トニー・ラズロ(ジャーナリスト、講師)
<安心安全な水がいつでも手に入る日本だが、世界ではそんな「当たり前」が存在しない国も。日本の高い技術力で世界の子供たちに救いの手を差し伸べよう>
昨年、東京の中心部から神奈川県のとある町に引っ越したのだが、荷ほどきをしながら飲み水をどうしようかと考えている。本来は、あまり悩むような話ではないだろう。
日本の水道水は飲んでも安全だと認められ、蛇口をひねれば、好きなだけ飲める。でも......。私は素直に水道水を選べない。
まずは個人的な理由から。最近知ったのだが、私が育った米ニュージャージー州にある町の水質は決して良いとは言えなかった。
当時は古い給水管が使われ、鉛が水道水にかなり含まれていたようだ。子供の頃、体に悪いものをずっと体に入れ摂取していたとすれば、今はもっと気を付けたい。たとえ、安全な日本でそうする必要がなくても。
水道水を飲まないもう1つの理由は、「郷に入っては郷に従え」という考えを重んじているからだ。私の周りの日本人で水道水をそのまま飲んでいる人はそう多くない。
沸かしてから使う人をはじめ、浄水器を設置したり、ボトルウオーターを消費したりする人もいる。彼らを見ていると、念のため、自分も何かの工夫をしたほうがいいような気になってくる。
工夫といえば最近、新しい給水オプションを見つけた。一部のスーパーが提供する無料の水だ。この多くは「RO水」と言われ、「reverse osmosis(逆浸透)」のフィルターによって浄化される。
このフィルターは塩分やバクテリア、鉛、カドミウム、水銀などを通さない。なかなか避けられない厄介なPFAS(有機フッ素化合物。永遠の化学物質= Forever Chemicals とも言われる)だって、この優れた逆浸透フィルターシステムが閉め出してくれる。多くの浄水器の水やボトルウオーターよりもピュアで、正真正銘の「純水」に近いと言える。
アメリカでもRO水は知られているが、これは大抵、硬水対策として、だ。土壌の影響で硫酸マグネシウムや炭酸カルシウムが水道水に多く含まれる地域での緊急措置としての意味合いが大きい。
一方の日本。うちの近所では専用ボトルを数百円で買えば、スーパーにある専用ウオーターサーバーを使っていつでも「純水」を無料でもらえる。
人気があるので、水をもらうのに10分ほど列に並ぶときもある。4リットルのボトルをスーパーから持って帰るのはやや不便だが、RO水が簡単かつほぼ無料で入手できるのはうれしい。
そうしたなかで昨年、気候変動問題に関する国際的な枠組みを決めたパリ協定が採択された日である12月12日を前に、世界の水問題が改めてクローズアップされた。
11月末から12月12日まで開催される国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、ユニセフが世界の飲み水不足問題を報告した。発表によれば、世界の子供の3人に1人(7億3900万人)が今、水不足が深刻な地域で暮らしているという。
中東、南アジア、北アフリカは特に厳しい環境下にあり、水へのアクセスは確保できても汚染や塩分の高い濃度などが理由で飲用には適さない場合も多い。「子供を政策の中心に置くように」というユニセフの訴えが忘れられない。
水の浄化には、さまざまな技術が確立されてきた。その中でも、逆浸透法はエネルギーとコストの効率が比較的良いこともあり、期待が高まっている。日本の得意分野と言える逆浸透法の技術を生かして、世界中で水不足に苦しんでいる子供たちにぜひ救いの手を差し伸べてほしいと思う。
気候変動に関する問題は多種多様で、国際貢献のアプローチも無数にある。そうしたなかでも、「子供たちの水問題」は早急に解決されるべき課題ではないだろうか。今こそ、子供を政策の中心に置こう。
トニー・ラズロ
TONY LÁSZLÓ
1960年、米ニュージャージー州生まれ。1985年から日本を拠点にジャーナリスト、講師として活動。コミックエッセー『ダーリンは外国人』(小栗左多里&トニー・ラズロ)の主人公。
<安心安全な水がいつでも手に入る日本だが、世界ではそんな「当たり前」が存在しない国も。日本の高い技術力で世界の子供たちに救いの手を差し伸べよう>
昨年、東京の中心部から神奈川県のとある町に引っ越したのだが、荷ほどきをしながら飲み水をどうしようかと考えている。本来は、あまり悩むような話ではないだろう。
日本の水道水は飲んでも安全だと認められ、蛇口をひねれば、好きなだけ飲める。でも......。私は素直に水道水を選べない。
まずは個人的な理由から。最近知ったのだが、私が育った米ニュージャージー州にある町の水質は決して良いとは言えなかった。
当時は古い給水管が使われ、鉛が水道水にかなり含まれていたようだ。子供の頃、体に悪いものをずっと体に入れ摂取していたとすれば、今はもっと気を付けたい。たとえ、安全な日本でそうする必要がなくても。
水道水を飲まないもう1つの理由は、「郷に入っては郷に従え」という考えを重んじているからだ。私の周りの日本人で水道水をそのまま飲んでいる人はそう多くない。
沸かしてから使う人をはじめ、浄水器を設置したり、ボトルウオーターを消費したりする人もいる。彼らを見ていると、念のため、自分も何かの工夫をしたほうがいいような気になってくる。
工夫といえば最近、新しい給水オプションを見つけた。一部のスーパーが提供する無料の水だ。この多くは「RO水」と言われ、「reverse osmosis(逆浸透)」のフィルターによって浄化される。
このフィルターは塩分やバクテリア、鉛、カドミウム、水銀などを通さない。なかなか避けられない厄介なPFAS(有機フッ素化合物。永遠の化学物質= Forever Chemicals とも言われる)だって、この優れた逆浸透フィルターシステムが閉め出してくれる。多くの浄水器の水やボトルウオーターよりもピュアで、正真正銘の「純水」に近いと言える。
アメリカでもRO水は知られているが、これは大抵、硬水対策として、だ。土壌の影響で硫酸マグネシウムや炭酸カルシウムが水道水に多く含まれる地域での緊急措置としての意味合いが大きい。
一方の日本。うちの近所では専用ボトルを数百円で買えば、スーパーにある専用ウオーターサーバーを使っていつでも「純水」を無料でもらえる。
人気があるので、水をもらうのに10分ほど列に並ぶときもある。4リットルのボトルをスーパーから持って帰るのはやや不便だが、RO水が簡単かつほぼ無料で入手できるのはうれしい。
そうしたなかで昨年、気候変動問題に関する国際的な枠組みを決めたパリ協定が採択された日である12月12日を前に、世界の水問題が改めてクローズアップされた。
11月末から12月12日まで開催される国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、ユニセフが世界の飲み水不足問題を報告した。発表によれば、世界の子供の3人に1人(7億3900万人)が今、水不足が深刻な地域で暮らしているという。
中東、南アジア、北アフリカは特に厳しい環境下にあり、水へのアクセスは確保できても汚染や塩分の高い濃度などが理由で飲用には適さない場合も多い。「子供を政策の中心に置くように」というユニセフの訴えが忘れられない。
水の浄化には、さまざまな技術が確立されてきた。その中でも、逆浸透法はエネルギーとコストの効率が比較的良いこともあり、期待が高まっている。日本の得意分野と言える逆浸透法の技術を生かして、世界中で水不足に苦しんでいる子供たちにぜひ救いの手を差し伸べてほしいと思う。
気候変動に関する問題は多種多様で、国際貢献のアプローチも無数にある。そうしたなかでも、「子供たちの水問題」は早急に解決されるべき課題ではないだろうか。今こそ、子供を政策の中心に置こう。
トニー・ラズロ
TONY LÁSZLÓ
1960年、米ニュージャージー州生まれ。1985年から日本を拠点にジャーナリスト、講師として活動。コミックエッセー『ダーリンは外国人』(小栗左多里&トニー・ラズロ)の主人公。