ナディラ・ゴフ(スレート誌カルチャー担当)
<K-POP特有のファンの「掛け声ルール」が、応援と音楽を楽しむことの両方を可能にする>
夏休みは、10代(またはそれ以下)の子供たちに人気のアーティストの全米ツアーがめじろ押しのシーズンだ。今年もそうだった。ただ、まだ友達同士でコンサートに行くのは早い子供の場合、大人が同行することになる。筆者もそんな1人だった。
最近はオリビア・ロドリゴやテイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュなど、実力もカリスマも抜群のアーティストが大勢いるからいいじゃない、と言う人もいるかもしれない。確かに。ただし、歌声がちゃんと聞こえたらの話だ。
最初から最後までリアルにタガが外れたファンの絶叫がすごすぎて、アーティストの歌声がほとんど聞こえないコンサートは少なくない。
もちろんこれは新しい現象ではない。エルビス・プレスリーやビートルズの全盛期だって、ファンの絶叫で歌声が聞こえなかったと言われる。
憧れの大スターと同じ場所にいて、同じ空気を吸っているのだから、興奮するなと言われても無理というもの。10代なら、なおさらだろう。そしてその興奮を最も簡単に表現する方法が、絶叫なのだ。
この現象はコロナ禍を経て、ますますひどくなった。「大騒ぎにも秩序がある」という不文律を、社会全体が忘れてしまったようなのだ。
とはいえ、コンサートにはアーティストの歌声を聴きたいファン(や保護者)も少なからずいるはずだ。絶叫ファンが爆発的興奮を適度に抑える方法を学び、ほかの観客やステージ上のアーティストに敬意を払う方法はないのか。
ALENPOPOV/ISTOCK
そこで目を向けたいのが、ファンが一致団結してお気に入りのアーティストを応援することで知られるKポップだ。この応援スタイルは、コロナ禍の影響をほとんど受けていないようだ。それは既に「掛け声」という応援方法が確立しているからでもある。
Kポップでは、お気に入りのアーティストの曲ごとに、ファンがどこでどのような応援の言葉を言うかが細かく決まっている。前奏や間奏の時にメンバー全員の名前を呼んだり、サビで歌詞のキーワードを繰り返したりするのだ。
これをファン全員が一糸乱れず実行することで、掛け声がバックボーカルのようになり、アーティストとの一体感を味わうことができる。実際、多くの掛け声はレーベルが作成し、ファンがスマホなどで共有できる。
「名作」を集めた動画も
アーティストが自分たちの曲をBGMにして、掛け声の入れ方をファンに教える動画もある。熱烈なファンなら、憧れのアーティストが教えてくれたのとは違う方法で応援をしようとは思わないから、ますます曲の一部のような掛け声が出来上がる。
NewJeans (뉴진스) 'Super Shy' 응원법
Super Shy at NewJeans Bunnies Camp 2024 Day 1
Kポップと掛け声は切っても切れない関係だ。楽曲と掛け声が見事に一致した「名作」を集めた動画もある。限られた時間内に、曲のテンポに合わせて早口言葉のような掛け声を成功させようとするため、ファン同士の連帯感も深まる。
Best Kpop Fanchants
KPOP BEST FANCHANT COMPILATION #1 (Blackpink, Red Velvet, BTS, EXO, Mamaoo, Twice... etc.)
なかでも男性グループSEVENTEEN(セブンティーン)のファン(「カラット」と呼ばれる)は複雑な掛け声をぴったり一致させることで知られる。例えばヒット曲「Getting Closer」のダンスブレイクのときは、13人のメンバー全員の名前をかなりの早口で言い切る。
[Fanchant] ;SEVENTEEN(세븐틴) - Getting Closer
カラットが見事にそれをやり遂げたのを見て、アーティスト側が別の曲「Highlight」で、もっと猛スピードで全員の名前を呼ばなければいけない掛け声をつくるなど、アーティストとの間でゲーム感覚を味わえることも、ファンにとっては醍醐味の1つだ。
[Fanchant Guide/응원법] SEVENTEEN-HIGHLIGHT
そんなことをするのは女性ファンばかりだと思うかもしれないが、そんなことはない。女性グループTWICE(トゥワイス)の忠実なファン(「ワンス」と呼ばれる)には男性も多く、ヒット曲「What Is Love?」で、振り付け入りの掛け声をやり遂げている。
TWICE - What Is Love? (ONCE's POWERFUL FANCHANT)
一方、男性グループStray Kids(ストレイキッズ)の場合、ラッパーであるフィリックスが官能的な深い歌声を披露する部分では、掛け声を一切入れずに、うっとり聴き入ることができるようにした曲もある。
ファンの掛け声には2つの目的がある。まず、ファンにも役割を与えて、アーティストのパフォーマンスに参加できるようにすること。
もう1つは、大勢で複雑な掛け声を成功させるには、注意力と記憶力と練習が必要なため、コンサート中や番組中にファンが絶え間なく金切り声を上げ続ける問題を軽減することができる。
実際、韓国の歌番組やKポップアーティストのコンサート映像を見ると、ほぼ全ての曲で観客が掛け声のルールを守っていることが分かる。そうすることで、ファンはアーティストの声を聴くことができると同時に、同じ空間を共有したことへの感謝の気持ちを表現することができる。
アーティストは、コンサートで質の高いパフォーマンスを披露するため懸命に努力し、その見返りにファンは高額のチケットを購入する。
Kポップ式の掛け声は、アーティストの努力とファンの時間とお金を尊重することにより、両者が一体となって最高のコンサートを生み出す完璧な方法のように見える。
欧米のアーティストのファンもKポップの応援を見習って掛け声の素晴らしさを知り、やたらめったら金切り声を張り上げるのをやめてはどうだろう?
Super Shy - NewJeans (뉴진스) [Music Bank] | KBS WORLD TV 230721
©2024 The Slate Group
[Fanchant] ;SEVENTEEN(세븐틴) - Getting Closer
[Fanchant Guide/응원법] SEVENTEEN-HIGHLIGHT
<K-POP特有のファンの「掛け声ルール」が、応援と音楽を楽しむことの両方を可能にする>
夏休みは、10代(またはそれ以下)の子供たちに人気のアーティストの全米ツアーがめじろ押しのシーズンだ。今年もそうだった。ただ、まだ友達同士でコンサートに行くのは早い子供の場合、大人が同行することになる。筆者もそんな1人だった。
最近はオリビア・ロドリゴやテイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュなど、実力もカリスマも抜群のアーティストが大勢いるからいいじゃない、と言う人もいるかもしれない。確かに。ただし、歌声がちゃんと聞こえたらの話だ。
最初から最後までリアルにタガが外れたファンの絶叫がすごすぎて、アーティストの歌声がほとんど聞こえないコンサートは少なくない。
もちろんこれは新しい現象ではない。エルビス・プレスリーやビートルズの全盛期だって、ファンの絶叫で歌声が聞こえなかったと言われる。
憧れの大スターと同じ場所にいて、同じ空気を吸っているのだから、興奮するなと言われても無理というもの。10代なら、なおさらだろう。そしてその興奮を最も簡単に表現する方法が、絶叫なのだ。
この現象はコロナ禍を経て、ますますひどくなった。「大騒ぎにも秩序がある」という不文律を、社会全体が忘れてしまったようなのだ。
とはいえ、コンサートにはアーティストの歌声を聴きたいファン(や保護者)も少なからずいるはずだ。絶叫ファンが爆発的興奮を適度に抑える方法を学び、ほかの観客やステージ上のアーティストに敬意を払う方法はないのか。
ALENPOPOV/ISTOCK
そこで目を向けたいのが、ファンが一致団結してお気に入りのアーティストを応援することで知られるKポップだ。この応援スタイルは、コロナ禍の影響をほとんど受けていないようだ。それは既に「掛け声」という応援方法が確立しているからでもある。
Kポップでは、お気に入りのアーティストの曲ごとに、ファンがどこでどのような応援の言葉を言うかが細かく決まっている。前奏や間奏の時にメンバー全員の名前を呼んだり、サビで歌詞のキーワードを繰り返したりするのだ。
これをファン全員が一糸乱れず実行することで、掛け声がバックボーカルのようになり、アーティストとの一体感を味わうことができる。実際、多くの掛け声はレーベルが作成し、ファンがスマホなどで共有できる。
「名作」を集めた動画も
アーティストが自分たちの曲をBGMにして、掛け声の入れ方をファンに教える動画もある。熱烈なファンなら、憧れのアーティストが教えてくれたのとは違う方法で応援をしようとは思わないから、ますます曲の一部のような掛け声が出来上がる。
NewJeans (뉴진스) 'Super Shy' 응원법
Super Shy at NewJeans Bunnies Camp 2024 Day 1
Kポップと掛け声は切っても切れない関係だ。楽曲と掛け声が見事に一致した「名作」を集めた動画もある。限られた時間内に、曲のテンポに合わせて早口言葉のような掛け声を成功させようとするため、ファン同士の連帯感も深まる。
Best Kpop Fanchants
KPOP BEST FANCHANT COMPILATION #1 (Blackpink, Red Velvet, BTS, EXO, Mamaoo, Twice... etc.)
なかでも男性グループSEVENTEEN(セブンティーン)のファン(「カラット」と呼ばれる)は複雑な掛け声をぴったり一致させることで知られる。例えばヒット曲「Getting Closer」のダンスブレイクのときは、13人のメンバー全員の名前をかなりの早口で言い切る。
[Fanchant] ;SEVENTEEN(세븐틴) - Getting Closer
カラットが見事にそれをやり遂げたのを見て、アーティスト側が別の曲「Highlight」で、もっと猛スピードで全員の名前を呼ばなければいけない掛け声をつくるなど、アーティストとの間でゲーム感覚を味わえることも、ファンにとっては醍醐味の1つだ。
[Fanchant Guide/응원법] SEVENTEEN-HIGHLIGHT
そんなことをするのは女性ファンばかりだと思うかもしれないが、そんなことはない。女性グループTWICE(トゥワイス)の忠実なファン(「ワンス」と呼ばれる)には男性も多く、ヒット曲「What Is Love?」で、振り付け入りの掛け声をやり遂げている。
TWICE - What Is Love? (ONCE's POWERFUL FANCHANT)
一方、男性グループStray Kids(ストレイキッズ)の場合、ラッパーであるフィリックスが官能的な深い歌声を披露する部分では、掛け声を一切入れずに、うっとり聴き入ることができるようにした曲もある。
ファンの掛け声には2つの目的がある。まず、ファンにも役割を与えて、アーティストのパフォーマンスに参加できるようにすること。
もう1つは、大勢で複雑な掛け声を成功させるには、注意力と記憶力と練習が必要なため、コンサート中や番組中にファンが絶え間なく金切り声を上げ続ける問題を軽減することができる。
実際、韓国の歌番組やKポップアーティストのコンサート映像を見ると、ほぼ全ての曲で観客が掛け声のルールを守っていることが分かる。そうすることで、ファンはアーティストの声を聴くことができると同時に、同じ空間を共有したことへの感謝の気持ちを表現することができる。
アーティストは、コンサートで質の高いパフォーマンスを披露するため懸命に努力し、その見返りにファンは高額のチケットを購入する。
Kポップ式の掛け声は、アーティストの努力とファンの時間とお金を尊重することにより、両者が一体となって最高のコンサートを生み出す完璧な方法のように見える。
欧米のアーティストのファンもKポップの応援を見習って掛け声の素晴らしさを知り、やたらめったら金切り声を張り上げるのをやめてはどうだろう?
Super Shy - NewJeans (뉴진스) [Music Bank] | KBS WORLD TV 230721
©2024 The Slate Group
[Fanchant] ;SEVENTEEN(세븐틴) - Getting Closer
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