村上尚己
<トランプ氏の掲げる経済政策は米国の成長率、インフレ率にどう影響するか? 米国株式市場は今後も堅調な成長が見込まれるだろう>
11月5日に投開票された米国大統領選で、共和党のドナルド・トランプ氏は312人の選挙人を獲得、226人だった民主党のカマラ・ハリス副大統領に大差をつけた。
こうした中で、議会選挙については、米国のメディアは下院で過半数の218議席を共和党が確保しそうだと報じており、上下両院ともに共和党が押さえる、「レッドスイープ」(トリプルレッド)となる見込みである。
2025年からの2年間はレッドスイープとなる中で、米国経済はどうなるか。トランプ氏が掲げる経済政策の中で、経済成長率やインフレ率に直接影響するのは、関税引き上げ、減税や歳出拡大などの財政政策である。
関税引き上げ政策については、中国からの輸入品には60%、それ以外の国からの輸入品には10%(もしくは20%)関税を引き上げる考えをトランプ氏は掲げている。実際にどの程度の関税引き上げが行われるかは、財務長官などの閣僚人事などで「本気度合い」が分かってくるだろう。
ただ、トランプ氏が得意とするディールの手段として使われることを踏まえると、関税引き上げ率は、上記で示した半分程度で収まると筆者は予想している。
財政政策による押し上げ効果と関税引き上げによる押し下げ効果が相殺
関税引き上げ金額はトランプ氏の主張の一部が引き上げられ米国GDPの0.8%に相当すると予想されるが、これが輸入価格上昇などを通じて、実質経済成長率を0.6%程度押し下げるとみられる。
一方で、トランプ政権と議会を支配する共和党は、法人税などの減税で成長率を支える政策を打ち出す見込みである。トランプ減税の延長は追加的な減税ではなく景気刺激策にはならない。それ以外のトランプ氏が提唱する拡張的な財政政策も全ては行われずに、GDP対比0.8%程度に相当する追加的な財政政策を繰り出すと予想される。
つまり、拡張的な財政政策による押し上げ効果と、関税引き上げによる押し下げ効果がほぼ相殺するため、経済全体ではGDP全体に及ぼす影響は、0.2%と若干のプラスになるだろう。トランプ政権による財政政策で、経済成長率やインフレ率が大きく押し上げられないし、財政赤字が大きく拡大するとは予想されない。
一方で、減税政策が選択されることが示すように、環境政策の分野で介入的な政策が目立つ民主党政権とは対照的に、トランプ政権は規制緩和など民間の経済活動を支援する政策を重視するだろう。
金融業などへの規制緩和、国内エネルギー採掘の促進など、関連する産業における成長期待は高まり易く、今後も最高値更新を続ける株高を下支えし続けるだろう。
トランプ政権の経済政策は、米国の経済成長率に若干のプラスに作用するので、2025年以降も2%を上回る底堅い経済成長が続くと予想される(一方で、中国などは関税引き上げの悪影響を受けて経済減速がより鮮明になる。米経済が堅調でも、世界経済全体では若干マイナスの影響が及ぶ可能性が高いが、この点は別の機会に議論したい)。
インフレ率は2025年半ばから足踏み、米長期金利は高止まりが続く
トランプ政権の政策による米国経済成長率への影響は僅かだが、輸入関税引き上げによって、消費者物価は約0.4%押し上げられると予想される。関税引き上げによる価格上昇は一時的な影響だが、2%台半ばまで順調に減速してきたコアインフレ率の収束は、2025年半ばから足踏みするだろう。
このため、利下げを続けるFRB(米連邦準備理事会)は、2025年半ばから利下げ見送りに転じ、政策金利は4%付近で高止まりすると見込まれる。
既にトランプトレードとして、米国の債券市場では長期金利の上昇が続いていたが、大統領選挙の結果が判明した直後には4.4%台に上昇した。トランプ政権の政策への思惑で、FRBの利下げペースが緩やかになるとの期待が当面続くため、米長期金利の高止まりが続くと見込まれる。
米経済の堅調な成長が続き、米長期金利が大きく低下しないことは、日本経済にとって追い風だ。
一方、ドル円の値動きについては、日本銀行の政策対応への期待が今後強まる。筆者が想定するどおりに12月会合において日銀が追加利上げを行うとすれば、米日金利差の緩やかな縮小が明確になる。このため、ドル円は2025年にかけて140円台に徐々に円高に向かう、と筆者は予想している。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)
<トランプ氏の掲げる経済政策は米国の成長率、インフレ率にどう影響するか? 米国株式市場は今後も堅調な成長が見込まれるだろう>
11月5日に投開票された米国大統領選で、共和党のドナルド・トランプ氏は312人の選挙人を獲得、226人だった民主党のカマラ・ハリス副大統領に大差をつけた。
こうした中で、議会選挙については、米国のメディアは下院で過半数の218議席を共和党が確保しそうだと報じており、上下両院ともに共和党が押さえる、「レッドスイープ」(トリプルレッド)となる見込みである。
2025年からの2年間はレッドスイープとなる中で、米国経済はどうなるか。トランプ氏が掲げる経済政策の中で、経済成長率やインフレ率に直接影響するのは、関税引き上げ、減税や歳出拡大などの財政政策である。
関税引き上げ政策については、中国からの輸入品には60%、それ以外の国からの輸入品には10%(もしくは20%)関税を引き上げる考えをトランプ氏は掲げている。実際にどの程度の関税引き上げが行われるかは、財務長官などの閣僚人事などで「本気度合い」が分かってくるだろう。
ただ、トランプ氏が得意とするディールの手段として使われることを踏まえると、関税引き上げ率は、上記で示した半分程度で収まると筆者は予想している。
財政政策による押し上げ効果と関税引き上げによる押し下げ効果が相殺
関税引き上げ金額はトランプ氏の主張の一部が引き上げられ米国GDPの0.8%に相当すると予想されるが、これが輸入価格上昇などを通じて、実質経済成長率を0.6%程度押し下げるとみられる。
一方で、トランプ政権と議会を支配する共和党は、法人税などの減税で成長率を支える政策を打ち出す見込みである。トランプ減税の延長は追加的な減税ではなく景気刺激策にはならない。それ以外のトランプ氏が提唱する拡張的な財政政策も全ては行われずに、GDP対比0.8%程度に相当する追加的な財政政策を繰り出すと予想される。
つまり、拡張的な財政政策による押し上げ効果と、関税引き上げによる押し下げ効果がほぼ相殺するため、経済全体ではGDP全体に及ぼす影響は、0.2%と若干のプラスになるだろう。トランプ政権による財政政策で、経済成長率やインフレ率が大きく押し上げられないし、財政赤字が大きく拡大するとは予想されない。
一方で、減税政策が選択されることが示すように、環境政策の分野で介入的な政策が目立つ民主党政権とは対照的に、トランプ政権は規制緩和など民間の経済活動を支援する政策を重視するだろう。
金融業などへの規制緩和、国内エネルギー採掘の促進など、関連する産業における成長期待は高まり易く、今後も最高値更新を続ける株高を下支えし続けるだろう。
トランプ政権の経済政策は、米国の経済成長率に若干のプラスに作用するので、2025年以降も2%を上回る底堅い経済成長が続くと予想される(一方で、中国などは関税引き上げの悪影響を受けて経済減速がより鮮明になる。米経済が堅調でも、世界経済全体では若干マイナスの影響が及ぶ可能性が高いが、この点は別の機会に議論したい)。
インフレ率は2025年半ばから足踏み、米長期金利は高止まりが続く
トランプ政権の政策による米国経済成長率への影響は僅かだが、輸入関税引き上げによって、消費者物価は約0.4%押し上げられると予想される。関税引き上げによる価格上昇は一時的な影響だが、2%台半ばまで順調に減速してきたコアインフレ率の収束は、2025年半ばから足踏みするだろう。
このため、利下げを続けるFRB(米連邦準備理事会)は、2025年半ばから利下げ見送りに転じ、政策金利は4%付近で高止まりすると見込まれる。
既にトランプトレードとして、米国の債券市場では長期金利の上昇が続いていたが、大統領選挙の結果が判明した直後には4.4%台に上昇した。トランプ政権の政策への思惑で、FRBの利下げペースが緩やかになるとの期待が当面続くため、米長期金利の高止まりが続くと見込まれる。
米経済の堅調な成長が続き、米長期金利が大きく低下しないことは、日本経済にとって追い風だ。
一方、ドル円の値動きについては、日本銀行の政策対応への期待が今後強まる。筆者が想定するどおりに12月会合において日銀が追加利上げを行うとすれば、米日金利差の緩やかな縮小が明確になる。このため、ドル円は2025年にかけて140円台に徐々に円高に向かう、と筆者は予想している。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)