ブレンダン・コール
<ロシアの超国家主義者コミュニティーでは捕虜処刑の映像が称賛と共に拡散され、「戦争犯罪を正当化し称揚する文化的規範が強化されている」>
ロシア西部のクルスク州で戦争捕虜(POW)となった9人のウクライナ兵が、ロシア軍に処刑されたことが分かった。この残虐行為が示唆するのは、自国が始めた戦争が長期化するなか、ロシアが新たな戦術を採用し始めたことだ。
【動画】座らせ、あるいは伏せさせて...ウクライナ兵捕虜の処刑場面
ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年2月24日からつい最近まで、ロシア、ウクライナ双方とも捕虜を交渉カードとして利用してきた。今年9月にはそれぞれ103人、合計206人の捕虜が交換されるなど、大規模な捕虜交換も実施された。
ところが、戦争研究所(ISW)によると、最近ではロシア軍の指揮官らが捕虜の処刑を「容認、奨励、さらには直接的に命令」するようになり、ウクライナ兵捕虜が殺害される事例が増えているという。本誌はこの件についてロシア国防省にコメントを求めている。
戦争犯罪を扱うウクライナの検察当局のトップであるユーリ・ベロウソフは、ロシア軍によるウクライナ兵捕虜の処刑の80%が今年に入ってから行われたことを示す証拠があると述べている。
公開情報に基づくウクライナの調査分析プロジェクト「ディープ・ステート」の発表によれば、クルスク州のゼレニ・シュラフ村近くで、ウクライナ軍のドローン操縦士らが10月13日、ロシア軍に包囲され、銃撃を受けて投降した。
その模様を写した映像から、捕虜となった操縦士らは武装解除され、着衣をはぎとられ、整列させられて、射殺されたとみられる。これは明らかに、捕虜の待遇などを定めたジュネーブ条約に違反する重大な戦争犯罪だと、ウクライナの人権オンブズマンを務めるドミトロ・ルビネツは言う。
ウクライナ軍の元兵士で地政学アナリストのビクトル・コバレンコによると、ウクライナ軍が国境を越えてクルスク州に攻め込み、何百人ものロシア兵を捕虜にしたため、ロシア側は捕虜交換に「より柔軟」になり、ウクライナ側はより強気で交渉に臨める立場になっていたという。
「とはいえ、ウクライナ兵捕虜の処刑が増えた主な理由はそれでは説明がつかない」と、コバレンコは本誌に話した。「ロシアは、ウクライナ人を脅して、ウクライナ軍の動員を妨害しようとしているのだ」
ウクライナ議会は今年4月、兵員不足の解消を目指す「改正動員法案」を可決した。これにより、18歳から60歳までの男性は現住所や家族状況などの個人情報を軍に登録することが義務付けられ、避難先や転居先にも招集令状が来るなど、より徹底した動員が行われるようになった。
「残酷な処刑シーンが撮影され、ソーシャルメディアでその映像が拡散されているのは、これからウクライナ軍に招集される男性やその家族を脅して、徴兵を忌避させるためだ」と、コバレンコは指摘する。
ロシア軍はウクライナ南部の都市ヘルソンで、故意に民間人を狙ってドローン攻撃を行い、その模様を撮影した映像をソーシャルメディアに投稿するなど、最近では戦争犯罪を隠すどころか、むしろ誇らしげに公表するようになったと、フィンランドの調査分析集団「ブラックバード・グループ」の軍事アナリスト、エミール・カステヘルミは本誌に語った。
「こうした行為は、組織的に奨励されている可能性がある。あるいは、戦争が長引き、ただ単に規律が乱れているのかもしれないし、(激戦地で)捕虜を扱うのは面倒だから(処刑しているの)かもしれない」
しかも、ロシア兵は戦争犯罪を行なっても「訴追される心配はないと思っている」と、カステルヘルミは言う。「ロシアの世論も、おおむねこうした行為を非難しない。社会的にも法的にも容認されていて、戦争犯罪への敷居が低い」
メッセージアプリのテレグラムには、数十万から100万人を超えるフォロワー数を誇るロシア人軍事ブロガーのチャンネルがいくつもある。クレムリンとつながりがあるこうしたチャンネルは、いわばクレムリンのお墨付きを得た宣伝マシンの立場で、ウクライナ兵捕虜の処刑を正当化するばかりか、賞賛しているのだ。
ISWによれば、捕虜処刑を讃えることで、「より広範なロシアの超国家主義者コミュニティーでは、戦争犯罪を正当化し、賞賛する文化的規範が強化」されているという。
いずれにせよ、残虐行為は軍事的には何の役にも立たず、「ロシア軍の規律とプロ意識の欠如」を露呈するのみだと、ヨーロッパ外交評議会の上級政策研究員であるグスターブ・グレッセルは本誌に話した。「ロシア軍だけでなく、ロシア社会全体がこの戦争を通じて、正常な人間性を失い、過激化している」というのだ。
「ウクライナ兵は最後の弾丸を自分のために残し、より激しく戦うだろう」と、グレッセルは言う。「事実、第二次大戦中にナチス・ドイツが捕らえた共産党員は銃殺しろと命じると、ソ連兵はいかに絶望的な状況でも降伏しなくなった」
「ウクライナが2023年に実施した反転攻勢の最中も、一部のロシア兵は降伏を拒んだ」と、グレッセルは言う。
グレッセルによれば、ロシア兵が降伏を拒んだのは、クレムリンの洗脳により、ナチスに協力したステパン・バンデラを自国の英雄と仰ぐウクライナ人は残虐極まりないと思い込んでいたからだという。
ロシア軍に処刑されたウクライナ兵捕虜は10月14日時点で102人に上ると、ウクライナ検事総長室は発表した。
【動画】座らせ、あるいは伏せさせて...ウクライナ兵捕虜の処刑場面
<ロシアの超国家主義者コミュニティーでは捕虜処刑の映像が称賛と共に拡散され、「戦争犯罪を正当化し称揚する文化的規範が強化されている」>
ロシア西部のクルスク州で戦争捕虜(POW)となった9人のウクライナ兵が、ロシア軍に処刑されたことが分かった。この残虐行為が示唆するのは、自国が始めた戦争が長期化するなか、ロシアが新たな戦術を採用し始めたことだ。
【動画】座らせ、あるいは伏せさせて...ウクライナ兵捕虜の処刑場面
ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年2月24日からつい最近まで、ロシア、ウクライナ双方とも捕虜を交渉カードとして利用してきた。今年9月にはそれぞれ103人、合計206人の捕虜が交換されるなど、大規模な捕虜交換も実施された。
ところが、戦争研究所(ISW)によると、最近ではロシア軍の指揮官らが捕虜の処刑を「容認、奨励、さらには直接的に命令」するようになり、ウクライナ兵捕虜が殺害される事例が増えているという。本誌はこの件についてロシア国防省にコメントを求めている。
戦争犯罪を扱うウクライナの検察当局のトップであるユーリ・ベロウソフは、ロシア軍によるウクライナ兵捕虜の処刑の80%が今年に入ってから行われたことを示す証拠があると述べている。
公開情報に基づくウクライナの調査分析プロジェクト「ディープ・ステート」の発表によれば、クルスク州のゼレニ・シュラフ村近くで、ウクライナ軍のドローン操縦士らが10月13日、ロシア軍に包囲され、銃撃を受けて投降した。
その模様を写した映像から、捕虜となった操縦士らは武装解除され、着衣をはぎとられ、整列させられて、射殺されたとみられる。これは明らかに、捕虜の待遇などを定めたジュネーブ条約に違反する重大な戦争犯罪だと、ウクライナの人権オンブズマンを務めるドミトロ・ルビネツは言う。
ウクライナ軍の元兵士で地政学アナリストのビクトル・コバレンコによると、ウクライナ軍が国境を越えてクルスク州に攻め込み、何百人ものロシア兵を捕虜にしたため、ロシア側は捕虜交換に「より柔軟」になり、ウクライナ側はより強気で交渉に臨める立場になっていたという。
「とはいえ、ウクライナ兵捕虜の処刑が増えた主な理由はそれでは説明がつかない」と、コバレンコは本誌に話した。「ロシアは、ウクライナ人を脅して、ウクライナ軍の動員を妨害しようとしているのだ」
ウクライナ議会は今年4月、兵員不足の解消を目指す「改正動員法案」を可決した。これにより、18歳から60歳までの男性は現住所や家族状況などの個人情報を軍に登録することが義務付けられ、避難先や転居先にも招集令状が来るなど、より徹底した動員が行われるようになった。
「残酷な処刑シーンが撮影され、ソーシャルメディアでその映像が拡散されているのは、これからウクライナ軍に招集される男性やその家族を脅して、徴兵を忌避させるためだ」と、コバレンコは指摘する。
ロシア軍はウクライナ南部の都市ヘルソンで、故意に民間人を狙ってドローン攻撃を行い、その模様を撮影した映像をソーシャルメディアに投稿するなど、最近では戦争犯罪を隠すどころか、むしろ誇らしげに公表するようになったと、フィンランドの調査分析集団「ブラックバード・グループ」の軍事アナリスト、エミール・カステヘルミは本誌に語った。
「こうした行為は、組織的に奨励されている可能性がある。あるいは、戦争が長引き、ただ単に規律が乱れているのかもしれないし、(激戦地で)捕虜を扱うのは面倒だから(処刑しているの)かもしれない」
しかも、ロシア兵は戦争犯罪を行なっても「訴追される心配はないと思っている」と、カステルヘルミは言う。「ロシアの世論も、おおむねこうした行為を非難しない。社会的にも法的にも容認されていて、戦争犯罪への敷居が低い」
メッセージアプリのテレグラムには、数十万から100万人を超えるフォロワー数を誇るロシア人軍事ブロガーのチャンネルがいくつもある。クレムリンとつながりがあるこうしたチャンネルは、いわばクレムリンのお墨付きを得た宣伝マシンの立場で、ウクライナ兵捕虜の処刑を正当化するばかりか、賞賛しているのだ。
ISWによれば、捕虜処刑を讃えることで、「より広範なロシアの超国家主義者コミュニティーでは、戦争犯罪を正当化し、賞賛する文化的規範が強化」されているという。
いずれにせよ、残虐行為は軍事的には何の役にも立たず、「ロシア軍の規律とプロ意識の欠如」を露呈するのみだと、ヨーロッパ外交評議会の上級政策研究員であるグスターブ・グレッセルは本誌に話した。「ロシア軍だけでなく、ロシア社会全体がこの戦争を通じて、正常な人間性を失い、過激化している」というのだ。
「ウクライナ兵は最後の弾丸を自分のために残し、より激しく戦うだろう」と、グレッセルは言う。「事実、第二次大戦中にナチス・ドイツが捕らえた共産党員は銃殺しろと命じると、ソ連兵はいかに絶望的な状況でも降伏しなくなった」
「ウクライナが2023年に実施した反転攻勢の最中も、一部のロシア兵は降伏を拒んだ」と、グレッセルは言う。
グレッセルによれば、ロシア兵が降伏を拒んだのは、クレムリンの洗脳により、ナチスに協力したステパン・バンデラを自国の英雄と仰ぐウクライナ人は残虐極まりないと思い込んでいたからだという。
ロシア軍に処刑されたウクライナ兵捕虜は10月14日時点で102人に上ると、ウクライナ検事総長室は発表した。
【動画】座らせ、あるいは伏せさせて...ウクライナ兵捕虜の処刑場面