プチ鹿島
<総選挙での敗北を受け去就が注目される石破首相。実は2018年自民党総裁選時からその動きは予想できたと、新聞15紙を読み比べる時事芸人のプチ鹿島さんは指摘します>
石破茂首相が誕生してから新聞に躍る見出しは次のようなものだ。
「『石破カラー』封印 短期決戦 岸田路線を継承」(毎日新聞10月5日)
「石破カラー控えめ」(読売新聞10月11日)
前者は所信表明演説、後者は自民党が発表した衆院選の公約発表を受けてのものだ。「カラー控えめ」というと優しい書き方だが要は首相になってからブレたのである。
政策以外でも、いわゆる裏金議員への対応でも石破首相はブレにブレた。最終的に選挙で一部を非公認としたが、誕生と同時に新総裁が自民党内に取り込まれた経緯は誰がトップになってもこの党は変わらないのでは?とも思えた。
一方で石破氏個人のキャラについても書いておきたい。最初は威勢がいいがすぐにシュンとなるのは石破氏の伝統芸なのだ。
印象深いのは2018年の自民党総裁選だ。当時の安倍晋三首相との一騎打ちで、石破氏は「正直で公正、謙虚で丁寧な政治をつくる」と主張。森友・加計問題を念頭に安倍氏を批判したと報道された。しかし党内から「個人攻撃だ」と言われ、石破氏はそのフレーズを封印したのだ。
「正直・公正」をキャッチフレーズにすると怒られる状況ってすごかったなぁと思い出していたら興味深いことが国会であった。10月の松山政司・参議院幹事長の代表質問である。
松山氏は石破氏が選ばれた総裁選は「わが党の伝統である自由闊達さと、公正公平さにあふれて」いたと自賛。その上で「今月26日が命日となる参議院自民党幹事長であった吉田博美先生」の名を出した。吉田氏は日頃から誰にも公平で常に全員野球をモットーにしていたと振り返る。
私は松山氏の言葉を聞いて吉田氏の名を思い出した。先述の18年総裁選で大活躍していたからだ。石破氏が「正直・公正」を掲げたとき、クレームを入れたのが彼だったのだ。
18年8月24日の毎日新聞には石破氏の件(くだん)の発言に対し、参院竹下派を仕切る吉田氏は「個人的なことで攻撃することには非常に嫌悪感を感じている」と「苦言を呈した」とある。
当時の吉田氏は安倍氏とかなり近かったが、総裁選では石破氏支持だった。吉田氏の師匠、青木幹雄氏の意向をくみ、参院竹下派は石破氏支持だったからだ。吉田氏はいわば板挟み状態だった。
18年8月の産経新聞には安倍氏からの電話に吉田氏が「石破氏には『反安倍を掲げて総裁選をやるなら支持できない』と言ってやるつもり」と答えたとある。
ああ、人間関係がややこしい。総裁選なのに政策の話が出てこないのもすごい。このあと吉田氏は当時高校野球で話題だった金足農業高校を引き合いに「金足農業の精神で行きましょう」と石破氏に持ちかけた。「ひたむきさが心を動かす」という意味らしい。松山氏の代表質問での吉田氏の「全員野球」を想起する。
しかし文脈的に全員野球とは「異論は許さない」という意味にも取れ、当時の安倍一強のえげつなさが分かる。
さて国会で吉田氏の名を挙げられた石破首相。余計なことはするなという党内の声を勝手に行間から感じるが、これからどうなるのか。
※この記事は本誌10月29日号(10月22日発売)に掲載されたものです。イラストは編集部の新しい試みとして画像生成AI「Stable Diffusion」で作成されています。
<総選挙での敗北を受け去就が注目される石破首相。実は2018年自民党総裁選時からその動きは予想できたと、新聞15紙を読み比べる時事芸人のプチ鹿島さんは指摘します>
石破茂首相が誕生してから新聞に躍る見出しは次のようなものだ。
「『石破カラー』封印 短期決戦 岸田路線を継承」(毎日新聞10月5日)
「石破カラー控えめ」(読売新聞10月11日)
前者は所信表明演説、後者は自民党が発表した衆院選の公約発表を受けてのものだ。「カラー控えめ」というと優しい書き方だが要は首相になってからブレたのである。
政策以外でも、いわゆる裏金議員への対応でも石破首相はブレにブレた。最終的に選挙で一部を非公認としたが、誕生と同時に新総裁が自民党内に取り込まれた経緯は誰がトップになってもこの党は変わらないのでは?とも思えた。
一方で石破氏個人のキャラについても書いておきたい。最初は威勢がいいがすぐにシュンとなるのは石破氏の伝統芸なのだ。
印象深いのは2018年の自民党総裁選だ。当時の安倍晋三首相との一騎打ちで、石破氏は「正直で公正、謙虚で丁寧な政治をつくる」と主張。森友・加計問題を念頭に安倍氏を批判したと報道された。しかし党内から「個人攻撃だ」と言われ、石破氏はそのフレーズを封印したのだ。
「正直・公正」をキャッチフレーズにすると怒られる状況ってすごかったなぁと思い出していたら興味深いことが国会であった。10月の松山政司・参議院幹事長の代表質問である。
松山氏は石破氏が選ばれた総裁選は「わが党の伝統である自由闊達さと、公正公平さにあふれて」いたと自賛。その上で「今月26日が命日となる参議院自民党幹事長であった吉田博美先生」の名を出した。吉田氏は日頃から誰にも公平で常に全員野球をモットーにしていたと振り返る。
私は松山氏の言葉を聞いて吉田氏の名を思い出した。先述の18年総裁選で大活躍していたからだ。石破氏が「正直・公正」を掲げたとき、クレームを入れたのが彼だったのだ。
18年8月24日の毎日新聞には石破氏の件(くだん)の発言に対し、参院竹下派を仕切る吉田氏は「個人的なことで攻撃することには非常に嫌悪感を感じている」と「苦言を呈した」とある。
当時の吉田氏は安倍氏とかなり近かったが、総裁選では石破氏支持だった。吉田氏の師匠、青木幹雄氏の意向をくみ、参院竹下派は石破氏支持だったからだ。吉田氏はいわば板挟み状態だった。
18年8月の産経新聞には安倍氏からの電話に吉田氏が「石破氏には『反安倍を掲げて総裁選をやるなら支持できない』と言ってやるつもり」と答えたとある。
ああ、人間関係がややこしい。総裁選なのに政策の話が出てこないのもすごい。このあと吉田氏は当時高校野球で話題だった金足農業高校を引き合いに「金足農業の精神で行きましょう」と石破氏に持ちかけた。「ひたむきさが心を動かす」という意味らしい。松山氏の代表質問での吉田氏の「全員野球」を想起する。
しかし文脈的に全員野球とは「異論は許さない」という意味にも取れ、当時の安倍一強のえげつなさが分かる。
さて国会で吉田氏の名を挙げられた石破首相。余計なことはするなという党内の声を勝手に行間から感じるが、これからどうなるのか。
※この記事は本誌10月29日号(10月22日発売)に掲載されたものです。イラストは編集部の新しい試みとして画像生成AI「Stable Diffusion」で作成されています。