サム・ポトリッキオ
<11月5日に迫る大接戦の米大統領選、一見小さなことが原因で結果がひっくり返る可能性がある>
2024年のアメリカ大統領選挙は歴史的大接戦になるだろう。わずか500票余りが最終的な勝敗を決めた00年の大統領選をしのぐ戦いになるかもしれない。
今回ほど候補者の支持率が拮抗している大統領選はなく、賭け市場では共和党のドナルド・トランプが、世論調査では民主党のカマラ・ハリスがやや優勢となっている。
だが勝敗のカギを握るのは、両者が交互にリードを奪い合っている7つの激戦州。今後討論会の予定はなく、選挙戦はこのまま、さまざまな要因に翻弄されながら11月5日の投票日を迎えることになりそうだ。カギになる要因を7つ見てみよう。
◇ ◇ ◇
①ペンシルベニア州立大学対オハイオ州立大学のアメフト試合
2010年、大学のアメリカンフットボール試合が選挙に及ぼす影響を分析した論文が発表された。論文によると上院選でも知事選でも大統領選でも、投票日の10日前の試合で地元の大学が勝利した場合、現職候補の得票率が1.61%伸びた。
今年のレギュラーシーズンのハイライトといえば、11月2日に行われるペンシルベニア州立大学とオハイオ州立大学の一戦。全米トップ10の強豪同士が、大学王者のタイトルを懸けてぶつかる。
面白いことにオハイオ州は共和党のJ・D・バンス副大統領候補の出身地でオハイオ州立大学は彼の母校。一方の対戦相手は選挙の勝敗を握る激戦州ペンシルベニアの大学だ。投票日の3日前に行われる試合は、大統領選の行方を占う上で最大の指標となるかもしれない。ペンシルベニア州立大学は10月24日現在無敗で、試合は彼らのホームスタジアムで行われる。これはハリスに有利。
②11月1日に発表される雇用統計
経済指標は今後も好調を維持し、現職副大統領のハリスに有利に働くだろう。そんななか番狂わせを生じさせかねないのが、11月1日に発表される雇用統計だ。
雇用統計は予想が難しく、GDPや物価の上昇と関係なく急激な楽観ムードや悲観ムードを引き起こす。そのため「ハリスもトランプも大嫌いな有権者」の心理に大きく影響するかもしれない。これはどちらの得にもならない。
③若い男性向けポッドキャスト
大学1年生の息子バロンがいるトランプは主要メディアの報道番組を敬遠し、代わりに若い男性有権者を取り込もうとそうした層に人気のポッドキャストに出演。マッチョな態度を確実に支持してくれるコメディアンのシオ・ボンや右派インフルエンサー、ネルク・ボーイズの番組に出ることで、驚くほど若い男性の関心をかき立てた。その戦略は実に効果的で、ハリスも模倣しようとしたほどだ。これはトランプに有利。
④女性の健康
2022年の中間選挙と2023年の地方選挙で民主党は予想外の勝利を収めた。出口調査によれば、勝利をもたらしたのは無党派と思われる若い女性の有権者。共和党と裁判所のせいで中絶をはじめ不妊治療や避妊など女性の健康を取り巻く状況が保守化していることに、若い女性が危機感を覚えた結果と推測される。
そうした危機感をバネに、大統領選の投票率はさらに上がると見込まれる。これはハリスに有利。
⑤投票後に起こること
波乱の大統領選に関して断言できることが、1つだけある──投票日当日に、勝者は決まらない*。
票の集計に関する規則により、ジョージアやペンシルベニアのような激戦州で勝者が決定するには、最低でも数日を要するだろう。
どちらの候補者も選挙人の過半数を取れなかった場合は、憲法の定めるところにより改選後の下院議会が大統領を選出することになる。
50州の代表が1票ずつ投じ、26票以上を獲得したほうが勝利する。仮に民主党が議員数で過半数を占めたとしても、代表の投票で共和党の優位を崩せる見込みはないと言っていい。
現在共和党は26州、民主党は22州を代表し、両党の議員が同数のため「引き分け」の州が2州ある。予測モデルはこの差が改選後に共和党28州、民主党18州まで開くとしている。これはトランプに有利。
⑥トランプの老化
トランプは現在78歳で、年齢はごまかせない。選挙集会でおかしなダンスを踊り卑猥な冗談を口にし、インタビューを突然打ち切るのを見れば、息切れしているのは明らかだ。
10月下旬には選挙集会で唐突に演説を中断したかと思うと、続く30分間ただ音楽に合わせて体をゆらゆらさせていた。熱烈な支持者もこれには困惑し、ぞっとした表情で様子を見守った。これはハリスに有利。
⑦怒るアラブ系コミュニティー
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はトランプが勝利しアメリカがウクライナ支援を減らすことを何より願っている。ここまでの接戦ではどんなに小さな介入でも形勢が一変しかねない。
また民主党は、ミシガン州に頭の痛い政治問題を抱えている。全米最大のアラブ系コミュニティーがイスラエルの振る舞いに激怒しているのだ。彼らはおおむね民主党を支持しているが、民主党の中東政策に幻滅し投票に行かない有権者が増えれば壊滅的な打撃になるだろう。世論調査では投票率の低下が予想されている。これはトランプに有利。
以上勝敗に影響しそうな7つの要因を見てきた。結果は3対3で、どちらの利益にもならない要因は1つだった。だが確かなことが1つある。私がトランプとその時代を分析し始めてそろそろ10年だが、彼に対する世間の関心は衰えない。それは選挙の後も変わらないだろう。
<11月5日に迫る大接戦の米大統領選、一見小さなことが原因で結果がひっくり返る可能性がある>
2024年のアメリカ大統領選挙は歴史的大接戦になるだろう。わずか500票余りが最終的な勝敗を決めた00年の大統領選をしのぐ戦いになるかもしれない。
今回ほど候補者の支持率が拮抗している大統領選はなく、賭け市場では共和党のドナルド・トランプが、世論調査では民主党のカマラ・ハリスがやや優勢となっている。
だが勝敗のカギを握るのは、両者が交互にリードを奪い合っている7つの激戦州。今後討論会の予定はなく、選挙戦はこのまま、さまざまな要因に翻弄されながら11月5日の投票日を迎えることになりそうだ。カギになる要因を7つ見てみよう。
◇ ◇ ◇
①ペンシルベニア州立大学対オハイオ州立大学のアメフト試合
2010年、大学のアメリカンフットボール試合が選挙に及ぼす影響を分析した論文が発表された。論文によると上院選でも知事選でも大統領選でも、投票日の10日前の試合で地元の大学が勝利した場合、現職候補の得票率が1.61%伸びた。
今年のレギュラーシーズンのハイライトといえば、11月2日に行われるペンシルベニア州立大学とオハイオ州立大学の一戦。全米トップ10の強豪同士が、大学王者のタイトルを懸けてぶつかる。
面白いことにオハイオ州は共和党のJ・D・バンス副大統領候補の出身地でオハイオ州立大学は彼の母校。一方の対戦相手は選挙の勝敗を握る激戦州ペンシルベニアの大学だ。投票日の3日前に行われる試合は、大統領選の行方を占う上で最大の指標となるかもしれない。ペンシルベニア州立大学は10月24日現在無敗で、試合は彼らのホームスタジアムで行われる。これはハリスに有利。
②11月1日に発表される雇用統計
経済指標は今後も好調を維持し、現職副大統領のハリスに有利に働くだろう。そんななか番狂わせを生じさせかねないのが、11月1日に発表される雇用統計だ。
雇用統計は予想が難しく、GDPや物価の上昇と関係なく急激な楽観ムードや悲観ムードを引き起こす。そのため「ハリスもトランプも大嫌いな有権者」の心理に大きく影響するかもしれない。これはどちらの得にもならない。
③若い男性向けポッドキャスト
大学1年生の息子バロンがいるトランプは主要メディアの報道番組を敬遠し、代わりに若い男性有権者を取り込もうとそうした層に人気のポッドキャストに出演。マッチョな態度を確実に支持してくれるコメディアンのシオ・ボンや右派インフルエンサー、ネルク・ボーイズの番組に出ることで、驚くほど若い男性の関心をかき立てた。その戦略は実に効果的で、ハリスも模倣しようとしたほどだ。これはトランプに有利。
④女性の健康
2022年の中間選挙と2023年の地方選挙で民主党は予想外の勝利を収めた。出口調査によれば、勝利をもたらしたのは無党派と思われる若い女性の有権者。共和党と裁判所のせいで中絶をはじめ不妊治療や避妊など女性の健康を取り巻く状況が保守化していることに、若い女性が危機感を覚えた結果と推測される。
そうした危機感をバネに、大統領選の投票率はさらに上がると見込まれる。これはハリスに有利。
⑤投票後に起こること
波乱の大統領選に関して断言できることが、1つだけある──投票日当日に、勝者は決まらない*。
票の集計に関する規則により、ジョージアやペンシルベニアのような激戦州で勝者が決定するには、最低でも数日を要するだろう。
どちらの候補者も選挙人の過半数を取れなかった場合は、憲法の定めるところにより改選後の下院議会が大統領を選出することになる。
50州の代表が1票ずつ投じ、26票以上を獲得したほうが勝利する。仮に民主党が議員数で過半数を占めたとしても、代表の投票で共和党の優位を崩せる見込みはないと言っていい。
現在共和党は26州、民主党は22州を代表し、両党の議員が同数のため「引き分け」の州が2州ある。予測モデルはこの差が改選後に共和党28州、民主党18州まで開くとしている。これはトランプに有利。
⑥トランプの老化
トランプは現在78歳で、年齢はごまかせない。選挙集会でおかしなダンスを踊り卑猥な冗談を口にし、インタビューを突然打ち切るのを見れば、息切れしているのは明らかだ。
10月下旬には選挙集会で唐突に演説を中断したかと思うと、続く30分間ただ音楽に合わせて体をゆらゆらさせていた。熱烈な支持者もこれには困惑し、ぞっとした表情で様子を見守った。これはハリスに有利。
⑦怒るアラブ系コミュニティー
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はトランプが勝利しアメリカがウクライナ支援を減らすことを何より願っている。ここまでの接戦ではどんなに小さな介入でも形勢が一変しかねない。
また民主党は、ミシガン州に頭の痛い政治問題を抱えている。全米最大のアラブ系コミュニティーがイスラエルの振る舞いに激怒しているのだ。彼らはおおむね民主党を支持しているが、民主党の中東政策に幻滅し投票に行かない有権者が増えれば壊滅的な打撃になるだろう。世論調査では投票率の低下が予想されている。これはトランプに有利。
以上勝敗に影響しそうな7つの要因を見てきた。結果は3対3で、どちらの利益にもならない要因は1つだった。だが確かなことが1つある。私がトランプとその時代を分析し始めてそろそろ10年だが、彼に対する世間の関心は衰えない。それは選挙の後も変わらないだろう。