シャノン・パワー for WOMAN
<米大統領選でハリス陣営に提供、大ヒット曲「ウィー・アー・ファミリー」の持つ力とキャシー・スレッジの現在地とは──(インタビュー)>
アメリカ人ならずとも、たいていの人はキャシー・スレッジ(65)の歌声を一度は聞いたことがあるはずだ。
彼女は往年の姉妹ユニット「シスター・スレッジ」のリードボーカル。1979年の大ヒット曲「ウィー・アー・ファミリー」は世界中の歌手にカバーされ、テレビ番組『セサミストリート』でも使われ、分け隔てのない共感と連帯を呼びかけるメッセージソングとして2008年に「グラミーの殿堂」入りを果たしている。
発表から45年たった今も、この曲は人々の心を一つにし、元気を与える。キャシー自身、アメリカが政治的にも文化的にも深く分断されている今こそ、みんなで「ウィー・アー・ファミリー」を歌うべきだと思っている。
「あの歌には、人々に何かを与える力がある。一体感だけじゃなく、なんて言うか、愛を呼び覚ます力がある。だって本物だから」。キャシーは本誌にそう語った。
デビー、ジョニ、キムとキャシーの4姉妹で結成されたシスター・スレッジのヒット曲には、「シンキング・オブ・ユー」や「ヒー・イズ・ザ・グレーテスト・ダンサー」などもある。しかし、今なお歌い継がれているのは「ウィー・アー・ファミリー」だ。
1984年当時のシスター・スレッジ HARRY LANGDON/GETTY IMAGES
キャシーは13歳の頃から、ツアーで世界を回ってきた。最初はシスター・スレッジの一員として、89年以降はソロのアーティストとして。その長いキャリアで得た一番大事なものは何かと聞くと、名声でもお金でもなく、聴衆の心からあふれる感動だとキャシーは答えた。
「みんな、あの歌のあの声を聞くとハッピーになれると言ってくれる。いろんな世代の人が、ほほ笑んだり、笑ったりしてくれる。そういうのを見ると思ってしまう。これって、すごいよねって」
目下の願いは、「ウィー・アー・ファミリー」のパワーを今の時代に役立てること。
7月には現職のジョー・バイデンが高齢を理由に選挙戦からの撤退を表明し、副大統領のカマラ・ハリスが後を継ぐ形で民主党の大統領候補となった。対するは、2020年大統領選での敗北を今も認めていない共和党のドナルド・トランプ。支持率は拮抗している。
だからキャシーは同僚を通じてハリス陣営に、大統領選の投票日までは、どんなイベントでも好きなだけ「ウィー・アー・ファミリー」を流していいと伝えた。
「この国には、今こそこの歌が必要だ」と、彼女は言う。「私たちは近年、多くの混乱を目の当たりにしてきた。でも今は、この国のみんなが互いを受け入れなくちゃいけない。『ウィー・アー・ファミリー』のメッセージには、それに役立つ何かがある」
イギリスの音楽フェスティバルで熱唱するキャシー(今年6月) C BRANDONーREDFERNS/GETTY IMAGES
米同時テロ後の癒やしに
この歌は過去にも、アメリカ人を一つにするために役立ってきた。01年9月11日の米同時多発テロ後には、真っ先にチャリティーシングルとして新たに録音され、リリースされた。
その時のミュージック・ビデオはスパイク・リーが監督を務め、ダイアナ・ロスからマコーレー・カルキンまで数百人の著名ミュージシャンが共演した。プロデューサーを務めたのは、79年にオリジナルの曲を書いたナイル・ロジャース。「癒やしのプロセスを始める」ためだった。
このチャリティーシングルの売り上げで「ウィー・アー・ファミリー財団」が設立された。以後一貫して財団は世界中の若者を支援している。
ただし、大勢の人を結び付けてきたこの歌も、スレッジ4姉妹の結束を守ることはできなかった。キャシーは自身のキャリアを追求したくてグループを離れたが、そのせいで3人の姉、とりわけデビーとの仲は険悪になり、その確執は今も続いている。
デビーは、キャシーが一方的にグループを脱退し、事情を聞こうとしても電話に出なかったと主張する。
今年6月にはイギリスの大衆紙に、「最悪なのは、脱退したキャシーがすぐに別のグループを立ち上げたこと。『なぜ?』って私たちは思った。でも彼女は音信不通で、電話にも出なかった」と語っている(本誌はデビーの代理人に何度もメールを送ったが、コメントは得られなかった)。
分裂後、デビー以下の3姉妹は法的措置を取り、キャシーを法人としてのシスター・スレッジから排除。ステージで「シスター・スレッジ」の名を用いることも禁じた。
「ひどい話でしょ。私もスレッジ姉妹の1人なのに、あれから20年間、ステージで『シスター・スレッジの』とも『シスター・スレッジ出身の』とも言えなかった」
キャシーがそう語ったのは22年のこと。その前年、デビーら3姉妹はようやく、キャシーに音楽活動で「シスター・スレッジ」の名を使うことを認めていた。
結果、今のキャシーは「シスター・スレッジ・フィーチャリング・キャシー・スレッジ」を名乗っている。ちなみにデビーら3姉妹(と、その子供たち)も、「シスター・スレッジ」を含むグループ名でずっと音楽活動を続けてきた。
歌以外の才能が開花
しかしキャシーは、決して姉たちを恨まなかった。歌うことに制約があるのなら、それ以外の仕事にも挑戦すればいいと思った。
例えば、伝説的な女性歌手ビリー・ホリデイと1940年代のジャズ・シーンにささげるショー「ザ・ブライター・サイド・オブ・デイ」を企画・主演し、多くの曲を書いた。テレビ番組や音楽フェスティバルのプロデュースもたくさん手がけた。
今は娘のクリステン・ガブリエルと一緒に、ポッドキャストで「ファミリー・ルーム」と題する番組を主催し、自分たちのステージ衣装のデザインにも深く関わっている。「ウィー・アー・ファミリー」をベースにしたミュージカルの構想もある。
仕事には「いろいろな道」があり、自分はどの道も「存分に楽しんでいる」とキャシーは言う。だから、今さら姉たちと一緒にステージに立ちたいとは思わない(なお2番目の姉ジョニは17年に死去している)。
「ある友人に、『自分のやりたいことは分かってるつもりだけど、人生の目的を見つけるには一生かかるかも』と言われたことがある。でも今の私は、自分の人生の目的を見つけたような気がする」とキャシーは言い、こう続けた。
「それは歌でみんなを元気にすること。今までのように歌い、書き、やり続けるだけ」
キャシーはまた、歌以外の自分の才能を世界に示し、創造的な可能性を実現できる「プロデュースという仕事にワクワクしている」とも語った。今の彼女にとって最も重要なのはプロデューサー業であり、シスター・スレッジの再結成は後で考えればいいと思っている。
「おかしな話だけど、知っておいてほしいのは、私たちはずっとこうやってきたということ、そして新たな領域に入るのは新鮮だということ」だと、彼女は言う。「シスター・スレッジの再結成を完全に否定はしない。でも今は自分の手がけている仕事をもっと追求していきたい」
人々を鼓舞し、高揚させるという目的に気付いた今、キャシーは愛と連帯の深いメッセージを込めたグルービーなバラード「プロミス・ミー」の発表にもゴーサインを出した。20年前に書いて、ずっと眠らせておいた曲だが、今こそみんなに聴いてほしいと思うからだ。
「時が熟したってことね」と、彼女は言う。「もう何年も前に書いた曲で、当時は受け入れられなかったかもしれないけれど、今なら受け入れてもらえる。そんな気がする」
「今の人は、温かさや居心地の良さを感じるノスタルジックな感覚を大事にしたいのだと思う。そして、私たちはそこから少し離れてしまったと思う」。そう語るキャシーは娘に、「プロミス・ミー」は「もし神様がラブソングを書いたらこんなふうになりそうな曲」だと説明している。
「私たちは、いま生きているこの空間で、とても孤独だと感じている。だから、愛のメッセージを伝えようと思った」と、彼女は言う。
たいていの場合、65歳は引退の花道を考えたくなる年齢だが、キャシーは今こそ新たな一歩を踏み出そうとしている。「ええ、私もワクワクしてる。みんなも待っててね」
<米大統領選でハリス陣営に提供、大ヒット曲「ウィー・アー・ファミリー」の持つ力とキャシー・スレッジの現在地とは──(インタビュー)>
アメリカ人ならずとも、たいていの人はキャシー・スレッジ(65)の歌声を一度は聞いたことがあるはずだ。
彼女は往年の姉妹ユニット「シスター・スレッジ」のリードボーカル。1979年の大ヒット曲「ウィー・アー・ファミリー」は世界中の歌手にカバーされ、テレビ番組『セサミストリート』でも使われ、分け隔てのない共感と連帯を呼びかけるメッセージソングとして2008年に「グラミーの殿堂」入りを果たしている。
発表から45年たった今も、この曲は人々の心を一つにし、元気を与える。キャシー自身、アメリカが政治的にも文化的にも深く分断されている今こそ、みんなで「ウィー・アー・ファミリー」を歌うべきだと思っている。
「あの歌には、人々に何かを与える力がある。一体感だけじゃなく、なんて言うか、愛を呼び覚ます力がある。だって本物だから」。キャシーは本誌にそう語った。
デビー、ジョニ、キムとキャシーの4姉妹で結成されたシスター・スレッジのヒット曲には、「シンキング・オブ・ユー」や「ヒー・イズ・ザ・グレーテスト・ダンサー」などもある。しかし、今なお歌い継がれているのは「ウィー・アー・ファミリー」だ。
1984年当時のシスター・スレッジ HARRY LANGDON/GETTY IMAGES
キャシーは13歳の頃から、ツアーで世界を回ってきた。最初はシスター・スレッジの一員として、89年以降はソロのアーティストとして。その長いキャリアで得た一番大事なものは何かと聞くと、名声でもお金でもなく、聴衆の心からあふれる感動だとキャシーは答えた。
「みんな、あの歌のあの声を聞くとハッピーになれると言ってくれる。いろんな世代の人が、ほほ笑んだり、笑ったりしてくれる。そういうのを見ると思ってしまう。これって、すごいよねって」
目下の願いは、「ウィー・アー・ファミリー」のパワーを今の時代に役立てること。
7月には現職のジョー・バイデンが高齢を理由に選挙戦からの撤退を表明し、副大統領のカマラ・ハリスが後を継ぐ形で民主党の大統領候補となった。対するは、2020年大統領選での敗北を今も認めていない共和党のドナルド・トランプ。支持率は拮抗している。
だからキャシーは同僚を通じてハリス陣営に、大統領選の投票日までは、どんなイベントでも好きなだけ「ウィー・アー・ファミリー」を流していいと伝えた。
「この国には、今こそこの歌が必要だ」と、彼女は言う。「私たちは近年、多くの混乱を目の当たりにしてきた。でも今は、この国のみんなが互いを受け入れなくちゃいけない。『ウィー・アー・ファミリー』のメッセージには、それに役立つ何かがある」
イギリスの音楽フェスティバルで熱唱するキャシー(今年6月) C BRANDONーREDFERNS/GETTY IMAGES
米同時テロ後の癒やしに
この歌は過去にも、アメリカ人を一つにするために役立ってきた。01年9月11日の米同時多発テロ後には、真っ先にチャリティーシングルとして新たに録音され、リリースされた。
その時のミュージック・ビデオはスパイク・リーが監督を務め、ダイアナ・ロスからマコーレー・カルキンまで数百人の著名ミュージシャンが共演した。プロデューサーを務めたのは、79年にオリジナルの曲を書いたナイル・ロジャース。「癒やしのプロセスを始める」ためだった。
このチャリティーシングルの売り上げで「ウィー・アー・ファミリー財団」が設立された。以後一貫して財団は世界中の若者を支援している。
ただし、大勢の人を結び付けてきたこの歌も、スレッジ4姉妹の結束を守ることはできなかった。キャシーは自身のキャリアを追求したくてグループを離れたが、そのせいで3人の姉、とりわけデビーとの仲は険悪になり、その確執は今も続いている。
デビーは、キャシーが一方的にグループを脱退し、事情を聞こうとしても電話に出なかったと主張する。
今年6月にはイギリスの大衆紙に、「最悪なのは、脱退したキャシーがすぐに別のグループを立ち上げたこと。『なぜ?』って私たちは思った。でも彼女は音信不通で、電話にも出なかった」と語っている(本誌はデビーの代理人に何度もメールを送ったが、コメントは得られなかった)。
分裂後、デビー以下の3姉妹は法的措置を取り、キャシーを法人としてのシスター・スレッジから排除。ステージで「シスター・スレッジ」の名を用いることも禁じた。
「ひどい話でしょ。私もスレッジ姉妹の1人なのに、あれから20年間、ステージで『シスター・スレッジの』とも『シスター・スレッジ出身の』とも言えなかった」
キャシーがそう語ったのは22年のこと。その前年、デビーら3姉妹はようやく、キャシーに音楽活動で「シスター・スレッジ」の名を使うことを認めていた。
結果、今のキャシーは「シスター・スレッジ・フィーチャリング・キャシー・スレッジ」を名乗っている。ちなみにデビーら3姉妹(と、その子供たち)も、「シスター・スレッジ」を含むグループ名でずっと音楽活動を続けてきた。
歌以外の才能が開花
しかしキャシーは、決して姉たちを恨まなかった。歌うことに制約があるのなら、それ以外の仕事にも挑戦すればいいと思った。
例えば、伝説的な女性歌手ビリー・ホリデイと1940年代のジャズ・シーンにささげるショー「ザ・ブライター・サイド・オブ・デイ」を企画・主演し、多くの曲を書いた。テレビ番組や音楽フェスティバルのプロデュースもたくさん手がけた。
今は娘のクリステン・ガブリエルと一緒に、ポッドキャストで「ファミリー・ルーム」と題する番組を主催し、自分たちのステージ衣装のデザインにも深く関わっている。「ウィー・アー・ファミリー」をベースにしたミュージカルの構想もある。
仕事には「いろいろな道」があり、自分はどの道も「存分に楽しんでいる」とキャシーは言う。だから、今さら姉たちと一緒にステージに立ちたいとは思わない(なお2番目の姉ジョニは17年に死去している)。
「ある友人に、『自分のやりたいことは分かってるつもりだけど、人生の目的を見つけるには一生かかるかも』と言われたことがある。でも今の私は、自分の人生の目的を見つけたような気がする」とキャシーは言い、こう続けた。
「それは歌でみんなを元気にすること。今までのように歌い、書き、やり続けるだけ」
キャシーはまた、歌以外の自分の才能を世界に示し、創造的な可能性を実現できる「プロデュースという仕事にワクワクしている」とも語った。今の彼女にとって最も重要なのはプロデューサー業であり、シスター・スレッジの再結成は後で考えればいいと思っている。
「おかしな話だけど、知っておいてほしいのは、私たちはずっとこうやってきたということ、そして新たな領域に入るのは新鮮だということ」だと、彼女は言う。「シスター・スレッジの再結成を完全に否定はしない。でも今は自分の手がけている仕事をもっと追求していきたい」
人々を鼓舞し、高揚させるという目的に気付いた今、キャシーは愛と連帯の深いメッセージを込めたグルービーなバラード「プロミス・ミー」の発表にもゴーサインを出した。20年前に書いて、ずっと眠らせておいた曲だが、今こそみんなに聴いてほしいと思うからだ。
「時が熟したってことね」と、彼女は言う。「もう何年も前に書いた曲で、当時は受け入れられなかったかもしれないけれど、今なら受け入れてもらえる。そんな気がする」
「今の人は、温かさや居心地の良さを感じるノスタルジックな感覚を大事にしたいのだと思う。そして、私たちはそこから少し離れてしまったと思う」。そう語るキャシーは娘に、「プロミス・ミー」は「もし神様がラブソングを書いたらこんなふうになりそうな曲」だと説明している。
「私たちは、いま生きているこの空間で、とても孤独だと感じている。だから、愛のメッセージを伝えようと思った」と、彼女は言う。
たいていの場合、65歳は引退の花道を考えたくなる年齢だが、キャシーは今こそ新たな一歩を踏み出そうとしている。「ええ、私もワクワクしてる。みんなも待っててね」