ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<パソコンやタブレットを使った学習が一般化される今、「手書き」の効果が見直されている>
熾烈な受験戦争を勝ち抜くために、一度勉強したことを忘れずに知識として蓄積していく「記憶力」が大きな武器となることは、誰にとっても自明だろう。
知識を記憶に定着させるためには、ものごとのより深い理解が重要なわけだが、そのために「手で書く」ことがいかに有効であるかが、ハーバード大学の実験によって証明された。さらに「手で書く」ことに加え、あるポイントに着目すると、頭の中でよりロジカルに物事が整理され、体系的に記憶することが可能になることがわかった。
今回は韓国でロングセラーとなり、日本でも発売わずか2ヶ月で4刷の重版を重ねている『作文宿題が30分で書ける! 秘密のハーバード作文』(CCCメディアハウス)から、ライティング・コーチのソン・スッキ氏の解説を抜粋して紹介する。
※本書からの抜粋第1回:【中学・高校受験】「4行でまとめろ」ハーバードで150年伝わる作文力を一気に底上げするスキル
※本書からの抜粋第2回:【中学・高校受験】「わかった気になる」オンライン学習の落とし穴...効率よく弱点を埋める勉強法
◇ ◇ ◇
作文は手で書くと上達する
みなさんの中には、パソコンやスマートフォン、タブレットの操作が得意な人もいることでしょう。「ハーバード大生みたいな1日10分ライティング」の毎日の練習も、そうしたデジタルデバイスを使って書きたいと思うかもしれません。
ですが、ちょっと待って! この10分ライティングはぜひ、手書きで行ってほしいのです。ノートに手で書くことが、脳の活動を活発にするという研究結果があるからです。これを支持する面白い実験があります。
アメリカのインディアナ大学で心理学を教えているカリン・ジェームズ教授が、手書きで文字を書くことについて次のような実験をしました。まだ読み書きがあやふやな小さな子どもたちに、文字が書かれたカードを見せ、「紙に手で書かせる」「点線で描かれたりんかくをなぞらせる」「コンピュータにタイピングさせる」という3つの方法で、カードと同じように書いてもらったときの脳がそれぞれどれくらい活発になるのかを調べました。
その結果、紙に直接手書きした子どもたちの脳には、大人が読み書きするときと同じ部分が活発になる反応が見られたのです。
一方、ほかの2つの方法には、そうした反応はごくわずかであったり、見られなかったということです。こうしたことから、ジェームズ教授は、手で文字を書くことが子どもの脳を発達させるという結論を出しました。
作文を手書きする場合は、漢字や送りがななどの言葉の成り立ちや、文字のバランスまで考えています。こうしたことまで気を配るため、手書きのほうがはるかに脳が鍛えられるというわけです。
ハーバード大学の学生たちはどんな勉強をしているのか
ハーバード大学の学生1人が卒業するまでに書いたエッセイ用紙を集めて重さを量ると、A4サイズの用紙の総重量が50キログラムにもなるそうです。大学生の彼らもたくさんのライティングの宿題をこなしているのですね。
学生たちは、その宿題のおかげで授業にも積極的に取り組めて、内容がしっかり理解でき、アイデアも浮かぶようになったと実感しています。また、ライティングの宿題を通して、新たな興味や面白さを見つけたという学生たちもいます。
書いて学ぶことに意義がある
ハーバード大学で心理学を学んでいる学生800人を対象に、次のような実験が行われました。
まず、Aグループの学生には、あるテーマに関する主な内容を教えた後で、そのテーマについて自由にエッセイを書いてもらいました。彼らは理解した内容に、たとえなどを交えながらオリジナルの文章を書きあげました。
一方、Bグループの学生には、同じテーマの主な内容をまとめたスライドを見せた後、その内容や事例をそのまま書き写してもらいました。さて、実験が始まるのはここからです。AB両グループの全員に対し、先ほどのテーマについてどの程度理解できているのか、テストを受けてもらいました。
すると、単に写し書きしただけのBグループの学生よりも、自分で文章にまとめたAグループのほうがずっと内容を理解していることがわかりました。その実験から2カ月後にもう一度同じような実験を行ってみても、やはりAグループの学生たちの学習効果のほうがずっと高かったのです。
また、こんな実験もあります。アメリカの科学学術雑誌『サイエンス』が、大学生を対象に、科学について書かれた短いテキストを5分間読んでもらう実験を行いました。
学生たちは3つのグループに分かれ、Aグループは試験勉強さながらにテキストをくり返し読み、Bグループは内容を図にまとめ、Cグループは読んだテキストについての短い感想文を書きました。
1週間後、この学生たちに、最初に読んだ短いテキストについてテストを行いました。成績優秀だったのはどのグループだったと思いますか? 結果は、Cグループが一番優秀で、続いてAグループ、Bグループの順だったのです。
研究グループは、この結果から、「読んだ内容を自分の言葉で新たに書き直すと、長く記憶に残りやすい」という答えを導き出しました。
この2つの大学の実験は、いずれも、学んだことを、自分の言葉にして誰かに説明することがもたらす学習の効果の高さを証明しています。
ユダヤ式の家庭教育、「ハブルータ学習法」
ユダヤ人は教育熱心なことで知られています。彼らの教育方法の中でも、「ハブルータ」と呼ばれる学習法が有名で、これは「お互いに教え合う」学習法です。
彼らは、「人に説明できなければ知らないことと同じ」と考えて、子どもたちには、教えることと同時に自分の言葉で説明させるようにすすめています。子どもたちはやがて、ほかの人たちにも説明できるようになり、学んだことを確実に自分のものにしていくのです。
先ほどの大学での実験でもわかったように、集めた情報を自分の言葉で文章にすることも同様の効果が期待できます。もしかしたら、それ以上かもしれません。なぜなら、書くためには、口で語るだけよりもずっと深く考え、もっときちんと理解していなければならないからです。そのようにして得た知識が長く記憶に残ることは間違いありません。
『作文宿題が30分で書ける! 秘密のハーバード作文』
ソン・スッキ[著] 岡崎暢子[訳]
CCCメディアハウス[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
ソン・スッキ
1965年生まれ。大韓民国を代表するライティング・コーチ。ソン・スッキ作文センター、アイデアウイルス代表。稼げるライティングソリューションを提供し、企業と個人のマーケティングコンサルティングを担う。慶熙大学にて国語国文を専攻し、卒業後は、放送局、広告代理店、新聞社、雑誌社、女性向けポータルサイト、出版社などで経験を積む。執筆活動歴35年、ライティング指導歴20年。『150年ハーバード式ライティングの秘密』は韓国で10万部のロングセラー。
<パソコンやタブレットを使った学習が一般化される今、「手書き」の効果が見直されている>
熾烈な受験戦争を勝ち抜くために、一度勉強したことを忘れずに知識として蓄積していく「記憶力」が大きな武器となることは、誰にとっても自明だろう。
知識を記憶に定着させるためには、ものごとのより深い理解が重要なわけだが、そのために「手で書く」ことがいかに有効であるかが、ハーバード大学の実験によって証明された。さらに「手で書く」ことに加え、あるポイントに着目すると、頭の中でよりロジカルに物事が整理され、体系的に記憶することが可能になることがわかった。
今回は韓国でロングセラーとなり、日本でも発売わずか2ヶ月で4刷の重版を重ねている『作文宿題が30分で書ける! 秘密のハーバード作文』(CCCメディアハウス)から、ライティング・コーチのソン・スッキ氏の解説を抜粋して紹介する。
※本書からの抜粋第1回:【中学・高校受験】「4行でまとめろ」ハーバードで150年伝わる作文力を一気に底上げするスキル
※本書からの抜粋第2回:【中学・高校受験】「わかった気になる」オンライン学習の落とし穴...効率よく弱点を埋める勉強法
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作文は手で書くと上達する
みなさんの中には、パソコンやスマートフォン、タブレットの操作が得意な人もいることでしょう。「ハーバード大生みたいな1日10分ライティング」の毎日の練習も、そうしたデジタルデバイスを使って書きたいと思うかもしれません。
ですが、ちょっと待って! この10分ライティングはぜひ、手書きで行ってほしいのです。ノートに手で書くことが、脳の活動を活発にするという研究結果があるからです。これを支持する面白い実験があります。
アメリカのインディアナ大学で心理学を教えているカリン・ジェームズ教授が、手書きで文字を書くことについて次のような実験をしました。まだ読み書きがあやふやな小さな子どもたちに、文字が書かれたカードを見せ、「紙に手で書かせる」「点線で描かれたりんかくをなぞらせる」「コンピュータにタイピングさせる」という3つの方法で、カードと同じように書いてもらったときの脳がそれぞれどれくらい活発になるのかを調べました。
その結果、紙に直接手書きした子どもたちの脳には、大人が読み書きするときと同じ部分が活発になる反応が見られたのです。
一方、ほかの2つの方法には、そうした反応はごくわずかであったり、見られなかったということです。こうしたことから、ジェームズ教授は、手で文字を書くことが子どもの脳を発達させるという結論を出しました。
作文を手書きする場合は、漢字や送りがななどの言葉の成り立ちや、文字のバランスまで考えています。こうしたことまで気を配るため、手書きのほうがはるかに脳が鍛えられるというわけです。
ハーバード大学の学生たちはどんな勉強をしているのか
ハーバード大学の学生1人が卒業するまでに書いたエッセイ用紙を集めて重さを量ると、A4サイズの用紙の総重量が50キログラムにもなるそうです。大学生の彼らもたくさんのライティングの宿題をこなしているのですね。
学生たちは、その宿題のおかげで授業にも積極的に取り組めて、内容がしっかり理解でき、アイデアも浮かぶようになったと実感しています。また、ライティングの宿題を通して、新たな興味や面白さを見つけたという学生たちもいます。
書いて学ぶことに意義がある
ハーバード大学で心理学を学んでいる学生800人を対象に、次のような実験が行われました。
まず、Aグループの学生には、あるテーマに関する主な内容を教えた後で、そのテーマについて自由にエッセイを書いてもらいました。彼らは理解した内容に、たとえなどを交えながらオリジナルの文章を書きあげました。
一方、Bグループの学生には、同じテーマの主な内容をまとめたスライドを見せた後、その内容や事例をそのまま書き写してもらいました。さて、実験が始まるのはここからです。AB両グループの全員に対し、先ほどのテーマについてどの程度理解できているのか、テストを受けてもらいました。
すると、単に写し書きしただけのBグループの学生よりも、自分で文章にまとめたAグループのほうがずっと内容を理解していることがわかりました。その実験から2カ月後にもう一度同じような実験を行ってみても、やはりAグループの学生たちの学習効果のほうがずっと高かったのです。
また、こんな実験もあります。アメリカの科学学術雑誌『サイエンス』が、大学生を対象に、科学について書かれた短いテキストを5分間読んでもらう実験を行いました。
学生たちは3つのグループに分かれ、Aグループは試験勉強さながらにテキストをくり返し読み、Bグループは内容を図にまとめ、Cグループは読んだテキストについての短い感想文を書きました。
1週間後、この学生たちに、最初に読んだ短いテキストについてテストを行いました。成績優秀だったのはどのグループだったと思いますか? 結果は、Cグループが一番優秀で、続いてAグループ、Bグループの順だったのです。
研究グループは、この結果から、「読んだ内容を自分の言葉で新たに書き直すと、長く記憶に残りやすい」という答えを導き出しました。
この2つの大学の実験は、いずれも、学んだことを、自分の言葉にして誰かに説明することがもたらす学習の効果の高さを証明しています。
ユダヤ式の家庭教育、「ハブルータ学習法」
ユダヤ人は教育熱心なことで知られています。彼らの教育方法の中でも、「ハブルータ」と呼ばれる学習法が有名で、これは「お互いに教え合う」学習法です。
彼らは、「人に説明できなければ知らないことと同じ」と考えて、子どもたちには、教えることと同時に自分の言葉で説明させるようにすすめています。子どもたちはやがて、ほかの人たちにも説明できるようになり、学んだことを確実に自分のものにしていくのです。
先ほどの大学での実験でもわかったように、集めた情報を自分の言葉で文章にすることも同様の効果が期待できます。もしかしたら、それ以上かもしれません。なぜなら、書くためには、口で語るだけよりもずっと深く考え、もっときちんと理解していなければならないからです。そのようにして得た知識が長く記憶に残ることは間違いありません。
『作文宿題が30分で書ける! 秘密のハーバード作文』
ソン・スッキ[著] 岡崎暢子[訳]
CCCメディアハウス[刊]
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ソン・スッキ
1965年生まれ。大韓民国を代表するライティング・コーチ。ソン・スッキ作文センター、アイデアウイルス代表。稼げるライティングソリューションを提供し、企業と個人のマーケティングコンサルティングを担う。慶熙大学にて国語国文を専攻し、卒業後は、放送局、広告代理店、新聞社、雑誌社、女性向けポータルサイト、出版社などで経験を積む。執筆活動歴35年、ライティング指導歴20年。『150年ハーバード式ライティングの秘密』は韓国で10万部のロングセラー。