ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)
<日本では数カ月先の予定を立てることは普通だが、海外ではそうはいかないことも...。「時間は生き物」とジョージア大使が考える理由について>
仕事での面会や友人との食事などで、アポ(イントメント)を取ることは普通だ。しかし、それは「場所」に依存するのではないかと考えさせられることがあった。
ジョージアで夏休みを取った今年、日頃からお世話になっている日本人コンサルタントのHさんから「ジョージアを訪問するので、ぜひ会いましょう」という連絡が来た。もちろん大歓迎だった。
母国ジョージアで日本人の知り合いと会えることは貴重な体験であるため、そういったタイミングには現地で会うことを心がけている。
Hさんは早い時期からジョージアで会うための日程調整の連絡をくれた。しかし、私はすぐには明確な返事ができなかったため、「到着してから調整しましょう」と返信した。何しろ、ジョージアでの動きはコントロールが難しい。いつどんなことが起きるかが本当に分からないからだ。
しばらくするとHさんから「到着しました。今のところ〇日、〇日、〇日の夜が空いています」と律儀なLINEが来た。ところが連絡をもらえてうれしかったにもかかわらず、負担に感じてしまった。
会うことがおっくうとか、私が休暇中であるからといった理由ではない。自分でも不思議なことに、前もって日程を決めることに対して、どうも積極的にはなれなかったのだ。
これはアポの場所が日本ではなかったことに関係しているのではないかと思っている。日本にいると、数カ月先の予定を立ててアポを取ることは普通であり、しかもそれが便利だ。
しかし、ジョージアではそうではない。風土や気質のせいなのか、ジョージアではスケジュールはあってないようなものだ。ジョージアではアポを取ることが非常に難しく、予定どおりにならないという話は日本人からよく聞く。
そういった日本人の事情や気持ちをよく知る私は、Hさんと会う予定が立てられないままに時間ばかりが過ぎていくことに後ろめたい気持ちになりながら、「分かりました。予定が分かったら連絡します」とLINEで返信したのだった。
そんななか、在日ジョージア大使館での任期を終えてジョージアに帰国したばかりのガベチャワ元参事官(以下、ウチャ)から、「今、ジョージアに帰国しているらしいけど、よかったら家に遊びに来ないか」と、いかにもジョージア人らしい向こう数日といった、ざっくりとした連絡があった。
郊外にいたことも理由ではあったが、実はその時も日程を決めることに躊躇していた。しかし、その晩にちょうど予定が入っていなかったこと、何よりもウチャとHさんが顔見知りであったことから突然ひらめいて、「今夜はどうか」と2人にすぐに連絡を入れると、どちらからも快諾の返事が来た。
Hさんとのアポの件で胸のつかえが下りたのもあったが、何よりもウチャの素敵な豪邸で一堂に会して食事とワインを楽しんだことは、「突然」の演出も手伝ってか、私たち3人にとって忘れられない思い出となった。
日本では家族やよほど親しい友人でない限りは、アポを入れずに突然誘うこと、ましてや自宅ではない所に自分の友人を招くという提案は都合がよすぎるとか、失礼とされることもあるだろう。
しかし、「相手に迷惑をかけてはいけない」と考えすぎることで、素敵なチャンスを逃すのはもったいない。特に海外では、その土地のペースや考え方に合わせることも重要だ。
時間とは生き物であり、しかるべきタイミングを誰もが無意識に狙い定めようとしていると私は考える。だからこそ、予期せぬ形での素敵な巡り合わせが起こる「ジョージア式アポ」も時にはおススメしたい。よいご縁はアポなしにもあるのだから。
ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)
TEIMURAZ LEZHAVA
1988年、ジョージア生まれ。1992年初来日。早稲田大学卒業後にキッコーマン勤務を経て、ジョージア外務省入省。2021年より駐日ジョージア特命全権大使を務める。共著に『大使が語るジョージア』など。
日本離任前のガベチャワ参事官(大使のXより)
引越し作業が進む大使館の部屋から離任前のガベチャワ参事官が奏でます。 https://t.co/GYeafAAVTn pic.twitter.com/W5DbqnP447— ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使 (@TeimurazLezhava) July 26, 2024
<日本では数カ月先の予定を立てることは普通だが、海外ではそうはいかないことも...。「時間は生き物」とジョージア大使が考える理由について>
仕事での面会や友人との食事などで、アポ(イントメント)を取ることは普通だ。しかし、それは「場所」に依存するのではないかと考えさせられることがあった。
ジョージアで夏休みを取った今年、日頃からお世話になっている日本人コンサルタントのHさんから「ジョージアを訪問するので、ぜひ会いましょう」という連絡が来た。もちろん大歓迎だった。
母国ジョージアで日本人の知り合いと会えることは貴重な体験であるため、そういったタイミングには現地で会うことを心がけている。
Hさんは早い時期からジョージアで会うための日程調整の連絡をくれた。しかし、私はすぐには明確な返事ができなかったため、「到着してから調整しましょう」と返信した。何しろ、ジョージアでの動きはコントロールが難しい。いつどんなことが起きるかが本当に分からないからだ。
しばらくするとHさんから「到着しました。今のところ〇日、〇日、〇日の夜が空いています」と律儀なLINEが来た。ところが連絡をもらえてうれしかったにもかかわらず、負担に感じてしまった。
会うことがおっくうとか、私が休暇中であるからといった理由ではない。自分でも不思議なことに、前もって日程を決めることに対して、どうも積極的にはなれなかったのだ。
これはアポの場所が日本ではなかったことに関係しているのではないかと思っている。日本にいると、数カ月先の予定を立ててアポを取ることは普通であり、しかもそれが便利だ。
しかし、ジョージアではそうではない。風土や気質のせいなのか、ジョージアではスケジュールはあってないようなものだ。ジョージアではアポを取ることが非常に難しく、予定どおりにならないという話は日本人からよく聞く。
そういった日本人の事情や気持ちをよく知る私は、Hさんと会う予定が立てられないままに時間ばかりが過ぎていくことに後ろめたい気持ちになりながら、「分かりました。予定が分かったら連絡します」とLINEで返信したのだった。
そんななか、在日ジョージア大使館での任期を終えてジョージアに帰国したばかりのガベチャワ元参事官(以下、ウチャ)から、「今、ジョージアに帰国しているらしいけど、よかったら家に遊びに来ないか」と、いかにもジョージア人らしい向こう数日といった、ざっくりとした連絡があった。
郊外にいたことも理由ではあったが、実はその時も日程を決めることに躊躇していた。しかし、その晩にちょうど予定が入っていなかったこと、何よりもウチャとHさんが顔見知りであったことから突然ひらめいて、「今夜はどうか」と2人にすぐに連絡を入れると、どちらからも快諾の返事が来た。
Hさんとのアポの件で胸のつかえが下りたのもあったが、何よりもウチャの素敵な豪邸で一堂に会して食事とワインを楽しんだことは、「突然」の演出も手伝ってか、私たち3人にとって忘れられない思い出となった。
日本では家族やよほど親しい友人でない限りは、アポを入れずに突然誘うこと、ましてや自宅ではない所に自分の友人を招くという提案は都合がよすぎるとか、失礼とされることもあるだろう。
しかし、「相手に迷惑をかけてはいけない」と考えすぎることで、素敵なチャンスを逃すのはもったいない。特に海外では、その土地のペースや考え方に合わせることも重要だ。
時間とは生き物であり、しかるべきタイミングを誰もが無意識に狙い定めようとしていると私は考える。だからこそ、予期せぬ形での素敵な巡り合わせが起こる「ジョージア式アポ」も時にはおススメしたい。よいご縁はアポなしにもあるのだから。
ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)
TEIMURAZ LEZHAVA
1988年、ジョージア生まれ。1992年初来日。早稲田大学卒業後にキッコーマン勤務を経て、ジョージア外務省入省。2021年より駐日ジョージア特命全権大使を務める。共著に『大使が語るジョージア』など。
日本離任前のガベチャワ参事官(大使のXより)
引越し作業が進む大使館の部屋から離任前のガベチャワ参事官が奏でます。 https://t.co/GYeafAAVTn pic.twitter.com/W5DbqnP447— ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使 (@TeimurazLezhava) July 26, 2024