木村正人
<ロシアでBRICS首脳会議が開かれ、プーチン大統領が中国、インドなど36カ国の首脳もてなした。西側諸国はBRICSを脅威と単純に見なすべきではない>
[ロンドン発]国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10月22日、3日間の日程でロシア南西部の都市カザンで始まったBRICS(新興国)首脳会議で中国、インド、イランを含む36カ国の首脳をもてなした。
プーチンは早速、中国の習近平国家主席と会談し「この75年間に露中関係は包括的パートナーシップと戦略的協力のレベルに達した。現代世界における国家間関係のあるべき姿のパラダイムになったと自信を持って断言できる。1~8月の二国間貿易は4.5%増加した」と胸を張った。
習主席も「400年前、お茶を運ぶ両国間の道もこのカザンを通っていた。われわれは非同盟、非対立、不干渉という大原則の下、大国関係を構築する正しい道を歩んできた。両国はあらゆる分野における多面的な戦略的交流と実務協力を絶えず強化・拡大する」と応じた。
米国の経済制裁の威力を減じるのが狙い
プーチンはインドのナレンドラ・モディ首相とも会談し「ロシアとインドの関係は特別な特権的戦略的パートナーシップを特徴としており、発展を続けている。貿易も順調だ。大型プロジェクトも一貫して進展している」と歓迎した。
モディ首相は「われわれはロシアとウクライナの紛争に関し定期的に連絡を取り合っている。問題は平和的手段によって解決されなければならない。一刻も早い平和と安定の確立を全面的に支持する。人道を優先し今後も可能な限りの支援を提供する」と釘を刺すのを忘れなかった。
ドル取引を減らし、西側の経済制裁の威力を減じるのがサミットの狙いだ。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は昨年と同様、サミットに出席、ウクライナや西側諸国を怒らせた。グテーレス事務総長は、ウクライナ侵攻は国連憲章違反とのお題目を繰り返すのが精一杯だった。
大戦で敗れた「枢軸国」とプーチンの違い
BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国から、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、イランを含むより広範なグループに拡大している。トルコやサウジアラビアも新規加盟を目指す。
第二次世界大戦で敗れた「枢軸国」日本、ドイツ、イタリアとプーチンの違いは石油・ガスなど天然資源のあるなしだ。原油価格が1バレル=10~20ドルに暴落しない限り、プーチンは安泰だ。ウクライナ戦争を継続できるし、国際社会で孤立することはない。
世界は今、ウクライナを軍事支援する西側50カ国以上と、ロシアを積極的に支援するベラルーシ、シリア、イラン、北朝鮮、中国。そしてインドや南アフリカ、ブラジル、トルコ、サウジアラビアなどの「第三勢力」に三分する。
BRICSの行方が世界の未来を決める
ケガのため今回のサミットを欠席したブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は「誰に対しても敵対するものではない」とBRICSが反米ブロックになるのを防ぐよう努める。
シンクタンク、カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンダー・ガブエフ所長は米誌フォーリン・アフェアーズ(9月24日付)に「BRICSの将来が世界秩序を形作る」と題して寄稿している。
BRICSは世界経済の35.6%、人口の45%を占め、G7(主要7カ国)のそれを上回る。西側が国際秩序を形作る力を失いつつある中、BRICSは西側以外の国が自律性を強化するための選択肢の一つになっている。
BRICSの中では、米国主導の世界秩序に挑戦する中国やロシアと、既存秩序を民主化・改革したいブラジルやインドの間で大きな意見の違いがある。
ロシアは経済制裁を避けるためBRICSを使ってドルに依存しない決済システムを構築しようとしている。これに対し、ブラジルとインドは西側との関係を断ち切ることなく、BRICSを利用して多極的な世界の中で中立的な立場を取ろうとしている。
西側にとって重要なのはBRICSを脅威と単純に見なすのではなく、その背景にある不満を理解し、「第三勢力」取り込みのため、より柔軟な外交を展開することだとガブエフ所長は指摘している。
<ロシアでBRICS首脳会議が開かれ、プーチン大統領が中国、インドなど36カ国の首脳もてなした。西側諸国はBRICSを脅威と単純に見なすべきではない>
[ロンドン発]国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10月22日、3日間の日程でロシア南西部の都市カザンで始まったBRICS(新興国)首脳会議で中国、インド、イランを含む36カ国の首脳をもてなした。
プーチンは早速、中国の習近平国家主席と会談し「この75年間に露中関係は包括的パートナーシップと戦略的協力のレベルに達した。現代世界における国家間関係のあるべき姿のパラダイムになったと自信を持って断言できる。1~8月の二国間貿易は4.5%増加した」と胸を張った。
習主席も「400年前、お茶を運ぶ両国間の道もこのカザンを通っていた。われわれは非同盟、非対立、不干渉という大原則の下、大国関係を構築する正しい道を歩んできた。両国はあらゆる分野における多面的な戦略的交流と実務協力を絶えず強化・拡大する」と応じた。
米国の経済制裁の威力を減じるのが狙い
プーチンはインドのナレンドラ・モディ首相とも会談し「ロシアとインドの関係は特別な特権的戦略的パートナーシップを特徴としており、発展を続けている。貿易も順調だ。大型プロジェクトも一貫して進展している」と歓迎した。
モディ首相は「われわれはロシアとウクライナの紛争に関し定期的に連絡を取り合っている。問題は平和的手段によって解決されなければならない。一刻も早い平和と安定の確立を全面的に支持する。人道を優先し今後も可能な限りの支援を提供する」と釘を刺すのを忘れなかった。
ドル取引を減らし、西側の経済制裁の威力を減じるのがサミットの狙いだ。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は昨年と同様、サミットに出席、ウクライナや西側諸国を怒らせた。グテーレス事務総長は、ウクライナ侵攻は国連憲章違反とのお題目を繰り返すのが精一杯だった。
大戦で敗れた「枢軸国」とプーチンの違い
BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国から、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、イランを含むより広範なグループに拡大している。トルコやサウジアラビアも新規加盟を目指す。
第二次世界大戦で敗れた「枢軸国」日本、ドイツ、イタリアとプーチンの違いは石油・ガスなど天然資源のあるなしだ。原油価格が1バレル=10~20ドルに暴落しない限り、プーチンは安泰だ。ウクライナ戦争を継続できるし、国際社会で孤立することはない。
世界は今、ウクライナを軍事支援する西側50カ国以上と、ロシアを積極的に支援するベラルーシ、シリア、イラン、北朝鮮、中国。そしてインドや南アフリカ、ブラジル、トルコ、サウジアラビアなどの「第三勢力」に三分する。
BRICSの行方が世界の未来を決める
ケガのため今回のサミットを欠席したブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は「誰に対しても敵対するものではない」とBRICSが反米ブロックになるのを防ぐよう努める。
シンクタンク、カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンダー・ガブエフ所長は米誌フォーリン・アフェアーズ(9月24日付)に「BRICSの将来が世界秩序を形作る」と題して寄稿している。
BRICSは世界経済の35.6%、人口の45%を占め、G7(主要7カ国)のそれを上回る。西側が国際秩序を形作る力を失いつつある中、BRICSは西側以外の国が自律性を強化するための選択肢の一つになっている。
BRICSの中では、米国主導の世界秩序に挑戦する中国やロシアと、既存秩序を民主化・改革したいブラジルやインドの間で大きな意見の違いがある。
ロシアは経済制裁を避けるためBRICSを使ってドルに依存しない決済システムを構築しようとしている。これに対し、ブラジルとインドは西側との関係を断ち切ることなく、BRICSを利用して多極的な世界の中で中立的な立場を取ろうとしている。
西側にとって重要なのはBRICSを脅威と単純に見なすのではなく、その背景にある不満を理解し、「第三勢力」取り込みのため、より柔軟な外交を展開することだとガブエフ所長は指摘している。