サム・ポトリッキオ
<テレビ司会者に買春疑惑、反ワクからロシアのスパイ関係者まで...「泥棒を警官」にするような閣僚人事連発で世界の度肝を抜いた第2次トランプ政権。今後の展開を6つのポイントで解説する>
来たるべき未来を透視するには歴史を掘り下げるのが近道だという。だから今、私は第22代と第24代のアメリカ大統領グロバー・クリーブランドの伝記を読み直している。
先週号でも指摘したが、先の大統領選を制してホワイトハウスへの復帰を決めたドナルド・トランプ次期大統領は、クリーブランドに次いで史上2人目の「非連続で大統領職を2期8年」務める男となる(同一人物の連続2期は1代として扱うが、非連続の2期は2代と数える。だから第45代のトランプは今度、第47代となる)。
さて、世に「歴史は繰り返さないが韻を踏む」と言うが、トロイ・セニックによるクリーブランド伝『鉄の男』を読むと、なるほどと思わされる。そもそもクリーブランドが2度までも大統領になれたのは「決して政治家に操られず、逆に彼らを軽蔑し、無視した」結果だと著者は書く。
クリーブランドには強靭な回復力とテフロン加工の鍋のように傷つかない強さがあり、だから誰も彼を止められなかった。
政治家たちが「蹴散らされたのは、彼の全てが鉄で出来ているように」見えたからで、クリーブランドはまさに「花こう岩を搭載した鋼鉄の船さながらに米国史を突き進んだ」のだった。
いかがだろう? もしもクリーブランドの名を伏せてこれらの文章を読ませ、さて誰の話かと問えば、たいていの人はトランプと答えるだろう。それはさておき、「トランプ2.0」を読み解くには以下のような問いに答える必要がありそうだ。
ホワイトハウスにトランプ次期大統領を招いて会談したジョー・バイデン大統領(11月13日) KEVIN LAMARQUEーREUTERS
1. 次期政権の最重要人物は誰か?
子供時代の私にとって、親兄弟に優るとも劣らぬほど大切だったのはNFL(全米プロフットボールリーグ)中継の伝説的名コンビであるパット・サマーオールとジョン・マッデンの声だ。後年には人気テレビゲームの声ともなり、大学生の頃までお世話になった。
だからトランプ陣営で辣腕を振るった選挙対策本部長スージー・ワイルズの過去を調べていて、なんとNFL中継の名手サマーオールの娘だと知ったときには仰天した。「トランプにとってのワイルズはジョン・マッデンにとってのパット・サマーオールか」と題する新聞記事があったのだ。
感情的で衝動的、時に暴言も吐くマッデンを、「サマーオールは完璧な実況で補佐していた」という。このコンビによる中継は22年も続いた。荒馬マッデンを御する術を心得たサマーオールが、あくまでも黒子に徹したおかげだ。
娘のワイルズも同じ資質を持っている。トランプが米政治史上最高の復活を果たし、家族からイーロン・マスクに至るまでの面々を勝利宣言の舞台に呼んだとき、トランプはワイルズにも登壇して脚光を浴び、一言述べるように求めたのだが、ワイルズは前に出てきただけで発言はしなかった。
彼女はトランプに「アイス・レディー(氷の淑女)」と呼ばれている。トランプは常に、自分が宇宙の中心でないと気が済まない。だからワイルズのように控えめな人物が重用される。そんな彼女が大統領の首席補佐官(実権は副大統領よりもある)となる。女性としては史上初だ。
ある識者はこう指摘する。「見る者が見れば、政界の行事に彼女が影響を及ぼしていることは明白だが目には見えない」。そう、わずかな痕跡が見える程度でいい。公の場で、たいていは後ろに控えている。本人が公式発言をすることはまずない。自分自身についてはもっと語らない。
トランプの最大の弱点は自分自身を御せないこと。しばしば子供じみたことをし、平気で暴言・放言も吐く。そんな男の選挙戦をワイルズは仕切ってきた。ただし国政の運営は選挙戦とは違う。彼女のマジックがホワイトハウスでも効くかどうか。効かなかったら、最悪だ。
2. 口先勝負か政策勝負か?
選挙が終わってすぐ、私はシュールな機会を得た。連邦議会主催のプログラムで、ウクライナの政治代表団と面談したのだ。ロシアとの戦争で血を流しているウクライナ人にとって、トランプの勝利は最悪の事態だと思っていた私は、葬式のような雰囲気を覚悟していた。
しかし違った。彼らは明るく自信に満ちていて、私は啞然とした。
ウクライナ人は、熱烈なトランプ支持者並みのトランプ礼賛を口にした。いわく、ウクライナの領土が奪われたのはトランプ時代ではなく、オバマとバイデンの時代だった。
トランプは最初の4年間で、オバマと(ロシアの侵攻以前の)バイデンを合わせたよりも多くの殺傷兵器をウクライナに供与してくれた......。
国務長官にマルコ・ルビオ上院議員、CIA長官にジョン・ラトクリフ元国家情報長官という今の共和党で考えられる限りの妥当な人物を指名したトランプの選択は、「プーチンに味方する」という選挙中の発言よりも現実的な政策を優先した結果と言える。
だがピート・ヘグセスを国防長官に、タルシー・ガバード下院議員を国家情報長官に、マット・ゲーツ下院議員を司法長官に、ロバート・ケネディJr.を保健福祉長官に起用したトランプの人選は荒唐無稽で冗談としか思えない。
ヘグセスは単なるテレビ司会者で、行政の知識や経験はなく、ハイレベルの軍を指揮したこともない。元民主党員のガバードはロシアのスパイと関係があり、アメリカの敵対国の言い分とそっくりな主張をしてきた。彼女に情報機関の調整を委ねるなんて、まるでバラエティー番組だ。
買春疑惑で司法省の捜査対象となったゲーツを司法省のトップに据えるのは、これまた背筋が凍る話。反ワクチン派のケネディに医療行政を委ねるのも恐怖の茶番だ。
政界通のある人物に言わせると、トランプには最大の支持者に恩返しをする必要があり、選挙戦中の途方もない約束を一部なりと実現してやることで、熱烈なMAGA派の有権者を納得させたいのだろう。
連邦議会の上院がこんなばかげた閣僚人事を承認しないことは、トランプも承知の上だ。しかし、これで自分に対する共和党上院議員の忠誠心を試すことはできる。
「MAGA派を喜ばせ、党派の壁を越えてきたガバードやケネディのような仲間に感謝の意を表し、議会共和党の忠誠心を測り、リベラル派を沈没させ、党内エリートを震え上がらせることになるから、トランプにとっては一石二鳥、三鳥だ。実際の政策は、従来の共和党路線と大差ないものになるだろう」と推測する政治コンサルタントもいた。
しかし今のトランプは共和党を完全に支配している。そうであれば、こうしたとっぴな人選の脅威を過小評価するのは禁物だ。
あるコメンテーターは、ゲーツを司法長官に指名するのはロシアのウラジーミル・プーチン大統領を国防長官に起用するのと同じくらい滑稽だと指摘した。そのとおりだが、それが現実。今の共和党なら、カマラ・ハリスよりもプーチンを選ぶに決まっている。
3. 「プロジェクト2025」は?
2025年の政権奪還を見据えて保守派のシンクタンク「ヘリテージ財団」がまとめた膨大な政策提言が「プロジェクト2025」。大統領権限を大幅に拡大し、人工妊娠中絶の禁止など超保守的な社会政策を推進すると明記した文書で、当然のことながら過半数を超える国民には受け入れ難い内容だ。
だから民主党は選挙戦で、トランプが勝てば「プロジェクト2025」が実行されると叫び、有権者の不安をあおった。しかしトランプは本能的に空気を読み取り、自分は「プロジェクト2025」など知らず、読んでもいないと言い張った。
トランプは1期目で多くを学んだ。だから「プロジェクト2025」を熱烈に支持する2人を、上院の承認を必要としない要職に就けた。
国境管理(つまり移民の流入規制)を仕切る「ボーダー・ツァー(国境皇帝)」にトム・ホーマン元移民関税執行局(ICE)局長代理、大統領次席補佐官には元大統領上級顧問で移民嫌いのスティーブン・ミラーだ。
これで議会民主党の追及を受けることなく「プロジェクト2025」の提言を粛々と実行に移せる。トランプは賢い。まるで狐だ。
4. イーロン・マスクの権限は?
今のマスクはまるでトランプ家の一員だ。フロリダの邸宅マールアラーゴでは、一族と一緒に記念写真に納まっている。
買収したX(旧ツイッター)を最大限に利用して都合のよい情報を拡散させ、自分の設立したスーパーPAC(特別政治活動委員会)を通じて莫大な選挙資金を提供した功績ゆえの特別待遇だろう。
そのマスクを、トランプは官僚機構の効率化と整理・縮小を指揮する新組織、政府効率化省(DOGE)のトップに起用した。副官に抜擢されたのは、人呼んで「小トランプ」の実業家ビベック・ラマスワミ。もちろん目指すは「小さな政府」だ。
しかし、これはマスクを祭り上げる巧妙な策略かもしれない。なにしろマスクは車もSNSも宇宙開発も変えてきたスーパースターであり、トランプが夢見る「世界一の大富豪」の座をあっさり手に入れてしまった男。
そんな超人が近くにいては目障りだから、体よく脇に追いやった。そう読むこともできる。
5. トランプ2.0の新星は誰?
新星は国連大使に起用されたエリス・ステファニク下院議員だ。女性として最年少で連邦議員に選ばれた頃は穏健な主張を掲げ、民主党員と見まがうばかりだったが、今ではトランプの熱烈な支持者の一人だ。
激しやすく、党派的な人物ではあるが、国連大使のポストは政治的に飛躍する絶好の足がかりとなり得る。いずれは下院議長との呼び声も高いが、その先に見据えている大きな目標は大統領だろう。
ちなみにジョージ・ブッシュ(父)は国連大使から大統領になったし、マデリン・オルブライトは国連大使を経て国務長官まで出世している。
国連の場で、アメリカ代表として立ち回ればステファニクの知名度は一気に上がる。そしていつの日か、ホワイトハウスへの道を歩み始めることだろう。
6. 娘婿クシュナーはどこに?
1期目のトランプ政権で、娘婿ジャレッド・クシュナーは最も広範かつ重要な役割を果たした。しかし今は政治の表舞台から姿を消している。
クシュナーは元民主党員だから、21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件以後は義父から距離を置いているという説もある。だが彼はホワイトハウスでの地位を利用してサウジアラビアやカタールで稼いできた。
サウジの政府系ファンドはクシュナー絡みの案件について難色を示していたが、皇太子ムハンマド・ビン・サルマンの鶴の一声で承認された。なにしろ第1次トランプ政権でのクシュナーは、ムハンマドの最大の支援者だった。
そんな金づるとの関係を断ち切って、クシュナーがホワイトハウスに復帰する可能性はあるだろうか。義父とワイルズの関係がこじれれば、あり得る。現状ではワイルズが大統領の右腕だが、いざとなればクシュナーの出番になるだろう。
<テレビ司会者に買春疑惑、反ワクからロシアのスパイ関係者まで...「泥棒を警官」にするような閣僚人事連発で世界の度肝を抜いた第2次トランプ政権。今後の展開を6つのポイントで解説する>
来たるべき未来を透視するには歴史を掘り下げるのが近道だという。だから今、私は第22代と第24代のアメリカ大統領グロバー・クリーブランドの伝記を読み直している。
先週号でも指摘したが、先の大統領選を制してホワイトハウスへの復帰を決めたドナルド・トランプ次期大統領は、クリーブランドに次いで史上2人目の「非連続で大統領職を2期8年」務める男となる(同一人物の連続2期は1代として扱うが、非連続の2期は2代と数える。だから第45代のトランプは今度、第47代となる)。
さて、世に「歴史は繰り返さないが韻を踏む」と言うが、トロイ・セニックによるクリーブランド伝『鉄の男』を読むと、なるほどと思わされる。そもそもクリーブランドが2度までも大統領になれたのは「決して政治家に操られず、逆に彼らを軽蔑し、無視した」結果だと著者は書く。
クリーブランドには強靭な回復力とテフロン加工の鍋のように傷つかない強さがあり、だから誰も彼を止められなかった。
政治家たちが「蹴散らされたのは、彼の全てが鉄で出来ているように」見えたからで、クリーブランドはまさに「花こう岩を搭載した鋼鉄の船さながらに米国史を突き進んだ」のだった。
いかがだろう? もしもクリーブランドの名を伏せてこれらの文章を読ませ、さて誰の話かと問えば、たいていの人はトランプと答えるだろう。それはさておき、「トランプ2.0」を読み解くには以下のような問いに答える必要がありそうだ。
ホワイトハウスにトランプ次期大統領を招いて会談したジョー・バイデン大統領(11月13日) KEVIN LAMARQUEーREUTERS
1. 次期政権の最重要人物は誰か?
子供時代の私にとって、親兄弟に優るとも劣らぬほど大切だったのはNFL(全米プロフットボールリーグ)中継の伝説的名コンビであるパット・サマーオールとジョン・マッデンの声だ。後年には人気テレビゲームの声ともなり、大学生の頃までお世話になった。
だからトランプ陣営で辣腕を振るった選挙対策本部長スージー・ワイルズの過去を調べていて、なんとNFL中継の名手サマーオールの娘だと知ったときには仰天した。「トランプにとってのワイルズはジョン・マッデンにとってのパット・サマーオールか」と題する新聞記事があったのだ。
感情的で衝動的、時に暴言も吐くマッデンを、「サマーオールは完璧な実況で補佐していた」という。このコンビによる中継は22年も続いた。荒馬マッデンを御する術を心得たサマーオールが、あくまでも黒子に徹したおかげだ。
娘のワイルズも同じ資質を持っている。トランプが米政治史上最高の復活を果たし、家族からイーロン・マスクに至るまでの面々を勝利宣言の舞台に呼んだとき、トランプはワイルズにも登壇して脚光を浴び、一言述べるように求めたのだが、ワイルズは前に出てきただけで発言はしなかった。
彼女はトランプに「アイス・レディー(氷の淑女)」と呼ばれている。トランプは常に、自分が宇宙の中心でないと気が済まない。だからワイルズのように控えめな人物が重用される。そんな彼女が大統領の首席補佐官(実権は副大統領よりもある)となる。女性としては史上初だ。
ある識者はこう指摘する。「見る者が見れば、政界の行事に彼女が影響を及ぼしていることは明白だが目には見えない」。そう、わずかな痕跡が見える程度でいい。公の場で、たいていは後ろに控えている。本人が公式発言をすることはまずない。自分自身についてはもっと語らない。
トランプの最大の弱点は自分自身を御せないこと。しばしば子供じみたことをし、平気で暴言・放言も吐く。そんな男の選挙戦をワイルズは仕切ってきた。ただし国政の運営は選挙戦とは違う。彼女のマジックがホワイトハウスでも効くかどうか。効かなかったら、最悪だ。
2. 口先勝負か政策勝負か?
選挙が終わってすぐ、私はシュールな機会を得た。連邦議会主催のプログラムで、ウクライナの政治代表団と面談したのだ。ロシアとの戦争で血を流しているウクライナ人にとって、トランプの勝利は最悪の事態だと思っていた私は、葬式のような雰囲気を覚悟していた。
しかし違った。彼らは明るく自信に満ちていて、私は啞然とした。
ウクライナ人は、熱烈なトランプ支持者並みのトランプ礼賛を口にした。いわく、ウクライナの領土が奪われたのはトランプ時代ではなく、オバマとバイデンの時代だった。
トランプは最初の4年間で、オバマと(ロシアの侵攻以前の)バイデンを合わせたよりも多くの殺傷兵器をウクライナに供与してくれた......。
国務長官にマルコ・ルビオ上院議員、CIA長官にジョン・ラトクリフ元国家情報長官という今の共和党で考えられる限りの妥当な人物を指名したトランプの選択は、「プーチンに味方する」という選挙中の発言よりも現実的な政策を優先した結果と言える。
だがピート・ヘグセスを国防長官に、タルシー・ガバード下院議員を国家情報長官に、マット・ゲーツ下院議員を司法長官に、ロバート・ケネディJr.を保健福祉長官に起用したトランプの人選は荒唐無稽で冗談としか思えない。
ヘグセスは単なるテレビ司会者で、行政の知識や経験はなく、ハイレベルの軍を指揮したこともない。元民主党員のガバードはロシアのスパイと関係があり、アメリカの敵対国の言い分とそっくりな主張をしてきた。彼女に情報機関の調整を委ねるなんて、まるでバラエティー番組だ。
買春疑惑で司法省の捜査対象となったゲーツを司法省のトップに据えるのは、これまた背筋が凍る話。反ワクチン派のケネディに医療行政を委ねるのも恐怖の茶番だ。
政界通のある人物に言わせると、トランプには最大の支持者に恩返しをする必要があり、選挙戦中の途方もない約束を一部なりと実現してやることで、熱烈なMAGA派の有権者を納得させたいのだろう。
連邦議会の上院がこんなばかげた閣僚人事を承認しないことは、トランプも承知の上だ。しかし、これで自分に対する共和党上院議員の忠誠心を試すことはできる。
「MAGA派を喜ばせ、党派の壁を越えてきたガバードやケネディのような仲間に感謝の意を表し、議会共和党の忠誠心を測り、リベラル派を沈没させ、党内エリートを震え上がらせることになるから、トランプにとっては一石二鳥、三鳥だ。実際の政策は、従来の共和党路線と大差ないものになるだろう」と推測する政治コンサルタントもいた。
しかし今のトランプは共和党を完全に支配している。そうであれば、こうしたとっぴな人選の脅威を過小評価するのは禁物だ。
あるコメンテーターは、ゲーツを司法長官に指名するのはロシアのウラジーミル・プーチン大統領を国防長官に起用するのと同じくらい滑稽だと指摘した。そのとおりだが、それが現実。今の共和党なら、カマラ・ハリスよりもプーチンを選ぶに決まっている。
3. 「プロジェクト2025」は?
2025年の政権奪還を見据えて保守派のシンクタンク「ヘリテージ財団」がまとめた膨大な政策提言が「プロジェクト2025」。大統領権限を大幅に拡大し、人工妊娠中絶の禁止など超保守的な社会政策を推進すると明記した文書で、当然のことながら過半数を超える国民には受け入れ難い内容だ。
だから民主党は選挙戦で、トランプが勝てば「プロジェクト2025」が実行されると叫び、有権者の不安をあおった。しかしトランプは本能的に空気を読み取り、自分は「プロジェクト2025」など知らず、読んでもいないと言い張った。
トランプは1期目で多くを学んだ。だから「プロジェクト2025」を熱烈に支持する2人を、上院の承認を必要としない要職に就けた。
国境管理(つまり移民の流入規制)を仕切る「ボーダー・ツァー(国境皇帝)」にトム・ホーマン元移民関税執行局(ICE)局長代理、大統領次席補佐官には元大統領上級顧問で移民嫌いのスティーブン・ミラーだ。
これで議会民主党の追及を受けることなく「プロジェクト2025」の提言を粛々と実行に移せる。トランプは賢い。まるで狐だ。
4. イーロン・マスクの権限は?
今のマスクはまるでトランプ家の一員だ。フロリダの邸宅マールアラーゴでは、一族と一緒に記念写真に納まっている。
買収したX(旧ツイッター)を最大限に利用して都合のよい情報を拡散させ、自分の設立したスーパーPAC(特別政治活動委員会)を通じて莫大な選挙資金を提供した功績ゆえの特別待遇だろう。
そのマスクを、トランプは官僚機構の効率化と整理・縮小を指揮する新組織、政府効率化省(DOGE)のトップに起用した。副官に抜擢されたのは、人呼んで「小トランプ」の実業家ビベック・ラマスワミ。もちろん目指すは「小さな政府」だ。
しかし、これはマスクを祭り上げる巧妙な策略かもしれない。なにしろマスクは車もSNSも宇宙開発も変えてきたスーパースターであり、トランプが夢見る「世界一の大富豪」の座をあっさり手に入れてしまった男。
そんな超人が近くにいては目障りだから、体よく脇に追いやった。そう読むこともできる。
5. トランプ2.0の新星は誰?
新星は国連大使に起用されたエリス・ステファニク下院議員だ。女性として最年少で連邦議員に選ばれた頃は穏健な主張を掲げ、民主党員と見まがうばかりだったが、今ではトランプの熱烈な支持者の一人だ。
激しやすく、党派的な人物ではあるが、国連大使のポストは政治的に飛躍する絶好の足がかりとなり得る。いずれは下院議長との呼び声も高いが、その先に見据えている大きな目標は大統領だろう。
ちなみにジョージ・ブッシュ(父)は国連大使から大統領になったし、マデリン・オルブライトは国連大使を経て国務長官まで出世している。
国連の場で、アメリカ代表として立ち回ればステファニクの知名度は一気に上がる。そしていつの日か、ホワイトハウスへの道を歩み始めることだろう。
6. 娘婿クシュナーはどこに?
1期目のトランプ政権で、娘婿ジャレッド・クシュナーは最も広範かつ重要な役割を果たした。しかし今は政治の表舞台から姿を消している。
クシュナーは元民主党員だから、21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件以後は義父から距離を置いているという説もある。だが彼はホワイトハウスでの地位を利用してサウジアラビアやカタールで稼いできた。
サウジの政府系ファンドはクシュナー絡みの案件について難色を示していたが、皇太子ムハンマド・ビン・サルマンの鶴の一声で承認された。なにしろ第1次トランプ政権でのクシュナーは、ムハンマドの最大の支援者だった。
そんな金づるとの関係を断ち切って、クシュナーがホワイトハウスに復帰する可能性はあるだろうか。義父とワイルズの関係がこじれれば、あり得る。現状ではワイルズが大統領の右腕だが、いざとなればクシュナーの出番になるだろう。