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韓国の拉致被害者家族、北への宣伝ビラ10万枚散布強行へ 緊張高まる非武装地帯近隣の住民は猛反発

ニューズウィーク日本版 2024年10月25日 18時15分

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<ビラには日本人拉致被害者の横田めぐみさんの写真も──>

北朝鮮が韓国との南北連結道路を爆破し、連日のように韓国側へゴミなどを入れた風船を飛ばすなか、韓国では北朝鮮拉致被害者の団体が、北朝鮮の体制批判の宣伝ビラを小型ドローンで配布することを発表し記者会見を開いた。これに対して、北朝鮮との非武装地帯に接する坡州(パジュ)地域の市民団体などが断固阻止すると声明を出しており、自治体も巻き込んで対立が高まっている。韓国メディアYTN、ハンギョレ、OBS、江原道日報などが報じた。

朝鮮戦争後に拉致された人たち516人が今も北に......

韓国から北朝鮮に向けて金正恩体制を批判するビラを送る活動は脱北者団体が盛んに行っているが、今回ビラ散布を計画しているのは韓国内の拉致被害者家族の団体だ。韓国では朝鮮戦争当時に拉致された戦時拉致被害者が10万人以上、1953年の休戦協定締結後に拉致された「戦後拉致」で3800人が連れ去られたとされ、戦後拉致された人たちの516人が今もなお帰国できないままだという。

拉致被害者家族の団体は24日午後、水原(スウォン)市の京畿道(キョンギド)庁前で記者会見を開き、来週北朝鮮向け宣伝ビラを公開散布すると明らかにした。崔成龍(チェ·ソンリョン)代表は、「拉致被害者問題を知らせる機会はもうないと考えて、北朝鮮向けビラ10万枚を坡州市から飛ばす。(散布が)2回であれ3回であれ、いかなる方法を使ってでも平壌市内に落ちるようにする」と明らかにした。

散布するビラには日本人の横田めぐみさんの写真も

また「必ずしも風船でなくてもビラを送る方法は多い。北朝鮮が離散家族などの問題について対話し、韓国へゴミ風船を送る行為などを中断せよという趣旨だ」と話した。

散布予定のビラには拉致被害者の写真と説明文が書かれており、チェ代表の父親などの韓国人拉致被害者6名に加えて、日本人の拉致被害者、横田めぐみさんも掲載された。

チェ代表は「色々な状況などを考慮して来週中には公開散布をする。ビラには1ドル紙幣だけを入れる予定であり、USBなど他の物は入れない予定だ」と話した。

また、北朝鮮へのビラ散布が南北関係にかえって緊張感を与えるという指摘に対しては、「北朝鮮に拉致被害者や離散家族の再会などの対話を要求し、韓国に向けての宣伝放送やごみ風船散布を止めるよう要求するのが先だ」とし、「私たちにだけしきりに中断しろと言うのは本末転倒だ」と反論した。

そして、宣伝ビラ配布について「具体的な公開散布時間と場所はまもなく公示する」と話した。

非武装地帯に接する住民の苦しみ

軍事境界線の観光ツアー申込者にツアー当日に届いたという中止の案内メール JTBC News / YouTube

今回、拉致被害者家族の団体が宣伝ビラの散布を行うと発表した坡州市は韓国北西部に位置し、非武装地帯を隔てて北朝鮮と向き合っている。そのため、南北関係の緊張が高まると住民たちはその影響を受けざるを得ない。実際、北朝鮮からのゴミ風船が飛んでくるほか、9月下旬からは北朝鮮が拡声器で動物の鳴き声や金属を引っ掻くような騒音を爆音で流しだし、生活に大きな支障を及ぼしているという。

住民の高齢者は「睡眠薬と鎮静剤を飲んでも無駄だ。耳栓をすると耳がただれて炎症が起きた。政府関係者はここに来て一晩だけでも過ごしてみるべきだ。とても苦しい。どうか助けてほしい」と涙を流した。また別の住民は「以前の拡声器放送は人の声だったが、今度のは騒音で拷問し、精神病になりかねないほどだ」と訴えた。

さらに、北朝鮮からの軍事行動に備えるため韓国軍の警備も強化されたため、大通りには装甲車が配置され、農作業をしていても兵士から追い出されることもあるという。また、平時であれば政府の許可を得た観光客のツアーも行われていたが、それらも突然中止になってしまい、宿泊業者も含めて、地域経済に影を与えつつある。

トラクターでビラ散布を阻止!

そうしたなかでの拉致被害者家族による北朝鮮向けのビラ配布発表には、市民だけではなく地元の自治体も猛反発している。

坡州の市民団体、政党、住民などは「北朝鮮へのビラ散布をきっかけに南北対決が深まり、ゴミ風船や拡声器放送につながって、今では軍事的に対峙する状況にまでいたった。北朝鮮へのビラ散布を止めなければならない」と声明を発表。

とりわけ、非武装地帯に接して民間人出入が統制された区域にある3つの村の住民たちは、ビラ散布を実力阻止することを決定した。
「住民たちはトラクター20台余りを運転し、対北朝鮮ビラ散布行為を阻止することにした」(イ・ワンベ統一村村長)。

地元自治体の京畿道と坡州市もビラ散布を阻止するために動き出した。道は坡州市、金浦市、漣川郡の3市·郡を「危険区域」に設定し、対北朝鮮ビラ散布を禁止する措置を打ち出した。ビラ散布目的で関係者が危険区域に出入りしたり、その他の禁止命令または制限命令に違反した場合、1年以下の懲役または1000万ウォン以下の罰金刑に処するという。

朝鮮戦争から70年余が過ぎた今、分断の影響は南北だけに留まらず、韓国国内にも大きな亀裂を作っているようだ。

【動画】韓国の拉致被害者家族が作成したビラを見る

韓国の拉致被害者家族の団体は北朝鮮向けのビラ配布を強行すると記者会見で語った。 OBS뉴스 / YouTube

【動画】ゴミ風船に騒音まで──北朝鮮からの挑発に苦しむ坡州の住民たち

北朝鮮からのゴミ風船や拡声器による騒音に苦しめられている非武装地帯付近の坡州市の住民たちは、拉致被害者家族のビラ散布に猛反対する□ JTBC News / YouTube



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