茜 灯里
<宇宙飛行士訓練に活かされた過去の経験、月・火星探査時代の地球科学の役割、そのコミュニケーション力はどこから? 宇宙飛行士に認定されたばかりの2人に独自インタビューで聞いた>
先月21日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士候補だった米田あゆさん(29)と諏訪理さん(47)が宇宙飛行士として正式に認定されました。
JAXA宇宙飛行士は、候補を決める選抜試験に通ったからといって、すぐに認定されるわけではありません。科学知識や各国の宇宙開発プログラムに関する座学、航空機の操縦や地学のフィールドワークといった実技など多岐にわたる基礎訓練を1年半~2年間ほど受けます。基礎訓練修了後、審査委員会が総合的に判断し、宇宙飛行士の要件を満たすと認めた場合に宇宙飛行士の認定が得られます。
晴れて認定を受けた直後の米田さん、諏訪さんに、独自インタビューを行いました。前編では「宇宙での実験を自分でデザインできるとすれば、何をやりたいか」「宇宙開発におけるAIと宇宙飛行士の棲み分けや、宇宙飛行士が人間である意義」などを質問し、2人の回答を紹介しました。
後編となる今回は、「過去の意外な経験が宇宙飛行士訓練に活かされたエピソード」「月・火星探査時代の地球科学の役割とは?」「なぜ米田さん、諏訪さんはそんなにコミュニケーション力があるの?」などについて、話を聞いていきます。
◇ ◇ ◇
──宇宙飛行士認定の記者会見では、基礎訓練についても語ってくださいました。それで思い出したのですが、今年の東大の入学式の祝辞で、米田さんが「コネクティング・ザ・ドッツ(Connecting the dots:「過去の経験が予想外の形で活かされたこと」の比喩)」というスティーブ・ジョブズの言葉を引用されていたのがとても印象的でした。おふたりが基礎訓練中に、「過去の経験が思いもよらない形で活かされたな」と思ったエピソードがあったらぜひ教えてください。
米田 私、実は幼少期に水泳をやっていて、特にシンクロナイズドスイミング(現在はアーティスティックスイミングに改称)をやっていた時期があったんですね。当時はもちろん、宇宙飛行士になることとはまったく結びついていなかったのですが、(宇宙飛行士の基礎訓練中の)水泳訓練で「不時着して海に落ちたときに生き延びるために、立ち泳ぎをしなきゃいけない」というものがあったんです。宇宙服を着て立ち泳ぎを15分したのですが、本当にもう、小学校当時の技術がそのままそっくり役立って、全然余裕と言いますか、「昔の感覚を思い出すな」っていう感じで、「まさかここでそれが活きてくるのか」と思いました。
──たしか、立ち泳ぎの訓練のときに、おふたりでロシア語を話しながら頑張ったんですよね。
諏訪 よくご存じですね。
──半年くらい前の記者会見で、私が「訓練中に2人で助け合ったエピソード」を質問したら、諏訪さんが「立ち泳ぎの時、『喋っていたほうが気が紛れるし、語学の練習にもなるから』と提案して2人でロシア語を話し続けたら、あっという間に終わった」と教えてくださったんですよ。
諏訪 ああ、私が言っていましたか。
米田・諏訪 (顔を見合わせて大笑いする)
──ロシア語のエピソードは、とても印象に残っています。諏訪さんは今の質問についてはいかがですか。
諏訪 スティーブ・ジョブズは、カリグラフィーと(マッキントッシュの)フォントを結びつけたという、ドラマチックな話があったと思います。私は、ドラマチックではないのですが、科学の基礎訓練で科学者や技術者の方と話す中で「自分が大学院で研究をしてきた経験が役に立っているな」と思ったことがありました。
それは内容というよりも「どういうプロセスを経るか」、例えば「研究方向をデザインして実験をしてまとめていく」という彼らの考え方の作法みたいなものを理解するのに、非常に手助けになったという感触を持ちました。
それから、前職(世界銀行)では日常茶飯事にやっているルーティンがありました。例えば、会議を設定して色々な人と話し合って何か結論を出して先に進める。出張に行くと、その国の官庁に訪問して、何かしら技術的なディスカッションをする。そんな中で、自分の専門とはちょっと違う分野の技術的な会話をすることも結構あって、その経験も基礎訓練に役に立ったなと思います。
というのも、(宇宙飛行士の訓練で)自分の専門ではないことばかりを教わる中で、どんな質問をして、どういうふうに議論を深めていくのかと考えたときに、やっぱり前職のそういった経験が活かされているのかなって、脳裏をよぎりました。
米田 すみません、今、思い出したのですが、パラボリックフライト(※放物線飛行:航空機を使って擬似的な無重力[厳密には微小重力]状態を作る)で無重力の中で回転するときも、すごく(シンクロナイズドスイミングをしていた)当時の感覚が呼び起こされました。
──ということは、米田さん、無重力では無敵なんじゃないですか。
米田 そうですかね、って、(宇宙に)行ってみないとまだ分からないですが。もう一つ、例を出せたなと思って。
──付け加えていただいてありがとうございます。
諏訪 パラボリックフライトは何人かでやったのですが、米田さんの身のこなしみたいなのは、すごい上手でしたね。そういう秘密があったんだって、今、知りました。
──諏訪さんは、無重力での自分の感覚はいかがでしたか。記者会見のとき、一番印象に残った訓練としてパラボリックフライトを挙げていらっしゃいましたが。
諏訪 いやあ、何となくかっこよく動いているつもりだったんですけれど、後でビデオ見たら、なんかビクビクしている人が何かをしているなって感じだったので、やっぱりまだまだ慣れる必要があるのかなっていう気がしましたね。
インタビューも和気藹々とした雰囲気に 筆者撮影
──次に「地学」について、おふたりにそれぞれ伺います。まず、諏訪さんは地球科学、特に地質学や気象科学がご専門です。これまでの宇宙飛行士の活躍は、どちらかというと材料系や生物・医療系に偏っていたように思うのですが、地球科学分野に貢献する宇宙飛行士の未来像をどのように描かれていますか。
諏訪 2つあると思っています。まず、宇宙探査の時代になって、宇宙に実際に行って何かをする時、地球科学、惑星科学はこれからフォーカスすべき分野の1つになっていきます。地球上の研究者と話し合いながら、彼らの目となり手となる、つまりサンプルを持って帰ってきたり、その場で解析したりということが行われていくと思います。そのとき、地球科学のバックグラウンドを持った人には、一定水準の役割があると思います。
そして今後、宇宙開発をますます地球規模課題の解決に結びつけていかなければいけないというところもあると思うんです。
大きな地球規模課題、例えば防災や気候変動対策は、自然科学だけで解けるものではなく、社会科学的な知見なども全部統合的に考えながらソリューションを考えていかなければいけないのですけれども、その中で地球科学の各々の知識はやっぱり非常に役に立ちます。
地球と宇宙という2つのファクターを、地球上の問題解決にどう活かしていけるのか考えていくところに、地球科学をバックグラウンドに持った宇宙飛行士が果たすべき役割があるのかなと思っています。
──米田さんに伺います。JAXAは月・火星探査時代を見据えて、今回の基礎訓練から地学を充実させました。医学がバックグラウンドの米田さんにとって、地質学巡検(※野外での実地調査)などはおそらく初めての経験だったと思うのですが、自分だからこそ地学をこういう新鮮な観点で見られたということがあったら教えてください。
米田 巡検はすごく新しい経験で、いろいろと発見がありました。色々な石や岩があって、1つの石にそんなにたくさんの知見があるんだな、その知見からさらにストーリーが広がっていくんだな、というようなことを学ぶことができました。
また、地学の知識を教えてもらうことで、その知識を持った状態で探すとこれまでとは違ったところに目線がいったり、新しい感覚でこれはどうなんだろうとアンテナを張ったりすることができました。「学んで、かつアンテナを伸ばす」っていうことが巡検では大事なんだなっていうふうに思いましたね。
──最後の質問です。JAXA職員の方々に「おふたりのどこが一番すごいですか」と尋ねると、「優秀で飲み込みが早いのは当然として、一番素晴らしいのは高いコミュニケーション能力だ」と皆さんおっしゃいます。なので、「人とコミュニケーションをとる上で、意識していることは何か」を伺いたいです。また、最近は特に若者で「コミュニケーションって、ちょっと難しいな」とか「人と接するのは面倒くさいな」と感じる方が多いと聞きます。そういう方たち向けに、アドバイスやコミュニケーションのコツみたいなものがあったら教えていただきたいです。
米田 私は色々な人の話を聞くこと、自分が知らない考えを持っている人の話を聞くことが好きなんです。なので、コミュニケーションを取らなきゃというよりは、知らない考えを聞きたいな、というふうに思っています。
コミュニケーションを取るのが難しいなって思う方は、いらっしゃると思います。それに、そういった瞬間は、誰しもあると思うんですね。ですが、自分の中で「とてもいいな」と思える瞬間に、ネットでの情報以外のリアルな反応の声を実際に聞くと、ほっこりしたりすると思うんです。
それに、笑顔でこうね、お互いに向き合って話すからこそ、自分も感情を出せたり、自分の思いも聞いてもらえたりする側面があると思うので、そういうところを大事にしていってほしいなと思います。
諏訪 私は、実は以前はそれほどコミュニケーションが得意だとは思わなかったんですよね。特に若い時はそうでした。ただ、前の職のときに「この仕事は人が好きじゃないとできない」というようなことを言われたことがあって、「ああ、そうか」と思いました。
前職は仕事柄、色々な人と話す機会があって、話していくと、意外と面白いんだなと気づきました。それぞれの人にそれぞれのストーリーがあって、思わぬ興味や趣味を持っていたりして「人って本当に面白いんだな」とあるとき思い始めたんですよね。それで人と話すことが何となく好きになって、今に至ります。
今、振り返ってみると、色々な人と話すことが重要だったのかなと思います。自分の場合は、それを自ら進んでやったというよりは、何となく強制的にやらざるを得なかったのですが、結果としてそれがよかったのだなというふうに思っています。
◇ ◇ ◇
米田さんはいつも前向きで、その言葉や頑張っている姿を見せることで私たちにパワーをくれます。宇宙飛行士認定の記者会見では、「友人に『おめでとう』と同時に『私自身も頑張らなきゃな』と言われて嬉しかった。自分の行動が誰かの力になっているんだと改めて感じた」と目を輝かせていました。
一方、諏訪さんは、子どもたちへのメッセージで「自分もそうだったが、何も興味を持てないような時期もあると思う。そういうときは頑張らずに、なんとなく色々とやっているうちに、夢中になれるものが見つかってくると思う」と伝えたことがありました。今回のコミュニケーションの話でも「自分は決して特別ではない。流れに乗っているうちに良い結果が得られることもある」というような、一般の人に寄り添った視点が印象的でした。
2人は11月から、初めてのミッションの決定を待ちながら、NASA(アメリカ航空宇宙局)のジョンソン宇宙センターで新たな訓練「プリアサイメント訓練」を開始します。参加ミッションが決まれば「アサインド訓練」が始まり、2️年ほど続く見込みです。次にメディアの前に現れるときは、米田さん、諏訪さんとも、さらにたくましく、魅力的な宇宙飛行士になっていることでしょう。今から楽しみです。
正式な認定を受けた2日後、10月23日に記者会見に応じた2人 筆者撮影
<宇宙飛行士訓練に活かされた過去の経験、月・火星探査時代の地球科学の役割、そのコミュニケーション力はどこから? 宇宙飛行士に認定されたばかりの2人に独自インタビューで聞いた>
先月21日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士候補だった米田あゆさん(29)と諏訪理さん(47)が宇宙飛行士として正式に認定されました。
JAXA宇宙飛行士は、候補を決める選抜試験に通ったからといって、すぐに認定されるわけではありません。科学知識や各国の宇宙開発プログラムに関する座学、航空機の操縦や地学のフィールドワークといった実技など多岐にわたる基礎訓練を1年半~2年間ほど受けます。基礎訓練修了後、審査委員会が総合的に判断し、宇宙飛行士の要件を満たすと認めた場合に宇宙飛行士の認定が得られます。
晴れて認定を受けた直後の米田さん、諏訪さんに、独自インタビューを行いました。前編では「宇宙での実験を自分でデザインできるとすれば、何をやりたいか」「宇宙開発におけるAIと宇宙飛行士の棲み分けや、宇宙飛行士が人間である意義」などを質問し、2人の回答を紹介しました。
後編となる今回は、「過去の意外な経験が宇宙飛行士訓練に活かされたエピソード」「月・火星探査時代の地球科学の役割とは?」「なぜ米田さん、諏訪さんはそんなにコミュニケーション力があるの?」などについて、話を聞いていきます。
◇ ◇ ◇
──宇宙飛行士認定の記者会見では、基礎訓練についても語ってくださいました。それで思い出したのですが、今年の東大の入学式の祝辞で、米田さんが「コネクティング・ザ・ドッツ(Connecting the dots:「過去の経験が予想外の形で活かされたこと」の比喩)」というスティーブ・ジョブズの言葉を引用されていたのがとても印象的でした。おふたりが基礎訓練中に、「過去の経験が思いもよらない形で活かされたな」と思ったエピソードがあったらぜひ教えてください。
米田 私、実は幼少期に水泳をやっていて、特にシンクロナイズドスイミング(現在はアーティスティックスイミングに改称)をやっていた時期があったんですね。当時はもちろん、宇宙飛行士になることとはまったく結びついていなかったのですが、(宇宙飛行士の基礎訓練中の)水泳訓練で「不時着して海に落ちたときに生き延びるために、立ち泳ぎをしなきゃいけない」というものがあったんです。宇宙服を着て立ち泳ぎを15分したのですが、本当にもう、小学校当時の技術がそのままそっくり役立って、全然余裕と言いますか、「昔の感覚を思い出すな」っていう感じで、「まさかここでそれが活きてくるのか」と思いました。
──たしか、立ち泳ぎの訓練のときに、おふたりでロシア語を話しながら頑張ったんですよね。
諏訪 よくご存じですね。
──半年くらい前の記者会見で、私が「訓練中に2人で助け合ったエピソード」を質問したら、諏訪さんが「立ち泳ぎの時、『喋っていたほうが気が紛れるし、語学の練習にもなるから』と提案して2人でロシア語を話し続けたら、あっという間に終わった」と教えてくださったんですよ。
諏訪 ああ、私が言っていましたか。
米田・諏訪 (顔を見合わせて大笑いする)
──ロシア語のエピソードは、とても印象に残っています。諏訪さんは今の質問についてはいかがですか。
諏訪 スティーブ・ジョブズは、カリグラフィーと(マッキントッシュの)フォントを結びつけたという、ドラマチックな話があったと思います。私は、ドラマチックではないのですが、科学の基礎訓練で科学者や技術者の方と話す中で「自分が大学院で研究をしてきた経験が役に立っているな」と思ったことがありました。
それは内容というよりも「どういうプロセスを経るか」、例えば「研究方向をデザインして実験をしてまとめていく」という彼らの考え方の作法みたいなものを理解するのに、非常に手助けになったという感触を持ちました。
それから、前職(世界銀行)では日常茶飯事にやっているルーティンがありました。例えば、会議を設定して色々な人と話し合って何か結論を出して先に進める。出張に行くと、その国の官庁に訪問して、何かしら技術的なディスカッションをする。そんな中で、自分の専門とはちょっと違う分野の技術的な会話をすることも結構あって、その経験も基礎訓練に役に立ったなと思います。
というのも、(宇宙飛行士の訓練で)自分の専門ではないことばかりを教わる中で、どんな質問をして、どういうふうに議論を深めていくのかと考えたときに、やっぱり前職のそういった経験が活かされているのかなって、脳裏をよぎりました。
米田 すみません、今、思い出したのですが、パラボリックフライト(※放物線飛行:航空機を使って擬似的な無重力[厳密には微小重力]状態を作る)で無重力の中で回転するときも、すごく(シンクロナイズドスイミングをしていた)当時の感覚が呼び起こされました。
──ということは、米田さん、無重力では無敵なんじゃないですか。
米田 そうですかね、って、(宇宙に)行ってみないとまだ分からないですが。もう一つ、例を出せたなと思って。
──付け加えていただいてありがとうございます。
諏訪 パラボリックフライトは何人かでやったのですが、米田さんの身のこなしみたいなのは、すごい上手でしたね。そういう秘密があったんだって、今、知りました。
──諏訪さんは、無重力での自分の感覚はいかがでしたか。記者会見のとき、一番印象に残った訓練としてパラボリックフライトを挙げていらっしゃいましたが。
諏訪 いやあ、何となくかっこよく動いているつもりだったんですけれど、後でビデオ見たら、なんかビクビクしている人が何かをしているなって感じだったので、やっぱりまだまだ慣れる必要があるのかなっていう気がしましたね。
インタビューも和気藹々とした雰囲気に 筆者撮影
──次に「地学」について、おふたりにそれぞれ伺います。まず、諏訪さんは地球科学、特に地質学や気象科学がご専門です。これまでの宇宙飛行士の活躍は、どちらかというと材料系や生物・医療系に偏っていたように思うのですが、地球科学分野に貢献する宇宙飛行士の未来像をどのように描かれていますか。
諏訪 2つあると思っています。まず、宇宙探査の時代になって、宇宙に実際に行って何かをする時、地球科学、惑星科学はこれからフォーカスすべき分野の1つになっていきます。地球上の研究者と話し合いながら、彼らの目となり手となる、つまりサンプルを持って帰ってきたり、その場で解析したりということが行われていくと思います。そのとき、地球科学のバックグラウンドを持った人には、一定水準の役割があると思います。
そして今後、宇宙開発をますます地球規模課題の解決に結びつけていかなければいけないというところもあると思うんです。
大きな地球規模課題、例えば防災や気候変動対策は、自然科学だけで解けるものではなく、社会科学的な知見なども全部統合的に考えながらソリューションを考えていかなければいけないのですけれども、その中で地球科学の各々の知識はやっぱり非常に役に立ちます。
地球と宇宙という2つのファクターを、地球上の問題解決にどう活かしていけるのか考えていくところに、地球科学をバックグラウンドに持った宇宙飛行士が果たすべき役割があるのかなと思っています。
──米田さんに伺います。JAXAは月・火星探査時代を見据えて、今回の基礎訓練から地学を充実させました。医学がバックグラウンドの米田さんにとって、地質学巡検(※野外での実地調査)などはおそらく初めての経験だったと思うのですが、自分だからこそ地学をこういう新鮮な観点で見られたということがあったら教えてください。
米田 巡検はすごく新しい経験で、いろいろと発見がありました。色々な石や岩があって、1つの石にそんなにたくさんの知見があるんだな、その知見からさらにストーリーが広がっていくんだな、というようなことを学ぶことができました。
また、地学の知識を教えてもらうことで、その知識を持った状態で探すとこれまでとは違ったところに目線がいったり、新しい感覚でこれはどうなんだろうとアンテナを張ったりすることができました。「学んで、かつアンテナを伸ばす」っていうことが巡検では大事なんだなっていうふうに思いましたね。
──最後の質問です。JAXA職員の方々に「おふたりのどこが一番すごいですか」と尋ねると、「優秀で飲み込みが早いのは当然として、一番素晴らしいのは高いコミュニケーション能力だ」と皆さんおっしゃいます。なので、「人とコミュニケーションをとる上で、意識していることは何か」を伺いたいです。また、最近は特に若者で「コミュニケーションって、ちょっと難しいな」とか「人と接するのは面倒くさいな」と感じる方が多いと聞きます。そういう方たち向けに、アドバイスやコミュニケーションのコツみたいなものがあったら教えていただきたいです。
米田 私は色々な人の話を聞くこと、自分が知らない考えを持っている人の話を聞くことが好きなんです。なので、コミュニケーションを取らなきゃというよりは、知らない考えを聞きたいな、というふうに思っています。
コミュニケーションを取るのが難しいなって思う方は、いらっしゃると思います。それに、そういった瞬間は、誰しもあると思うんですね。ですが、自分の中で「とてもいいな」と思える瞬間に、ネットでの情報以外のリアルな反応の声を実際に聞くと、ほっこりしたりすると思うんです。
それに、笑顔でこうね、お互いに向き合って話すからこそ、自分も感情を出せたり、自分の思いも聞いてもらえたりする側面があると思うので、そういうところを大事にしていってほしいなと思います。
諏訪 私は、実は以前はそれほどコミュニケーションが得意だとは思わなかったんですよね。特に若い時はそうでした。ただ、前の職のときに「この仕事は人が好きじゃないとできない」というようなことを言われたことがあって、「ああ、そうか」と思いました。
前職は仕事柄、色々な人と話す機会があって、話していくと、意外と面白いんだなと気づきました。それぞれの人にそれぞれのストーリーがあって、思わぬ興味や趣味を持っていたりして「人って本当に面白いんだな」とあるとき思い始めたんですよね。それで人と話すことが何となく好きになって、今に至ります。
今、振り返ってみると、色々な人と話すことが重要だったのかなと思います。自分の場合は、それを自ら進んでやったというよりは、何となく強制的にやらざるを得なかったのですが、結果としてそれがよかったのだなというふうに思っています。
◇ ◇ ◇
米田さんはいつも前向きで、その言葉や頑張っている姿を見せることで私たちにパワーをくれます。宇宙飛行士認定の記者会見では、「友人に『おめでとう』と同時に『私自身も頑張らなきゃな』と言われて嬉しかった。自分の行動が誰かの力になっているんだと改めて感じた」と目を輝かせていました。
一方、諏訪さんは、子どもたちへのメッセージで「自分もそうだったが、何も興味を持てないような時期もあると思う。そういうときは頑張らずに、なんとなく色々とやっているうちに、夢中になれるものが見つかってくると思う」と伝えたことがありました。今回のコミュニケーションの話でも「自分は決して特別ではない。流れに乗っているうちに良い結果が得られることもある」というような、一般の人に寄り添った視点が印象的でした。
2人は11月から、初めてのミッションの決定を待ちながら、NASA(アメリカ航空宇宙局)のジョンソン宇宙センターで新たな訓練「プリアサイメント訓練」を開始します。参加ミッションが決まれば「アサインド訓練」が始まり、2️年ほど続く見込みです。次にメディアの前に現れるときは、米田さん、諏訪さんとも、さらにたくましく、魅力的な宇宙飛行士になっていることでしょう。今から楽しみです。
正式な認定を受けた2日後、10月23日に記者会見に応じた2人 筆者撮影