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NewJeansはNewJeansじゃなくなる? 5人と生みの親ミン・ヒジンの今後の選択肢を予想

ニューズウィーク日本版 2024年11月27日 7時0分

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<契約解除を切り札に臨んだ所属事務所への要求はどうなる>

韓国のK-POPガールズグループNewJeansが、所属事務所ADORに対して処遇の改善などを求めた内容証明を送ってから14日。回答期限としていた2週間となったなか、NewJeansと彼女たちの生みの親として知られる事務所の前代表ミン・ヒジンにはどんな選択肢が残っているのだろうか?

まずは、半年以上続く所属事務所の親会社HYBEとミン・ヒジンの対立について振り返ってみよう。

 

HYBE vs ミン・ヒジンの対立にNewJeansメンバーも加わり......

4月22日、NewJeansの所属事務所ADORの親会社であるHYBEが、ADOR経営陣が契約書など社外秘である内部資料を流出し、経営権奪取を図ったとしてADOR役員であるミン・ヒジン代表などに対する監査に着手した。これに対して、ミン・ヒジンは「HYBEの子会社であるBELIFT LABでデビューしたガールズグループILLITがあまりにもNewJeansと似ていることをHYBEパン・シヒョク議長に伝えたことで対立が起き、正式にコンセプトコピー疑惑をHYBEに提起したところ、突然自分を解任しようとしている」と反論。経営権奪取に対しては否認した。

これ以降、双方が非難の応酬を繰り返しながら、HYBEはミン・ヒジンを業務上背任の疑いで告発すると同時に臨時株主総会招集許可申請を裁判所に申し立て、ミン・ヒジン側もHYBEのパク·ジウォン代表らを業務妨害などで告訴するなど訴訟合戦へと発展。8月27日にHYBEはミン・ヒジンを代表取締役から解任し、「経営の一線から退いたが、社内理事職を維持したまま、NewJeansのプロデュースは引き続き続けてもらう」と発表した。

こうした対立構図にNewJeansのメンバーたちも加わる。9月11日NewJeansメンバーは「HYBEの経営陣交替と不当な待遇によりチームの個性とクリエーションが侵害されており不安を感じている」として「25日までにミン·ヒジン前代表と共に元に戻してほしい」と要求した。これに対してHYBEは「原則通りに落ち着いて対応していく」として事実上拒否。

10月15日にはキム・ジュヨン現ADOR代表(HYBE最高人事責任者兼務)とNewJeansのハニが韓国国会の国政監査に出席。ハニがHYBEの他レーベルのマネージャーからいじめにあった問題について聴取を受け、「キム・ジュヨン代表の発言についてどう思うか」という質問を受けた彼女は、「最善を尽くしていないようだ」と主張した。

11月13日、NewJeansのメンバー全員がADORに対して、現在の事態に対する是正要求をはじめとする内容証明を送り、「この書面を受け取った日から14日以内に、専属契約の重大な違反事項を全て是正せよ。受け入れなければ専属契約を解約する」と最後通告を投げかけた。だが、メンバーが一番強く求めていたミン・ヒジンの代表復帰に関しては、11月20日にミン・ヒジン自身が社内理事を辞任することを発表しADORを去ったため、もはや不可能となってしまった。

 

NewJeansメンバーが内容証明で求めた要求とは?

NewJeansのメンバー全員が、契約解除という強硬な態度を示して所属事務所のADORに求めた内容とは何だったのか?

その主な内容としては

1)ハニを「無視して」と発言したHYBE傘下レーベルのマネジャーの公式的な謝罪
2)同意なしに露出され使われた動画と写真などの資料削除
3)「アルバム押し出し(販売数を上積みさせるためレコード会社が卸売業者にCDを一定数を買い取らせる商法)」でNewJeansが受けた被害把握と解決策作り
4)ミュージックビデオ制作会社のイルカ誘拐団のシン・ウソク監督との紛争とこれによる既存作業物が消えた問題の解決
5)NewJeans独自の個性と作業物を守ること

が挙げられているという。

このうち1〜3についてはADORではなくHYBEとBELIFT LABの問題であるため(また両社は1と3については問題の事実を認めていないため)、メンバーが期待するような回答が得られる可能性はほぼない。4についても現ADOR経営陣はNewJeansの作業物を守るための措置だとして対応しないことが予想される。前向きな回答をするのは5だけになると思われるが、これとても具体的な内容は出されない可能性が高い。

また、メンバーは最後の、そして一番重要な要求項目として「ミン・ヒジン前代表の復帰」を掲げたが、前述の通り、ミン・ヒジンが既にADORを退社したことから、これについても叶えられることは不可能となっている。

契約解除の違約金は約700億円に

こう考えるとNewJeansのメンバーたちは、ADORが自分たちと交わした専属契約について重大な違反事項を改善しなかったとして、契約解除を求めて訴訟を起こす道しか残されていない状況だ。

ここで重要なポイントは
1)NewJeansの「専属契約に関してADORが重大な違反をした」という訴えを裁判所が認めるか
2)NewJeansメンバーが今後もNewJeansとして活動できるか
という点に絞られる。

ここで、韓国の音楽業界関係者が参考事例として口を揃えてあげるのが「FIFTY FIFTY」だ。奇しくもNewJeansと同じ2022年にデビューした4人組ガールズグループFIFTY FIFTYは、2023年2月にリリースした「Cupid」がブレイク。ビルボードの「ワールドデジタルソングセールス」で8位を記録したほか、大手以外の事務所のK-POPアーティストとしては初めてHOT 100にもチャートインするなど、一躍注目される存在になった。

 

ところが、所属事務所ATTRAKTが音楽制作の実務を依頼していた会社がメンバーとともに独立を図り、専属契約解除を求める訴訟を起こしたものの敗訴。メンバーのうち一人だけが和解して所属事務所に復帰したものの、他のメンバーは契約を解除され、事務所から損害賠償請求の訴訟を起こされた。現在FIFTY FIFTYは復帰したメンバーに新加入したメンバーで再編成して活動を再開し、一方独立を目指したメンバー3人は新しい事務所と契約して新グループ結成を発表している。

このFIFTY FIFTYの事例を念頭にNewJeansの契約解除要求が認められるかどうかを考えると、韓国の音楽業界関係者の多くはかなりハードルが高いという意見で一致しているという。もちろん、HYBE傘下の別レーベルから、まったく同じようなコンセプトのガールズグループILLITがデビューしたことや、ILLITのマネージャーによるハニに対するいじめ問題など、NewJeansへのサポートが不十分だった点はあると認定される可能性もあるが、それが契約違反といえるほどのものかというと、難しいと言わざるを得ない。

その場合、メンバーたちは専属契約効力停止仮処分申請を裁判所に願い出るとみられている。ただ契約解除自体は認められるとしても、ADORへの違約金の支払が命じられる可能性が高い。その金額は一人当たり1240億ウォン、日本円で136億円にのぼり、グループ5人全員では6200億ウォン、約700億円という巨額になるという。

NewJeansメンバーたちに残された選択肢は?

果たして、今後のNewJeansメンバーたちにどんな選択肢が残されているのだろうか? 大きく分けて以下の2つのパターンが考えられる。

A)全員が契約解除の違約金を払ってADORを離れミン・ヒジンの新レーベルへ移籍、新グループで再デビュー
B)一部メンバーがADORに残りNewJeansとして活動、残るメンバーはミン・ヒジンの新レーベルへ

ポイントはメンバー5人の結束が維持されるかどうかだ。本人たちの意思も重要だが、未成年者もいるため親の意向も重要なポイントとなる。これまでは5人とその母親たちもミン・ヒジンを支持し、HYBEを批判してきたが、ADORへの違約金の支払いが巨額なため、5人全員の結束が維持できるかどうかは不透明だ。また、その点をHYBE側が突いて、メンバー同士の切り崩しにかかることも十分に予想される。

一部メンバーが残留することになれば、B)のような形でADORは残留メンバー+新加入メンバーで第2期NewJeansを再始動させ、ADORを契約解除したメンバーはミン・ヒジンと合流して新グループを結成、そちらで再デビューを果たすという、まさにFIFTY FIFTYと同じ道を歩むことになりそうだ。

NewJeansがNewJeansじゃなくなる日

もっとも、ADORを退社したミン・ヒジンは、すでに投資家と接触して新会社設立のために動いているという見方もある。もともと、HYBEがADORの監査を行った春の時点で、ミン・ヒジンがシンガポール投資庁、サウジアラビアの投資会社などに会社売却を検討したという文書が発見されており、さらにNewJeansメンバーのヘインの叔父がネットワーク関連機器のメーカー「ダボリンク」で取締役に就任予定だったことから、この会社がミン・ヒジンの新会社設立に投資するのではないかという説も流れたりした。

ただ、A)のパターンであっても、ミン・ヒジンと合流した場合はNewJeansの名称や楽曲は使えなくなりそうだ。実際、11月16日、NewJeansが2024コリアグランドミュージックアワードで大賞を受賞したときに、ハニは「私たちがいつまでNewJeansなのか分からないが、それでも5人とバニーズ(ファンの愛称)が作った仲を邪魔できることはないと思って...。 最後まで団結しましょう」と、ダニエルは「NewJeansでなくても...。 NewJeans never die」と意味深長なコメントを残した。この発言は契約解除後の展開を想定したものだとみられている。

 

また、A)B)どちらのパターンであっても、ミン・ヒジンの新会社と移籍するメンバーの活動に対して、HYBEがメディアなどに圧力をかけ、その活動を妨害することも想定される。なにより、契約解除に関する訴訟は1年以上はかかると想定され、その期間はNewJeansのメンバーはまったく活動ができなくなってしまうことが予想される。

果たして、NewJeansメンバーたちの決断はどうなるのか。その結果が明らかになるのはもう間もなくだ。

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