トニー・ラズロ(ジャーナリスト、講師)
<スマホの使用ルールがはっきりしない日本の学校。海外ではガラケーやiPadを取り入れて私生活と学業のバランスを取る動きも出ている>
「スマートフォンが手放せないのよ」
久しぶりに会った小学生2人を育てている知人は表情を曇らせ、いきなり悩みを打ち明けた。一緒にいた子供たちに優しく「そうなの?」と聞いてみたが、子供は僕に視線を合わせず、ただ無言。普段は礼儀正しい子たちなのに、無視には驚いたが、よく見ると2人そろって何かに気が取られていることが分かった。その何かとは......まさにスマホだった。
10年前のわが子の小学生時代を振り返る。ドイツの首都ベルリンの公立学校に通わせたが、裕福な家庭の子を中心に、1、2年生からクラスメイトがスマホを持つようになっていた。うちはそれでもスマホ依存症を懸念して、長い間単純なフィーチャーフォン(日本でいうガラケー)を息子に持たせていた。
月日がたち、1年生が5年生に。その時点でスマホのない子はクラスの1割しかいなくなっていた。そのことを知って、「息子に気の毒なことをしているかも」と思っていたちょうどその時に、突然決断を強いられた。決め手となったのは、担任の先生が設けたクラス内のサポートネットワークだ。スマホを必要とするそのオンライン・グループチャットで生徒たちが毎日のように共同作業や宿題の確認などをするようになっていたので、参加できないガラケーの子は明らかに不利。それがきっかけで、ついにわが子もスマホデビューした。
それから、小学生のスマホ普及率は世界各国でさらに上昇している。と同時に、フランス、シンガポール、イタリア、オランダ、コロンビア、そしてイギリスをはじめとした多くの国で、学校でのスマホ利用の制限や禁止の動きが広がっている。
イギリスでは、特に名門男子校であるイートン校の取り組みが最近、話題を呼んでいる。政治、行政、ビジネスなど多方面で活躍するリーダーを輩出しているこのボーディングスクール(全寮制学校)は、なんと新入生(13歳)のスマホ持ち込みを完全禁止した上、代わりに昔ながらのガラケーを渡し、その使用を命じている。そして同時にインターネットにアクセスできるiPadも提供している。なぜこれら2つを?
「テクノロジーが学校にもたらすメリットと課題のバランスを取るためだ」と、学校は説明している。なるほど。「家族との連絡は電話で、勉強はタブレットで」という明確なサインを生徒に送ることで、デバイスを賢く差別化している。これはユネスコ(国連教育科学文化機関)が昨年の夏に打ち出した以下のガイダンスを意識したのかもしれない。
「Some technology can support some learning in some contexts(特定の技術が、特定の状況において、特定の学習支援をしてくれる)」「......but not when it is over-used or inappropriately used(......ただし過度に、または不適切に使用された場合には、そうした効果は期待できない)」
文部科学省のガイドラインはというと、小・中学校でスマホは「原則持ち込み禁止」という姿勢を示したものの、「個別の状況に応じてやむを得ない場合は例外的に認める」とも言及している。これは少し曖昧なのでは?
子供と連絡が取れるように、結局は「多くの親」が「例外的に」スマホの持ち込みを認めてもらいたいと思うのではないだろうか?
日本は今さら、イートン校のように生徒をガラケー時代に戻らせるわけにはいかない。でも、教育におけるデバイスの適切な使い方について、もう少し明確な指導方針を打ち出すといいだろう。「特定の技術が、特定の状況において、特定の学習支援をしてくれる」のだから。
トニー・ラズロ
TONY LÁSZLÓ
1960年、米ニュージャージー州生まれ。1985年から日本を拠点にジャーナリスト、講師として活動。コミックエッセー『ダーリンは外国人』(小栗左多里&トニー・ラズロ)の主人公。
<スマホの使用ルールがはっきりしない日本の学校。海外ではガラケーやiPadを取り入れて私生活と学業のバランスを取る動きも出ている>
「スマートフォンが手放せないのよ」
久しぶりに会った小学生2人を育てている知人は表情を曇らせ、いきなり悩みを打ち明けた。一緒にいた子供たちに優しく「そうなの?」と聞いてみたが、子供は僕に視線を合わせず、ただ無言。普段は礼儀正しい子たちなのに、無視には驚いたが、よく見ると2人そろって何かに気が取られていることが分かった。その何かとは......まさにスマホだった。
10年前のわが子の小学生時代を振り返る。ドイツの首都ベルリンの公立学校に通わせたが、裕福な家庭の子を中心に、1、2年生からクラスメイトがスマホを持つようになっていた。うちはそれでもスマホ依存症を懸念して、長い間単純なフィーチャーフォン(日本でいうガラケー)を息子に持たせていた。
月日がたち、1年生が5年生に。その時点でスマホのない子はクラスの1割しかいなくなっていた。そのことを知って、「息子に気の毒なことをしているかも」と思っていたちょうどその時に、突然決断を強いられた。決め手となったのは、担任の先生が設けたクラス内のサポートネットワークだ。スマホを必要とするそのオンライン・グループチャットで生徒たちが毎日のように共同作業や宿題の確認などをするようになっていたので、参加できないガラケーの子は明らかに不利。それがきっかけで、ついにわが子もスマホデビューした。
それから、小学生のスマホ普及率は世界各国でさらに上昇している。と同時に、フランス、シンガポール、イタリア、オランダ、コロンビア、そしてイギリスをはじめとした多くの国で、学校でのスマホ利用の制限や禁止の動きが広がっている。
イギリスでは、特に名門男子校であるイートン校の取り組みが最近、話題を呼んでいる。政治、行政、ビジネスなど多方面で活躍するリーダーを輩出しているこのボーディングスクール(全寮制学校)は、なんと新入生(13歳)のスマホ持ち込みを完全禁止した上、代わりに昔ながらのガラケーを渡し、その使用を命じている。そして同時にインターネットにアクセスできるiPadも提供している。なぜこれら2つを?
「テクノロジーが学校にもたらすメリットと課題のバランスを取るためだ」と、学校は説明している。なるほど。「家族との連絡は電話で、勉強はタブレットで」という明確なサインを生徒に送ることで、デバイスを賢く差別化している。これはユネスコ(国連教育科学文化機関)が昨年の夏に打ち出した以下のガイダンスを意識したのかもしれない。
「Some technology can support some learning in some contexts(特定の技術が、特定の状況において、特定の学習支援をしてくれる)」「......but not when it is over-used or inappropriately used(......ただし過度に、または不適切に使用された場合には、そうした効果は期待できない)」
文部科学省のガイドラインはというと、小・中学校でスマホは「原則持ち込み禁止」という姿勢を示したものの、「個別の状況に応じてやむを得ない場合は例外的に認める」とも言及している。これは少し曖昧なのでは?
子供と連絡が取れるように、結局は「多くの親」が「例外的に」スマホの持ち込みを認めてもらいたいと思うのではないだろうか?
日本は今さら、イートン校のように生徒をガラケー時代に戻らせるわけにはいかない。でも、教育におけるデバイスの適切な使い方について、もう少し明確な指導方針を打ち出すといいだろう。「特定の技術が、特定の状況において、特定の学習支援をしてくれる」のだから。
トニー・ラズロ
TONY LÁSZLÓ
1960年、米ニュージャージー州生まれ。1985年から日本を拠点にジャーナリスト、講師として活動。コミックエッセー『ダーリンは外国人』(小栗左多里&トニー・ラズロ)の主人公。