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習近平は「総書記」と「国家主席」どちらが正しいのか?...中国政治システムの「本音と建前」

ニューズウィーク日本版 2024年11月19日 16時40分

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<2018年には在任中に「総書記は2期まで」のルールを廃止。中国のトップ習近平は「総書記」なのか「国家主席」なのか──>

習近平国家主席は、実は表向きは最高権力者ではなく、建前上、共産党とは別の立法機関が存在するという。

二重構造とも言える中国の政治システムについて、外務省時代から今まで世界97カ国でさまざまな国の人とビジネスや交流を行ってきた山中俊之氏が解説する『教養としての世界の政党』 (かんき出版)より、一部を抜粋して紹介する(本記事は第2回)。

※第1回:なぜプーチンは長期政権を維持できるのか...意外にも、ロシア国内で人気が落ちない「3つの理由」


中国の最高権力機関は共産党ではないという事実

<中国の政治システム1「全人代」>

ニュースで報じられる習近平の肩書は「総書記」のこともあれば「国家主席」のこともあります。果たしてどちらが正しいのか──正解は「どちらも正しい」なのです。

国家主席は英語にするとPresidentなのに、「国家主席=最高権力者」ではありません。そこに中国の政治システムの二重構造とも言える本音と建前の複雑さがあります。

「中国の政治システム=共産党のシステム」が実情なのですが、最高権力機関で立法機関は共産党とは別の全国人民代表大会(全人代)となっています。共産党とは別のシステムなので、さらっと押さえておきましょう。

全人代のメンバーを選出するためにまず行われるのが、地方自治体レベルの地方人民代表大会。直接選挙となっており、18歳以上なら誰でも投票できます。候補者は必ずしも共産党員である必要はありませんが、過半数は共産党員です。

全国規模の全人代は、5年に一度の間接選挙。すなわち、直接選挙で市民に選ばれた地方の人民代表が投票するのですが、全国の候補者ともなれば念入りに共産党が吟味した人物に限られています。

こうして選ばれた全人代の構成メンバーは中国の政府関係者、軍人、経営者から学者まで幅広く、3000人近くにもおよびます。毎年3月に共産党や各界代表者が集まる中国人民政治協商会議と同時期に北京にて開催されます。

この時期には全国から集まった代表者で北京のホテルは大混雑するのです。

実際には共産党が絶大な国家権力を掌握している

「全人代は最高権力機関であり、立法機関であり、国家主席を選出し、国家予算や政策を決定する」──こう書くと、「じゃあ、全人代は国会みたいなもの?」と思うかもしれません。

形式上はその通りです。「全人代」が国会のようなもので、ここから選出される「国務院」が行政を担う政府で、国務院を主宰するのが首相です。「国務委員」が首相を補佐するいわば閣僚です。

しかし、中国の政治システムでややこしいのは、国務委員は全人代(国会)の代表というわけではなく、共産党の指導を受けること。共産党が事実上、支配しているのです。

国会たる全人代で自由な討議が行われることはなく、議案を提出することもできません。立法も国家主席の選出も政策決定も軍事戦略も、すべて共産党の意向で決まります。

さらに全人代で選ばれる「国家主席」は、国家元首ですが、空席だったこともあるポスト。事実上の国の最高権力者は、共産党中央委員会の総書記なのです。

「国家元首のポジションが空洞なんてよくない!」と思ったのかどうか、江沢民(1926年〜2022年)と習近平は国家主席であり共産党総書記。ついでに言うと中央軍事委員会主席も兼務。つまり「ぜーんぶ私がやるので、ご安心を」とばかりに、絶大な国家権力を掌握していることになります。

合議制の常務委員にはある程度の意味がある

<中国の政治システム2「共産党中央委員会」>

さて、実際に国を動かしている共産党は、5年に一度「党大会」を開催。政治の中枢である「共産党中央委員会」のメンバーおよそ200名を決める “共産党の選挙” です。

中央委員会は党大会のすぐ後に “共産党のトップであり国の内閣” の役割である25人ほどの政治局員、その上のレイヤーである7人の政治局常務委員で、総書記を決める会議を行います。

その翌年に開かれる「全国人民代表会議」で国家主席が選出される──いやいや、事実上すでに決まっていて “出来レースでシャンシャンシャン” なわけですが──というプロトコルになっています。

2018年の憲法改正は、世界に衝撃を与えました。「常務委員は67歳が定年、総書記は2期まで」となっていたものの、「憲法を含むすべてのルールは事実上共産党の思いのまま」ですから、習近平総書記は在任中に「2期制をやめましょう」と改正。

総書記の座を守ったばかりか、側近で固めた常務委員の定年も事実上 “なし” になりました。

さらに2022年には、世界中が注目する中で、前総書記の胡錦濤が腕をつかまれて退場するという衝撃的なシーンもありました。

中国は儒教の国です。私も「何だかんだ言いつつも年上を尊重する文化が今でもある」と思っていただけに強い衝撃を受けました。健康上の理由と発表されましたが、「いや、無理矢理連れ出されたのだ」という意見もあり、真相は明らかにされていません。

現在の常務委員会は習近平総書記を含む7名で構成されており、この常務委員会の多数決で軍事、外交、内政など中国の全てが決まります。前述した国務院は、共産党常務委員会の指示に従って行政を行うというイメージです。

「常務委員会ねえ。3期目の習政権以降はメンバーは全員、彼の元部下みたいな人。そういうメンツでニュートラルな多数決になるわけがない」

これが一般的な評価だと思います。しかし、合議制になっているという意味では、常務委員には意味があると私は思っています。ロシアの「全てはプーチン大統領の頭の中」という独裁状態と比較すれば、少なくとも仕組みとしては極端なことが起きにくいと考えるためです。

政府のポジションより重要な共産党のポジション

「中国の政治家の序列は、何よりも共産党の序列なのだ」

改めて私が思ったのは、2023年7月。女性スキャンダルが報じられた秦剛外相が1カ月ほど公の場に姿を現さず、病気なのか軟禁されたのか、さまざまな噂が飛び交った時のことです。

中国では「外交部部長」と呼ばれる外務大臣といえば、どこの国でも最重要と言えるポジション。行方不明というのは大問題になってもおかしくないはずです。それなのに中国では、王毅前外務大臣が何事もないかのように代行を務めていました。

キャリア外交官だった秦剛は習近平の抜擢で駐米大使を経て外相になりましたが、共産党でのポジションは中央委員止まり。共産党の序列で言うと政治局員ですらない下っ端です。かたや外相を退いてから共産党の政治局局員になった王毅は、断然格上。

中国の政治においては、政府でのポジションより共産党内のタイトルが重要で、「共産党で偉い人=国でも偉い人」となります。

ちなみに外交の世界はカウンターパートが重要で、同じ序列の人間が会わないなら訪問しない、迎えないという暗黙のルールがあります。

たとえば2023年に米国のブリンケン国務長官が訪中した際、政治局員であるカウンターパートの王毅前外相が出迎えました。習近平総書記との会談もあったのは「米国を重視しています」というメッセージです。

ところが同年、日本の林外務大臣の訪中で対面したのは秦剛外相。ポジションは同じ “外務大臣同士” で、形式的にはカウンターパートになりますが実質的には格下、政治局員の王毅には出迎えられなかった──あの時期の中国にとって、日本はそんな存在だったということかもしれません。

二重構造でわかりにくい中国政治のさらにややこしいところは、政治家と官僚の線引きが曖昧な点です。

日本では「選挙で選ばれた政治家」と、「試験を受けて公務員になった官僚」は明らかに別です。たとえば外務省であれば、大臣、副大臣、政務官は政治家で、その外の人たちは公務員と線引きされていますが(たまに民間登用の大臣もいますが)、中国はそこが不明。

秦剛外相は選挙というものを一回も経験しないまま、国務院の公務員から外務大臣になりました。一方、共産党の全人代で選ばれた王毅前外相は、「国務院の外相」の座を退いてからも、依然として共産党政治局の “外交担当” のまま。

彼は「国務院(政府)の外務大臣よりも偉い、共産党政治局の外務担当者」という二重構造になっています。

共産党員でなくても閣僚になった人はいるといいますが、その活躍にはおそらく限界はあります。さらに上の政府高官を目指すなら、中国では共産党員であることが必須でしょう。

『教養としての世界の政党』
 山中俊之[著]
 かんき出版[刊]

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<著者プロフィール> 
山中俊之 
◉─著述家・コラムニスト。歴史、政治、芸術、宗教、哲学、ビジネスなどの視点から、世界情勢について執筆活動を展開。 

◉─1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年に外務省入省。エジプト、英国、サウジアラビアに赴任。対中東外交、地球環境問題、国連総会、首相通訳(アラビア語)を経験。エジプトでは庶民街でエジプト人家庭に下宿。外務省退職後、日本総研でのコンサルタントを経て、2010年株式会社グローバルダイナミクスを設立。世界各国の経営者・リーダー向け研修において、地球の未来を見据えたビジネスの方向性について日々活発な議論をしている。芸術文化観光専門職大学教授、神戸情報大学院大学教授。長崎市政策顧問として地域創生を支援。神戸市のボランティア団体で、ホームレス支援に従事。 

◉─2024年6月現在、全世界97カ国を訪問して、農村・スラムからミュージアム、先端企業まで徹底視察。大阪大学大学院国際公共政策博士、ケンブリッジ大学修士(開発学)、ビジネスブレークスルー大学院大学MBA、高野山大学修士(仏教哲学・比較宗教学)、京都芸術大学学士(芸術教養)など取得。リスキリングについても活発な提案をしている。 

◉─著書に、『「アート」を知ると「世界」が読める』(幻冬舎新書)、『「世界の民族」超入門』『世界5大宗教入門』(ともにダイヤモンド社)などがある。 

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