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常勝軍団の家族秘話...大谷翔平のチームメイトたちが明かした、ドジャース流「家族ぐるみ」のお付き合い

ニューズウィーク日本版 2024年10月4日 14時40分

青池奈津子(MLBライター)
<大谷の愛犬デコピンが始球式に登場したのはなぜ? ドジャースの強さの背景には、球団あげての家族サービスがあった>

8月下旬、大谷翔平選手の愛犬デコピンの完璧な始球式が話題になったことは記憶に新しい。一方で、「なぜ愛犬が始球式に......?」と不思議に思った人もいるかもしれない。

実はあれは、ドジャース流の家族サービスの1つ。勝つためにチーム一丸となって貪欲に努力し続けるこの球団には、裏で支える選手らへの家族にも手厚いケアをすることで知られている。

「ドジャースは、僕がこれまでいた球団の中でも特に家族に対する意識が高い」と話したのは、7球団に所属経験があるドジャースのベテラン投手、ダニエル・ハドソンだ。子供たちを球場に連れて行きやすくしてくれたり、家族行事を作ってくれたり、忙しい選手が野球に少しでも集中できるよう家族サービスを手助けしてくれることがとても有難いと言う。

ドジャースの公式SNSを見ると、ファミリーデイ、始球式、チャリティーイベント、ベビーシャワーなど、選手の活躍だけでなく、パートナーや子供たちも頻繁に登場する。大リーグのシーズンは長く、どの球団も選手が家族と過ごせる時間を少しでも作れるようとさまざまな企画を考えるが、特にドジャースは家族やコミュニティー向けの活動がとても盛んなのだ。

そのうちの1つが、来場者限定で選手のボブルヘッド人形が配られる日。ドジャースは、ボブルヘッドとなった選手のパートナーや子供たちに始球式で投手役を務めてもらうことで家族にも光を当てる。ドジャースほど年間でボブルヘッドが配られる球団もないが(今季は19体)、日ごろからそんな風に家族が始球式に出てくるのを見ていた大谷にとって、デコピンに始球式をやらせようと思ったのは実に自然な流れだったようだ。

ドジャースタジアムの造りが古いこともあり、選手も選手の家族も報道陣も一般と同じエレベーターを使うので、日頃から家族の姿をよく目にする。夏休みになれば、選手の子供たちが何人もクラブハウスを我が物顔で歩いている。

「僕らの生活は家族と離れている時間が本当に長い。だからつい、野球にフォーカスし過ぎてしまう時がある。でも子供たちが近くにいると、野球漬けの生活が少しノーマルに感じる。だから、ドジャースがいつも家族が来やすい環境を作ってくれていることはすごくありがたい」

ハドソンはそう語る。彼には3人の幼い娘がいるが、ドジャースは男の子だけでなく女の子も球場に入りやすい雰囲気を作ってくれると言う。

「7月にドジャースが試合後に『Daddy Daughter Night(パパと娘の夜)』を企画してくれて、娘たちと初めてクラブハウスで楽しい時間を過ごした。男の子たちはよくここに来ているけど、僕に男の子はいないからね。うちの子たちが、ロッカールームの雰囲気やパパが毎日どんなことをしているかを理解するきっかけになってくれて嬉しかった」と笑顔を見せた。

「妻のカーラが球場に来ていると嬉しくなるね」と言ったのは、ドジャースの生え抜きで今春、10年1億4000万ドルの契約延長をしたキャッチャーのウィル・スミス。日ごろは無表情なスミスが、カーラさんの話を振ると饒舌になった。

「妻は僕には絶対的に必要な存在。今は2歳になる娘の面倒を見ながら、僕が毎日野球をしやすい生活環境を整えてくれる。僕らが立ち上げたNPOの企画やスタッフとの打合せも中心となってやってくれている。裏方の仕事が多くて、ストレスも多い立場だけど、彼女だからうまくこなせる」

ケンタッキー州ルイビル出身の2人は、カーラさんが結婚前に低所得者層の小学校で教員をしていた経験から、経済的理由や家庭の事情で機会が得られない子供たちを助けたい、と2021年にNPO「キャッチング・ホープ」を設立。シーズン中でも夫婦でアイデアを出し合い、次の企画を考えているという。

「僕らの生活は毎日午後1時頃から夜11時過ぎまで家に帰れなくて、オフシーズンはあるものの、162試合の半分は遠征で各地を飛び回っている。1週間ごとにしか帰れないから、どうしても家族が犠牲になってしまう。だから妻と娘には可能な限り球場に来て欲しいし、ドジャースの環境づくりに感謝している」

スミスの言葉に、シーズン中の選手がどのくらい自宅で過ごせるかを分かる範囲で数えてみた。

24年のドジャースの場合、開幕戦が韓国であったため、今季はホームであるドジャースタジアム開催の試合が80試合、ナイターが60試合、夜は自宅に帰れるデーゲームが20試合。オフ日は25日あるが、それもドジャースは移動日であることが多いため、それを除いたら、3月下旬の開幕から6カ月間で自宅でゆっくり過ごせそうな日はわずか8日しかない。それこそ、球場に家族を呼ばなければ、一緒に過ごせる時間は本当に少ないのだ。

「その分、僕らは良い給料をもらい、家族を養える」と言うのは、子供の学校のために家族をマイアミに残し、ロサンゼルスでは単身赴任をしているミゲル・ロハス内野手。「僕はベネズエラにいるファミリーも野球で養っているから、今は仕事をすることがプライオリティー。それを理解し、支えてくれる妻がいるから、僕は幸せ者だよ」

ロハス家は夏休み中や、選手チャーター機に家族も乗れる「ファミリー・トリップ」という球団企画にも参加し、レギュラーシーズン中は25~30試合ほど観に来ると言う。

「ドジャースの奥様会やコミュニティーはかなり大きくて、テキストやEメールなどを通して常に繋がっている。球団がさまざまな催しを開いてくれるから交流が図りやすいみたい。息子が球場でほかの子供たちと遊んでいる姿を見ると幸せな気持ちなるよ」とロハスは語る。

球団が家族サービスに力を入れる一方で、選手は家族と一緒になって、社会への恩返しも忘れない。

スミス夫妻もそうだが、長年ドジャースでエースを務めてきたクレイトン・カーショー投手も夫婦でのチャリティー活動に熱心だ。カーショーは、「大きなハートを持っている」という妻についてこう語った。

「妻のエレンは、常に大きな視野を忘れないことを教えてくれる。野球は楽しい仕事で、多くのクールな経験をさせてもらっているけれど、最終的には人々を助けるための大きなプラットフォームであり、自分の伝えたいメッセージが発信できる場なのだと。僕らのNPO『カーショーのチャレンジ』はアフリカで生活に苦しむ女の子に出会ったことが始まりだったけど、彼女の情熱のおかげで今や多くの子供たちの支援ができるようになった。このチャレンジがこの先どんな変貌を遂げるのか、とても楽しみ」

10月5日にはプレーオフ初戦を迎えるドジャースだが、12年間で11度目の地区優勝を果たした常勝球団の選手たちは家族の存在に支えられている。球団も家族を支え、選手と家族はファンや社会に恩返しをする。ドジャースの上昇気流はこうして生み出されているのかもしれない。

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