ジーザス・メサ
<ブリンケン米国務長官が『フォーリン・アフェアーズ』の11月号に寄せた論文のタイトルが「アメリカは......強くなった」。ウクライナ戦争、中東紛争、中国の台頭など世界中が戦火やその予兆で溢れているのに?>
今のアメリカは4年前と比べ、はるかに強固な地政学的ポジションにある──アントニー・ブリンケン米国務長官はバイデン政権のこの4年間の外交実績をそう総括した。
ブリンケンは外交専門誌フォーリン・アフェアーズの11月号に寄稿した論文で、中国とロシアの脅威に対するバイデン政権の戦略とアプローチを自画自賛した。いわく「バイデン政権の戦略のおかげで、アメリカは4年前と比べてはるかに強固な地政学的地位にある」。
バイデン政権の実績を擁護するブリンケンの論文は、皮肉なことに、アメリカが近年の歴史で、ことによると最も手強い地政学的難題に直面するタイミングで発表された。
ウクライナ戦争、中国との緊張の高まりに加え、今や中東紛争もエスカレートの一途をたどっている。
ブリンケンの論文を掲載した11月号が発売された日、イランはイスラエルに向けて約200発の弾道ミサイルを発射した。過去最大規模のこの攻撃は、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者らを、イスラエルが殺害したことに対する報復だ。
「トランプ時代よりまし」
紛争がここまでこじれたのは、元はと言えば、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに仕掛けた奇襲攻撃に端を発する。昨年10月7日に起きたこの攻撃から、もうじき1年が経つ。
この奇襲攻撃が勃発する直前には、ジョー・バイデン米大統領の国家安全保障担当補佐官を務めるジェイク・サリバンが「今の中東はこの20年間で最も平穏だ」などと述べていた。
だが、ハマスの奇襲攻撃に対するイスラエルの報復は激化の一途をたどり、レバノンのヒズボラに飛び火し、今やイスラエルとイランの全面戦争に発展することすら懸念されている。
共和党をはじめとする批判派は、外国の脅威に対するバイデン政権の抑止戦略は不十分で、ロシアやイランをつけ上がらせる結果になった、と主張している。
それでもドナルド・トランプ前大統領時代と比べれば、国際社会におけるアメリカの地位は向上したと、ブリンケンは言う。
「バイデン大統領と(カマラ・)ハリス副大統領は戦略を一新し、国内産業の競争力強化のために歴史的な規模の投資を行う一方で、同盟国や友好国との信頼関係を回復するため精力的な外交活動を展開した」
「アメリカは国力が低下し自信を失っていると見て、好き勝手に振る舞うライバル国の暴走を抑えるには、この二本立て戦略が最も有効だと、バイデンとハリスは見抜いたのだ」と、ブリンケンは論じている。
その論旨を支えるのは、バイデン政権が、先端の半導体など科学技術分野に巨額の補助金を投じる「CHIPSおよび科学法」と物価の高騰に対処する「インフレ抑制法」を通じて、国内産業の振興に思い切った投資を行ったことで、アメリカの製造業が息を吹き返し、米経済に対する世界の信頼が高まったという認識である。
アメリカは「対内直接投資残高」で世界第一位であり、アメリカで半導体や電気自動車(EV)を生産するため、サムスンやトヨタなど名だたるグローバル企業が多額の投資を行っていると、ブリンケンは指摘する。
ブリンケンによれば、その一方でバイデン政権は同盟関係の再構築にも取り組んだという。トランプに代わってバイデンが政権の座に就いた時点では、ヨーロッパの主要な同盟国は「アメリカ頼み」から脱却し、中国、ロシアと経済関係を深めようとしていた、というのだ。
NAT0は大きく強くなった
バイデン政権時代にNATOは拡大し、アメリカは日本、韓国、オーストラリアなどの同盟国との軍事協力を強化。この4年間でアメリカは世界各国とより強固なパートナーシップを築くことができた、とブリンケンは主張する。
ブリンケンはまた、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟したことを挙げ、「バイデン政権の戦略は、NATOをより大きく、より強く、より団結した機構にすることに貢献した」と宣言している。
ブリンケンによれば、アメリカにとって長期的に見て最も重要な競争相手は中国であり、バイデン政権は中国の影響力拡大に対抗する具体的な措置を取ってきた。中国企業がアメリカの高度な技術にアクセスすることを制限する一方で、インド太平洋地域の国々との軍事協力の枠組みを強化した。
「私たちはアメリカの最も進んだ技術を断固として守る措置を取ってきた。不公正な経済慣行からアメリカの労働者と企業と地域を守り、中国の対外的な攻撃姿勢と国内における抑圧強化を押しとどめるため、あらゆる手立てを尽くしてきた」
中国は長年、共和党と民主党の歴代の米政権が他の事柄にかまけているのを良いことに、着々と影響力を拡大してきたと、ジョージ・ワシントン大学メディア・国家安全保障プロジェクトを率いるトーム・シャンカーは本誌に語った。
「過去20年間、米政府の国家安全保障政策はイランとアフガニスタンにおける対テロ戦争一辺倒だった。そのことが戦略的な脅威としての中国の台頭を許す結果となった。アメリカの歴代政権がテロ対策に集中している間に、中国は粛々と影響力を広げ、アメリカの第一の脅威へとのし上がった」と、シャンカーは説明する。
ロシアが2022年にウクライナに侵攻すると、アメリカはNATOなどと対抗軸を築いたとブリンケンは言う。バイデン政権は「ウラジーミル・プーチン大統領の失地回復の目論見を疑わず、米ロ関係改善などという幻想は抱かなかった」と述べた。
ブリンケンは一連の同盟諸国との関係を、アメリカの地政学的な立場が強化された証拠として強調したが、あまりに多くの世界的な危機が深刻化しつつあるなか、その安定性には懸念の声もある。
核合意からの離脱は間違い
ブリンケンはロシア、イラン、北朝鮮や中国などアメリカと敵対する国同士がパートナーシップを強化していることを認め、この非公式な連合を「新たな悪の枢軸」と称した。9・11同時テロ後にジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)がイラン、イラクと北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだことに倣ったものだ。
それでもブリンケンは、バイデン政権が同盟強化と多国間協力の促進に尽力してきたことで、新たに浮上しつつある脅威にも効果的に対抗することができるという楽観的な見方を示した。
ブリンケンが重点を置いたのは外交の重要性、そして国際問題において一方的な決定を避けることの重要性だ。彼はトランプ政権について頻繁に言及してはいないものの、トランプが「イラン核合意からの一方的で見当違いな離脱」を決定したことを批判した。
「アメリカが自国の安全を守り、国民のために機会を創出したいならば、自由で開かれた、安全で繁栄した世界の実現に関心を寄せる人々を支持し、そのような世界を脅かす者に立ち向かわなければならない」と彼は主張した。
ブリンケンの肯定的な評価とは対照的に、共和党の指導者たちはバイデン政権の外交政策を声高に批判してきた。マイク・ジョンソン米下院議長をはじめとする共和党の大物議員たちは、中東全域で敵対的・対立的な行動を激化させているイランに対するバイデン政権のアプローチが「宥和的」だと批判してきた。
イランは2023年10月7日にイスラエルへの奇襲攻撃を行ったハマスに資金援助を行ったとされており、紅海ではイエメンの親イラン武装組織であるフーシ派が非武装の貨物船に対する攻撃を続けている。
ジョンソンをはじめとする共和党指導者たちは共同声明で、「バイデンとハリスによる弱く失敗した外交政策のせいで、アメリカの敵対勢力はますます危険な攻撃を実行しつつある」と指摘。
バイデン政権が外交や協調体制の構築に重点を置いてきたことで、イランのような敵対勢力がつけ上がり、アメリカの弱みにつけ込んでいると主張した。
トランプや共和党の指導部はしばしば、トランプならウクライナや中東での紛争を回避するか終わらせることができたと主張しているが、シャンカーは、和平に向けた最終的な決定はイスラエルやイラン、そしてヒズボラのような地域の指導者たちに委ねられていると指摘した。
シャンカーはまた、バイデンの対応は適切であり、現政権だけでなく次期政権の基本姿勢をも示すものだとつけ加えた。
「バイデン政権の下、NATOはロシアによるウクライナ侵攻への対応においてより強力な体制を築いている。ロシアの侵攻に先立ってバイデンが関連する諜報の機密指定を解除したことは、国際社会に差し迫った危機を警告する上での助けとなった。またバイデンの外交は、プーチンに不意打ちを食らわせる形でNATOを団結させた」とシャンカーは述べた。
ブリンケンはアメリカの外交政策に対する批判を振り返り、自分が重視してきたのは政治ではなく政策だと強調した。「国務長官として、私は政治を行うのではなく政策を実行している。政策において重要なのは選択だ」と彼は結論づけた。
<ブリンケン米国務長官が『フォーリン・アフェアーズ』の11月号に寄せた論文のタイトルが「アメリカは......強くなった」。ウクライナ戦争、中東紛争、中国の台頭など世界中が戦火やその予兆で溢れているのに?>
今のアメリカは4年前と比べ、はるかに強固な地政学的ポジションにある──アントニー・ブリンケン米国務長官はバイデン政権のこの4年間の外交実績をそう総括した。
ブリンケンは外交専門誌フォーリン・アフェアーズの11月号に寄稿した論文で、中国とロシアの脅威に対するバイデン政権の戦略とアプローチを自画自賛した。いわく「バイデン政権の戦略のおかげで、アメリカは4年前と比べてはるかに強固な地政学的地位にある」。
バイデン政権の実績を擁護するブリンケンの論文は、皮肉なことに、アメリカが近年の歴史で、ことによると最も手強い地政学的難題に直面するタイミングで発表された。
ウクライナ戦争、中国との緊張の高まりに加え、今や中東紛争もエスカレートの一途をたどっている。
ブリンケンの論文を掲載した11月号が発売された日、イランはイスラエルに向けて約200発の弾道ミサイルを発射した。過去最大規模のこの攻撃は、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者らを、イスラエルが殺害したことに対する報復だ。
「トランプ時代よりまし」
紛争がここまでこじれたのは、元はと言えば、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに仕掛けた奇襲攻撃に端を発する。昨年10月7日に起きたこの攻撃から、もうじき1年が経つ。
この奇襲攻撃が勃発する直前には、ジョー・バイデン米大統領の国家安全保障担当補佐官を務めるジェイク・サリバンが「今の中東はこの20年間で最も平穏だ」などと述べていた。
だが、ハマスの奇襲攻撃に対するイスラエルの報復は激化の一途をたどり、レバノンのヒズボラに飛び火し、今やイスラエルとイランの全面戦争に発展することすら懸念されている。
共和党をはじめとする批判派は、外国の脅威に対するバイデン政権の抑止戦略は不十分で、ロシアやイランをつけ上がらせる結果になった、と主張している。
それでもドナルド・トランプ前大統領時代と比べれば、国際社会におけるアメリカの地位は向上したと、ブリンケンは言う。
「バイデン大統領と(カマラ・)ハリス副大統領は戦略を一新し、国内産業の競争力強化のために歴史的な規模の投資を行う一方で、同盟国や友好国との信頼関係を回復するため精力的な外交活動を展開した」
「アメリカは国力が低下し自信を失っていると見て、好き勝手に振る舞うライバル国の暴走を抑えるには、この二本立て戦略が最も有効だと、バイデンとハリスは見抜いたのだ」と、ブリンケンは論じている。
その論旨を支えるのは、バイデン政権が、先端の半導体など科学技術分野に巨額の補助金を投じる「CHIPSおよび科学法」と物価の高騰に対処する「インフレ抑制法」を通じて、国内産業の振興に思い切った投資を行ったことで、アメリカの製造業が息を吹き返し、米経済に対する世界の信頼が高まったという認識である。
アメリカは「対内直接投資残高」で世界第一位であり、アメリカで半導体や電気自動車(EV)を生産するため、サムスンやトヨタなど名だたるグローバル企業が多額の投資を行っていると、ブリンケンは指摘する。
ブリンケンによれば、その一方でバイデン政権は同盟関係の再構築にも取り組んだという。トランプに代わってバイデンが政権の座に就いた時点では、ヨーロッパの主要な同盟国は「アメリカ頼み」から脱却し、中国、ロシアと経済関係を深めようとしていた、というのだ。
NAT0は大きく強くなった
バイデン政権時代にNATOは拡大し、アメリカは日本、韓国、オーストラリアなどの同盟国との軍事協力を強化。この4年間でアメリカは世界各国とより強固なパートナーシップを築くことができた、とブリンケンは主張する。
ブリンケンはまた、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟したことを挙げ、「バイデン政権の戦略は、NATOをより大きく、より強く、より団結した機構にすることに貢献した」と宣言している。
ブリンケンによれば、アメリカにとって長期的に見て最も重要な競争相手は中国であり、バイデン政権は中国の影響力拡大に対抗する具体的な措置を取ってきた。中国企業がアメリカの高度な技術にアクセスすることを制限する一方で、インド太平洋地域の国々との軍事協力の枠組みを強化した。
「私たちはアメリカの最も進んだ技術を断固として守る措置を取ってきた。不公正な経済慣行からアメリカの労働者と企業と地域を守り、中国の対外的な攻撃姿勢と国内における抑圧強化を押しとどめるため、あらゆる手立てを尽くしてきた」
中国は長年、共和党と民主党の歴代の米政権が他の事柄にかまけているのを良いことに、着々と影響力を拡大してきたと、ジョージ・ワシントン大学メディア・国家安全保障プロジェクトを率いるトーム・シャンカーは本誌に語った。
「過去20年間、米政府の国家安全保障政策はイランとアフガニスタンにおける対テロ戦争一辺倒だった。そのことが戦略的な脅威としての中国の台頭を許す結果となった。アメリカの歴代政権がテロ対策に集中している間に、中国は粛々と影響力を広げ、アメリカの第一の脅威へとのし上がった」と、シャンカーは説明する。
ロシアが2022年にウクライナに侵攻すると、アメリカはNATOなどと対抗軸を築いたとブリンケンは言う。バイデン政権は「ウラジーミル・プーチン大統領の失地回復の目論見を疑わず、米ロ関係改善などという幻想は抱かなかった」と述べた。
ブリンケンは一連の同盟諸国との関係を、アメリカの地政学的な立場が強化された証拠として強調したが、あまりに多くの世界的な危機が深刻化しつつあるなか、その安定性には懸念の声もある。
核合意からの離脱は間違い
ブリンケンはロシア、イラン、北朝鮮や中国などアメリカと敵対する国同士がパートナーシップを強化していることを認め、この非公式な連合を「新たな悪の枢軸」と称した。9・11同時テロ後にジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)がイラン、イラクと北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだことに倣ったものだ。
それでもブリンケンは、バイデン政権が同盟強化と多国間協力の促進に尽力してきたことで、新たに浮上しつつある脅威にも効果的に対抗することができるという楽観的な見方を示した。
ブリンケンが重点を置いたのは外交の重要性、そして国際問題において一方的な決定を避けることの重要性だ。彼はトランプ政権について頻繁に言及してはいないものの、トランプが「イラン核合意からの一方的で見当違いな離脱」を決定したことを批判した。
「アメリカが自国の安全を守り、国民のために機会を創出したいならば、自由で開かれた、安全で繁栄した世界の実現に関心を寄せる人々を支持し、そのような世界を脅かす者に立ち向かわなければならない」と彼は主張した。
ブリンケンの肯定的な評価とは対照的に、共和党の指導者たちはバイデン政権の外交政策を声高に批判してきた。マイク・ジョンソン米下院議長をはじめとする共和党の大物議員たちは、中東全域で敵対的・対立的な行動を激化させているイランに対するバイデン政権のアプローチが「宥和的」だと批判してきた。
イランは2023年10月7日にイスラエルへの奇襲攻撃を行ったハマスに資金援助を行ったとされており、紅海ではイエメンの親イラン武装組織であるフーシ派が非武装の貨物船に対する攻撃を続けている。
ジョンソンをはじめとする共和党指導者たちは共同声明で、「バイデンとハリスによる弱く失敗した外交政策のせいで、アメリカの敵対勢力はますます危険な攻撃を実行しつつある」と指摘。
バイデン政権が外交や協調体制の構築に重点を置いてきたことで、イランのような敵対勢力がつけ上がり、アメリカの弱みにつけ込んでいると主張した。
トランプや共和党の指導部はしばしば、トランプならウクライナや中東での紛争を回避するか終わらせることができたと主張しているが、シャンカーは、和平に向けた最終的な決定はイスラエルやイラン、そしてヒズボラのような地域の指導者たちに委ねられていると指摘した。
シャンカーはまた、バイデンの対応は適切であり、現政権だけでなく次期政権の基本姿勢をも示すものだとつけ加えた。
「バイデン政権の下、NATOはロシアによるウクライナ侵攻への対応においてより強力な体制を築いている。ロシアの侵攻に先立ってバイデンが関連する諜報の機密指定を解除したことは、国際社会に差し迫った危機を警告する上での助けとなった。またバイデンの外交は、プーチンに不意打ちを食らわせる形でNATOを団結させた」とシャンカーは述べた。
ブリンケンはアメリカの外交政策に対する批判を振り返り、自分が重視してきたのは政治ではなく政策だと強調した。「国務長官として、私は政治を行うのではなく政策を実行している。政策において重要なのは選択だ」と彼は結論づけた。