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誰でも受講できる授業「MOOC」... 日本の大学も海外学生を呼び込むチャンスだ

ニューズウィーク日本版 2024年10月11日 20時10分

トニー・ラズロ(ジャーナリスト、講師)
<世界の大学が力を入れ始めた開かれた授業「MOOC(大規模オンライン講座)」。日本の大学も海外の学生を誘致する好機と捉えるべきだ>

わが子の高校卒業を前に、大学進学について考えている。日本インターナショナルスクールに通ってきたので、英語で勉強ができる環境が望ましい。以前から英米の大学は世界中の学生から人気を集めているが、英語圏以外でも国外の学生の受け入れに熱心な国も増えてきた。

子供の将来計画を練る家族として、進路を決めるためにはカリキュラムの内容をはじめ、大学の評判や学費の検討は当然のことだが、できれば教授陣や施設の実際の雰囲気はつかんでおきたい。

そう考えながら調べていると、次のフレーズが耳をくすぐった。世界をリードする免疫学研究機関が大阪にあることをご存じか──。

これは大阪大学MOOC(Massive Open Online Course=大規模なオンライン講座)を紹介する動画の一幕だ。日本の一部の大学でも海外の学生を引き寄せるために英語で授業を受けられるコースを提供しており、大阪大学はその中でも先駆的な存在だ。

MOOCは2012年頃から、スタンフォード大学やハーバード大学などが無償でオンライン講座を世界中に提供したことで注目され始めた。ネット環境があれば、誰でもどこからでもアクセスでき、世界の教育機関の講義を視聴できる。その中には、受講者が50万人に上る人気講座もあり、新しい教育のし形として着実に定着している。

私が注目した大阪大学は「免疫学・研究の新展開」を学ぶ約5週間のMOOCを展開。人間の体が病原体をどのように認識し、免疫を作るのかという基礎を徹底的に解説していく。内容は専門的で複雑なはずだが、スライドをうまく活用しながら進むプレゼンテーションはとても分かりやすい。この講義の担当は、免疫学における世界トップレベルの教授だ。

進学を考えている大学でどういった授業を受けられるのかは事前に把握しづらいが、レベルの高い教授陣の授業を実際に受けられる機会があれば、MOOCのコース選びはもちろん、大学選びの際にも大いに役立つだろう。

名門、東京大学も負けていない。「ビッグバンからダークエネルギーまで」や「ゲーム理論へようこそ」はどちらもユニークな内容で、受講生の評価も高い。

その一方、授業というイメージからは少しずれるかもしれないが、「Studying at Japanese Universities(日本の大学への進学)」というプログラムは、日本で勉強したいと考えている海外の学生や帰国生から好評だ。

これは東京大学が駒場キャンパスで展開している「PEAK(Programsin English at Komaba =教養学部英語コース)」の一部。日本の大学に通う外国人留学生が実際に受けているプログラムの中身や勉強方法などをシェアしてくれる。

登場する学生の国籍がフランスやシンガポール、イランなどさまざまで、受講する学生の国籍もかなり多様性に富んでいるため、日本にいながら国際色豊かな環境で勉学に励める。彼らの生の声で先端技術に触れられる授業について知ることができるのもありがたい。

日本の大学もさまざまなMOOCを展開しているが、内容がちょっと残念に思うものも少なくない。名門大学のはずなのにMOOCは意外と迫力がないケースも見受けられる。

MOOC自体が無料で提供されている以上、質の高さを期待するのは贅沢すぎるかもしれない。ただし、各国の優秀な学生の争奪戦が起こっている昨今、日本の大学ももっと力を入れてもらいたい。東京大学と大阪大学を草分けに、日本の大学の魅力を世界に発信する手段として、英語で学べるMOOCをもっとアピールしてみてはどうだろうか。

トニー・ラズロ
TONY LÁSZLÓ
1960年、米ニュージャージー州生まれ。1985年から日本を拠点にジャーナリスト、講師として活動。コミックエッセー『ダーリンは外国人』(小栗左多里&トニー・ラズロ)の主人公。

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