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今年も化石燃料によるCO2排出量は「過去最高」に...「生きるか死ぬかの問題だ」WHO専門家がCOP29で警告

ニューズウィーク日本版 2024年11月20日 6時8分

木村正人
<2015年のパリ協定以降、化石燃料による排出量は8%増加。島嶼国やコロンビアは化石燃料不拡散条約の締結を訴える>

[バクー発]「今こそ化石燃料の拡散を止める時だ」――核戦争の恐怖が核兵器不拡散条約(NPT)を実現させたように、地球温暖化を産業革命前比で摂氏1.5度に抑えるため化石燃料不拡散条約を締結しようと、島嶼国やコロンビアなど14カ国が国際社会に訴えている。

昨年、アラブ首長国連邦(UAE)での国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は「化石燃料からの脱却を進め、この重要な10年で行動を加速させる」ことで合意した。しかしアゼルバイジャンの首都バクーでのCOP29では化石燃料産業ロビイストが大手を振って歩く。

今回発表された英エクセター大学などグローバル・カーボン・プロジェクトの報告書によると、2015年のパリ協定以降、世界の化石燃料による二酸化炭素排出量は8%増加した。今年、これらの排出量は過去最高の374億トンに達し、前年から0.8%増加すると予測されている。

「汚染された空気によって毎年700万人が早死にする」

石炭・石油・ガスの排出量は今年それぞれ0.2%、0.9%、2.4%増加。「気候変動の影響はますます劇的になりつつあるが、化石燃料の燃焼がピークに達した兆候はまだ見られない」(報告書)。森林伐採など土地利用の変化を含めた総排出量も昨年の406億トンから416億トンに増えるという。

世界全体の32%を占める最大の排出国・中国の排出量は0.2%の微増、13%を占める米国の排出量は0.6%減、8%を占めるインドの排出量は4.6%も増加、7%を占める欧州連合(EU)域内の排出量は3.8%減少すると予測される。

WHOのマリア・ネイラ博士(筆者撮影)

世界保健機関(WHO)のマリア・ネイラ博士はCOP29での記者会見で「気候危機は健康危機でもあり、健康に深刻かつ劇的な影響を及ぼしている。気候危機の代償はすでに私たちの肺が払っている。汚染された空気にさらされることで毎年700万人が早死にしている」と指摘した。

「化石燃料からの脱却は生きるか死ぬかの問題だ」

化石燃料は大気汚染の原因と75%重なっており、私たちの肺は有害物質だらけとネイラ博士はいう。大気中に浮遊する微小粒子状物質(PM2.5)はWHOの安全基準では年平均で1立法メートル当たり5マイクログラムとなっているが、東京では2.6倍の13マイクログラム。

「経済的な理由でグリーンエネルギーへの移行を野心的なスピードで進められないと言う人がいれば、その代償は本当に莫大で、私たちの肺が最大の犠牲者だと教えてあげればいい。化石燃料からの脱却を加速させることは生きるか死ぬかの問題だ」とネイラ博士は強調した。

フィジーの気候変動問題担当ビマン・プラサド副首相は「気候危機の影響は海面上昇、異常気象の増加、生態系の乱れなど太平洋島嶼国に最も顕著に現れており、私たちの家屋、健康、生活を脅かしている。主に石油・ガス・石炭の採掘と使用が続いていることに起因する」と訴える。

化石燃料の段階的な廃止を世界的に管理する

「化石燃料は過去10年間の全炭素排出量の86%を占める。私たちは裕福な高汚染国による温室効果ガス排出の人的・経済的影響を被っている。1.5度目標を達成するため化石燃料不拡散条約の提案を支持する。来年大きな前進を遂げるだろう」とプラサド副首相は意気込んだ。

化石燃料不拡散条約は気候不正義に対処し、エネルギー移行を実現すると同時に化石燃料の段階的な廃止を世界的に管理する手段だ。法的拘束力のあるメカニズムの提案は富裕国に責任を負わせる一方で、気候変動に脆弱な国々に移行に必要な財政的・技術的支援を提供するという。

コロンビアのスサナ・ムハマド環境相(同)

コロンビアのスサナ・ムハマド環境相は「化石燃料不拡散条約の機運は引き続き高まっている。今年さらに10カ国が協議に参加する予定だ。COP29で気候資金に関する数値化された野心的な目標が設定されるようともに取り組んでいく」と話した。

「地球上の生命が絶滅するオムニサイドを回避せよ」

化石燃料産出国コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は元反政府ゲリラの出身。昨年のCOP28で参加理由について「私たちの社会は石油と石炭に依存しているのだから『大統領がそんな経済的自殺をするわけがない』と言う人がいるかもしれない」と語っている。

「しかしこれは経済的自殺ではない。地球上の生命が絶滅する『オムニサイド』を回避しようとしている。化石資本と生命との間で私たちは生命の側を選ぶ」とペトロ大統領は明言した。コロンビアは今年、国連生物多様性条約第16回締約国会議(CBD COP16)の議長国を務めた。

核兵器保有国が国連安全保障理事会常任理事国の5カ国だけでなく、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮に拡散し、有名無実化する核兵器不拡散条約ではなく、核兵器の全廃に向け、2021年に発効した核兵器禁止条約(TPNW)をモデルにすべきだとの声もある。



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