木村正人
<日本は排出削減対策が講じられていない国外の化石燃料エネルギー部門への公的直接支援を終わらせる方針を示しているが>
[バクー発]国際協力銀行(JBIC)が2016年以降、化石燃料ガス事業を拡大するため186億ドルを提供してきたことが国際環境NGO、FoEジャパンの調べで分かった。途上国の気候変動への適応と緩和を支援する「緑の気候基金」に日本が拠出する42億ドルの4倍以上に当たる。
オーストラリア、バングラデシュ、カナダ、インドネシア、モザンビーク、フィリピン、タイ、米国、ベトナムの事例をまとめたFoEジャパンの報告書によると、JBICは23年以降も化石燃料ガス事業に39億ドルの投融資を行い、現地住民の批判にさらされている。
日本は22年の主要7カ国(G7)首脳会議で「排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を同年末までに終わらせる」ことに同意した。「排出削減対策」の解釈について市民社会は日本政府が進める水素混焼に対して厳しい見方を示す。
「ガス田開発やガス火力発電事業に引き続き投融資」
JBICの林信光総裁は国際合意(排出削減対策)に整合しているかどうか確認しながら「ガス田開発やガス火力発電所のプロジェクトに引き続き投融資していく」方針だ。日本のエネルギー基本計画では2030年までにガス火力発電への30%水素混焼の導入・普及を目指している。
昨年、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の成果文書は「化石燃料からの脱却」を明記した。しかしCOPは3年連続で、化石燃料産出国で開かれ、天然ガスは過渡的エネルギーとして免罪符を得つつある。
アゼルバイジャンの首都バクーで開かれているCOP29には少なくとも1773人の化石燃料ロビイストが参加を認められたことが環境団体の連合体「キック・ビッグ・ポリューターズ・アウト」(大量排出者を排除せよ)の分析で明らかになった。
アゼルバイジャンは輸出の90%を化石燃料に依存
議長国アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領がCOP29の開幕演説で石油と天然ガスを「神からの贈り物」と述べ、自国を「中傷と脅迫の組織的なキャンペーン」の犠牲者に例え、石油・天然ガス産業を目の敵にする西側メディアと気候活動家に反論した。
アゼルバイジャンは予算の60%、輸出の90%を化石燃料に依存する。アリエフ大統領は米国と欧州連合(EU)の二重基準をやり玉に挙げる。化石燃料産出国の巻き返しが激化する中、化石燃料を燃やすことに途上国や市民社会からは一段と厳しい目が向けられている。
15日、世界の環境NGOが参加する「気候行動ネットワーク」(CAN)は日本を含むG7に「本日の化石賞」を授与した。COP29の焦点である気候資金について「G7は過去20年間、財政責任を回避し、逃げ続けてきた」というのがその理由だ。
「今日の化石賞」に選ばれたG7(CAN Japan提供)
「日本の協力を望むが、持続可能で再生可能であるべき」
バングラデシュのメグナハットLNG(液化天然ガス)火力発電所には国際協力機構(JICA)やJBICも資金提供している。環境団体ウォーターキーパー・バングラデシュのシャリフ・ジャミル氏は「わが国におけるガス火力発電所建設で日本は大きな役割を担っている」と語る。
シャリフ・ジャミル氏(同)
「バングラデシュのデルタ地帯では多くの人々が暮らしている。ガス火力発電は解決策にはならない。私たちを守りたいのであれば、再生可能エネルギーの計画が必要だ。もちろん日本の協力を望んでいるが、持続可能で再生可能であるべきだ」(ジャミル氏)
環境団体オイルチェンジ・インターナショナルによると、海外の化石燃料事業に20~22年に公的資金を提供した20カ国・地域(G20)の国で日本はカナダ、韓国に次ぐ3位。海外のLNG輸出施設への資金提供(12~26年見通し)で日本は中国と米国を押さえ1位になっている。
環境エネルギー政策研究所(isep)の松原弘直主席研究員は「日本は電源構成の約70%を化石燃料に依存している。これをゼロにしていく筋道が見えていない。NGOや研究者は35年には再エネ比率を80%に引き上げるゼロカーボン・シナリオを描く」と語る。
「30~40年まで天然ガスの安定的調達は不可避」
松原氏によると、NGOのシナリオ通り原発も石炭もゼロにするとなると、天然ガスが必要になる。日本はこれまで長期契約で海外に天然ガスを依存してきた。30~40年までは天然ガスの安定的な調達は避けられない。その上で再エネを増やしていく戦略を立てなければならない。
「天然ガスを使う場合でも脱炭素になるような対策が必要だが、水素アンモニア混焼は非常にコストが高くつく。望むべくは40年までには天然ガスもゼロに近づけるような道筋を示していく必要があるのではないか」と問いかける。
<日本は排出削減対策が講じられていない国外の化石燃料エネルギー部門への公的直接支援を終わらせる方針を示しているが>
[バクー発]国際協力銀行(JBIC)が2016年以降、化石燃料ガス事業を拡大するため186億ドルを提供してきたことが国際環境NGO、FoEジャパンの調べで分かった。途上国の気候変動への適応と緩和を支援する「緑の気候基金」に日本が拠出する42億ドルの4倍以上に当たる。
オーストラリア、バングラデシュ、カナダ、インドネシア、モザンビーク、フィリピン、タイ、米国、ベトナムの事例をまとめたFoEジャパンの報告書によると、JBICは23年以降も化石燃料ガス事業に39億ドルの投融資を行い、現地住民の批判にさらされている。
日本は22年の主要7カ国(G7)首脳会議で「排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を同年末までに終わらせる」ことに同意した。「排出削減対策」の解釈について市民社会は日本政府が進める水素混焼に対して厳しい見方を示す。
「ガス田開発やガス火力発電事業に引き続き投融資」
JBICの林信光総裁は国際合意(排出削減対策)に整合しているかどうか確認しながら「ガス田開発やガス火力発電所のプロジェクトに引き続き投融資していく」方針だ。日本のエネルギー基本計画では2030年までにガス火力発電への30%水素混焼の導入・普及を目指している。
昨年、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の成果文書は「化石燃料からの脱却」を明記した。しかしCOPは3年連続で、化石燃料産出国で開かれ、天然ガスは過渡的エネルギーとして免罪符を得つつある。
アゼルバイジャンの首都バクーで開かれているCOP29には少なくとも1773人の化石燃料ロビイストが参加を認められたことが環境団体の連合体「キック・ビッグ・ポリューターズ・アウト」(大量排出者を排除せよ)の分析で明らかになった。
アゼルバイジャンは輸出の90%を化石燃料に依存
議長国アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領がCOP29の開幕演説で石油と天然ガスを「神からの贈り物」と述べ、自国を「中傷と脅迫の組織的なキャンペーン」の犠牲者に例え、石油・天然ガス産業を目の敵にする西側メディアと気候活動家に反論した。
アゼルバイジャンは予算の60%、輸出の90%を化石燃料に依存する。アリエフ大統領は米国と欧州連合(EU)の二重基準をやり玉に挙げる。化石燃料産出国の巻き返しが激化する中、化石燃料を燃やすことに途上国や市民社会からは一段と厳しい目が向けられている。
15日、世界の環境NGOが参加する「気候行動ネットワーク」(CAN)は日本を含むG7に「本日の化石賞」を授与した。COP29の焦点である気候資金について「G7は過去20年間、財政責任を回避し、逃げ続けてきた」というのがその理由だ。
「今日の化石賞」に選ばれたG7(CAN Japan提供)
「日本の協力を望むが、持続可能で再生可能であるべき」
バングラデシュのメグナハットLNG(液化天然ガス)火力発電所には国際協力機構(JICA)やJBICも資金提供している。環境団体ウォーターキーパー・バングラデシュのシャリフ・ジャミル氏は「わが国におけるガス火力発電所建設で日本は大きな役割を担っている」と語る。
シャリフ・ジャミル氏(同)
「バングラデシュのデルタ地帯では多くの人々が暮らしている。ガス火力発電は解決策にはならない。私たちを守りたいのであれば、再生可能エネルギーの計画が必要だ。もちろん日本の協力を望んでいるが、持続可能で再生可能であるべきだ」(ジャミル氏)
環境団体オイルチェンジ・インターナショナルによると、海外の化石燃料事業に20~22年に公的資金を提供した20カ国・地域(G20)の国で日本はカナダ、韓国に次ぐ3位。海外のLNG輸出施設への資金提供(12~26年見通し)で日本は中国と米国を押さえ1位になっている。
環境エネルギー政策研究所(isep)の松原弘直主席研究員は「日本は電源構成の約70%を化石燃料に依存している。これをゼロにしていく筋道が見えていない。NGOや研究者は35年には再エネ比率を80%に引き上げるゼロカーボン・シナリオを描く」と語る。
「30~40年まで天然ガスの安定的調達は不可避」
松原氏によると、NGOのシナリオ通り原発も石炭もゼロにするとなると、天然ガスが必要になる。日本はこれまで長期契約で海外に天然ガスを依存してきた。30~40年までは天然ガスの安定的な調達は避けられない。その上で再エネを増やしていく戦略を立てなければならない。
「天然ガスを使う場合でも脱炭素になるような対策が必要だが、水素アンモニア混焼は非常にコストが高くつく。望むべくは40年までには天然ガスもゼロに近づけるような道筋を示していく必要があるのではないか」と問いかける。