エリー・クック
<北朝鮮軍部隊のロシア派兵で韓国が恐れるのは、戦場では役に立たないと言われる同胞の兵士が無駄死にすることではなく、生き残った兵士が貴重な戦闘スキルを身につけて朝鮮半島に戻ってくることだ>
ロシアに派兵された北朝鮮軍の兵士たちがロシア兵と肩を並べてウクライナ軍と戦い、朝鮮半島から遠く離れた地で貴重な戦闘経験を重ねるのだとしたら、韓国政府はそれを「決して座視できない」と駐英韓国大使が語った。
尹汝哲(ユン・ヨチョル)大使は本誌に対し、韓国政府は北朝鮮がロシアとウクライナの戦争に関与していることを「今後も注視」していくつもりであり、「ロシアと北朝鮮の軍事協力のレベルに応じて、段階的かつ積極的な措置を講じていく」と述べた。
アメリカ、ウクライナと韓国の情報機関によれば、この数週間で北朝鮮軍の精鋭部隊を含む1万人〜1万2000人の北朝鮮兵がロシア西部のクルスク州に到着している。ウクライナ政府は、クルスク州に派遣された北朝鮮兵の数を約1万5000人と推定している。
またブルームバーグは11月17日に、北朝鮮が数カ月ごとに交代させる形で最大10万人の兵士をロシアに派遣する可能性があると報じており、「韓国政府はロシアに派遣される北朝鮮兵の規模を注視している」と尹は述べた。
韓国はウクライナに殺傷兵器を直接供与することを拒んできたが、アメリカを通じる形でウクライナ軍に不足していた砲弾を数十万発分、提供してきたと報じられている。
また尹は韓国のウクライナ支援に関し、エネルギーや医療、教育機関向けの発電機など4億ドル相当の設備を提供していると説明。さらに20億ドル超の長期的支援の提供を計画しているとつけ加えた。
だが北朝鮮兵がロシアに向かい、その後ロシア軍の制服や装備を身につけているのが確認されて以降、韓国政府は殺傷能力のある兵器の支援について再検討に前向きな姿勢を示している。
韓国大統領府の関係者は10月、「段階的なシナリオの一環としてウクライナに防衛目的の兵器供与を検討するつもりであり、最終的には攻撃用兵器の供与も検討する可能性がある」と述べた。
尹汝哲は「大韓民国(韓国の正式名称)は同盟諸国と連携し、ウクライナが正義と恒久的な平和を確保するために必要な支援を提供していく」と述べた。
ウクライナのルステム・ウメロフ国防相は11月に入ってから韓国のメディアに対し、ウクライナ兵と北朝鮮兵の間で初めて「小規模な衝突」が発生したことを明らかにした。
ただし北朝鮮兵にどれだけの犠牲者が出たか、また何人の兵士が戦争捕虜になったかは確認できていないと述べていた。
「北朝鮮が独裁体制を維持するために自国民の命を顧みず、若い兵士たちを『使い捨て要員』にしていることは非常に遺憾だ」と尹は述べた。
米シンクタンク「アジア太平洋戦略センター」の上級研究員で元脱北者のパク・ジヒョンは以前、本誌に対し、北朝鮮では軍事訓練を受けた兵士の多くが農業や建設業などの非軍事的な業務に従事しており、集中的な戦闘訓練を受けることはほとんどないと説明。
ロシアに派遣された全ての兵士が精鋭部隊「暴風軍団」の隊員、あるいは潜入や暗殺の訓練を受けたエリート兵士である可能性は低いと述べていた。
しかしウクライナでの戦闘で生き残った兵士たちは、北朝鮮軍が擁する100万人超の兵士たちが持たない「戦闘の実体験」を得ることになる。北朝鮮と韓国の間の戦争(朝鮮戦争)は1953年に休戦となったものの、正式には終わっていない。
尹汝哲は「北朝鮮が戦闘経験を積み、武器の実際の運用データを入手し、ロシアからの経済支援を通じて核開発やミサイル開発の資金を調達すること、さらには軍事技術や通常兵器の近代化を行う上でロシアから支援を得る可能性を懸念している」と述べた。
韓国にとって最大の脅威である北朝鮮は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの本格侵攻を開始して以降、ロシアと関係を深めている。
ウクライナを支援する国々から「のけ者」にされているロシアは今年に入って、北朝鮮と相互防衛条項を含むパートナーシップ条約を結んだ。
北朝鮮はロシアに弾薬やミサイルを供給しつつ、国内で開発・製造した弾薬やミサイルを実際の戦闘で試している。
一方、ロシアは北朝鮮に対し食料支援や核開発計画に関する支援をしているとされる。これは国連の制裁に違反する行為であり、国際社会からも広く非難の声が上がっている。
北朝鮮は今年に入って複数のミサイル実験を行っている。数週間前には新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星19」の発射実験も行っており、挑発的な姿勢を強めている。
韓国との統一を目指す方針は放棄し、憲法改正で韓国を「敵対国」と定義、南北朝鮮を連結する道路や鉄道の一部を破壊した。
さらに、ごみを詰めた風船を繰り返し韓国に向けて飛ばしており、尹汝哲はこれを「卑劣な挑発行為」だとしている。彼によれば、これまでに6000個を超える風船が飛ばされているという。
韓国のメディアによれば韓国軍は11月18日、数週間ぶりに北朝鮮から「ごみ風船」が飛来したと発表した。
韓国の活動家たちは以前から、北朝鮮の体制を批判するビラを詰めた風船を北朝鮮に向けて飛ばしてきた。
北朝鮮の指導者である金正恩の妹である金与正は11月17日の談話で北朝鮮の領土が「汚染されている」と述べ、韓国は「その代価を払うことになるだろう」と宣言していた。
尹汝哲は、「北朝鮮が兵士や武器の提供に対する見返りとしてロシアから受け取る補償は、われわれに対する挑発や脅威の形で使われることになる可能性が高い」との見方を示した。
差し当たっての問題は、2025年に米大統領に返り咲くドナルド・トランプが、米朝関係をどう扱うつもりなのかということだ。トランプは大統領としての1期目に金正恩と複数回にわたって会談を行ったが、それ以降、北朝鮮の軍事力はさらに強くなっている。
アメリカの主な同盟国である韓国と日本は、アメリカにさらなる支援を求めており、韓国とアメリカの同盟関係は「これまで以上に強固だ」と尹汝哲は述べる。
韓国軍、米軍と日本の自衛隊は11月13日から共同訓練を実施。北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信はこの共同訓練を「わが国を標的とした侵略戦争の演習」と称した。
<北朝鮮軍部隊のロシア派兵で韓国が恐れるのは、戦場では役に立たないと言われる同胞の兵士が無駄死にすることではなく、生き残った兵士が貴重な戦闘スキルを身につけて朝鮮半島に戻ってくることだ>
ロシアに派兵された北朝鮮軍の兵士たちがロシア兵と肩を並べてウクライナ軍と戦い、朝鮮半島から遠く離れた地で貴重な戦闘経験を重ねるのだとしたら、韓国政府はそれを「決して座視できない」と駐英韓国大使が語った。
尹汝哲(ユン・ヨチョル)大使は本誌に対し、韓国政府は北朝鮮がロシアとウクライナの戦争に関与していることを「今後も注視」していくつもりであり、「ロシアと北朝鮮の軍事協力のレベルに応じて、段階的かつ積極的な措置を講じていく」と述べた。
アメリカ、ウクライナと韓国の情報機関によれば、この数週間で北朝鮮軍の精鋭部隊を含む1万人〜1万2000人の北朝鮮兵がロシア西部のクルスク州に到着している。ウクライナ政府は、クルスク州に派遣された北朝鮮兵の数を約1万5000人と推定している。
またブルームバーグは11月17日に、北朝鮮が数カ月ごとに交代させる形で最大10万人の兵士をロシアに派遣する可能性があると報じており、「韓国政府はロシアに派遣される北朝鮮兵の規模を注視している」と尹は述べた。
韓国はウクライナに殺傷兵器を直接供与することを拒んできたが、アメリカを通じる形でウクライナ軍に不足していた砲弾を数十万発分、提供してきたと報じられている。
また尹は韓国のウクライナ支援に関し、エネルギーや医療、教育機関向けの発電機など4億ドル相当の設備を提供していると説明。さらに20億ドル超の長期的支援の提供を計画しているとつけ加えた。
だが北朝鮮兵がロシアに向かい、その後ロシア軍の制服や装備を身につけているのが確認されて以降、韓国政府は殺傷能力のある兵器の支援について再検討に前向きな姿勢を示している。
韓国大統領府の関係者は10月、「段階的なシナリオの一環としてウクライナに防衛目的の兵器供与を検討するつもりであり、最終的には攻撃用兵器の供与も検討する可能性がある」と述べた。
尹汝哲は「大韓民国(韓国の正式名称)は同盟諸国と連携し、ウクライナが正義と恒久的な平和を確保するために必要な支援を提供していく」と述べた。
ウクライナのルステム・ウメロフ国防相は11月に入ってから韓国のメディアに対し、ウクライナ兵と北朝鮮兵の間で初めて「小規模な衝突」が発生したことを明らかにした。
ただし北朝鮮兵にどれだけの犠牲者が出たか、また何人の兵士が戦争捕虜になったかは確認できていないと述べていた。
「北朝鮮が独裁体制を維持するために自国民の命を顧みず、若い兵士たちを『使い捨て要員』にしていることは非常に遺憾だ」と尹は述べた。
米シンクタンク「アジア太平洋戦略センター」の上級研究員で元脱北者のパク・ジヒョンは以前、本誌に対し、北朝鮮では軍事訓練を受けた兵士の多くが農業や建設業などの非軍事的な業務に従事しており、集中的な戦闘訓練を受けることはほとんどないと説明。
ロシアに派遣された全ての兵士が精鋭部隊「暴風軍団」の隊員、あるいは潜入や暗殺の訓練を受けたエリート兵士である可能性は低いと述べていた。
しかしウクライナでの戦闘で生き残った兵士たちは、北朝鮮軍が擁する100万人超の兵士たちが持たない「戦闘の実体験」を得ることになる。北朝鮮と韓国の間の戦争(朝鮮戦争)は1953年に休戦となったものの、正式には終わっていない。
尹汝哲は「北朝鮮が戦闘経験を積み、武器の実際の運用データを入手し、ロシアからの経済支援を通じて核開発やミサイル開発の資金を調達すること、さらには軍事技術や通常兵器の近代化を行う上でロシアから支援を得る可能性を懸念している」と述べた。
韓国にとって最大の脅威である北朝鮮は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの本格侵攻を開始して以降、ロシアと関係を深めている。
ウクライナを支援する国々から「のけ者」にされているロシアは今年に入って、北朝鮮と相互防衛条項を含むパートナーシップ条約を結んだ。
北朝鮮はロシアに弾薬やミサイルを供給しつつ、国内で開発・製造した弾薬やミサイルを実際の戦闘で試している。
一方、ロシアは北朝鮮に対し食料支援や核開発計画に関する支援をしているとされる。これは国連の制裁に違反する行為であり、国際社会からも広く非難の声が上がっている。
北朝鮮は今年に入って複数のミサイル実験を行っている。数週間前には新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星19」の発射実験も行っており、挑発的な姿勢を強めている。
韓国との統一を目指す方針は放棄し、憲法改正で韓国を「敵対国」と定義、南北朝鮮を連結する道路や鉄道の一部を破壊した。
さらに、ごみを詰めた風船を繰り返し韓国に向けて飛ばしており、尹汝哲はこれを「卑劣な挑発行為」だとしている。彼によれば、これまでに6000個を超える風船が飛ばされているという。
韓国のメディアによれば韓国軍は11月18日、数週間ぶりに北朝鮮から「ごみ風船」が飛来したと発表した。
韓国の活動家たちは以前から、北朝鮮の体制を批判するビラを詰めた風船を北朝鮮に向けて飛ばしてきた。
北朝鮮の指導者である金正恩の妹である金与正は11月17日の談話で北朝鮮の領土が「汚染されている」と述べ、韓国は「その代価を払うことになるだろう」と宣言していた。
尹汝哲は、「北朝鮮が兵士や武器の提供に対する見返りとしてロシアから受け取る補償は、われわれに対する挑発や脅威の形で使われることになる可能性が高い」との見方を示した。
差し当たっての問題は、2025年に米大統領に返り咲くドナルド・トランプが、米朝関係をどう扱うつもりなのかということだ。トランプは大統領としての1期目に金正恩と複数回にわたって会談を行ったが、それ以降、北朝鮮の軍事力はさらに強くなっている。
アメリカの主な同盟国である韓国と日本は、アメリカにさらなる支援を求めており、韓国とアメリカの同盟関係は「これまで以上に強固だ」と尹汝哲は述べる。
韓国軍、米軍と日本の自衛隊は11月13日から共同訓練を実施。北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信はこの共同訓練を「わが国を標的とした侵略戦争の演習」と称した。