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大人の過剰な期待で日本の子どもたちが潰される

ニューズウィーク日本版 2024年11月13日 11時30分

舞田敏彦(教育社会学者)
<少子化で子どもの人口が急減する一方、大人たちは「一億総教育家」となって子どもに圧力をかける>

2024年度の『自殺対策白書』が公表された。それによると、2023年の小・中・高校生の自殺者は513人で、過去で2番目に多かったという。ニュースにもなったので、ご存じの人も多いだろう。

だがこれは2009年以降の推移によるもので、もっと長期のスパンで見るとどうか、という関心が持たれる。警察庁の原統計を見ると、1978年以降の10代の年間自殺者数が出ていて、最も多かったのが1979年の919人、その次が1978年の866人、3番目が2023年の810人となっている。

子ども人口の変化を考慮した自殺率にすると、事態の深刻化がより明瞭になる。1979年の10代人口は1688万人、2023年は1074万人。上記の自殺者数をこれで割って、10万人あたりの数にすると、前者が5.4人、後者が7.5人となる。子どもの自殺率は、70年代の頃よりも高い。同じ数値を各年について計算し、線でつないだグラフにすると<図1>のようになる。

およそ半世紀にわたる、子どもの自殺率の長期推移だ。1980年代までは、校内暴力や非行が多発し、生きづらさの捌け口が別の方向に向けられたためか、10代の自殺率は低下する。86年に山があるのは、命を絶ったアイドルの後追い自殺が多発したためだ。

しかし90年代になると増加に転じ、97年から98年にかけて急増する。大手の山一證券が倒産し、日本経済が急激に悪化したこと(98年問題)と重なっている。親が失職し、将来展望を閉ざされた子もいただろう。

その後、2000年代は凹凸がありながらも横ばいを続けるが、2010年代半ば以降うなぎ上りになる。年少の子どもにもスマホが行き渡るようになった時期で、SNSで自殺勧誘サイト等の有害情報に触れることが増えたためと言われる。

だがこれは行為を誘発する行為環境で、その前段には、子どもの生活態度の不安定化がある。経済状況の悪化やコロナ禍といった突発事情よりも、根底にあるものは何か。これを考える手がかりとなるのは、子どもの自殺動機だ。10代の自殺動機をみると、学業不振、親の叱責、親子関係の不和といったものが多い(「子どもを自殺に追い込む本当の動機は何か」本サイト、2024年7月3日)。学校でのいじめよりも、「毒親」の影がちらつく。

少子高齢化により、少なくなった子どもへの「期待圧力」が強くなっている。こうした状況のなか、親の養育態度にも歪みが起きやすくなっているのかもしれない(過干渉など)。単純なやり方だが、子どもと大人の人口量を比べることで、前者にかかる圧力の大きさを可視化できる<図2>。

1950(昭和25)年では、人口の年齢構成は下が厚いピラミッド型で、子どもと大人はほぼ半々だった。だが時代とともに子どもは少なくなり、大人がのしかかってくる。2000年では大人は子どもの4倍、現在では6倍、近未来では7倍となる。

上が厚い逆ピラミッドの年齢構成で、子ども1人に対し大人6~7人のまなざしが注がれるというのは、ある意味「脅威」だ。教育については、誰もが語れる。大人の多くは教育論議が好きで、下の世代の教育や学校について不平不満を言う。

教育産業も過剰になっていて、少なくなった子どもを奪い合うことに躍起だ。幼子がいる親を見つけては、「早期からの習い事、早期受験が大事だ」などと煽り、顧客に取り込もうとする。親の側も「1人しか持たないと決めた子だから」などと、我が子に鞭を打つ。子どもにこうした重圧がかかるようになっていることは、前述の子どもの自殺動機からも推測できる。

逆ピラミッドの年齢構成で、「一億総教育家」の社会になったら、子どもは窒息してしまう。放任になってはいけないが、「放っておいても子どもは育つ」という心構えも持ちたいものだ。

大人も、子どもの教育についてあれこれ言うばかりでなく、社会の変化にキャッチアップすべく、自身も絶えず学び続けないといけない。学習・啓発の実施率の年齢カーブを描くと、成人期以降は地を這う「L字型」になるのだが、これではとうてい「教育立国」は名乗れない。教育産業や大学も、今後は持てる資源を成人層に振り向けるべきだ。

<資料:警察庁『自殺の状況』>

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