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イスラエルの大々的な戦線拡大のツケを払うのはウクライナ

ニューズウィーク日本版 2024年10月17日 17時8分

ブレンダン・コール
<エスカレートするイスラエルの戦争支援が膨らんで、ウクライナ支援は減らされる?>

米国防総省は、イスラエルに供与したTHAAD(高高度防衛ミサイル)をウクライナには供与する考えはないと表明した。アメリカは今、激しさを増す2つの戦争に対する武器支援をどう按配すべきか、という問題に頭を悩ませている。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2022年2月にウクライナへの本格侵攻を開始して以降、アメリカはウクライナへの軍事支援の最大の提供国であり続けているが、昨年10月に始まったイスラエルの戦争も拡大する一方で、コストが増大している。



イスラエルでは迎撃ミサイルが不足しているとされており、米国防総省は10月13日、米軍のTHAADを配備すると発表した。10月1日にイランがイスラエルに向けて180発以上の弾道ミサイルを発射したため、弾道ミサイルに対して手薄なイスラエルの防空能力を強化するのが目的だ。

米国防総省のサブリナ・シン報道官は15日、ウクライナにはTHAADを供与しない理由いついて「能力、戦争および地域の違い」だと説明した。



イランおよびその代理勢力との多正面戦争に入ったイスラエルを支援するために、アメリカはウクライナに対する軍事支援を減らすのではないかという懸念も浮上している。

英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、昨年12月まで米国防総省の中東担当副次官補だったデーナ・ストロウルは、アメリカが「ウクライナとイスラエルにこれまでと同じペースで支援を続けていくことは不可能だ。私たちは転換点を迎えている」との見方を示した。



米シンクタンク「責任ある外交に関するクインシー研究所」の上級研究員であるウィリアム・D・ハートゥングは、「中東の戦争がエスカレートし、ウクライナへの武器供与の必要性も増している。その上、国防総省は中国からの脅威に対処するために年1兆ドルの軍事予算を求めているが、それではアメリカの財政がパンクしてしまうだろう」と本誌に述べた。「連邦政府が今後10年間に支払う借金の利息は国防費を上回る見通しだ。災害支援も必要だ」

米ブラウン大学ワトソン国際関係研究所の「戦争のコスト」プロジェクトによれば、2023年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを襲撃して以降の1年間で、アメリカがイスラエル関連で費やした軍事費は226億ドルに達している。

さらに米海軍は、親イランのイエメンの反政府組織フーシ派からの攻撃に備えで防衛を強化し、フーシ派に対する攻撃も拡大させている。

米シンクタンク「外交問題評議会」によれば、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、米議会は武器供与や人道支援などのためのウクライナ支援関連法案を5つ可決しており、金額にすると計1750億ドルにのぼる。全額がウクライナ政府に支払われた訳ではなく、一部は供与兵器を製造した米企業や関連組織などに支払われた。



民主党の大統領候補カマラ・ハリス副大統領は、ウクライナへの軍事支援は11月の大統領選後も変わらないと言うが、共和党の大統領候補ドナルド・トランプ前大統領は支援継続には懐疑的だ。

「アメリカにはそれだけの資源がある。あるかないかの問題ではない。やる気の問題だ。そのやる気がなくなりかけている」と、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの国際ビジネス・戦略教授のマイケル・ウィットは言う。ウクライナか、イスラエルか、「このジレンマを解決するためにアメリカは、いずれ欧州諸国にもっと負担を増やすよう求めるのではないか」。



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