加谷珪一
<教員の仕事に対する前向きな感情を引き下げているのは授業以外の業務。問題の根本原因を考えると、年収を一律に引き上げる方策は効果を発揮しない可能性が高い>
このところ教員の職場環境がブラック化しているという話題がよく取り上げられる。人材しか資源のない日本にとって教育の役割は重要であり、経済成長にも大きな影響を与えている。教員の職場環境劣化はデジタル化の遅れとも密接に関係しており、日本全体に共通した働き方の問題でもある。
かつて教員は聖職とされ、個人の生活を犠牲にしてでも、児童・生徒のために奔走するのが当たり前とされていた。しかし時代は変わり、教員も労働者の一員であり、プライベートな生活を犠牲にしない働き方が求められるようになっている。
地域社会における教員に対する接し方も変わってきた。一部の保護者は、教師をサービス業従事者と見なしており、厳しいクレームを学校や教員に対して行うケースも増加している。過剰なクレームを付ける、いわゆるモンスターペアレントというような存在は以前では考えられなかった人たちと言えるだろう。
パーソル総合研究所の調査によると、教員の多くにとって保護者対応やPTA対応、調査統計への対応など、授業以外の業務が極めて大きな負荷になっていると同時に、仕事に対する前向きな感情(ワーク・エンゲイジメント)を引き下げている。一方で、授業という教員本来の業務については、負荷はそれほど大きくなく、業務に対する満足度も高い。
給与を一律に引き上げる方策は解決策になるか
過去20年、教員の数はあまり変化していない一方で、児童・生徒の数は少子化によって大幅に減少した。つまり教員1人当たりの児童・生徒の数は減少しているので、授業以外の業務が原因で負荷が増大したことはほぼ明らかだ。
劣悪な職場環境という点では介護分野でも似たような問題が指摘されているが、こちらは賃金水準が大幅に低く、低賃金が満足度低下の大きな要因である可能性が高い。
一方、教員は現時点において平均600万円程度の年収があり、それほど低い水準とは言えない。従って教員の場合には、「モンペ」対応など、従来にはなかった業務が増えていることに加え、デジタル化の不備などで雑務を軽減できていないことがブラック化の根本原因と考えてよい。
こうした現状に対して文部科学省は、教師の年収を一律に引き上げる方策を検討中だが、学校が抱えるこれらの諸問題を考えると、全員の年収を一律に引き上げるやり方は効果を発揮しない可能性が高い。
一口に教師といっても、あらゆる業務を抱えながらも、私生活を犠牲にして業務に邁進している人もいれば、十分なパフォーマンスを上げていない教員もいる。また学校全体のマネジメント方針の違いによって、ブラック化している職場とそうでない職場の違いも大きいだろう。
日本全体の生産性向上に関する試金石
他業種と同様、教員についても業務範囲を明確にし、システムを活用した業務管理を進めることによって、無制限残業などが発生しないよう工夫することが重要である。一方で、やむを得ない理由で長時間労働せざるを得なかった教員には、一般企業と同様、残業代をしっかり支給するなどの対応が必要となるだろう。
教員というのは、業務の性質上、どうしても全人格的な対応が求められがちだが、だからといって無制限に働かせてよいということにはならない。教員の働き方改革は、日本全体の生産性向上に関する試金石となるはずだ。
<教員の仕事に対する前向きな感情を引き下げているのは授業以外の業務。問題の根本原因を考えると、年収を一律に引き上げる方策は効果を発揮しない可能性が高い>
このところ教員の職場環境がブラック化しているという話題がよく取り上げられる。人材しか資源のない日本にとって教育の役割は重要であり、経済成長にも大きな影響を与えている。教員の職場環境劣化はデジタル化の遅れとも密接に関係しており、日本全体に共通した働き方の問題でもある。
かつて教員は聖職とされ、個人の生活を犠牲にしてでも、児童・生徒のために奔走するのが当たり前とされていた。しかし時代は変わり、教員も労働者の一員であり、プライベートな生活を犠牲にしない働き方が求められるようになっている。
地域社会における教員に対する接し方も変わってきた。一部の保護者は、教師をサービス業従事者と見なしており、厳しいクレームを学校や教員に対して行うケースも増加している。過剰なクレームを付ける、いわゆるモンスターペアレントというような存在は以前では考えられなかった人たちと言えるだろう。
パーソル総合研究所の調査によると、教員の多くにとって保護者対応やPTA対応、調査統計への対応など、授業以外の業務が極めて大きな負荷になっていると同時に、仕事に対する前向きな感情(ワーク・エンゲイジメント)を引き下げている。一方で、授業という教員本来の業務については、負荷はそれほど大きくなく、業務に対する満足度も高い。
給与を一律に引き上げる方策は解決策になるか
過去20年、教員の数はあまり変化していない一方で、児童・生徒の数は少子化によって大幅に減少した。つまり教員1人当たりの児童・生徒の数は減少しているので、授業以外の業務が原因で負荷が増大したことはほぼ明らかだ。
劣悪な職場環境という点では介護分野でも似たような問題が指摘されているが、こちらは賃金水準が大幅に低く、低賃金が満足度低下の大きな要因である可能性が高い。
一方、教員は現時点において平均600万円程度の年収があり、それほど低い水準とは言えない。従って教員の場合には、「モンペ」対応など、従来にはなかった業務が増えていることに加え、デジタル化の不備などで雑務を軽減できていないことがブラック化の根本原因と考えてよい。
こうした現状に対して文部科学省は、教師の年収を一律に引き上げる方策を検討中だが、学校が抱えるこれらの諸問題を考えると、全員の年収を一律に引き上げるやり方は効果を発揮しない可能性が高い。
一口に教師といっても、あらゆる業務を抱えながらも、私生活を犠牲にして業務に邁進している人もいれば、十分なパフォーマンスを上げていない教員もいる。また学校全体のマネジメント方針の違いによって、ブラック化している職場とそうでない職場の違いも大きいだろう。
日本全体の生産性向上に関する試金石
他業種と同様、教員についても業務範囲を明確にし、システムを活用した業務管理を進めることによって、無制限残業などが発生しないよう工夫することが重要である。一方で、やむを得ない理由で長時間労働せざるを得なかった教員には、一般企業と同様、残業代をしっかり支給するなどの対応が必要となるだろう。
教員というのは、業務の性質上、どうしても全人格的な対応が求められがちだが、だからといって無制限に働かせてよいということにはならない。教員の働き方改革は、日本全体の生産性向上に関する試金石となるはずだ。