イアン・ランドール
<宇宙膨張の加速が、アインシュタインの一般相対性理論に挑む新たな疑問を投げかけている>
重力は時間と空間の歪みによって生じるとしたアルベルト・アインシュタインの一般相対性理論は、普遍的には当てはまらないのかもしれない。
スイスのジュネーブ大学(UNIGE)とフランス・トゥールーズのポールサバティエ大学の物理学者が、宇宙の歴史のさまざまな時点に存在する数億個の銀河の形状をマッピングしたデータを調べ、そんな結論を導き出した。
研究チームはそうした銀河の質量によって時空がどのように歪められているかを分析した。その結果、アインシュタインの予測との間に、50~60億年前から生じたわずかなずれがあることが分かった。
その変化は宇宙が膨張するペースの加速と一致しており、こうした現象の解明に役立つ可能性がある。
アインシュタインの一般相対性理論によると、質量をもつ物体は時間と空間を歪める。ベッドの上にボウリングボールを置くとマットレスが変形するように。
宇宙の織り成すこの変形が、我々の経験している重力だとアインシュタインは説く。
例えば惑星や恒星のような物体の周辺の時空の歪みは、それ自体の小さな「重力井戸」の中にある。
その井戸を通過した光がまるで拡大鏡を通過したように屈折する現象は、重力レンズと呼ばれる。
一般相対性理論のこの側面は、同理論が発表された4年後の1919年、日食の際に行われた実験を通して確認された。
イギリスの天文学者アーサー・スタンリー・エディントンとフランク・ワトソン・ダイソンは、太陽の重力井戸が遠く離れた恒星からの光を屈折させることを実証した(日食で太陽が遮られている間に観測)。まさに相対性理論が予測した通りだった。
屈折率は、空間とともに時間の屈曲を考慮しなかったニュートン物理学の予測の約2倍だった。
それでも普遍的なスケールでアインシュタインの理論が正しいのかどうかという疑問は残る。
今回の研究では「ダークエネルギーサーベイ」のデータを利用した。同プロジェクトは、暗黒エネルギーと呼ばれる目に見えない謎の力の作用とされる宇宙の膨張の加速を測定している。
「これまでダークエネルギーサーベイのデータは、宇宙の物質の分布を測定するために使われてきた」。論文を執筆したUNIGEの宇宙学者カミーユ・ボンバン教授はそう解説する。「我々の研究では、このデータを使って時間と空間の歪みを直接的に測定し、我々の発見とアインシュタインの予測を比較することができた」
光は時間をかけて宇宙を移動する。従って遠く離れた宇宙の観測は、何十億年もの時をさかのぼるのに等しい。
研究チームはこの現実を利用して、宇宙の歴史の中で時点の異なる4つの時代(35億年前、50億年前、60億年前、70億年前)の銀河1億個を分析。宇宙の歴史の半生あまりの間に重力井戸がどう変化したかを探った。
論文著者でポールサバティエ大学宇宙物理学教授のイザック・トゥトゥザウスは言う。「我々の発見では、遠い昔、60億年前と70億年前の井戸の深さはアインシュタインの予測通りだった。だが、現代に近い35億年前と50億年前になると、アインシュタインの予測よりわずかに浅くなった」
研究チームによると、宇宙の膨張が加速し始めたのは、この2番目の時期だった。
従って、いずれの謎も理由は同じだった可能性がある。つまり、規模が大きければ重力の作用はアインシュタインの理論とはわずかに異なる可能性がある。
「アインシュタインの予測と測定値とは3シグマの不一致があることを、我々の結果は示している」と論文著者でUNIGEの理論物理学者ナスタシア・グリムは説明する。
グリムによると、「3シグマ」の差は興味深く、さらに研究する価値がある。ただし「アインシュタインの理論を覆すほど大きな不一致ではない」といい、「覆すためには5シグマ以上の差が必要だ。こうした結果について確認または反論するため、遠く離れた宇宙においても同理論が有効かどうかを調べるためには、さらに精密な測定が欠かせない」とした。
最初の調査を終えた今、研究チームはヨーロッパ宇宙機関のユークリッド宇宙望遠鏡のデータ分析に取りかかる。同望遠鏡は昨年打ち上げられ、さらに精密な重力レンズの測定が期待できる。
(翻訳:鈴木聖子)
<宇宙膨張の加速が、アインシュタインの一般相対性理論に挑む新たな疑問を投げかけている>
重力は時間と空間の歪みによって生じるとしたアルベルト・アインシュタインの一般相対性理論は、普遍的には当てはまらないのかもしれない。
スイスのジュネーブ大学(UNIGE)とフランス・トゥールーズのポールサバティエ大学の物理学者が、宇宙の歴史のさまざまな時点に存在する数億個の銀河の形状をマッピングしたデータを調べ、そんな結論を導き出した。
研究チームはそうした銀河の質量によって時空がどのように歪められているかを分析した。その結果、アインシュタインの予測との間に、50~60億年前から生じたわずかなずれがあることが分かった。
その変化は宇宙が膨張するペースの加速と一致しており、こうした現象の解明に役立つ可能性がある。
アインシュタインの一般相対性理論によると、質量をもつ物体は時間と空間を歪める。ベッドの上にボウリングボールを置くとマットレスが変形するように。
宇宙の織り成すこの変形が、我々の経験している重力だとアインシュタインは説く。
例えば惑星や恒星のような物体の周辺の時空の歪みは、それ自体の小さな「重力井戸」の中にある。
その井戸を通過した光がまるで拡大鏡を通過したように屈折する現象は、重力レンズと呼ばれる。
一般相対性理論のこの側面は、同理論が発表された4年後の1919年、日食の際に行われた実験を通して確認された。
イギリスの天文学者アーサー・スタンリー・エディントンとフランク・ワトソン・ダイソンは、太陽の重力井戸が遠く離れた恒星からの光を屈折させることを実証した(日食で太陽が遮られている間に観測)。まさに相対性理論が予測した通りだった。
屈折率は、空間とともに時間の屈曲を考慮しなかったニュートン物理学の予測の約2倍だった。
それでも普遍的なスケールでアインシュタインの理論が正しいのかどうかという疑問は残る。
今回の研究では「ダークエネルギーサーベイ」のデータを利用した。同プロジェクトは、暗黒エネルギーと呼ばれる目に見えない謎の力の作用とされる宇宙の膨張の加速を測定している。
「これまでダークエネルギーサーベイのデータは、宇宙の物質の分布を測定するために使われてきた」。論文を執筆したUNIGEの宇宙学者カミーユ・ボンバン教授はそう解説する。「我々の研究では、このデータを使って時間と空間の歪みを直接的に測定し、我々の発見とアインシュタインの予測を比較することができた」
光は時間をかけて宇宙を移動する。従って遠く離れた宇宙の観測は、何十億年もの時をさかのぼるのに等しい。
研究チームはこの現実を利用して、宇宙の歴史の中で時点の異なる4つの時代(35億年前、50億年前、60億年前、70億年前)の銀河1億個を分析。宇宙の歴史の半生あまりの間に重力井戸がどう変化したかを探った。
論文著者でポールサバティエ大学宇宙物理学教授のイザック・トゥトゥザウスは言う。「我々の発見では、遠い昔、60億年前と70億年前の井戸の深さはアインシュタインの予測通りだった。だが、現代に近い35億年前と50億年前になると、アインシュタインの予測よりわずかに浅くなった」
研究チームによると、宇宙の膨張が加速し始めたのは、この2番目の時期だった。
従って、いずれの謎も理由は同じだった可能性がある。つまり、規模が大きければ重力の作用はアインシュタインの理論とはわずかに異なる可能性がある。
「アインシュタインの予測と測定値とは3シグマの不一致があることを、我々の結果は示している」と論文著者でUNIGEの理論物理学者ナスタシア・グリムは説明する。
グリムによると、「3シグマ」の差は興味深く、さらに研究する価値がある。ただし「アインシュタインの理論を覆すほど大きな不一致ではない」といい、「覆すためには5シグマ以上の差が必要だ。こうした結果について確認または反論するため、遠く離れた宇宙においても同理論が有効かどうかを調べるためには、さらに精密な測定が欠かせない」とした。
最初の調査を終えた今、研究チームはヨーロッパ宇宙機関のユークリッド宇宙望遠鏡のデータ分析に取りかかる。同望遠鏡は昨年打ち上げられ、さらに精密な重力レンズの測定が期待できる。
(翻訳:鈴木聖子)