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韓国・尹錫悦大統領に迫る静かなる危機と、それを裏付ける「レームダック指数」とは

ニューズウィーク日本版 2024年11月13日 13時2分

木村幹
<日本の石破政権大敗、北朝鮮のウクライナ派兵、そしてアメリカではトランプ再選......北東アジアをめぐる地域情勢は風運急を告げているが、唯一無風に見えるのが韓国。しかし、尹錫悦大統領の政治基盤は急速に揺らいでいる>

日本で石破新政権が総選挙で大敗し、アメリカではトランプ前大統領がハリス副大統領を破って大統領再選を決めた。北朝鮮によるロシア・ウクライナ戦争への派兵ももはや明らかであり、北東アジアをめぐる国際情勢は急速に動いているように見える。

さて、急激に変化する地域情勢の中で、一見すると韓国だけはその大きな荒波から逃れているように見える。大統領制を採用する韓国で、大統領の弾劾には重大な違法行為の認定と、国会における3分の2の賛成、さらにはこの弾劾に対する憲法裁判所の承認が必要──という極めて高いハードルが設けられている。だからこそ、一見大統領の地位が不安定に見える韓国で、在任中にこの規定により弾劾・解任されたのは2017年の朴槿恵(パク・クネ)ただ1人になっている。韓国では27年3月の大統領選挙まで大規模な国政選挙は予定されておらず、尹錫悦(ユン・ソンニョル)の地位は安泰に見える。

とはいえ、そこには大きな不安要素もある。大統領制という強固な壁に守られた韓国の大統領であるが、他方で任期末期になると求心力を失い、レームダック化することもよく知られている。理由は単に支持率が低下し、野党からの批判が激しくなるだけでなく、低支持率に苦しむ大統領を負担に感じる与党が大統領を切り捨てようとするからである。イデオロギー的分断が続く韓国で、野党は常に政府と激しい対立状況にあり、これに加えて与党も反旗を翻せば、大統領は法律案も予算案も通せなくなる。

尹大統領の「レームダック指数」

それでは、現在の与党にとって尹大統領の低支持率はどれほど大きな負担になっているのだろうか。ここで仮に「大統領の支持率マイナス与党の支持率」を「レームダック化指数」と呼んでみたい。この数字が大きくプラスであれば、与党議員は人気のある大統領への支持を利用して自らの支持率底上げを期待できる。逆にこの数字がマイナスであれば、与党議員の支持率は不人気な大統領から悪影響を受ける。だからこそ、選挙の際には人気のある指導者を担ぎ出す必要があり、他方、人気のない指導者は早期に追い出したほうがよい、となる。

それでは現在の尹と与党の状況はどうなっているのか。世論調査会社リアルメーターによると、10月第5週の尹の支持率は22.4%。民主化後の政権の支持率として、同時点での支持率が最も低かった盧泰愚政権に近い水準になっている。それに対して、与党「国民の力」の支持率は依然29.4%を維持している。実は尹政権はその発足直後の極めて短い時期を除いて政権の支持率が与党を下回り、与党やその国会議員にとってお荷物に近い存在になっている。

国民の党代表の韓東勲に決断の時迫る?

加えて支持者の動向を見ても、今年に入って最も支持率が高かった2月第4週を直近の10月第4週と比べてみると、支持率が20ポイント近くも落ちているのみならず、支持から不支持に転じた者の多くが自ら保守派を任じる人々であり、韓国の保守派を支えてきた60歳代以上の人々であることが分かる。例えば尹政権の政策運営を「良い」と答えた人の割合は、保守派を任ずる人の中で22.1ポイントも減少している。高齢者の支持も60代が24.7ポイント、70代以上が19.5ポイントも減少しており、この数字は弾劾直前の朴に匹敵する。

こうしてみると、韓国の保守派は深刻な危機に直面している。高齢者を中心とした「岩盤支持層」に支えられてきた尹政権と保守与党は協力して自らへの支持を立て直すことができるのか。朴の時のように、不人気な大統領を切り捨てるべく野党と共に弾劾という高い壁を乗り越えることを目指すのか。国民の党代表の韓東勲(ハン・ドンフン)に決断の時が迫りつつある、のかもしれない。



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