ビリー・シュワブ・ダン(エンターテインメント担当)
<最終章を残して主役のケビン・コスナーが降板したドラマ『イエローストーン』。共演のルーク・グライムスが「完璧」な結末や自身の暮らし、音楽活動について語った──(インタビュー)>
ドラマ『イエローストーン』の最終シーズンを、ファンは複雑な思いで見ていることだろう。何しろ主演のケビン・コスナーが終幕を前に降板したのだ。
だが共演のルーク・グライムスは、完璧な結末に期待してほしいと自信をのぞかせる。
2018年にパラマウントネットワークで放送が始まった『イエローストーン』は、現代が舞台のウェスタン。西部モンタナ州で土地を守ろうとする大牧場主ダットン家の戦いを描き、人気を博した。
『イエローストーン』シーズン1 予告編
第5シーズンは2部構成で、前半は22年11月〜23年1月に放映された。その後、クリエーターのテイラー・シェリダンとコスナーが創作の方向性をめぐって対立していると報じられた。
23年5月には第5シーズンの後半をもってドラマが打ち切られることが発表され、コスナーが後半に出演しないことも明らかになった。
11月10日にいよいよ最終章の放送が始まるのを前に、主人公ジョン・ダットン(コスナー)の末息子ケイシーを演じたグライムス(40)は結末について本誌にこう語った。
「『イエローストーン』らしく、あのラストは絶対に予想不可能。テイラーの脚本はそこがすごいんだ。あちこちにサプライズが仕掛けられていて、決して予想どおりには進まない」
「でも誰もが納得してくれるはず。僕にはあんな展開はとても思い付かないが、あれは完璧な終わり方だ」
さらにグライムスはこう続ける。「名作の結末はファンの予想を裏切り、同時に満足させるものでないとね」
コスナーの降板で事実上の打ち切りに PRESLEY ANN/GETTY IMAGES
第5シーズンの前半でジョンはモンタナ州知事となり、政治力を駆使して牧場を買収や開発の脅威から守った。
だが次男で養子のジェイミー(ウェス・ベントレー)が公に父親の弾劾を求めたことから、家族間の対立はピークに。ジョンに忠実な娘ベス(ケリー・ライリー)はジェイミーのたくらみを知り、反撃に出る。ジェイミーが実父の殺害に関わったことを知り、それをネタに彼をゆすったのだ。一方、三男のケイシーは牧場を離れた場所で、悲劇と戦っていた──。
家庭内でも政界でもトラブルが山積みのまま、前半は終了。コスナーの降板が伝えられたことで、ファンは当主のいないダットン家の確執の行方に大いに注目している。
番組を離れたコスナーは、西部開拓史を描く4部作映画『ホライゾン:アン・アメリカン・サーガ』の脚本、監督、主演、製作を手がけた。第1部は6月に全米公開され、2部は9月にベネチア映画祭で披露された(日本未公開)。
『ホライゾン:アン・アメリカン・サーガ』予告編
このプロジェクトがコスナーとシェリダンの関係に亀裂を入れたと報じられ、また突然の打ち切りの原因とも噂されている。
コスナーの降板について「僕がコメントするのはフェアじゃない気がする」と、グライムスは言う。
ジョンの娘ベスと彼の右腕リップ・ウィーラー PARAMOUNT
撮影地にほれ込み移住
「ドラマの制作が7年も続けば、いろんなことが起きる。僕があずかり知らない事情もあるし、全体図が見えているわけじゃない。僕に言えるのは、『イエローストーン』は困難を乗り越えたってことだけだ。僕らは混乱に負けずに無事フィナーレにこぎ着け、誰もが満足する形でドラマを完結させた」
ドラマが終わっても、ロケ地との縁は切れない。モンタナにほれ込んだグライムスは、妻でモデルのビアンカ・ロドリゲス・グライムスと共にこの地に移り住んだ。
「撮影でモンタナに通い始めるまでは、ロサンゼルスに住んでいた。ロサンゼルスは僕にチャンスをくれた街だが、どうしてもしっくりこなかった。ロサンゼルスは自分の街というより職場、仕事を探す場所だった。
それをビアンカに話したところ、同じ気持ちだった。彼女も僕と同じで、仕事のためにあの街に来ていたからね」
そこで2人は、子供をどこで育てたいのか相談した。最初はモンタナは考えなかったが、あちこち候補地を見て回るうちに、自然な流れでこうなったという。
「モンタナとロサンゼルスを行き来するうち、ある時点でモンタナをたつたびに故郷から引き離される気がするようになった。これはモンタナに呼ばれているなと感じた」
ジョンの次男ジェイミー(階段)とペリー州知事 PARAMOUNT
こうして2人は行動を起こした。「スピリチュアル系っぽい言い草だが、ここが僕のいるべき場所だと実感したんだ。僕だけじゃなく妻も。それで僕らは土地を探し、家を建てた。モンタナが故郷だと2人とも確信したからこそ、うまくいった」
グライムスは13年にテレビシリーズ『トゥルーブラッド』でバンパイアのジェームズを、14年にSEALs(米海軍特殊部隊)の狙撃手の自伝を原作とした戦争映画『アメリカン・スナイパー』でSEALs隊員のマーク・リーを演じた。
『アメリカン・スナイパー』予告編
15年の官能恋愛映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』では主人公の兄エリオット役に抜擢され、昨年はネットフリックスのロマンスコメディー『初心者のための幸せガイド』で主演女優の相手役ジェイクを務めた。
『初心者のための幸せガイド』予告編
『イエローストーン』の撮影が終わった今、最も忙しいのはカントリーミュージシャンとしての活動だ。今年3月にデビューアルバム『ルーク・グライムス』をリリース。11月から始まるツアーではニューヨーク、ナッシュビル、ロサンゼルスなどを回る。
Luke Grimes: Black Powder | The Tonight Show Starring Jimmy Fallon
「この秋はツアーに出て、初めて訪れる都市もいくつかある。次のアルバムの制作も進んでいて、来年には完成するだろう。
楽しみなことがたくさんある。音楽で何かをできることに感謝している。こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。(音楽を作るプロセスを)楽しめるのは幸せで、ずっとやっていきたいと思う」
ケイシーと妻モニカ、息子のテイト PARAMOUNT
音楽で表現できる幸せ
曲作りでは「どんな分野のアーティストも同じだろうが、僕も自分の経験や人生にインスパイアされている」と、グライムスは語る。
「幸運なことに僕の経験はとても幅広くて、たくさんの異なる文化や社会構造、経済構造にまたがっている。世界中を旅して、さまざまな異なる役を演じて、さまざまな土地で暮らしてきた。その全てが自分の引き出しに入っている。こんなに面白い人生を送ることができて、それを歌で語ることができるのはとても幸せだ」
エンターテインメント業界のデータ会社ルミネイトによると、カントリーミュージックはアメリカのストリーミング配信で最も急成長しているジャンルの1つだ。オンデマンドのオーディオストリーミングの再生回数は23年に200億回を超え、前年比で23.7%増えている。
今年は特にジャンル全体が勢いづいている。ビヨンセがカントリーのアルバム『カウボーイ・カーター』をリリース。
TikTokでカントリーのコンテンツがいくつもバズり、ノア・カーン、『イエローストーン』で俳優デビューし、楽曲も提供しているレイニー・ウィルソン、ザック・ブライアンなど、カントリーやフォークのアーティストがチャートを席巻している。
人生の1章が終わって
「カントリーミュージックは常に歌が中心にあって、人間が歌詞を書き、楽器を演奏する。(アメリカのルーツ音楽である)アメリカーナとは何なのかというシンプルな本質に立ち返っている。今の時代、人々はそれを聴きたくてたまらないのだろう。しばらく経験できなかったから」と、グライムスは続ける。
先住民居留地の首長トーマス・レインウォーター(左)とボディーガードのモー PARAMOUNT
「カントリーのいいところは、感情の動きに身を委ねられることだ。悲しみや喜び、家族への思いに浸ることができる。抽象的な表現ではなく、人間の経験を歌い、人生の現実を歌っている」
『イエローストーン』の終了が引き起こした感情に寄り添うため、グライムスにはカントリーミュージックが必要なのかもしれない。別れは決して簡単なことではなかった。
「撮影は1カ月以上前に終わったけれど、今もまだ、全てを自分の中で消化している最中。人生の1章が終わったことをとても重く、とても大きく感じる瞬間がある。僕の人生の大きな一部だったから」
17年から7年間、この役を演じてきたグライムスにとって、共演者やクルーは今や1つの家族のようなもの。「これからも僕の人生に存在し続ける人もいるだろうし、時々会ったりもするだろう」と彼は語る。
「でも、何よりも良かったのは、みんなで心を一つにしてつくり上げてきたことだ。とても素晴らしいところにいることができた。本当に特別なプロジェクトだった。今後の人生で、これを超えるものはないだろう」
最後に彼は、自分が演じたケイシーへの思いを語った。
「この数年、ケイシーに本気で恋をしていた。俳優として、役には愛を持って臨みたい。その人物を尊敬して、魅力を十分に引き出したい。彼に対してもそんなふうにやってきた。彼は僕よりはるかに素晴らしい人間だ。本当に寂しくなる」
<最終章を残して主役のケビン・コスナーが降板したドラマ『イエローストーン』。共演のルーク・グライムスが「完璧」な結末や自身の暮らし、音楽活動について語った──(インタビュー)>
ドラマ『イエローストーン』の最終シーズンを、ファンは複雑な思いで見ていることだろう。何しろ主演のケビン・コスナーが終幕を前に降板したのだ。
だが共演のルーク・グライムスは、完璧な結末に期待してほしいと自信をのぞかせる。
2018年にパラマウントネットワークで放送が始まった『イエローストーン』は、現代が舞台のウェスタン。西部モンタナ州で土地を守ろうとする大牧場主ダットン家の戦いを描き、人気を博した。
『イエローストーン』シーズン1 予告編
第5シーズンは2部構成で、前半は22年11月〜23年1月に放映された。その後、クリエーターのテイラー・シェリダンとコスナーが創作の方向性をめぐって対立していると報じられた。
23年5月には第5シーズンの後半をもってドラマが打ち切られることが発表され、コスナーが後半に出演しないことも明らかになった。
11月10日にいよいよ最終章の放送が始まるのを前に、主人公ジョン・ダットン(コスナー)の末息子ケイシーを演じたグライムス(40)は結末について本誌にこう語った。
「『イエローストーン』らしく、あのラストは絶対に予想不可能。テイラーの脚本はそこがすごいんだ。あちこちにサプライズが仕掛けられていて、決して予想どおりには進まない」
「でも誰もが納得してくれるはず。僕にはあんな展開はとても思い付かないが、あれは完璧な終わり方だ」
さらにグライムスはこう続ける。「名作の結末はファンの予想を裏切り、同時に満足させるものでないとね」
コスナーの降板で事実上の打ち切りに PRESLEY ANN/GETTY IMAGES
第5シーズンの前半でジョンはモンタナ州知事となり、政治力を駆使して牧場を買収や開発の脅威から守った。
だが次男で養子のジェイミー(ウェス・ベントレー)が公に父親の弾劾を求めたことから、家族間の対立はピークに。ジョンに忠実な娘ベス(ケリー・ライリー)はジェイミーのたくらみを知り、反撃に出る。ジェイミーが実父の殺害に関わったことを知り、それをネタに彼をゆすったのだ。一方、三男のケイシーは牧場を離れた場所で、悲劇と戦っていた──。
家庭内でも政界でもトラブルが山積みのまま、前半は終了。コスナーの降板が伝えられたことで、ファンは当主のいないダットン家の確執の行方に大いに注目している。
番組を離れたコスナーは、西部開拓史を描く4部作映画『ホライゾン:アン・アメリカン・サーガ』の脚本、監督、主演、製作を手がけた。第1部は6月に全米公開され、2部は9月にベネチア映画祭で披露された(日本未公開)。
『ホライゾン:アン・アメリカン・サーガ』予告編
このプロジェクトがコスナーとシェリダンの関係に亀裂を入れたと報じられ、また突然の打ち切りの原因とも噂されている。
コスナーの降板について「僕がコメントするのはフェアじゃない気がする」と、グライムスは言う。
ジョンの娘ベスと彼の右腕リップ・ウィーラー PARAMOUNT
撮影地にほれ込み移住
「ドラマの制作が7年も続けば、いろんなことが起きる。僕があずかり知らない事情もあるし、全体図が見えているわけじゃない。僕に言えるのは、『イエローストーン』は困難を乗り越えたってことだけだ。僕らは混乱に負けずに無事フィナーレにこぎ着け、誰もが満足する形でドラマを完結させた」
ドラマが終わっても、ロケ地との縁は切れない。モンタナにほれ込んだグライムスは、妻でモデルのビアンカ・ロドリゲス・グライムスと共にこの地に移り住んだ。
「撮影でモンタナに通い始めるまでは、ロサンゼルスに住んでいた。ロサンゼルスは僕にチャンスをくれた街だが、どうしてもしっくりこなかった。ロサンゼルスは自分の街というより職場、仕事を探す場所だった。
それをビアンカに話したところ、同じ気持ちだった。彼女も僕と同じで、仕事のためにあの街に来ていたからね」
そこで2人は、子供をどこで育てたいのか相談した。最初はモンタナは考えなかったが、あちこち候補地を見て回るうちに、自然な流れでこうなったという。
「モンタナとロサンゼルスを行き来するうち、ある時点でモンタナをたつたびに故郷から引き離される気がするようになった。これはモンタナに呼ばれているなと感じた」
ジョンの次男ジェイミー(階段)とペリー州知事 PARAMOUNT
こうして2人は行動を起こした。「スピリチュアル系っぽい言い草だが、ここが僕のいるべき場所だと実感したんだ。僕だけじゃなく妻も。それで僕らは土地を探し、家を建てた。モンタナが故郷だと2人とも確信したからこそ、うまくいった」
グライムスは13年にテレビシリーズ『トゥルーブラッド』でバンパイアのジェームズを、14年にSEALs(米海軍特殊部隊)の狙撃手の自伝を原作とした戦争映画『アメリカン・スナイパー』でSEALs隊員のマーク・リーを演じた。
『アメリカン・スナイパー』予告編
15年の官能恋愛映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』では主人公の兄エリオット役に抜擢され、昨年はネットフリックスのロマンスコメディー『初心者のための幸せガイド』で主演女優の相手役ジェイクを務めた。
『初心者のための幸せガイド』予告編
『イエローストーン』の撮影が終わった今、最も忙しいのはカントリーミュージシャンとしての活動だ。今年3月にデビューアルバム『ルーク・グライムス』をリリース。11月から始まるツアーではニューヨーク、ナッシュビル、ロサンゼルスなどを回る。
Luke Grimes: Black Powder | The Tonight Show Starring Jimmy Fallon
「この秋はツアーに出て、初めて訪れる都市もいくつかある。次のアルバムの制作も進んでいて、来年には完成するだろう。
楽しみなことがたくさんある。音楽で何かをできることに感謝している。こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。(音楽を作るプロセスを)楽しめるのは幸せで、ずっとやっていきたいと思う」
ケイシーと妻モニカ、息子のテイト PARAMOUNT
音楽で表現できる幸せ
曲作りでは「どんな分野のアーティストも同じだろうが、僕も自分の経験や人生にインスパイアされている」と、グライムスは語る。
「幸運なことに僕の経験はとても幅広くて、たくさんの異なる文化や社会構造、経済構造にまたがっている。世界中を旅して、さまざまな異なる役を演じて、さまざまな土地で暮らしてきた。その全てが自分の引き出しに入っている。こんなに面白い人生を送ることができて、それを歌で語ることができるのはとても幸せだ」
エンターテインメント業界のデータ会社ルミネイトによると、カントリーミュージックはアメリカのストリーミング配信で最も急成長しているジャンルの1つだ。オンデマンドのオーディオストリーミングの再生回数は23年に200億回を超え、前年比で23.7%増えている。
今年は特にジャンル全体が勢いづいている。ビヨンセがカントリーのアルバム『カウボーイ・カーター』をリリース。
TikTokでカントリーのコンテンツがいくつもバズり、ノア・カーン、『イエローストーン』で俳優デビューし、楽曲も提供しているレイニー・ウィルソン、ザック・ブライアンなど、カントリーやフォークのアーティストがチャートを席巻している。
人生の1章が終わって
「カントリーミュージックは常に歌が中心にあって、人間が歌詞を書き、楽器を演奏する。(アメリカのルーツ音楽である)アメリカーナとは何なのかというシンプルな本質に立ち返っている。今の時代、人々はそれを聴きたくてたまらないのだろう。しばらく経験できなかったから」と、グライムスは続ける。
先住民居留地の首長トーマス・レインウォーター(左)とボディーガードのモー PARAMOUNT
「カントリーのいいところは、感情の動きに身を委ねられることだ。悲しみや喜び、家族への思いに浸ることができる。抽象的な表現ではなく、人間の経験を歌い、人生の現実を歌っている」
『イエローストーン』の終了が引き起こした感情に寄り添うため、グライムスにはカントリーミュージックが必要なのかもしれない。別れは決して簡単なことではなかった。
「撮影は1カ月以上前に終わったけれど、今もまだ、全てを自分の中で消化している最中。人生の1章が終わったことをとても重く、とても大きく感じる瞬間がある。僕の人生の大きな一部だったから」
17年から7年間、この役を演じてきたグライムスにとって、共演者やクルーは今や1つの家族のようなもの。「これからも僕の人生に存在し続ける人もいるだろうし、時々会ったりもするだろう」と彼は語る。
「でも、何よりも良かったのは、みんなで心を一つにしてつくり上げてきたことだ。とても素晴らしいところにいることができた。本当に特別なプロジェクトだった。今後の人生で、これを超えるものはないだろう」
最後に彼は、自分が演じたケイシーへの思いを語った。
「この数年、ケイシーに本気で恋をしていた。俳優として、役には愛を持って臨みたい。その人物を尊敬して、魅力を十分に引き出したい。彼に対してもそんなふうにやってきた。彼は僕よりはるかに素晴らしい人間だ。本当に寂しくなる」