Infoseek 楽天

衝撃の暴露...トランプとプーチンの「黒い蜜月」・核戦争を回避したバイデン政権の裏側が明らかに

ニューズウィーク日本版 2024年10月17日 16時2分

マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)
<ボブ・ウッドワードの新著『戦争』には、11月の米大統領選の選挙結果を左右しかねない暴露話が多数収録されている──>

あまりに対照的な光景だ。そして、アメリカの政治システムが外交分野においてさえ機能不全に陥っている現状の表れでもある。

過去数年間、ジョー・バイデン米大統領がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と対峙していたのとほぼ同じ期間にわたって、前任のドナルド・トランプは秘密裏にプーチンと対話をし、アメリカのウクライナへの軍事支援に反対していた──ワシントン・ポスト紙の著名ジャーナリスト、ボブ・ウッドワードが新著『戦争』でそう明かしたのだ。

この本には衝撃的な暴露話が多数ある。

10月15日の発売日を前にフォーリン・ポリシー誌が入手した同書の中で、ウッドワードはトランプが大統領退任後にプーチンと最大7回電話で話したと書いた。

また今年のある時点では、フロリダ州の別荘マールアラーゴに滞在していたトランプが、ロシア指導者との「プライベートな電話」のために側近に部屋から出るよう命じたという。

それ以外の電話が、ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月24日より前だったのか後だったのか、詳細は不明だ。

それでも、今回の暴露はトランプがローガン法──米国民が連邦政府の許可なく外国の高官と通信したり、アメリカと対立する「外国政府の措置や行動に影響を与える」行為を禁じる法──に違反していたとの疑惑をかき立てる。

この疑惑は、トランプが17年1月の大統領就任以前から側近を通じてロシアと接触していたという指摘にも通じるものだ。

ウッドワード(写真)は新著『戦争』で、トランプとプーチンの関係やウクライナ侵攻へのバイデン政権の対応の内幕を読み解いた HORACIO VILLALOBOSーCORBIS/GETTY IMAGES

米大統領選の投票日まで1カ月を切るなか、この本はトランプとプーチンの関係、ビジネスや財政面でのトランプとロシアとのつながりをめぐる不穏な疑惑を再燃させている。

なかでも改めて注目されるのが、なぜトランプはやたらとプーチンを持ち上げるのかという謎だ。トランプは自分が大統領選に勝利すれば、ウクライナ戦争を交渉によって「24時間以内」に終結させると約束。ウクライナに対し、ロシアに国土を譲渡してNATO加盟を断念するよう迫るとほのめかしている(これはプーチンの要求の一部でもある)。

22年の侵攻開始のわずか2日前、トランプはプーチンの侵略を称賛するような行動に出た。右派のラジオ番組に出演し、プーチンによるウクライナ東部の独立承認を「天才的」と評したのだ。

側近も戸惑う蜜月ぶり

新著は「トランプがプーチンを批判しようとしないのは1回限りの出来事ではなく、一貫した性格的特徴だ」と指摘している。

ウッドワードによれば、トランプが大統領退任後もプーチンと電話しているという情報のソースは、トランプ側近の匿名の1人のみ。ただし現在もトランプの最側近であるジェーソン・ミラーもウッドワードの話を完全には否定せず、「異議を唱えたい」と答えたという。

さらに、トランプは本当に電話1本でウクライナ戦争を解決できるのかという質問に対し、ミラーはこう答えた。

「できると思う。彼は相手の弱点を知っていて、双方を動かせる要素を分かっている。(プーチンとウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に)それぞれ1本電話するだけで実現できるだろう」

ウッドワードの新著『戦争』 COURTESY OF SIMON & SCHUSTER

ウッドワードは、トランプ政権で国家情報長官を務めたダニエル・コーツが、トランプとプーチンの関係に長年困惑していたとも指摘している。コーツは、トランプは「プーチンに手を差し伸べ、決して彼を悪く言わない。私にとっては‥...恐ろしいことだ」と語っている。

一方、トランプ陣営の広報担当者スティーブン・チョンは、新著は嘘だらけの作り話だとしてウッドワードへの個人攻撃を展開。「彼は精神を病んだごろつきだ。頭の回転が遅く無気力で無能、全体的に個性のない退屈な人間だ」と述べた。

新著では、22年にバイデンが直面した「10月ミサイル危機」の恐ろしい詳細も記されている。ロシアの侵攻開始から半年ほどがたち、ウクライナの反転攻勢が始まった同年秋、バイデン政権の元に、プーチンが戦場での苦境に絶望を募らせているという危険な情報が届き始めた。

米情報機関は、ロシアが戦術核を使用する可能性を50%と判断したという(侵攻初期の5%およびその後の10%と比べると劇的な上昇だ)。

著書によれば、バイデンはジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)に、「あらゆるチャンネルを使ってロシアと連絡を取り、われわれがどう反応するかを伝えろ」と即座に指示した。

バイデンは「直接的な脅し文句ではない威圧的な言葉」を使うようチームに命じ、「ウクライナとの交渉のためではなく、米ロが大惨事を回避するためにチャンネルを開く必要がある」と語ったという。

ロシアの軍事パレードに登場した核ミサイル(今年5月) GETTY IMAGES

ロイド・オースティン米国防長官は22年10月21日の電話会談で、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相(当時)にこう警告した。

「われわれの指導者も、そちらの指導者も、核戦争には勝者は存在せず、絶対に手を出してはならないと繰り返し述べてきた。(核を使用すれば)双方にとって存続を脅かす対立の道に踏み出すことになる。滑りやすい坂道に足を踏み入れるな」

オースティンはまた、もし核兵器が使われたら「ウクライナにおけるわれわれの作戦行動を縛ってきた制限を全て見直すことになるだろう」と述べたという。「これによりロシアは、あなた方ロシア人には想像できないレベルで国際舞台で孤立することになるだろう」

これに対し、脅迫されるのは気に入らないとショイグが答えると、オースティンはこう返したという。「私は世界史上最も強力な軍隊の指導者だ。脅迫などするものか」

2日後、ショイグは電話をかけてきて、ウクライナ側に「汚い爆弾」を使う計画があるとの虚偽の主張をした。核兵器使用の口実にするために嘘を持ち出したというのがアメリカ側の見立てだ。

「あなたの言うことは信じられない」とオースティンは答えたとウッドワードは書いている。「そうした兆候は見つかっていないし、世界にもすぐに見抜かれるはずだ。やめておきなさい」。ショイグはこれに対し、「分かった」と答えたという。

プーチンは「ウクライナ危機など火急の問題を数日で解決してくれる」とトランプへの期待を口にする GETTY IMAGES

「オバマの対応は失敗だった」

ウッドワードによれば、当時、国防総省の幹部を務めていたコリン・カールは後になって、ウクライナ侵攻が始まって以降で22年秋がたぶん「最も背筋が凍る思いをした」時期だったと語ったという。

一方でこの時期、バイデンは世界の指導者として、1962年のキューバ・ミサイル危機でソ連に立ち向かったジョン・F・ケネディ大統領ばりの気概を見せたのかもしれない。かつて副大統領として仕えたバラク・オバマ元大統領についてバイデンが述べたという、批判的な発言は注目に値する。

ロシアは14年、ウクライナ東部の一部を「占領」するとともにクリミア半島をロシアに併合した。この時、オバマは比較的穏やかな対応を取ったが、それは大きな過ちだったとバイデンは言ったのだ。

「おかげでこんなことになってしまった。われわれの大失敗だ」とバイデンは述べたという。「バラクはプーチン(のやること)をまともに取り合おうとしなかった。プーチンにそのまま続けていいと許可を出してしまったんだ。で、私がそのいまいましい許可を取り消そうとしているわけだ!」

ウクライナ侵攻が始まって2年半というもの、バイデンは「対応が煮え切らない」とか、「ウクライナ防衛のための十分な武器をすぐに送らなかった」といった批判を浴びてきた。

確かにバイデンは、M1A1エイブラムズといった主力の戦車や精度の高い長距離砲、F16などのジェット戦闘機の供与には二の足を踏んだ(最終的には供与したが)。

そしてウクライナがハルキウ州で反攻を始めた後の22年10月、バイデンはアメリカ国民に対し、ロシアが核兵器を使用すれば「アルマゲドン(最終戦争)」に発展する可能性もあると警告を発した。

そんな事態は、核兵器が使われる「直接的な脅威」が存在したキューバ・ミサイル危機以来初めてだとも彼は述べた。

当時、核兵器の使用などプーチンのはったりではと考える人もいた。だがウッドワードが引用したアメリカの情報機関の分析は、侵攻前のプーチンの意図を驚くほど正確に見抜いていたのと同様に、この場合もまさに慧眼というべき内容だった。

実際、後になってプーチンは、何がロシアの戦術核使用のきっかけになり得るかを具体的に説明している。

プーチンは9月、ウクライナが西側から供与された長距離ミサイルでロシア領の奥深くまで攻撃するのを西側諸国が認めるなら、核兵器による反撃は正当化されるかもしれないと述べたのだ。

「10月ミサイル危機」の対応

ウクライナの抵抗ゆえに、ロシア側に何十万人もの犠牲が出ていることも、見方によっては大きな危険をはらんでいる。

本書には米統合参謀本部議長(当時)のマーク・ミリーとロシアのバレリー・ゲラシモフ参謀総長の会話が出てくるが、そこでゲラシモフは、ロシア側の核兵器使用の条件の1つとして「戦場において壊滅的な損害を受けた」場合を挙げている。それに対しミリーは「そんなことはあり得ない」と述べた。

一方で、そう遠くない未来にそうした事態が起こらないとは限らない。

「10月ミサイル危機」で──それもトランプとプーチンの関係に対する疑惑が拡大していくなかで──バイデンが取った行動の理由は、今となってはよく分かる。

政治家として台頭するなかで、トランプは繰り返し、自分とプーチンの間には、プーチンの言いなりにならなければならないような関係は存在しないと主張してきた。その一方で、トランプはプーチンへの批判を拒んでもきた。

ウッドワードは、9月にロシアで開催されたある経済会議でのこんなプーチンの言葉を取り上げている。「トランプ氏は、ウクライナ危機を含むあらゆる火急の問題を数日で解決すると述べている。喜ばしい話だと言うほかない」

ちなみに、トランプが大統領選に出馬するよりもっと前、彼の経営する企業が経営不振に陥った挙げ句、資金面でロシアや旧ソ連圏の国々への依存の度を深めていたことについては、本書以外でも調査や報道が何度もされている。

From Foreign Policy Magazine

この記事の関連ニュース