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最新「殺人ミステリー」で主演...あの「政治好き」俳優が米大統領選とAI規制について「いま言いたいこと」

ニューズウィーク日本版 2024年10月24日 14時34分

ビリー・シュワブ・ダン(エンターテインメント担当)
<Amazonプライムの最新映画『キラーヒート』で主役の私立探偵を演じるジョセフ・ゴードン・レビット。テレビ討論会のまとめ動画に出演するなど、政治に積極的に関わる彼が撮影裏話・大統領選・AIについて語る──(インタビュー)>

自分が主役で、撮影場所は陽光あふれる美しい島となれば、俳優にとっては文句のつけようのない仕事かもしれない。

だがジョゼフ・ゴードン・レビットにとって、殺人ミステリー映画『キラーヒート 殺意の交差』(アマゾンプライム・ビデオで配信中)への出演で何よりもうれしかったのは、シェイリーン・ウッドリーと再び共演できたことだった。

「彼女の演技は、この映画全体の中で特に気に入っている部分。本当に素晴らしい出来なんだ」と、ゴードン・レビットは本誌に語った。

「彼女とは何年も前に『スノーデン』という映画で共演した。内部告発者のエドワード・スノーデンの実話で、重大で重苦しい歴史的事件を扱っていた。

すごくシリアスな演技をしなければならなくて、今回とは気持ちがずいぶんと違った。(本作では)伸び伸びと演じればよかったから、とても楽しかった。まるで正反対だった」

『キラーヒート』の原作は、ノルウェーの作家ジョー・ネスボの短編小説『嫉妬深い男』だ。映画はギリシャのクレタ島を舞台に、正統派フィルム・ノワールに現代的な味付けが加えられている。ゴードン・レビットが演じるのは、アメリカ人の私立探偵ニック・バリだ。

ギリシャの海運王の死の謎を追う現代風ノワール『キラーヒート』で双子の兄弟を1人2役で演じるマッデン(右) PATRICK REDMOND/PRIME

物語は若き海運王レオ・バルダキス(リチャード・マッデン)の不審死を中心に展開する。警察の報告書では事故死とされたものの、レオの義妹ペネロピ(ウッドリー)は殺人を疑う。犯人は親族の中にいるが、強大な力を持つバルダキス一族に地元警察は逆らえない、と考えたのだ。

嫉妬と秘密と危険が交錯するなか、ニックは自らも問題を抱えながらも、バルダキス一族が支配する世界の真相に迫ろうとする。ペネロピは、自らの夫でレオの双子の弟であるエリアス(マッデン=二役)をも疑うようになる。

役作りをする上で、ゴードン・レビットは過去の「偉大な」探偵映画からインスピレーションを得たという。

「『チャイナタウン』や『ロング・グッドバイ』とかね。モノクロ映画時代までさかのぼるなら、『マルタの鷹』や『深夜の告白』もまさにその手の映画だよね」と、彼は言う。「もっと最近の映画も好きだ。コーエン兄弟は素晴らしい探偵物の殺人ミステリー映画をいくつも作っている」

自然にすっと役に入れた

自らも闇を抱える探偵という役になり切るのは難しくなかった。「正直言って、全体としては簡単なほうだった。難しい役もある一方で、なぜか自然に演じられるような役もある。今回は後者のほうだった」と、彼は言う。「この役は、台本からすっとイメージが浮かんだ」

クレタ島での撮影では、現地の言葉を学ぶという興味深い体験もできた。「ほんの少しだけれど、ギリシャ語の勉強もしたんだ。実際にギリシャにいたから、それほど大変なことではなかった」と、ゴードン・レビットは言う。

「衣装係でも照明スタッフでも誰でもいいから、隣にいる人のほうを向いて聞けばいい。『もう1回言ってもらえる? 自分の言い方が正しいか確認したいんだ』ってね」

「もちろん、そのほとんどはもう思い出せない。僕は短時間であればすごく物覚えがいいという、俳優としては役に立つけれど、それ以外の生活ではおよそ役に立たない特技の持ち主なんだ。撮影中は覚えていられるのに、終わるとどこかに消えてしまう」

作中に繰り返し出てくるのが、ギリシャ神話のイカロス(ろうで作った翼で空を飛んだが、太陽に近づきすぎて命を落とす少年)の話だ。ギリシャの神々を引き合いに支配階級を批判するせりふもある。

また本作の「自由」というテーマは、米大統領選挙に向けた民主党の政策綱領と相通じるものがある(歌手のビヨンセは民主党大統領候補のカマラ・ハリス副大統領に、自分の持ち歌「フリーダム」を選挙運動で使うことを認めた)。

つまり、この映画にはアメリカの政治状況が密接に反映されているわけだ。

@kamalaharris Beyoncé's "Freedom" is my walk-on song for my rallies--and her mother, Tina, is so very special to me. ♬ original sound - Kamala Harris

「できるだけ」政治的に

ゴードン・レビットは「政治好き」で有名だ。米紙ニューヨーク・タイムズは9月、ハリスと共和党大統領候補のドナルド・トランプ前大統領の初の討論会の後、その内容をまとめた動画を発表。

ニュースを歌にした社会風刺動画「ソンギファイ・ザ・ニュース」で知られる音楽グループ、グレゴリー・ブラザーズが制作を担当し、ゴードン・レビットが司会役として出演した。歌と社会的メッセージが盛りだくさんの作品だ。

「グレゴリー・ブラザーズとは昔から仲がいい。これまでも討論会動画を一緒にやってきた......彼らは最高だ」と、ゴードン・レビットは話す。「あの討論会は歌にするのが本当に簡単だった。ソンギファイ(歌化)できる場面がいくつもあったから」

もちろん、オハイオ州の都市で、ハイチ人移民が地元住民のペットを盗んで食べている、というトランプの虚偽発言もその1つだ。「大統領候補が『彼らは犬を食べている。猫を食べている』と言い出したら、歌詞にせずにはいられない」

政治には「できるだけ」関与するようにしていると語るゴードン・レビットは、11月の大統領選への投票も呼びかけている。

「民主主義国家の市民であることを、本当にありがたく思う。この国では、自分たちで指導者を選ぶことができる。(投票所に)足を運んで、票を投じてほしい」

「世界各地には、指導者を選べない人々が数十億人単位で存在する。確かに、アメリカの民主主義は完璧には程遠い。政府は機能不全で、さまざまな面で混乱している。それでも、独裁国家と比較したら、政治に参加して投票ができるのは特権だ。その特権に感謝しているし、11月に投票することを楽しみにしている」

一方で、AI(人工知能)の台頭も気にかけている。

カリフォルニア州のAI規制法案「SB1047」をめぐっては、自身のインスタグラムアカウントに投稿した動画で、同州のギャビン・ニューサム知事に法案への賛同を求めた。「AIは素晴らしいものになる可能性があるが、ルールや規制が必要だ。どうかSB1047に署名を」。

動画のキャプションで、ゴードン・レビットはそう訴えた(ニューサムは9月29日、SB1047に拒否権を行使した)。

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AIに警鐘を鳴らして

AIの進化が職業に与える影響を、ジャーナリストや俳優が「懸念するのは当然」だが、AIは「そのはるか先に展開する」と、彼はみている。「コンピューターを使って仕事をする人は誰でも、このテクノロジーに脅かされる可能性があると思う」

「公正な対策は存在する」と、彼は信じている。専門家や起業家、政治家、弁護士は膨大なデータを与えなければ、これらのモデルは機能しないと主張するが、そのデータを生成しているのは人間だ。「テクノロジー大手は、そうしたデータを生み出した人間に目を向けたがらない」

企業は、自分たちはAIを開発しただけで、AIは独自の存在だと言いたがる。だが本来は、読み込ませているデータの所有者の同意を得るべきで、おそらく対価を支払うべきだと、ゴードン・レビットは信じている。

「もちろん、そんなことをしたら収益性が低下するだろう。この問題の影響が及ぶのは当初はジャーナリストや俳優だろうが、いずれは医師や会計士、弁護士、広告や物流分野......全ての人が同じ問題に向き合うことになる」

AIに力を入れる大企業や技術者、起業家に先を越されないようにすることが「非常に重要だ」と、ゴードン・レビットは語る。

「楽しい話題じゃないのは分かっている。このインタビューが小難しくなって、たぶんあまり面白くないことも。でも新たな封建社会、テクノロジー関係者が領主で、その他全員が農奴になる未来を望まないなら、この問題について今すぐ議論を始めなければ」



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