使われているせいもあり、集会の規模や開催頻度、開催場所が制約を受けている可能性も否定できない。

疲れ気味に見えるトランプ

最後に、トランプ自身も疲れ気味のようであること。かなりの時間をゴルフに割いていて、時には無気力にも見える。立ち直る可能性はあるし、依然として勝負は互角だ。しかし現時点では、トランプがまともな選挙戦を続けられるかは不明だ。

英ポーツマス大学でアメリカ政治を教えるダビズ・タウンリーも、「トランプは一連のインタビューで自身のカリスマ性をアピールしたいのだろう」とみる。「友好的な記者との一対一のインタビューなら、自分の主張や言い分に反論される恐れも少ない」

独立系のFCBラジオネットワークのダービオ・モローCEOは、勝負は投票日までもつれると予想する。

「テレビ討論会でのハリスはトランプよりずっとしっかりしていたが、話の内容は乏しかった。トランプは戦意を見せたが防戦一方で、集中力を欠いていた。どちらも支持者を喜ばせたが、未来への明確なビジョンは示せなかった」と、モローは言う。

「ハリスは政治姿勢の変化についての追及を巧みに逃れたが、中身のない発言が目立った。トランプは自分の弁護に忙しく、ハリスの過去を追及することも、自分の主張を打ち出すこともできなかった。どちらも相手をノックアウトはできなかった。きっと最後まで息をのむ展開が続くだろう」



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