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選挙予測大ハズレ、トランプに「大惨敗」...凋落した主流メディアに未来はあるのか

ニューズウィーク日本版 2024年11月22日 12時30分

カーロ・ベルサノ
<トランプはテレビや新聞を「殺した」のか? メディアは新政権時代に信頼を取り戻すチャンスだが...>

今年10月、起業家のパトリック・ベトデービッドは自身のポッドキャストにドナルド・トランプを招き、「主流メディアを殺した」ことをたたえた。これにトランプは「そのとおり、私は主流メディアを殺した。とても誇りに思っている」と返した。

いつものトランプらしい大言壮語だが、ここには真実が含まれている。次期大統領は自分の手でメディアの息の根を止めたわけではない。だが本誌を含む新聞、雑誌、テレビ、ラジオその他の報道機関全般が11月5日の大統領選を経て、著しく影響力を失ったのは確かだ。

トランプのデジタル戦略を任された大富豪イーロン・マスクは5日、メディアは死んだも同然だと宣言した。X(旧ツイッター)で2億人のフォロワーに向かい、「今やあなた方がメディアだ」と述べた。

CNNではジョージ・W・ブッシュ陣営の選挙参謀を務めたこともある政治コメンテーターのスコット・ジェニングズが、メディアは過ちを犯したと述べた。

「この2週間、報道は真実を伝えなかった」と、彼は言った。

「(報道側にいる)私たちも、プエルトリコ系市民が潮目を変えるという情報を信じた。(共和党の政治家だがトランプに批判的な)リズ・チェイニーの支持者がカマラ・ハリス候補に投票する、女性たちがトランプ支持の夫に嘘をついてハリスに入れる、と聞かされた。そうした要素がどうにかハリスを勝利に導くと聞かされた」

実のところ、主流メディアの凋落には2つのストーリーが絡み合っている。

ビジネスモデルの破綻が影響力の低下をエスカレートさせ、その深刻度が明らかになったのが今回の選挙だ。そしてその背景には、従来のメディアには公正と思える報道は期待できないという感情が国民の間で高まったことがある。

新聞を読む高校生は2%

トランプは1年半前からCNNの取材には応じず、ベトデービッドのようなインフルエンサーのポッドキャストに出演した。

大胆なメディア戦略だが、これが吉と出た。若い男性に絶大な人気を誇るジョー・ローガンのポッドキャストに出演した際は、3時間の対談が1週間で4000万の再生回数をたたき出した。これは3大ネットワークのニュース番組の視聴者数を合計し、倍にしたよりも多い数字だ。

メディアの影響力の低下はトランプ以前から始まっていた。原因はデジタル革命がもたらした経済的逆風と消費者の好みの変化にある。

2010年には全米で約1億500万世帯がケーブルテレビに加入していた。それが14年間で35%減少し、統計調査会社スタティスタによれば、今年は6800万世帯まで落ち込んだ。10月末にはケーブル大手コムキャストが、かつて稼ぎ頭だったMSNBCやブラボーといったケーブル局の売却を検討中だと報じられた。

大物キャスターも影響を免れない。CNNのジェイク・タッパーとウォルフ・ブリッツァーは今年、昇給を認められず、クリス・ウォレスは大幅な減給になったと伝えられる。

新聞も厳しい。ピュー・リサーチセンターによれば、新聞の発行部数は2000年から半減した。無数の地方紙が廃刊になるか紙版の発行をやめた。

ブルッキングス研究所の調査では、1989年から2012年までに記者の数が全米で39%減少。18年にはアメリカ心理学会が、日常的に新聞を読む高校1年生は全体のわずか2%だと報告した。

例外もある。いくつかの全国紙は早くからデジタル化に取り組み、逆風を跳ね返した。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は高コストなジャーナリズムを維持するためにクロスワードパズルや料理のレシピ、スポーツ記事などの軽いコンテンツを充実させ、1000万を超える電子版購読者を獲得した。

だが変革にはマイナス面もある。東海岸のリベラル派が圧倒的多数を占める有料購読者に合わせて、紙面を作らねばならなくなったのだ。

「NYTは万人の新聞からコアな読者向けの新聞へと舵を切った」と、実業家のブライアン・ゴールドバーグは批判した。「純粋にビジネスの観点から見れば正しい決断だが、そのせいで世界は荒廃したと思う」

有力紙の及び腰に読者は反発

ギャラップ社の調査でアメリカ人の半数以上がメディアに「大いに」あるいは「まずまずの」信頼を置いていると答えたのは、03年が最後だ。

当時はイラク戦争が泥沼化する前で、ジョージ・W・ブッシュ大統領は60%台前半の支持率を保っていた。経済は停滞を脱し、住宅バブルの波に乗って改善しつつあった。バブルが世界金融危機に火を付けるのは、まだ数年先の話だ。

マーティン・ガリーは元CIA分析官で、現在は政治とメディアの関係を研究している。彼は14年の著書『大衆の反乱と権威の危機』で、主流メディアが失速し始めたのはデジタル情報の爆発的増加がメディアの権威を損ない、その欠点を浮き彫りにした時期だと指摘した。

力のバランスがエリートから大衆へと傾き、「民主主義政府を支えてきたジャーナリズム、学術界、科学界の権威が一斉に疑問視された」と論じた。

クレアモント・マッケンナ大学の政治学者ジョン・ピットニーは、「今では人々は多種多様な情報源から情報を得ている」と述べる。「政治の議論を主導するのはSNSだ」

だがSNS上の議論でも報道機関は重要な役割を果たしていると、ピットニーは考える。報道への批判であれ報道の一部を都合よく切り取るような場合であれ、「SNSで盛り上がる政治的話題の大半は、主流メディアが出どころだ」。

さらにピットニーは7月、ペンシルベニア州バトラーで起きたトランプ暗殺未遂事件を引き合いに出す。あの日撮影された中で最も注目を集めたのは、AP通信社のフォトグラファーがiPhoneではなくプロの機材で撮った写真だった。

「主流メディアが果たすべき役割は今もある」と、彼は言う。選挙戦終盤には、大衆の心が離れたことを主流メディアが自覚した兆しも見られた。

共に大富豪が所有する民主党寄りのロサンゼルス・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙は、ハリスへの支持を見送ると発表。後者のオーナーであるジェフ・ベゾスは、これを読者の信頼を回復するための「信念に基づいた決断」だと説明した。

しかしナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)の報道によれば投票日直前の同紙の発表に読者が反発し、購読解約は20万を超えたという。

新たなトランプ時代は失った信頼を取り戻すチャンスだ。結局のところ第1次トランプ政権はメディアを活性化した。チャンスを生かすのか、滅びの道をこのまま突き進むのか。道は二つに一つだ。



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