榊原佳子 ※かぶまどより転載
<オルカン(全世界株式型投資信託)一択で安心している人もいるが、「株式市場に『すべて』を委ねる」リスクを理解しておいたほうがいい>
「オルカン(全世界株式型投資信託)はリスクが高い」と聞いて、「え!? 初心者向けのインデックスファンドじゃないの?」と驚く人もいるでしょう。そういう方は、「株式市場に『すべて』を委ねる」ということのリスクを理解しておいたほうがいいかもしれません。
そのリスクを軽減するために検討したいのが、ちょっと地味な金融商品「債券」です。生活にあまり馴染みがないためよく知らない方も多いかもしれませんが、実は債券は、初心者の心強い味方です。
「オルカン」が人気の理由
新NISAを活用した投資先として人気の「インデックスファンド」は、日経平均株価やS&P500などの指数(インデックス)に連動するよう設計された投資信託です。特定の企業の業績などによって株価が動く株式と違って、市場全体の成長に合わせてファンドの基準価格も上下します。
アベノミクス(2013〜2020年)の後半頃から、日本でも優良なインデックスファンドが増え、選択肢が広がりました。
以前は、株式と債券、REIT(不動産投資信託)などを組み合わせた複合型のインデックスファンドが主流だったように思いますが、近年は、「オルカン」とも呼ばれる全世界株式型が人気となり、多くの同様のインデックスファンドが誕生しています。
全世界株式型が人気を集める理由は、主に3つ考えられます。
■手数料が安い
最も大きな理由は、信託報酬などの手数料の低さです。人気のeMAXIS Slimシリーズがその代表例で、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」は「オルカン」の愛称で親しまれています。
他にも数多くのインデックスファンドが低コストを実現しています。低コストであることは、長期投資においては大きなリターンにもつながるため、投資信託を選ぶときの重要な基準として注目されます。
■初心者でも理解しやすい
次に、商品内容がわかりやすいという点も、全世界株式型が人気となった背景にあります。
投資対象は株式だけ、というようにファンドの設計が明解だからです。そのため、ニュースで日本やアメリカの株式市場の情報を見るだけで、自分が投資しているインデックスファンドの値動きを直感的に理解することもできます。
反対に、債券はあまり馴染みがなく、仕組みもわかりづらいこともあって、株式ほど注目されないように感じます。
(参考記事)新内閣で相場はどうなる? 上がっても下がってもプロが監視を続ける銘柄とは
■高いリターンを期待できる
全世界株式型インデックスファンドの魅力として、期待できるリターンの高さがあります。
債券などと比べると株式市場は成長性が高く、それゆえリターンも大きくなります。その分、当然リスクも大きいのですが、近年のインデックスファンドは優良なアクティブファンドにも劣らない高いリターンを出しています。
しかし、株式市場の急落に慣れていない初心者の方にとって、リスクの大きさは精神面で心配なポイントにもなるでしょう。
実は分散できていない、オルカンの落とし穴
全世界株式型のインデックスファンドは、その名のとおり、全世界の株式に投資する投資信託です。そのため、分散投資になる点も魅力のひとつだと捉えている人も多いかもしれません。ただ、実際には、文字どおりの「全世界」に分散されているわけではありません。
例えば、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」は米国株式が全体の62.3%を占めています。さらには銘柄も、情報技術やヘルスケア、金融といった業種に偏っています。
これらは現在の株式市場において主要な国・業種だからこそ選ばれているのですが、いずれにしても特定の国や業種に対する依存度が高めであることは確かです。そのため、これらの国・業種が景気後退期に入ると大きな影響を受ける可能性があります。
そんなときに役立つのが、債券です。債券をポートフォリオに組み入れることで、リスクを分散し、収益の安定化につなげることもできます。なぜなら、景気後退期に株式が下がる一方で、債券は値上がりすることがあるからです。
(参考記事)債券投資でリスクを分散させるコツ 株式との組み合わせはどうすればいい?
低リスクな金融商品、債券の魅力
債券は、政府・自治体や企業が資金調達のために発行する有価証券です。債券を購入した投資家は、利子という形で定期的な収益を受け取ることができるほか、株式と違って元金保証があるため、リスクが小さい金融商品です。
また、債券と株式は逆相関の関係にあるため、株価が下がる景気後退期には、債券が値上がりすることがあります。例えば、リーマンショックや新型コロナウイルスの影響による株式市場の急落時も、債券は比較的安定したパフォーマンスを示していました。
債券はリスクが小さいため、株式のように大きなリターンを期待できるものではありません。それゆえ債券投資は意味がないと考える投資家もいますが、長期投資においては、株式との相関性の低さ(逆相関であること)や、確実に得られる利子収入は大きな役目を果たしてくれるはずです。
■初心者におすすめは世界債券
債券には国債、社債、地方債などさまざまな種類があり、種類によって特性が異なります。例えば、日本国債は比較的安全な投資先とされており、低リスクで低リターンです。それに対して社債や地方債は、国債に比べるとリスクが高くなりますが、利子収益のリターンも高くなります。
例えば、全世界株式型に投資している初心者の方なら、それと同額を世界債券に投資するのもいいかもしれません。世界株式と世界債券を1:1で保有するのです。それぞれの投資信託を同額ずつ積み立ててもいいですし、世界株式と世界債券が組み入れられているインデックスファンドもあります。
株式市場が低迷している時期は、債券が値上がりすることがあります。また、債券から得られる利子収入は、そうした厳しい時期を支えてくれる貴重なインカムゲインです。株式のリスクを軽減しつつ、心の拠り所にもなる──債券は、長期投資を行う投資家にとって心強い味方なのです。
ちなみに、日本国債は低リスク低リターンですが、銀行の定期預金よりも低リスクにもかかわらず、利子(リターン)が高いことが多いです。銀行によっては、日本国債よりもリターンの大きい条件での定期預金キャンペーンをやっていることがありますが、それはまさに「お宝定期預金」といえるでしょう。
定期預金との比較で言えば、銀行に預ける代わりに3年国債を買う、という資産管理法もあります。
いい塩梅を見つけよう
多くの人が投資家デビューする際の一助になっている「オルカン」は、すばらしい金融商品です。株式市場が急落しても心理的負担を感じずに、コツコツと積み立てを続けられるなら、オルカン一択でもよいかもしれません。
でも、これから長い投資人生を送るなら、債券のメリットを知っておくことは、より有効な手立てとなるはずです。ぜひ債券の特性を理解したうえで、自身の性格や投資スタイルに合った、リスクとリターンの塩梅を見つけてください。
[執筆者]
榊原佳子(さかきばら・よしこ)
ライター、個人投資家。名古屋大学大学院修了後、大手出版社とIT企業で編集者として勤務したのち、フリーランスに。社会人1年目から株式投資を始め、投資歴は10年以上。株を通して経済や国際などの時事・歴史に関心が広がり、さらに株の世界にのめり込む。
※当記事は「かぶまど」の提供記事です
<オルカン(全世界株式型投資信託)一択で安心している人もいるが、「株式市場に『すべて』を委ねる」リスクを理解しておいたほうがいい>
「オルカン(全世界株式型投資信託)はリスクが高い」と聞いて、「え!? 初心者向けのインデックスファンドじゃないの?」と驚く人もいるでしょう。そういう方は、「株式市場に『すべて』を委ねる」ということのリスクを理解しておいたほうがいいかもしれません。
そのリスクを軽減するために検討したいのが、ちょっと地味な金融商品「債券」です。生活にあまり馴染みがないためよく知らない方も多いかもしれませんが、実は債券は、初心者の心強い味方です。
「オルカン」が人気の理由
新NISAを活用した投資先として人気の「インデックスファンド」は、日経平均株価やS&P500などの指数(インデックス)に連動するよう設計された投資信託です。特定の企業の業績などによって株価が動く株式と違って、市場全体の成長に合わせてファンドの基準価格も上下します。
アベノミクス(2013〜2020年)の後半頃から、日本でも優良なインデックスファンドが増え、選択肢が広がりました。
以前は、株式と債券、REIT(不動産投資信託)などを組み合わせた複合型のインデックスファンドが主流だったように思いますが、近年は、「オルカン」とも呼ばれる全世界株式型が人気となり、多くの同様のインデックスファンドが誕生しています。
全世界株式型が人気を集める理由は、主に3つ考えられます。
■手数料が安い
最も大きな理由は、信託報酬などの手数料の低さです。人気のeMAXIS Slimシリーズがその代表例で、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」は「オルカン」の愛称で親しまれています。
他にも数多くのインデックスファンドが低コストを実現しています。低コストであることは、長期投資においては大きなリターンにもつながるため、投資信託を選ぶときの重要な基準として注目されます。
■初心者でも理解しやすい
次に、商品内容がわかりやすいという点も、全世界株式型が人気となった背景にあります。
投資対象は株式だけ、というようにファンドの設計が明解だからです。そのため、ニュースで日本やアメリカの株式市場の情報を見るだけで、自分が投資しているインデックスファンドの値動きを直感的に理解することもできます。
反対に、債券はあまり馴染みがなく、仕組みもわかりづらいこともあって、株式ほど注目されないように感じます。
(参考記事)新内閣で相場はどうなる? 上がっても下がってもプロが監視を続ける銘柄とは
■高いリターンを期待できる
全世界株式型インデックスファンドの魅力として、期待できるリターンの高さがあります。
債券などと比べると株式市場は成長性が高く、それゆえリターンも大きくなります。その分、当然リスクも大きいのですが、近年のインデックスファンドは優良なアクティブファンドにも劣らない高いリターンを出しています。
しかし、株式市場の急落に慣れていない初心者の方にとって、リスクの大きさは精神面で心配なポイントにもなるでしょう。
実は分散できていない、オルカンの落とし穴
全世界株式型のインデックスファンドは、その名のとおり、全世界の株式に投資する投資信託です。そのため、分散投資になる点も魅力のひとつだと捉えている人も多いかもしれません。ただ、実際には、文字どおりの「全世界」に分散されているわけではありません。
例えば、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」は米国株式が全体の62.3%を占めています。さらには銘柄も、情報技術やヘルスケア、金融といった業種に偏っています。
これらは現在の株式市場において主要な国・業種だからこそ選ばれているのですが、いずれにしても特定の国や業種に対する依存度が高めであることは確かです。そのため、これらの国・業種が景気後退期に入ると大きな影響を受ける可能性があります。
そんなときに役立つのが、債券です。債券をポートフォリオに組み入れることで、リスクを分散し、収益の安定化につなげることもできます。なぜなら、景気後退期に株式が下がる一方で、債券は値上がりすることがあるからです。
(参考記事)債券投資でリスクを分散させるコツ 株式との組み合わせはどうすればいい?
低リスクな金融商品、債券の魅力
債券は、政府・自治体や企業が資金調達のために発行する有価証券です。債券を購入した投資家は、利子という形で定期的な収益を受け取ることができるほか、株式と違って元金保証があるため、リスクが小さい金融商品です。
また、債券と株式は逆相関の関係にあるため、株価が下がる景気後退期には、債券が値上がりすることがあります。例えば、リーマンショックや新型コロナウイルスの影響による株式市場の急落時も、債券は比較的安定したパフォーマンスを示していました。
債券はリスクが小さいため、株式のように大きなリターンを期待できるものではありません。それゆえ債券投資は意味がないと考える投資家もいますが、長期投資においては、株式との相関性の低さ(逆相関であること)や、確実に得られる利子収入は大きな役目を果たしてくれるはずです。
■初心者におすすめは世界債券
債券には国債、社債、地方債などさまざまな種類があり、種類によって特性が異なります。例えば、日本国債は比較的安全な投資先とされており、低リスクで低リターンです。それに対して社債や地方債は、国債に比べるとリスクが高くなりますが、利子収益のリターンも高くなります。
例えば、全世界株式型に投資している初心者の方なら、それと同額を世界債券に投資するのもいいかもしれません。世界株式と世界債券を1:1で保有するのです。それぞれの投資信託を同額ずつ積み立ててもいいですし、世界株式と世界債券が組み入れられているインデックスファンドもあります。
株式市場が低迷している時期は、債券が値上がりすることがあります。また、債券から得られる利子収入は、そうした厳しい時期を支えてくれる貴重なインカムゲインです。株式のリスクを軽減しつつ、心の拠り所にもなる──債券は、長期投資を行う投資家にとって心強い味方なのです。
ちなみに、日本国債は低リスク低リターンですが、銀行の定期預金よりも低リスクにもかかわらず、利子(リターン)が高いことが多いです。銀行によっては、日本国債よりもリターンの大きい条件での定期預金キャンペーンをやっていることがありますが、それはまさに「お宝定期預金」といえるでしょう。
定期預金との比較で言えば、銀行に預ける代わりに3年国債を買う、という資産管理法もあります。
いい塩梅を見つけよう
多くの人が投資家デビューする際の一助になっている「オルカン」は、すばらしい金融商品です。株式市場が急落しても心理的負担を感じずに、コツコツと積み立てを続けられるなら、オルカン一択でもよいかもしれません。
でも、これから長い投資人生を送るなら、債券のメリットを知っておくことは、より有効な手立てとなるはずです。ぜひ債券の特性を理解したうえで、自身の性格や投資スタイルに合った、リスクとリターンの塩梅を見つけてください。
[執筆者]
榊原佳子(さかきばら・よしこ)
ライター、個人投資家。名古屋大学大学院修了後、大手出版社とIT企業で編集者として勤務したのち、フリーランスに。社会人1年目から株式投資を始め、投資歴は10年以上。株を通して経済や国際などの時事・歴史に関心が広がり、さらに株の世界にのめり込む。
※当記事は「かぶまど」の提供記事です