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「理性的で賢く堅実だ」石破首相、 独自路線の「安全保障政策」を米国務省の元日本部長はどう見たか

ニューズウィーク日本版 2024年10月23日 19時3分

山田敏弘(国際ジャーナリスト)
<「アジア版NATO」創設に、日米地位協定の改定......石破新首相の「安全保障政策」の評価と課題を、アメリカ国務省の元日本部長ケビン・メアに聞く>

自民党総裁選で勝利した石破茂が総理大臣に就任した。政治の信頼回復を目指しつつ、経済では物価高対策やデフレ完全脱却に向けて岸田文雄前首相の政策を継承しそうだが、安全保障では日米地位協定の改定や「アジア版NATO」創設など、岸田より独自の踏み込んだ発言で日本の専門家から批判されてもいる。

「アジア版NATO」はアメリカから見て本当にあり得ないのか。石破を古くから知る米国務省の元日本部長ケビン・メアに、ジャーナリストの山田敏弘が聞いた。

◇ ◇ ◇

──石破首相が誕生した。率直にどんな感想を持ったか?

私は13年前に米国務省を退職したが、在日アメリカ大使館で勤務している際は政治や軍事の局長を、その後は日本部長を務めた。石破は自民党内で国家安全保障の専門家のような存在と捉えられており、私は彼と多く議論した。

石破は理性的で非常に賢く、堅実な政策を取ってきた。私は政権について非常に楽観的だ。日米同盟と安全保障政策を大変よく理解しているからだ。

日本のここ数年の方向からそれず、安倍晋三元首相が2012年12月からの第2次政権で行ってきた多くの改革と安全保障政策を継続すると思う。当時、石破は自民党の幹事長だったが、集団的自衛権の行使など基本的な安全保障政策の議論を積極的に行いそれが新しい国家安全保障戦略になったのを覚えている。

メアは自衛隊が台湾防衛に作戦上の貢献をするよう期待したいとも語った ISSEI KATOーREUTERS

──アメリカ政府はどうみているのか。

安倍、菅、岸田、石破と政策が継続し、自国の防衛力を強化する道を続けるとみられるので歓迎しているだろう。そして日本の防衛だけでなく、地域全体の安全保障に貢献するため、アメリカとより対等なパートナーになろうとしている。日本のその方向性は根本的に変化しないだろう。

──アジア版NATOの主張をどうみるか。

石破は、より地域的な協力の必要性を理解していると思う。日米関係は地域のハブ的な存在になっているが、日本は韓国、オーストラリア、フィリピン、将来的には他の国々とも防衛面での協力が必要になる。総選挙が終わった後、本当の意味で深い議論ができることを願っている。

アジア版NATOについても、私は議論を歓迎する。ただNATOでは加盟国への攻撃は他の加盟国への攻撃であるとの規定があり、日本は憲法9条を改正する必要があるかもしれない。とはいえ最も重要なのは、そのために政治的な時間と政治的資本を費やすことより、日本の防衛能力を構築することにある。

──日米地位協定を改定すると言明しているが。

発言をよく聞くと、本来の目的は地位協定を改定することではないのではないか。ワシントンでも石破の発言を誤解している人もいるだろうが、彼が本当に言いたいのは、米軍基地を今以上に共有して使用するといったことだろう。

これは日本が自衛隊の能力を強化する必要性をより認識するようになっているということであり、米政府からは非常に歓迎される。

以前は、日本がさらに自立した能力を持てば、日米同盟にとって良くないと考える人もいたが、私は一度もそう思ったことはない。日本が自国の能力をより発揮することは、同盟をより強固にする。同盟にとっては非常に価値がある。

運用的な観点からは、日本の能力は高いほどいい。私たちが中国や北朝鮮、ロシアを抑止するため、あるいは必要であれば打ち負かすために、日米で戦力を増強するにはさらなる協力の強化が必要だ。これについては石破も同意していると確信する。

自衛隊は「統合作戦司令部」を新設したが、米軍にはインド太平洋軍があり、最終的には日米韓、オーストラリア、フィリピンとの合同作戦や合同訓練で、より相互に結び付く機会と能力を持つことになる。日本の防衛だけでなく、特に台湾有事のシナリオのためにも、統合作戦の能力を向上させることが必要だ。

──中国の脅威があるから、結束するしかない。

私たちは中国を数で打ち負かすことができない。だからこそ安全保障を理解している首相が誕生したのはいいことだ。韓国とオーストラリア、フィリピンなどと私たちがさらにつながって、「乗数効果」を得るべきだ。

いくつかの制限はあるが、日本は集団的自衛権を行使することができる。今後は、台湾有事の可能性がある。私の希望は、日本がアメリカやオーストラリア、願わくば他の国々と共に、台湾の防衛に作戦上の貢献をすることだ。そして日本が、実際に攻撃を受けるのを待たずとも関与できるようになってほしい。

──総裁選前から発言が「ブレている」とも批判されるが、懸念はあるか?

問題は、自民党と党員、国会議員が、石破に政策を前進させる機会を与えるかどうかだ。首相周辺が最初に石破政権を弱体化させないといいが。自民党ではしばしばそういうことが起きるが、日本には安定した政権が必要だ。安全保障政策全般について言えば、自民党内はかなり一致していると思う。

自民党議員が自分自身の政治的利益のために石破政権を弱体化させようとするのではなく、日本に安定した政権が必要なことを本当に理解し、彼を支持することを願う。

石破政権の安全保障に関わるメンバーは能力がある人が多い。小野寺五典政務調査会長、林芳正内閣官房長官、中谷元防衛大臣などだ。10月27日の選挙を乗り切れば、石破政権はうまく回るだろう。

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