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「またトラ」でウクライナ停戦が成立すれば、北朝鮮兵が平和維持軍に?

ニューズウィーク日本版 2024年11月12日 16時0分

河東哲夫
<トランプはウクライナ戦争を「1日で止める」と豪語するが、西側が停戦を望んでいることは明らかだ>

今は日本もドイツもフランスも、少数与党政権の時代。アメリカのドナルド・トランプも、黒人やヒスパニック層に支持を広げて大勝した点では、白人主導の寄せ集め政権のようなもの。トランプは独裁的だ、と言っても、多くの層から手広く票を集めたのなら、それはもう民主主義(もしかするとポピュリズム)。議会も最高裁も共和党支配、とあっては、アメリカ、いやそれどころか世界はこれからトランプの「民主独裁」となる。

彼は、世界の物事を大国、強い勢力との談合でさばいていくだろう。パレスチナやウクライナ、そしてもしかすると台湾といった弱者は、容赦なくしわ寄せを食らう。

1981年1月20日、ロナルド・レーガンの大統領就任式のまさにその日、イランはそれまで444日にわたって人質としていたアメリカ大使館員52人を解放した。トランプは大統領選挙中から、「自分が大統領になったら、ウクライナ戦争は1日で止めてみせる」と豪語してきたが、このイランの例も彼の念頭にはあるだろう。

停戦は戦線が膠着し、戦う双方が消耗かつ周辺からの支援が切れそうなときに成立する。50年6月に始まった朝鮮戦争は、53年3月のスターリン急死で停戦の動きが本格化し、7月に休戦協定が結ばれた。

アメリカなどの論壇は、「もしトラ」を想定し、その場合の停戦の在り方を議論してきた。いろいろあるし、どれも今のところ絵に描いた餅だが、例えば10月28日付フィナンシャル・タイムズは、停戦した上で戦線一帯を非武装地帯とし、その周辺のロシア、ウクライナ領の双方に「自治地域」を創設することを提案している。

政権最大のリスクは金融恐慌

このようなやり方が、すんなり通るとは思えない。ウクライナでは極右勢力の抵抗が強まるだろう。ロシア領内への攻撃、軍事クーデターもあり得る。もし停戦が成立すれば、これまでは戦争中だからということで延期されてきた大統領選挙が行われ、支持率の落ちているゼレンスキーは交代だ。もっとも、彼に代わることのできる有力な勢力は見えないし、ウクライナ国内情勢は荒れるかもしれない。

それでも、西側が停戦を望んでいることは明らかだ。そこで、北朝鮮兵を平和維持軍として境界のロシア側に駐留させてはどうか。ロシアの実質的な傭兵という屈辱的な条件で犬死にするのとは大違い。金正恩(キム・ジョンウン)総書記も、ミサイル技術や食料品との引き換えに人民の命を差し出したという後世の非難から逃れることができる。ただそのためには、朝鮮半島で核不使用を宣言するなど、何らかの「代償」を払わなければ、西側の同意は得られないが。

ロシアのプーチン大統領は、トランプの再登場に合わせるかのようにシグナルを送った。11月5日にクレムリンで新任の大使ら28人から信任状の奉呈を受けた際、「ロシアは西側と対決することを望んでいるわけではない。可能な分野では協力を続けていきたい」というようなことを述べている。28人の中には、12人もの「非友好国」(ロシア制裁に加わった諸国)の大使らも居並んでいた。

米一極支配は、世界の諸方にしわ寄せを生む。国内ではトランプに擦り寄る有象無象が汚い利権合戦を繰り広げるだろう。しかし最大のリスクは、放漫財政が金利の上昇と不良債権の増大を招き、金融恐慌を起こすことだ。それで世界に展開した米軍の維持ができなくなれば、軍が崩壊して短期間で消滅した西ローマ帝国の事例がよみがえる。

好事魔多し。トランプには勝ってかぶとの緒を締めてもらいたい。

Footage claimed to show Hundreds of North Korean Soldiers training at a Russian Military Base near the City of Sergeyevka in the Primorsky Krai Region of Eastern Russia, which is roughly 100 Miles from Russia's Small Land-Border with North Korea. pic.twitter.com/AxZ0Um48V8— OSINTdefender (@sentdefender) October 18, 2024 ロシアで訓練を行う北朝鮮兵とされる映像

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