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夫婦間の不仲から米社会の分断まで...「不健全な対立」を「健全」に変える2つの方法

ニューズウィーク日本版 2024年11月19日 10時55分

岩田佳代子 ※編集・企画:トランネット
<政治的な対立、戦争、夫婦喧嘩、子どものいじめ......。対立には「よい対立」と「悪い対立」があり、健全な対立はむしろ必要だと、米ベストセラー作家のアマンダ・リプリーは言う。だがどうやって?>

「対立」――この言葉にあまりいいイメージはないかもしれない。広辞苑を引いても、「二つのものが反対の立場に立って張り合うこと」とある。

だがそんな対立にも「よい対立」つまりは「健全な対立」もあり、「健全な対立」はむしろ積極的に行っていくべきだと、アメリカのベストセラー作家、アマンダ・リプリーは言う。

今も私たちの周りにはさまざまな対立が存在している。大きいものは国内の野党対与党や米国の民主党対共和党といった政治的な対立。もちろん戦争もそうだ。米国の分断が浮き彫りになった大統領選から、終わりの見えないウクライナ戦争、ガザ紛争まで、政治的な対立を挙げればきりがない。

身近なところでは、夫婦喧嘩や子どもたちのグループ同士の対立も。喧嘩が不倫や離婚といった結末を迎えることは珍しくないし、子ども同士の対立がいじめに発展し、悲惨な事件につながるケースもある。

そう考えると、対立などないほうがいいと思うだろうが、これらはいずれも「不健全な対立」だ。そして「不健全な対立」には人々を引きずり込む強い力がある。

だからこそ、その力を見極め、抗い、「健全な対立」に変えていこうと、リプリーは新著『よい対立 悪い対立――世界を二極化させないために』(筆者訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)で訴える。各界から賛辞が寄せられた同書は、膨大なインタビューと最新の研究から「対立の力学」を解き明かした1冊だ。

不健全な対立を「なくす」とか「終わらせる」ではなく、「健全な対立に変える」とは、どういうことだろう。

『よい対立、悪い対立』は、そのための方法を伝授してくれる。

有益な対立に導いてくれる「ガードレール」

マハトマ・ガンジーいわく「誠実な意見の食い違いは、往々にして進歩のためのいい兆候である」が、それも条件次第であっという間に不誠実な意見の食い違いとなり、不健全な対立に陥ってしまう。

だからこそ、その条件を避けるためのガードレール──有益な対立に導いてくれるが、不健全な対立には陥らないよう守ってくれるガードレールをつくることが大事なのだという。

それには、相手に、その人の話を自分がしっかり聞いていると態度で示すこと、そして、対立という物語を複雑にすることだ。

自分の話をきちんと聞いてもらえていると実感できれば、話し手も冷静になり、自分の話に矛盾点があるなら、自ら進んでそれを認めることもできるようになる。そうすると人は、聞き手に回ったときには同じようにしっかり聞こうとする。

また、例えば「白人」対「黒人」という単純な二項対立だと不健全な対立に陥りやすいが、「白人で男性でサッカーをしていて家族がいて......」と条件を複雑にしていけば、相手と共通する点が見つかり、そこから互いを理解していくことも可能になってくる。

そうやって健全な対立に変えていけば、互いに切磋琢磨し合いながら成長し、よりよい人間となっていけるだろう。大事なのは、他者を思いやること。しかしこれは、簡単なようで一番難しいことかもしれない。

身につまされる「バカ運転手反射」行為の危険性

本書の魅力は、とにかく具体例が豊富なことだ。しかも、成功例はもとより、失敗例も、そこからいかにして軌道修正していくかも記してある。

南米コロンビアのゲリラ戦を背景にした対立から、ギャング間の対立、地方政治における対立など、さまざまな対立を実際に経験してきた当事者への著者渾身の取材活動によって、その悲喜こもごもの生の声が綴られている。

元米国大統領アダムズとジェファーソンの対立や、ニクソン元大統領の娘二人の対立など、読み物としての面白さもある。

身につまされる人が多いのは、著者のリプリーの言う「バカ運転手反射」という対立だろう。自分のことは棚に上げ、他者が信号無視をすると反射的に、その人には道徳的欠陥があると決めてかかる。そんな経験はないだろうか。

もちろん信号無視はいけないことだが、体調が悪いなどの避けがたい理由があったかもしれないのに、そういう可能性は一切考えず、その人の人間性を一方的に断じてしまう。

だが本書を読めば、こうした行為の危険性を理解し、気づかないうちに不健全な対立に陥ってしまうことも避けられるようになっていくだろう。

不健全な対立がしかける「罠」には「足を踏み入れるな」

以下の2カ所は、『よい対立、悪い対立』の原書と邦訳から。

●Conflict becomes necessary and good, instead of just draining.
(対立は、人を消耗させるものから、自分に必要なものへと変わっていく)

──自分の信念は曲げないが、相手の言い分に耳を貸すことですべてが変わっていき、相手を思いやる気持ちも取り戻していける。同意はできないことも、理解はできるようになる。不健全な対立を健全な対立に変えていけば、自分にとってプラスになる。

●The best way to escape the Tar Pits should be clear : never set foot in them at all. Once we get captured, it's hard to get out.
(つまりタールピッツから逃れる最良の方法は、けっして足を踏み入れないこと。いったんとらわれれば、抜け出すのは容易ではない)

──タールピッツとは不健全な対立がしかける「罠」のたとえ。誰しも気をつけていないと簡単にその罠にはまってしまう。そこから抜け出す道はあるが、本書の複数の例が示すように、それは過酷で孤独な道のりだ。だからこそ、罠にはまらないようにしなければならない。

不健全な対立が横行する現代だからこそ、一人ひとりがしっかりとした自覚を持って、身近なところから「健全な対立」に変えていく努力が必要なのではないだろうか。

『よい対立 悪い対立――世界を二極化させないために』
 アマンダ・リプリー 著
 岩田佳代子 訳
 ディスカヴァー・トゥエンティワン

トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
https://www.trannet.co.jp/



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