藤野英人
<宇宙ビジネスで「アメリカと張り合うのは現実的ではない」──それでも日本企業には「隙間産業」というチャンスがあるとレオス・キャピタルワークスの藤野英人氏は指摘する>
これまで政府主導で進められてきた宇宙開発事業で、民間企業の参入が活発になっている。日本でも市場規模は徐々に拡大しているが、今後世界で存在感を発揮することはできるのだろうか。
日本の資産運用会社レオス・キャピタルワークスのYouTubeチャンネル「お金のまなびば!」の動画「加速する宇宙ビジネスに日本企業はどう切り込んでいくのか?プロ投資家の視点で解説!」では、同社の最高投資責任者である藤野英人氏が宇宙ビジネスの今後を予測している。
民間宇宙開発企業の筆頭は、イーロン・マスク氏率いるアメリカのスペースX社。ロケット打ち上げ回数は年間約100回に及び、いまや世界をリードしているといっても過言ではない。
その背景には、「NASA(アメリカ航空宇宙局)との関係が大きく影響している」と藤野氏。NASAは国際宇宙ステーション(ISS)の廃棄計画に伴い、スペースXなどの外部パートナー企業に莫大な資金と技術を提供。結果的に、アメリカの宇宙ビジネスが大きく進展することとなった。
日本政府も民間企業による宇宙開発の資金供給について明確に打ち出しており、「宇宙戦略基金」として最長10年間にわたり1兆円規模で支援する。
では、なぜここまで宇宙ビジネスが注目を集めるのだろうか。藤野氏によると、1つ目の理由は軍事利用だ。宇宙空間には国境の概念がない。人工衛星を利用すれば地球上のあらゆる場所で情報収集や通信、測位が可能となり、軍事のほか農業、土木、気象観測などのさまざまな事業に活用できる。
「長期的に言うと、宇宙ビジネスが注目されるもう1つの理由は資源開発。イーロン・マスク氏には地球に住むのが困難になった人類を火星に移住させるビジョンがある。月や小惑星の資源開発のほか、宇宙旅行、宇宙への移住などのテーマもこれから出てくると思う」と藤野氏は言う。
資産運用会社レオス・キャピタルワークス最高投資責任者 藤野英人氏(「お金のまなびば!」より)
「特化」「小型化」を軸とした隙間産業に日本の勝機がある?
藤野氏は「今からスペースXに追いつくだけの衛星を打ち上げたり、日本独自の衛星通信網を開発したりすることは多分不可能だろう。これは日本だけじゃなく、中国、ロシア、イギリスなど、どこの国でもおそらく難しい」と指摘。
だからといって、全く将来性がないわけではない。藤野氏によると、今後の宇宙ビジネスで大きなテーマとなるのが「特化」と「小型化」だ。
「宇宙事業が大きく広がる過程で隙間産業が出てくるため、日本の情報技術、ものづくりの技術が生かされる可能性が高い。隙間と言っても、全体が大きくなれば巨大な産業になるかもしれない」
例えば超小型衛星の開発が世界で進められているが、「小型化」は日本のお家芸だ。より安く、より小さく、より高精度な衛星が、今後の宇宙利用において中心的役割を果たすと考えられている。
「特化」の一例は、人工衛星やロケットがミッション遂行中に放出した部品や、衝突などにより発生した破片を指すスペースデブリ(宇宙ごみ)の関連事業。
放っておくと事故や墜落の危険性があるため、日本でもスペースデブリ除去サービスを提供するベンチャー企業が登場し、新規上場を果たしている。
また、トヨタ自動車(※)は宇宙事業に積極的な姿勢を見せており、JAXA(※)と共同で月面探査車「ルナクルーザー」の開発に取り組んでいる。「自動車部品や半導体製造装置、電子部品など、日本の産業はこれからさまざまな形で宇宙ビジネスに関与することになる」と藤野氏は予測する。
資産運用会社レオス・キャピタルワークス最高投資責任者 藤野英人氏(「お金のまなびば!」より)
アメリカに対抗するのではなく「うまく乗っかる」こと
とはいえ、日本の宇宙開発における投資額は他国に比べて大きいとはいえない。世界と比較した際、日本は太刀打ちできるのだろうか。多くの人が思い浮かべる「世界」とはアメリカを指すが、「アメリカと張り合うことは現実的ではない」と藤野氏は指摘する。
「アメリカが投資するところにうまく乗っていくことが、現実的な1つの策だろう。無理に対抗するよりも、ほかの国と手を組むことも1つの手。例えば、インドと協力してロケットを開発する動きが実際にある。また、先進国で軍事力にも優れているけれど宇宙開発に乗り遅れている国がイギリス。イギリスに資金を出してもらい、一緒に開発する方法もある」
見方を変えれば、いくらでもマーケットを勝ち抜く術はあると藤野氏は言う。世界全体を俯瞰しながら、現実的な「勝ち筋」を見据えるのが良さそうだ。
※個別銘柄を推奨するものではありません。
構成:酒井理恵
●YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」
<宇宙ビジネスで「アメリカと張り合うのは現実的ではない」──それでも日本企業には「隙間産業」というチャンスがあるとレオス・キャピタルワークスの藤野英人氏は指摘する>
これまで政府主導で進められてきた宇宙開発事業で、民間企業の参入が活発になっている。日本でも市場規模は徐々に拡大しているが、今後世界で存在感を発揮することはできるのだろうか。
日本の資産運用会社レオス・キャピタルワークスのYouTubeチャンネル「お金のまなびば!」の動画「加速する宇宙ビジネスに日本企業はどう切り込んでいくのか?プロ投資家の視点で解説!」では、同社の最高投資責任者である藤野英人氏が宇宙ビジネスの今後を予測している。
民間宇宙開発企業の筆頭は、イーロン・マスク氏率いるアメリカのスペースX社。ロケット打ち上げ回数は年間約100回に及び、いまや世界をリードしているといっても過言ではない。
その背景には、「NASA(アメリカ航空宇宙局)との関係が大きく影響している」と藤野氏。NASAは国際宇宙ステーション(ISS)の廃棄計画に伴い、スペースXなどの外部パートナー企業に莫大な資金と技術を提供。結果的に、アメリカの宇宙ビジネスが大きく進展することとなった。
日本政府も民間企業による宇宙開発の資金供給について明確に打ち出しており、「宇宙戦略基金」として最長10年間にわたり1兆円規模で支援する。
では、なぜここまで宇宙ビジネスが注目を集めるのだろうか。藤野氏によると、1つ目の理由は軍事利用だ。宇宙空間には国境の概念がない。人工衛星を利用すれば地球上のあらゆる場所で情報収集や通信、測位が可能となり、軍事のほか農業、土木、気象観測などのさまざまな事業に活用できる。
「長期的に言うと、宇宙ビジネスが注目されるもう1つの理由は資源開発。イーロン・マスク氏には地球に住むのが困難になった人類を火星に移住させるビジョンがある。月や小惑星の資源開発のほか、宇宙旅行、宇宙への移住などのテーマもこれから出てくると思う」と藤野氏は言う。
資産運用会社レオス・キャピタルワークス最高投資責任者 藤野英人氏(「お金のまなびば!」より)
「特化」「小型化」を軸とした隙間産業に日本の勝機がある?
藤野氏は「今からスペースXに追いつくだけの衛星を打ち上げたり、日本独自の衛星通信網を開発したりすることは多分不可能だろう。これは日本だけじゃなく、中国、ロシア、イギリスなど、どこの国でもおそらく難しい」と指摘。
だからといって、全く将来性がないわけではない。藤野氏によると、今後の宇宙ビジネスで大きなテーマとなるのが「特化」と「小型化」だ。
「宇宙事業が大きく広がる過程で隙間産業が出てくるため、日本の情報技術、ものづくりの技術が生かされる可能性が高い。隙間と言っても、全体が大きくなれば巨大な産業になるかもしれない」
例えば超小型衛星の開発が世界で進められているが、「小型化」は日本のお家芸だ。より安く、より小さく、より高精度な衛星が、今後の宇宙利用において中心的役割を果たすと考えられている。
「特化」の一例は、人工衛星やロケットがミッション遂行中に放出した部品や、衝突などにより発生した破片を指すスペースデブリ(宇宙ごみ)の関連事業。
放っておくと事故や墜落の危険性があるため、日本でもスペースデブリ除去サービスを提供するベンチャー企業が登場し、新規上場を果たしている。
また、トヨタ自動車(※)は宇宙事業に積極的な姿勢を見せており、JAXA(※)と共同で月面探査車「ルナクルーザー」の開発に取り組んでいる。「自動車部品や半導体製造装置、電子部品など、日本の産業はこれからさまざまな形で宇宙ビジネスに関与することになる」と藤野氏は予測する。
資産運用会社レオス・キャピタルワークス最高投資責任者 藤野英人氏(「お金のまなびば!」より)
アメリカに対抗するのではなく「うまく乗っかる」こと
とはいえ、日本の宇宙開発における投資額は他国に比べて大きいとはいえない。世界と比較した際、日本は太刀打ちできるのだろうか。多くの人が思い浮かべる「世界」とはアメリカを指すが、「アメリカと張り合うことは現実的ではない」と藤野氏は指摘する。
「アメリカが投資するところにうまく乗っていくことが、現実的な1つの策だろう。無理に対抗するよりも、ほかの国と手を組むことも1つの手。例えば、インドと協力してロケットを開発する動きが実際にある。また、先進国で軍事力にも優れているけれど宇宙開発に乗り遅れている国がイギリス。イギリスに資金を出してもらい、一緒に開発する方法もある」
見方を変えれば、いくらでもマーケットを勝ち抜く術はあると藤野氏は言う。世界全体を俯瞰しながら、現実的な「勝ち筋」を見据えるのが良さそうだ。
※個別銘柄を推奨するものではありません。
構成:酒井理恵
●YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」