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「北極牙街道」の謎...バイキング時代の交易と「北米先住民との出会い」

ニューズウィーク日本版 2024年11月14日 17時50分

アリストス・ジョージャウ(科学担当)
<セイウチの牙取引のため北欧から6000キロを旅して北米北極圏まで渡っていたと示唆する新研究が>

北極圏でセイウチの牙を探していたバイキング時代の北欧人は、コロンブスがアメリカ大陸を「発見」する何百年も前に北米の先住民と出会っていた──。そんな可能性を示唆する研究が、新たに発表された。

セイウチの牙は中世ヨーロッパで珍重されていた。北欧人は牙を求めて北大西洋を横断し、その過程でアイスランドやグリーンランドに集落を築いた。

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だが取引された牙がどこで調達されたのか、正確な場所は不明だった。9月末に学術誌サイエンス・アドバンシズに掲載された論文は、グリーンランドの北欧人入植地からヨーロッパに輸入されたセイウチの牙が、非常に離れた北極圏の高緯度の狩猟地で採集されたことを示している。

研究チームは高解像度の遺伝子解析技術を使い、牙が取引されたのは高緯度の北極圏にある狩猟地だと特定した。これらの地域は、バイキング時代の北欧人が居住し、牙採集を行っていたと考えられる場所よりもはるかに北だ。

バイキング時代とは8世紀末から11世紀にかけて、現在バイキングの名で知られる北欧人がヨーロッパ全域や世界のほかの場所で略奪や交易、植民地化を行った時期だ。論文の執筆者らによれば今回の研究は、北欧人が北米北極圏の先住民と交流しただけでなく、牙の取引を行っていた可能性も示すという。

Early interactions between Europeans and Indigenous North Americans revealed

「バイキングとセイウチの牙取引については10年ほど前から強い関心が寄せられていたが、その視点はヨーロッパ寄りの思考に凝り固まっていた。私たちは遠く離れた北極圏の狩猟地で何が起きていたのか、特にその牙が採集された場所で何が起きていたかを知りたかった」と、ルンド大学(スウェーデン)の考古学・古代史学科教授でこの論文の筆頭執筆者であるピーター・ジョーダンは言う。

北欧人が北極圏の辺ぴな地域に行ったとき、おそらくほかの文化に触れて交易を行ったのだろう。現在のカナダやグリーンランドに住むイヌイットの祖先であるトゥーレ人とも交易したと考えられる。

「北極牙街道」に注目

北欧人と北米先住民の遭遇の可能性は以前から指摘されていたが、考古学的な裏付けが曖昧だった。だが今回の研究では、牙は北欧人とトゥーレ人が活動していた辺境の地からもたらされていたため、両者は同じ時期に同じ場所にいた可能性がある。直接接触したという決定的な証拠ではないものの、セイウチの牙を探す過程で出会っていたことを示唆している。

バイキング時代のグローバル化に関する研究は、西アジアからヨーロッパに入る宝物に焦点を当てがちで、多くの場合はシルクロードを経由する物を取り上げている。だが今回の研究は、15世紀に植民地化の時代が始まるはるか前から、北米とヨーロッパの交易網を結ぶ「北極牙街道」があったことを示唆している。

「研究はバイキングがグリーンランド北西部までの約6000キロを定期的に移動していたことを示す」と、論文の共同執筆者でデンマークのコペンハーゲン大学グローブ研究所のモーテン・タンゲ・オルセン准教授(分子生態学)は言う。「この貴重な品を手に入れ、北欧やほかの地域に運ぶため旅をしたのだろう」

バイキングが駆け巡った世界は、私たちの想像以上に広かったのかもしれない。



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